※槍と弓が付き合っています。
そんな槍弓の妊娠発覚話しです。
「お前最近、匂い…変わってきてねえか?」
「…は?」
マスターとサーヴァントの集い場所となって来ている衛宮邸。しかし、今ここにいるのは私とランサーだけ。他の物達は皆買い物へと先程出掛けてしまったらしく普段なら共に行動するマスター事、凛の姿は自ずと見当たらない。
何故なら、一刻程前に衛宮士郎とデート…をしてくると告げたまま可愛らしい普段なら絶対に着ないであろう服装で浮き足立って行ってしまった。
「だから、お前の匂い…って言うか体臭?」
「…っ!?」
「いやいや、臭いって意味じゃねえんだけどよ。なんか妙な…」
体臭、と言う単語に驚愕し相手と距離を取りくんっと自分の匂いを嗅いでみる。私の行動に苦笑いを浮かべながら顎を抑え首を傾げるランサー。
「……あ」
「ん?」
「この国で言う…あの白い飲みもんの…あ〜…あれだよあれ」
「あ、あれと言われても…」
「うーん……あっ!」
私に近付きクンクンと犬のように首筋の匂い
を嗅ぎ続ける男にこちらが恥ずかしくなる。すると、首筋の匂いを嗅いだまま何かを思い出した声を耳元で上げられ鼓膜が痛い。
「い、いきなり耳元で声を出すなっ!たわけっ!」
「あ、悪いっ…そう、あれだよ。ぎゅう、にゅうだっけか?あれの匂いがすっげーする」
「…は?」
「だから、ぎゅうにゅうだって」
「そんなもの浴びた覚えなどないしそもそも私はあまり好みではない」
「え〜…その匂いがすんだけどな…」
つまらなそうな声を上げるランサーの額を小突く。離れるかと思い少しだけ距離を取ろうと体を動かしたその時だった。急な吐き気に襲われ口を抑える。
「おい、大丈夫かっ」
「あ、あぁ…すまない、少し気分が…」
「顔色が…お前真っ青だぞ」
止まらない嘔吐感にその場で吐きそうになり早々にトイレへと駆け込んだ。腹部に感じる違和感に戸惑いつつもそれ以上に段々と血の気が引いてくる。サーヴァントなら普通は自然治癒かマスターからの魔力の供給で傷は回復するものだ。しかし、今は側に凛の姿は無い。そのせいか自分の治癒能力だけじゃ全く足りていなかった。
「お、おいっ!アーチャーっ!」
「は…けほっ、くっ…かはっ…」
「…入るぞ」
「っ!?あ、ま、けほっ、まてっ」
「あ〜…大丈夫じゃねえだろが…」
「けほ、っ…ぐっ…はっ」
呆れた声で霊体化して中に入って来たランサーは私の背を擦り始めた。自分のみっともない姿を晒したような感覚になり奥歯を噛み締めた。しかし、その行動を予想していたのか苦笑い気味に声を漏らし私の背を優しく撫でた。
「何も恥ずかしくねえって、誰でも体調悪い時だってあんだからよ」
「けほ、けほっ…う、るさぃ…」
「この時ぐらい俺を頼れよアーチャー」
「…っ」
私の全てを知り尽くしているかのような言葉に心臓が跳ねる。トイレに充満する吐いた後の独特の匂いをものともしない男にこちらが恥ずかしくなる。大分落ち着いたのか少し止まった吐き気に肺にいっぱい空気を取り込む。すると、背を擦っていた手は肩に回りそのまま口が涎やらで汚い状態でキスをされ目を見開く。
「んぅっ!?…んっんく、…はっ」
「…魔力供給だ。俺の旨いだろ?」
「はっ…た、わけっ」
どこでも盛る犬、などと思っていたが口に流れ込んでくる唾液は微量ながら魔力を感じ取れる程度で吐いてしまった事ですっからかん状態だった体は歓喜する。喉を通る程にもっと欲しいと感じる。極上、そう言っても過言ではないくらいに悔しいがこの男の魔力は体に浸透する。
「…おい、お前ちょっとここ変だろ」
「な、にが…」
いきなり腹部を撫で始めた男に首を傾げると手を下腹部に当て魔力を流し始めた。その光景に本当に訳が分からず流れ込んでくる膨大な魔力に息が詰まる。すると、突然下腹部に強烈な痛みを感じ取りその場に蹲る。
「…拒否反応…」
「かはっ…はっ…はくっ!」
「…ここにもう一箇所魔力反応があんぞ」
「…っそん、な…わけがっ!」
「アーチャーっ!!どこなのアーチャーっ!!」
「り、んっ…」
私の下腹部に当てていた男の手はバチバチと電気が走っており少し黒く血が流れ落ちた。その異変に驚き服で血を止めようとする男の手を慌てて掴み止血を試みる。しかし、傷口に触れようとしたその時だった。甲高い声を響かせ焦りを感じ取れる声色はトイレの前で止まった。
「アーチャーっ!?そこにいるの!?」
「嬢ちゃん、ちょっとタオルか布を濡らして持ってきてもらえるか」
「え?ら、ランサー?あ、う、うんっわかったわ!」
男の言葉通りに濡れタオルを持ってきた彼女にもみっともない姿を見せたくなくて俯いていると少しだけ戸を開けた所からタオル受け取るからと指示した男に顔を上げる。
私を気遣ってくれたのか。
「…そうなの、私にも違う魔力が流れ込んでくるのよ」
「俺の魔力も拒否反応を示しやがる」
「あんた達の事だから…特に何も言わなかったんだけど、単刀直入に聞くけど…ゴム付けてしてなかったの?」
「なっ…!?」
リビングに正座させられたまま彼女の圧力に若干縮こまる。その沈黙を破った彼女は何もためらいも無くサラリと言ってしまった言葉にこちらが赤面してしまう。それに男は唸りつつあの時はしなかった、などと言う始末で頭を勢いよく叩いた。男は不貞腐れたような感じで私を見るもののどこか嬉しそうな表情をしていた。
「…妊娠してるのよ、アーチャー」
「……は?」
「だから、妊娠」
「…いやいや、おかしいぞ。凛、私は男だ」
「サーヴァントにそんな事関係ないのよ」
「…冗談はよしてくれ」
「冗談なもんですか」
「ランサーからも何か言ってくれな…」
「俺達でちゃんと育てようぜ」
話しが全く噛み合わない。この二人はもうそれはそれは楽しげに二人で盛り上がっていた。目の前で繰り広げられる会話に頭を抱える、がそれ以前に自分の中に本当に命が宿っている事が不思議で仕方ない。
「でも、やっぱり妊娠検査薬でした方がいいわね」
「妊娠検査薬…?」
「はい、これ。説明書入ってるから」
「…なぜ、君がそんなものをっ…」
初めて聞いた単語に疑問符が浮かびつつ渡された物体に顔が引き攣る。何故、か弱き乙女…乙女か…?。彼女が持っている事に疑問が頭の中で飛び交う。
「さっき、もしかしたらって思って買ってきたのよ」
「あ…そ、そうか」
私の頭の中では凛と…あの衛宮士郎とよからぬ事を覚悟していたのかと思っていたがそうではなかったらしい。ホッと胸を撫で下ろしつつもいざ、渡さえた物体に少し戸惑う。
ーーーーーー
「…」
「これで、確証が持てたでしょ。アーチャー」
「へえ、んな便利な道具があんのかー…」
検査薬には見事に陽性と記されており信じられない、その事しか頭になかった。ため息混じりに腕を組む彼女は私と男を交互に見るとビシッと指を指した。
「てか、あなた達…結婚するの?」
「…は?」
「おう、もちろん」
「へ…?」
混乱する頭の中でまた彼女の言葉で更に混乱が重なる。結婚、その単語は女性なら誰しも
望むであろう行事。しかし、私達はマスターを守る立場であり今は休戦しているとは言えども男が子供を産むだなんて誰もが気色悪がれるに決まっている。
「…私は、貴様と結婚する気などさらさらない」
「…じゃあ、子供はどうするのよアーチャー」
「下ろ…「俺と幸せに何のがそんなに怖いかよ」
…違う」
「じゃあ、何をそんなに躊躇うんだよ」
「…」
本当はこの男と家庭を築けるなんてどれだけ望んでいた事か。だが、いざ願望が叶うとこれ程に恐れが襲うだなんて。
ランサーが言っている事はほぼ当たっている。英霊の座にいた時は自分の幸せなんて願った事なんて一度もなかった。寧ろ、人の幸せを願う事を優先していた。それが、今の現状で私は少なからずこの幸せに怖くなった。
「私は…幸せになっては…いけないんだ」
「…俺はそんなの聞いちゃいねえ」
「え…」
「俺と結婚したいのかと聞いてるんだよ。アーチャー」
「私は……」
……結婚したい
その男の喜びに満ち溢れた表情はきっとずっと忘れないだろう。