なんだか、体の調子がおかしい。
ランサーに抱かれた時から薄々感じてはいたものの…。
魔力量が徐々に減っている。
皆、それぞれの学校やら買出し、バイトなどで家の中にいるのは私だけとなっている。
静けさの中、黙々と食器荒いや家事全般をこなすものの先程から手元が覚束無い。
ガシャンっ!!
「…また割ってしまった…」
食器を片付けようにも持つ食器全てが床に無残にも散らばる。破片を拾っては割り拾っては割るを繰り返して早一時間。
こんな事をしていては使う食器が無くなってしまう。いつもならもう家事全般は終わっている頃の筈が洗濯物や掃除すら終わっていない。
「これでは何も捗らんな…」
掌を広げたり握ったりを繰り返す。若干痺れを感じるものの起きた時はそんなに気にもしていなかった。だが、流石にこんなに仕事が捗らないとなるとため息しか出ない。
早番だから昼前には帰ってくると言っていた恋人に食器の片付けを頼むしかない。
「どうしたものか…」
張り裂けるのではないかと思う程大きく育ったお腹に手を当て撫でる。女はこんなにも苦労しているのかと関心してしまう。
せめて、洗濯物でも畳もうと移動した時だった。急に体が重くなり思わず膝をつく。
「な、んだ…これは…」
膨大な魔力が体中を駆け巡る。骨や肉体が悲鳴を上げ呼吸が出来なくなる。何もかも体内の臓器が圧迫され意識が遠のきその場に崩れるように倒れる。
「ら、ん…さ…」
振り絞った声は空を切り縁側から入り込む風によってかき消された。
嫁がもう少しで子供が産まれる頃なので一人にするのは危ないから休みをもらえないかとバイトの店長に伝えれば少々残念そうな顔をしていたものの早めの上がりと休暇をもらえた。
しかし、ふと外に出てみれば不思議な事に気付いた。
あいつの魔力を感じ取れない。
「アーチャー…っ!」
急いで衛宮邸向かう中も全くと言っていい程感じ取れないあいつの魔力に嫌な汗が頬を伝う。
「くそ…っ」
もっと早くに気付けば良かった。もう臨月だと言う事も知ってはいたしいつ産まれてもおかしくはないとキャスターから聞いていた。
それでも、俺にもバイトも掛け持ちしているせいで常に一緒にいる事はできない。嬢ちゃん達も学校に行っている。アーチャーの代わりにこの街を徘徊しているセイバーも今はきっと衛宮邸にはいないのだろう。
「アーチャーっ…!!」
裏庭から入り急いで引き戸を開ける。すると、そこにいたのは苦しげに呼吸をするあいつの姿があった。慌てて仰向けにし俺一人ではどうにもならずこいつが何かあった時にと、キャスターから渡された小瓶を取り出す。床に数滴の量を垂らすと透明な雫は外に飛び出しどこかへと行く。
その間、苦しげな表情をするこいつのお腹に手を添えゆっくりと魔力を流し込む。
「ひ、ぐぁぁ…っ」
「耐えろよ、アーチャーっ…」
キャスターが来るまでの時間稼ぎになればと動揺しつつもこいつに魔力を流し込む。手から伝わってこない魔力に唇を噛み締める事しか出来ない。俺の魔力が無くなったっていい。
こいつと腹の餓鬼だけは失いたくない。
失ってはいけない。
そう心が叫ぶ。
すると徐々に魔力が馴染んできたのか、かはっと小さく咳き込み意識が戻ったようだ。
「おい、おいっアーチャーっ!」
「け、ほっ…ら、ん…さ…?」
「あぁ……心配掛けやがって…」
薄らと開いた瞳には涙が滲んでおりまだ苦しいようだ。頬を撫で痛みを何とか和らげようとしたその時だった。先程の雫によって焦った顔をするキャスターが部屋に入り込んだ。
「あなた、馬鹿なんじゃないの…っ!すぐ、体調が悪かったら言って言ったでしょ!こんなになるまで…っもう産まれるわよ!」
「う、産まれるのか!?」
「そうよっ、だからあなたはここから出ていって頂戴!あっ!タオルとお湯を準備しなさい!」
「お、おう!」
来て早々アーチャーに説教をしつつてきぱきと事をこなす彼女。怒られている間も苦しげな顔を浮かべるものの自分の不甲斐なさに嘆いているような表情をしていた。
頼まれた物を渡してすぐに部屋を追い出されたものの胸の不安は消えない。うろうろと意味も無く縁側を行ったり来たりと繰り返し苦しそうな声が時折聞こえ思わず冷や汗が背中に伝う。
と、その時だった。
赤ん坊の産声が聞こえ戸に手を当てる。開けたいが開けるなとキャスターに言われているのでどうする事も出来ず俯いていると戸の奥から声が掛かり勢いよく戸を開ける。
「……ふた、ごか…?」
「そう、こっちが女の子。で、この子が男の子よ。ランサー、おめでとう。アーチャーもお疲れ様ね」
ぐったりとしつつも恋人の腕の中には頭が二つ見え驚愕する。嬉しそうに微笑みを浮かべるこいつの近くまで行き頭を撫でる。
「…よく頑張ったな…エミヤ」
「ふ、ふ…君との子だ…」
「ああ、しかも双子だぜ?」
「君に似て蒼い髪で…とても美しい男になるだろうな…」
「こいつはお前とそっくりだぜ?この眉間の皺といい髪の色も…可愛いな…」
赤ん坊の頭に触れるだけのキスをしこいつの頬に手を添え唇にキスをする。
キャスターは俺達のやりとりに半ば呆れつつも忙しかったのか今後の事だけを言いその場から消えた。
「キャスターには…今度、ご飯をごちそうにしなければいけないな…」
「体、辛いだろ。夕飯の支度とか俺と坊主とか嬢ちゃん達とでやるから」
「…ん…ありがとう、ランサー…」
赤ん坊を抱え微笑む顔はすでに親の顔で愛おしそうに見つめる横顔はとても…儚い。
キャスター曰く、この赤ん坊に魔力を全て吸い取られてしまった事が原因だったらしい。
今もそんなにない魔力で酷くがおった顔色にどうにかならないかと思い優しくキスをする。
すると、キスの唾液によって少量でも魔力が流れ込んだのか口を離した時にはほんの少しだけ顔色が戻っていた。
嬢ちゃん達も次期に帰宅し赤ん坊を抱えるあいつの姿を見て嬢ちゃんは号泣しセイバーは母乳はどうするんですかなどと口々に喜びと楽しそうな表情を浮かべていた。
囲まれているあいつの幸せに満ちた顔に絶対に幸せにすると心に一人誓うのだった。
どうかお幸せにです♪