Emiya
UBW観終わった思い出②。カルデアの召喚に応じた赤い弓兵と、絆を深めやがて理解していくマスターの話。マスターの性別はどちらでも読める仕様です。
絆セリフを踏まえた描写があるのでご注意。
当然ながらUBWのセリフバレあります。表紙は完全に自己満足でこれ以外当てる気が起きませんでしたお許しを。
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Emiya
♢
「エミヤはキャスターなの?」
言ってから気づいた、これスッゴく馬鹿な質問だ。案の定エミヤは「はぁ?」とでも言いたげなしかめっ面を向けてくる。
「君はサーヴァントの情報を見ていないのかね?確かに弓だけしか使わないというわけではないが、私はアーチャーとして登録されているはずだ」
「うんごめん、アーチャーとして登録されてる。聞き方が変だった。ごめん」
二度謝るとそこまで機嫌を損ねていたわけではないらしいエミヤは鼻で息をついてから「それで?何が聞きたかったんだ」と話を促した。
「いやさ、こないだレイシフトから帰るタイミングで「新米魔術師の気持ちがわかる」的なこと言ってたじゃん。あれがどういうことなんだろうって…あ、生前魔術の修行も積んだとか?クー・フーリンみたいに」
途中まではうんうんと聞いていたエミヤが最後の名前で再び顔をしかめた。そういえば2人は犬猿の仲なんだっけ。今はそこ気にしないでよ、と言うとエミヤはやれやれとでも言うように肩をすくめた。
「まあそんなようなところだ。私も魔術は齧っていてね…今でも使っている」
「えっそうなの!」
知らなかった。もしかしてあれかな、戦ってる時に武器がぽんぽこ変わるやつ。あれって英霊としてのスキル的な何かかと思ってた。へぇーと口を開けて驚いているとおかしそうに口元を上げる。
「知りたければ私をうまく使うことだ。そのうちどういうことか決定的にわかる時がくるだろう」
「実際アーチャーのサーヴァントがそれほどいるわけじゃないし、エミヤが嫌だと思っても使わせてもらうよ。というわけで明日もよろしくね!」
またやれやれというような笑みを浮かべる。エミヤにはなんでかそういう顔が似合う。
♢♢♢
「これは?」
「少々傷んでいるな。が、この部分を除けば煮込んで調理に使える。こっちは…うん、大丈夫だ。ただ君が今手に持っているのは虫食いの跡があるな」
「うえっ」
エミヤは料理が得意らしい。というか最早趣味の領域に入っているといって過言ではないレベルだ。初めてエミヤ特製のハンバーグを食べた時に「お母さん…」と漏らしてしまったけれど、仕方ない。そのくらい美味しかったんだ。
そんなわけでカルデアにいる時もレイシフト先で野宿しなくてはいけない時もエミヤにお世話になっている。お世話になってばかりで申し訳なくて少しは休んでくれていいのだと伝えたこともあるが、「私がやりたくてやっていることだ。言葉をかけてくれるならごめんじゃなくてありがとうの方が喜ばしいな」となだめられたからエミヤはお母さんどころか(女)神なんじゃないかと疑っているところだ。
それでも手伝えることは手伝いたくて、こうして調理に使える食料を探している。
「ますますエミヤの正体が分からなくなるなあ。魔術どころか固有結界を使えるしご飯はおいしいし…ドラクエでいうそうりょみたいな人だったり?」
「そうりょが料理担当を兼ねているかどうかも分からんが…ま、いずれわかる時が来るさ」
「またそーやって先延ばし。別にいいけどさ」
集めた木の実(以前ロビンに教えてもらった、トマトっぽいやつだ)をカゴに入れて野営地へ向かっていく。すると、エミヤが立ち止まってあたりをくるりと見回した。
「どうしたのエミヤ?」
「水の音がする。見逃していたが、川があるのかもしれないな」
「川! 寄って行こうよエミヤ、水を汲んでいってついでにこの実も洗っちゃおう」
「名案だ」
先行するエミヤについていくと、その先には本当に川が流れていた。日の光を乱反射してキラキラ輝く水面にわああと子供のような歓声をあげ近づく。
色んな時代にレイシフトして分かったことだが、水は人体にとって本当に重要なものだ。飲み水としてはもちろんのこと、体を拭いたり汚れたものを綺麗にしたり…。一時期水源が近くに見当たらなかった時は精神が荒みかけたものだった。
「コラ、そんなにはしゃがない。最近ようやく調子が出てきたと思ったらすぐ残念になる」
「残念とはなにさ!楽しめる時に楽しんでなにが悪い!」
「そのメンタルは確かに重要だがな」
川辺にしゃがみこんで水に手を突っ込んだり舐めたりして安全を確かめたエミヤが、こちらを振り返って「大丈夫、安全な水だ」と言う。その顔に、ぴぴぴっと水を振りかけた。小学生の頃よくやったやつだ。
案の定エミヤは「!?」と驚いて防御の構えを取る。「ビビってやんのー!ヒェ〜〜イ!!」力の限り煽ると、自分がなにをされたのか気がついたようで「ほう…?」と悪い笑顔でスッと手をかざした。
「投影開始」
「ウワッちょっそれは…ええ…大人気なさすぎだよエミヤ……」
「なに、手加減はもちろんするさ。少しは」
「イッテ!!待ってそれ思ったより威力ある!!水圧!!圧を感じるよ!!!この!!!」
投影した水鉄砲(割と痛い)を持ったエミヤが笑う。「オレにいたずらしたのが運の尽きだったな」再び勢いよく水が放たれた。
♢♢♢♢♢
ずっと前から気になってたんだけど。マイルームで作業をしながらエミヤに話しかけると、なんだねと返事が返ってきた。紅茶の湯気に混じって甘い香りがする。さてはなにかオヤツを持ってきてくれたのかなと内心ワクワクしながら続けて質問した。
「守護者ってなんなの?エミヤが来た最初の頃にドクターがちらっと教えてくれたんだけど、すっかり頭から抜け落ちてて…。文献を読もうとも思ったんだけど中々載ってないんだ」
返事がないことを不思議に思いエミヤを見ると彼は背を向けたまま微動だにしていなかった。名前を呼ぼうとして、気がつく。
彼の背からは拒否が滲み出ていた。一言も口にしていないが、何も語るまいという決意が伝わってくる。
ついとエミヤが目だけを向けてきた。その目はひどく厳しいもので、もしエミヤと出会って間もない頃ならその時点で「ごめん、変なことを聞いて!」と慌てて謝ったことだろう。
しかし——何度も共に戦い、共に過ごした今なら、その奥に隠れた問いを掴むことができる。
「…わかった。教えてくれないんだね」
その言葉にエミヤは頷き、正面を向いた。皿を取り出す音が聞こえる。やっぱりなにかオヤツがあるんだと確信しながら続けた。
「ならもう一度自分の力できちんと調べるよ。調べて理解する。エミヤのマスターとして、エミヤのことをちゃんと理解できるよう、全力で頑張る!」
「大正解だ」
エミヤはニッコリ笑いながら、手作りマフィンが載った皿を差し出した。
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♢♢
「かみさま」
地獄の夢を見た。
「かみさまどうかお願いです、この子はなんにも悪くないのです。いつだって病気の母を助けてくれた優しい子なんです。自分だってお腹を減らして辛いだろうに手に入れたわずかばかりの食料を必ず2つに分けてくれるような子なんです。この先生きるべき子なんです。そんな子がどうしてこんなところで寂しく死ななくてはならないのですか!奪うのならどうか老い先短い私の命を。この子は、この子だけは生かしてください。かみさま、かみさま、かみさま!」
祈りの言葉は途切れた。一心不乱に手を組んで呪詛にも近い羅列を吐き出していた女の、その額には細い刃が深々と刺さっていた。最期に彼女が見た、腕に包む大切で大切な息子の、その心臓は大ぶりな矢でもって射抜かれていた。
女は息子の名を呼ぶことすら許されず事切れた。
「あいたい」
地獄の夢を見た。
「あいたい、君にあいたい…。君の元へ帰ると約束したのに。必ず帰るよって言ったのに。君の笑顔だけを糧にここまでなんとかやってきたのに。その願いのどこがいけなかったんだろう?君にあいたい。君の声を聞きたい。君のぬくもりを感じたい。君の元へ行きたい。君に…君が好きだ…。あいたい…」
何本もの矢を腹に受けた青年はさめざめと泣いていた。壊れた人形のようにあいたい、あいたいと繰り返した。動こうにも木に縫い付けられて動けない。前に進もうにも歩くための足がない。せめて幻想の中の彼女を抱こうにも腕はぐずぐずになっている。やがて息を吸う音がおかしくなる。あいたい。最期の言葉は声にすらならずただの気体となって星に消えた。
地獄の夢を、見た。
「お腹いっぱいご飯を食べてみたかったなあ。気の向くままゆっくり眠ってみたかったなあ。本を読んでみたかったなあ。友達とおしゃべりしてみたかったなあ。ぼんやり夕日を眺めて、昇る朝日に涙して見たかったなあ。そうして1日を楽しく過ごしてみたかったなあ。幸せになりたかったなあ」
近くに転がる無数の遺体から目を背け、空を仰ぎながらブツブツと呟き続ける少年のもとにひとり。手には一本の刃。鷹のようなその瞳はなにを映している。
「しにがみ」
少年の精一杯の侮蔑の言葉は血潮とともに溢れた。喉元から刃が引き抜かれる。ヒュウと大きく息を吐いたきりついに黙り込んだ少年を見つめる、その鷹のような瞳は、なにを映している。
『こんなことばかりさせられていたの?』
投げかけた問いは届かない。鷹の瞳はこちらを見ない。いや、認識していない。そのことに奇妙な安堵を覚えつつ、西の空を見た。
相対したものをしにがみと呼んだ少年が死ぬ間際まで焦がれた落日は、やけに赤く染まっている。
いつのまにか少年の体は砂となってサラサラと飛んでいく。鷹の瞳がそれを追いかけ、やがて手に持つ剣を握り締めた。
丘に、またひとつ剣が突き刺さる。
『墓標?それとも…心を押し殺すため?』
孤独な守護者はついぞこちらを向かなかった。ただ、後悔や絶望や憐憫の感情でこぼれそうなほどに、剣の丘を見つめていた。
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♢♢♢♢
『今日もお疲れ様』
届かない労いの言葉を吐き出す。守護者が丘を剣で満たすたび、同じことを繰り返してきた。お疲れ様。今日もキツかったね。少し寝たら。一回くらいサボっちゃいなよ。守護者は一度もそれらを認識しない。いつも泣きそうで泣かなそうで、全てを諦めようとする人間がよくする顔をして荒野を穿った。
初めこそこの声が届かないものかと無駄に大きい声であーあー!!と騒いだりしたものだが、その試みをした回数が両手じゃ足りなくなった頃からやめてしまった。変なことをしている自覚と羞恥心はあったのだ。一応。
それでも声をかけることをやめないのは最早自分の性分なのかもしれない。
『苦しくないの』
答えなど分かりきっていた。苦しくない、訳がない。地獄を見てきた。息子を愛する母親を、愛した人を想う青年を、ただ当たり前に生きたがった少年を平等に屠ってきた。いつか夢見た理想とは程遠い現実の姿に目の前が真っ暗になる。いつだってそうだった。
それでも彼が立ち続けるのは。
(大丈夫だよ、××××)
答えを得たから。理想の成れの果てを知ったから。それでも前に進む意義を見出したから。心の支えを手に入れたから。たとえ借り物であろうと偽物であろうと、自らが命を賭して信じたものを、心から絶望してもなお、捨てきれなかったから。
(オレも、これから頑張っていくから)
丘に座り込む守護者の多くのものを背負いすぎた背。届くことはないと知っていた。だってここは夢の中。異物である自分が彼に認識されることはないと知っていた。
それでも願わずにはいられなかった。
後ろから錬鉄の守護者をゆるく抱きしめる。このたった2本しかない腕で、おまえを受け止めてあげる。2つしかない掌で、おまえの手を取ってあげる。2つしかない耳で、おまえの苦しみを聞いてあげる。2つしかないこの瞳で、おまえの孤独な苦しみを見守ってあげる。
『光あれ』
囁く。すると守護者がバッと勢いよくこちらを向いた。認識、してくれたのか。そう思ったのもつかの間、自分のさらに後ろの方に何かがあることに気がつく。
青い召喚陣が浮かんでいた。そこから漏れる光は、徐々に強くなっている。守護者は泣きそうに顔を歪めて手を伸ばした。
「オレのこの汚れた手を、取ってくれ」
光が辺り一面を照らし包み込む。全てが白く飛ぶ前に、守護者の手を、確かに掴んだ。
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目を覚ます。張られたテントと薄く射す光に、今は野営中なのだと思い出した。不思議と二度寝をする気がしなくてそのまま起き上がる。
幾夜も同じ夢を見ていた。あるひとの記憶だった。見ているこっちの胸が潰れそうで苦しい記憶だった。それでも最後まで見ないと。最後まで見て、彼を理解しなければ。その一心で眠り続けた。
だって、彼のマスターなのだから。
「随分早い目覚めだなマスター」
惹かれるようにして歩いて行くとその先には見慣れた赤い弓兵がいた。崖の縁の方に立って昇る朝日を眺めている。
「エミヤ」 名前を呼ぶと瞬きをひとつして応えた。声が届く。認識してくれている。そのことを知った時、いつも通りのおはようという挨拶をする前に、言葉がするりと躍り出た。
「ありがとう」
逆光でよく見えなかったが、鷹の瞳を持つ錬鉄の守護者は実に穏やかな顔でこちらを見つめていた気がする。
「頑張ってくれてありがとう。カルデアに来てくれてありがとう。召喚に応じてくれてありがとう」
ずっと、ずうっと、孤独に頑張ってくれたんだよね。理想に、世界に裏切られて、それでも人を捨てきれなかったから、やりたくもないことをやってくれたんだよね。顔のない正義の代表者。人類存続の抑止力。それをたったひとりで背負い続けた。つらかったよね。
「エミヤ」
「本当に、ありがとう」
礼を言うのはこっちの方だ。言葉を紡ぐエミヤを、朝の柔らかな光が照らしている。それは夢の中で願った光景その通りで。
「オレの手を掴んでくれてありがとう」
そう言ってエミヤはいつかと同じように微笑んだ。