「アーチャー、それ俺が持つよ」
「…」
「アーチャーそんな重い物持っちゃ駄目って何度言ったらわかるのよ!」
「そうですよ、アーチャーさん。ここは私達に任せてください」
人より成長が早いのか日に日に少しずつ大きくなるお腹。そのせいか、周りの人達の対応が今までと違い過ぎて逆に困惑する。皮肉を交えた言い合いをしていた衛宮士郎も私が荷物を持っているとそれを横から奪い持って行ってしまう。凛も桜も私が家事をしている姿を見つけると背を押し座らせられる。
何と言うか。暇な事にこんなに戸惑うものなのか。
「疲れたーっ…」
「おかえりランサー」
「おう、お前体調大丈夫か?」
「今の所何の問題も無いさ」
居間の引き戸が開けられると肩を回しながら入ってきた男。脱力感丸出しの声を漏らしながら私の背に抱き着く。すると、彼ともう一人居間に入ってきた人物に目をパチクリさせる。
「あら、本当に妊娠したのね。アーチャー」
「どうして、キャスターが?」
「帰り道でばったり会っちまって、お前の話ししたら見に来るって言うから連れてきたんだわ」
「そう、か…」
いつもの戦闘服では無い姿に一瞬誰だかわからなかった。彼女は買い物終わりだったのか買い物袋を片手にから下ろし私に近付いてきた。凛達も誰だかわからなかったのか台所から顔を出すと相手に気付きあっと声を出しいらっしゃい。と言った。女同士だからなのか戦闘時以外は仲が良いみたいな雰囲気だった。
「キャスター、やっぱり妊娠しているでしょ?」
「この犬の話しは本当だったらしいわね」
「犬って言うなっ!…たく」
「でも…魔力が安定してないわね」
「赤ん坊のか?」
「違うわよ、アーチャーの魔力の事よ」
「…っ」
少し膨らんでいる腹部に触るとキャスターは顔を顰めた。私は彼女と視線を合わせないようにしていたのだが彼女はそれを許さなかった。私の顔を両手で固定するとそのまま問い質された。
「あなた…魔力が全く足りてないじゃないの。全部赤ちゃんに持ってかれてるわ」
「…アーチャー、お前黙ってたのか」
「…黙ってた訳じゃ…」
「ちゃんと、何かあったら言えって言ってるじゃねえかよっ!」
「……すまない」
自分でも薄々気付いていたが迷惑を掛けるわけにはいかないと思っていた。そう思っていたが…それが裏目に出てしまったようだ。
彼女の言葉を聞いたランサーの表情が曇り出し話された顔を逸らしつつ弁解するつもりがこの男は黙っていた事が相当頭にきたらしく私の腕を力いっぱい掴む。ギリっと悲鳴を上げる腕に顔が歪む。
「はあ…とりあえず、何かあったら言ってちょうだい。失礼するわね」
「ああ、すまねえな」
「ラ、ランサー…その…」
「行くぞ。坊主空き部屋借りっぞ」
「あ、ちょっ」
「え、あぁ」
呆れたため息を吐きつつ帰って行った彼女に申し訳なさが湧き上がる。私に背を向けキャスターにお礼を述べる男の回りに纏っている魔力にピリッと頬に電流が走る。それを鎮めようと腕に触れた次の瞬間。
慣れた手付きで姫抱きされ慌ててランサーを見るもののその顔に何も言い返せなくなる。
「…お前にはさ…人を頼るって言葉が頭にねえのか」
「…そういう、わけじゃ…」
空き部屋に着き下ろされたまま見下ろされた体制に視線が泳ぐ。部屋に充満する男の魔力に噎せ返りそうになる。絞り出されるように発した声色はいつもより低く明らかな怒りを感じる。
「そんなに俺に頼るのが嫌か。それとも、俺が嫌いだから頼りたくねえのか?どうなんだよ、アーチャー」
「ち、ちがっ…」
「…お前はどうしていつも一人で抱え込もうとすんだよ」
「…っ」
「俺にもその不安ぐらい分けろよ」
「ラン、サー…」
引き寄せられた体は相手に縋るように身を寄せる。愛しいこの男の胸に抱き着き自分の中の思いを伝えた。
結婚し幸せが満ち満ちている。それが、私にはとてつもない重荷になった。大きくなる腹部。だが、もしこの子が産まれたとしてもきっと私は…。
自分の我が子を守るよりきっと凛を守る事を優先するだろう。寧ろそれが私の使命。
それでも、この男は私を軽蔑せず共にいてくれるのか。
「…ばっかじゃねえのか、お前」
「ら、んさ…」
「そんなくだらない事で悩んでたのかよ」
「なっ…くだ、らなくは…」
「戦士たる者、好きな奴程…それの仲間全てを守り抜くもんだろ。だから、俺は産まれてくる子やお前の周りの奴ら全員…」
「…」
「んなもの、俺がお前ら守ってやるよ」
「…ば、馬鹿か貴様…っ」
「そんな不安が無くなるまでお前の不安事全てからお前を守ってやる」
「…っ」
「だから、安心しろ」
呆れたようにガシガシと頭を掻き毟り途端に太陽の輝きの如く微笑みを私に向けると抱き締めたまま頭を優しく撫でられ囁かれた。
今まで抱え込んでいた不安がスッと消えたかのようにこの男の言葉は私には絶大だった。
その言葉を胸に抱き男に縋り付いた。
「私は…親として…やっていけるだろうか」
「大丈夫だ、お前には負担を掛けるだろうが…俺もその分サポートしてやっからよ」
「…ふ、貴様は本当に…」
その後話しを終え居間に戻ると心配そうな顔をする姉妹に苦笑いを浮かべつつ大丈夫だと述べる。
その日からと言うものの別々だった部屋が何故かこの家主と姉妹によって男と同室になったのだった。
この日を堺に私はお腹の子が愛しくて愛しくてしょうがなかった。