映画を作る場合、たいてい「製作委員会」という最高意思決定機関が存在する。
あるCGアニメ映画の製作委員会で、本来出席するはずの委員が急な所用で欠席し、代わりに新人の女性社員が代理出席したことがあった。
彼女は「せっかく出席したのだから、何か爪痕を残さなければ」と考えたのだろう。お飾り扱いされたくない一心で、突然、とんでもない発言を放った。
「主人公の女性キャラクターの目つきがキツすぎます。修正すべきです」
それは、この映画の根幹を揺るがしかねない一言だった。
制作初期ならまだしも、すでに一年以上が経過し、全1500カットのうち半分以上が完成している。主人公は出番が多く、登場カットは600近くに及ぶ。それらが事実上、作り直しになる規模の指示だった。
現場からは、ほぼ同時に「やりやがった……!!」という声が上がったという。
そこからは大混乱だった。
スケジュールは大幅に遅れ、制作費は雪だるま式に膨れ上がる。
彼女は、自分の一言がどれほどの惨劇を招くか、想像もしていなかったのだろう。だが、製作委員会の発言は絶対だ。たとえ代理であっても、誰も逆らえない。
スタッフたちは連日の残業と休日出勤、時には徹夜を重ねた。
劇場公開日はすでに決まっている。最悪、間に合わず劇場に穴を開ける事態すらあり得た。
そして――なんとか修正は完了する。
主人公の目は「優しい目つき」に変わっていた。
その後の製作委員会。件の女性社員が再び出席する。
修正後の映像を確認しながら、彼女は満足げに言った。
「きちんと修正されていますね。主人公の目つきが優しくなっています」
一同が胸をなでおろす。
しかし――
彼女は少し間を置き、こう続けた。
「でも、改めて見ると――修正前のほうが良かったですね」