【fate】アラヤに愛され過ぎて消滅もできないエミヤ
アーチャーは自分のこと凡人と言うが、狙わない限り弓を外さない・固有結界持ちの人を凡人とは言わないと思う。ねつ造設定注意。
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※なんかよくわからんが紆余曲折を経て、五次サーヴァントみんなが現界している謎時空。アーチャーの真名はばれている。
よく言えば平穏な、悪く言えば退屈な、微睡のような日々。
ある日、いつものように衛宮邸に集まっていた面々の中で、誰かが言った。
曰く、
「アーチャーを、ガイアに属するようにすれば良いのではないか。」
・・・アーチャー、英霊エミヤにとって不本意なことに、彼の真名はすでに周知のこととなっている。彼が聖杯に、というか聖杯戦争において願った望みもまた、この場にいる英霊諸氏の知るところとなっていた。
「なるほど、悪くない考えかもしれませんね。ようは、シロウを守護者の任から外せばよいのですから。」
騎士王、アルトリア・ペンドラゴンがアーチャー謹製の洋ナシのタルトをホールで頬張りながら頷く。
英雄王ギルガメッシュが、同じくアーチャーの作ったメレンゲ菓子をつまみながら頷いた。
「そういうことなら、贋作者を我が宝物庫に加えてはどうだ?奴の起源は【剣】、我が宝物庫に加えるのに問題はない。何、彼奴の作り出すものは贋作ばかりだが、こと料理に至っては本物だ。我のメシ使いとして使ってやっても良いぞ。」
ありがたく思え、と嘯く英雄王に、アーチャーは無言で紅茶を注ぐ。いくらなんでも、自分のような取るに足らない存在のためにそんなしち面倒くさいことはしまい、という認識からだ。こういうところ、エミヤシロウはどうにも自己評価が低かった。いや低すぎた。
そろそろワッフルが焼きあがるころだ、とアーチャーは視線を移した。先日貰ったワッフルメーカーでいくつか試作品を焼いてみたところ、なかなかうまくいったので、セイバーに出すのが楽しみである。オーブンの様子を見ようと軽く腰を浮かせたところでランサーが口を開いた。
「そういうことなら、俺に有利な面があるんじゃねえか?俺はエミヤシロウが守護者になるよりも前に、『印』をつけている。てことは、あれは俺の獲物ってことに、」
なる、とランサーが次の音を結ぶ前に、立ち上がりかけたアーチャーの両腕と首筋を、空中から現れ出でた漆黒の鎖がぎちりと拘束した。
それはあまりに自然で、あまりに不自然だった。
「・・・っな!!」
このうえなく唐突な敵襲に、さしもの英霊たちも反応が遅れた。何の気配もなかった。名だたる英霊たちが集まるこの場に、気配も悟らせずに近寄るなどあり得ない。
反射的に剣を抜こうとしたセイバーを宥めたのは、他でもない拘束されたアーチャー自身だった。
「セイ、バー、剣を、おさ、めてくれ」
「ですがシロウ!」
「大丈夫、だから」
魔術に関してはそれほど精通していないセイバーにはわからなかったが、最古の王ギルガメシュ、原初のルーン使いクー・フーリン、神代の魔女メディアはエミヤを捕えるその漆黒の鎖・・・鎖に見えるものの正体に気付いていた。
それは契約。
アーチャーを縛り離さない、世界との契約だった。
「・・・アラヤ、わかっている。契約の名の元、わが身はあなたのものだ。彼らが口にしたのはただの戯言、まことわが身を縛るのは、いまやあなたとの契約それのみだ。」
縛り上げられた首元をのけぞらせながら、アーチャーは懺悔のように告げる。数秒の沈黙ののち、鎖は消え去った。
「・・・かは、げほっ」
「無事ですか、シロウっ」
「平気だ。・・・まったく、アラヤも目ざとい事だ。君たちも、あまり戯言を言うのはよしたまえ。」
先ほどまで拘束されていた首元をさすりながら、アーチャーは立ち上がった。キッチンから電子音的なメロディが聞こえる。オーブンレンジのタイマー音だ。
「ワッフルが焼きあがった。セイバー、まだ腹の空きはあるかね?」
「は、はい、もちろん。」
では持ってこよう、とキッチンに消えた男の背を、英霊たちの視線が追う。先ほどの現象にも、いささかも揺らいでいないその逞しい背を。
「・・・アラヤってのは、いちいち守護者の監視までしてるもんなのか?」
ランサーは眉をしかめて、さつまいものグラッセ(言うまでもなくアーチャー製)を爪楊枝でぶすりと刺す。
こういったことに一番詳しい神代の魔女メディアが、茶をすすりながら答える。
「普通の守護者には、ここまで過保護な反応はしないでしょうね。あの子は特別なんでしょう。」
「どういう意味ですか?」
ライダーが、首をかしげる。彼女の長い紫の髪がさらりと揺れる。
「知ってると思うけど、守護者ってのは世界との契約のもとに座に至った英霊のことを言うの。といっても、そう簡単に至れるもんじゃないのよ。信仰がないってことは、純粋に自身の力のみで至るってことなんだから。」
あの坊やは自覚してないみたいだけどね、とメディアは小さめの卵サンドを頬張った。甘いものだけでなく、腹にたまる主食系も用意しておくこの周到さ。料理の腕では、未だ足元にも及ばない自覚があるだけに、メディアの眉がむっと寄る。
「その守護者の中でも、あの坊やは特別みたいね。アラヤにとって守護者ってのはまさに『使い捨て』の剣なのよ。ちょうどこの爪楊枝みたいに。使って、駄目になったら捨てて、新しいものを用意する。それが当たり前なのだそうよ。だけどあの坊やはそれにはもったいなさすぎる。アラヤにとっては、ちょっと丈夫なフォークぐらいの価値があるのかもね。」
メディアが、小さくかわいい卵サンドを刺していた爪楊枝をピンとはじく。この男嫌いの魔女をして、あの弓兵は気に入られているらしかった。
「大前提として、守護者ってのはただ強ければいいわけじゃない。アラヤは人類の『滅びたくない』という総意。そのアラヤが剣として用いるからには、守護者は『人を助けたい』『世界を守りたい』っていう意思を持つものでなければならないのよ。」
メディアが二つ目の卵サンドを頬張る・・・マスタードが程よく効いた味は絶妙で後を引く。
「で、あの坊やは摩耗しちゃったって聞くけど、それってそう起こることじゃないの。普通守護者は摩耗なんかする間に、折れちゃうのよ。何度も何度も人類滅亡の場に立たされて、人間のエゴの極地を目の当たりにして、『人を助けたい』なんて心が折れちゃうのね。それが普通の人間の正しい心理だわ。だけど、あの坊やは違う。」
なにやらキッチンで作業しているらしいアーチャーに、メディアは視線を移す。つられるように、場に集まった英霊たちの視線が同じ方向を向いた。
「あの坊やは根幹が壊れている。だから世界を憎むことも、人を憎むこともできない。折れることができないから、少しずつ摩耗していった。彼が憎むことができるのはただ一つ、己自身だけ。だから、自分自身、衛宮士郎を殺そうとなんてしたのね。・・・他にどうしようもなかったんだわ。」
少ししんみりした声で、メディアが俯く。
英霊たちは、何も言えずに押し黙る。彼らの目からしても、かの弓兵が英霊の位に足らないとは思われない。ただ彼の背後を知れば、時代が悪かったとでもいうしかない。
沈黙を破って、ライダーことその真名をメデューサが声を上げた。
「でも、何か方法はあるはずです。私のような怪物でさえも、座に戻れば星の恩恵を得ているのに、人々に身を捧げ続けた彼が英霊の名にふさわしくないはずがない。」
それに白玉ぜんざい―――セイバー用に腹の溜まる茶菓子が用意されていた―――を貪りながら、セイバーが言う。
「思うに、彼は属する座が、彼の創り出す心象風景しかない。私たちの座は普通、時代や他の仲間たちの伝承などで強化されているものです。だけど神秘の薄れた時代に生まれた彼だから、彼の座はあまりに孤立している。彼をどこかの座に引き込むか、あるいは彼の座をどこぞの座に引き込むか・・・そうしなければ、彼は一人きりだ。」
それにランサーが答える。
「確かにそうだ。だがそれにしても、一番の問題は変わらん。つまり、奴が『契約』に縛られてるってことだ。」
先ほどの漆黒の鎖・・・アラヤの契約を理解できた者は特に、アラヤのエミヤへの執着を理解できた。
エミヤは、アラヤにとって特別なのだ。
理由は定かでない。
神秘の薄れた時代に世界の要請に応えたつわものだからか、あるいは根幹が壊れた破綻者ゆえに摩耗するほどにものもちが良い道具だからか、それとも・・・
「セイバー、ワッフルが焼きあがったぞ。」
「いただきます!」
焼き立てで仄かに湯気を立てるプレーンワッフルに、取り寄せた上等の生クリームを添えて、美しく盛られたデザートはまるでひとつの芸術品のようである。アーチャーが少し時間がかかっていたのは、生クリームを泡立てていたためであろう。
「いただきます!」
「召し上がれ。」
まさしく執事のような優雅な仕草でセイバーにお茶を入れるアーチャーに、妙に静かな声でクー・フーリンが問う。
「おい、弓兵。」
「・・・なにかね、ランサー。」
「お前、今でも死にたいか。」
一瞬、場が静まった。
その沈黙を破ったのは、赤い弓兵の自嘲だった。
「・・・いや?この身はすでにその意味を思い出した。摩耗に摩耗を重ねて、記憶も由来も忘却の彼方に亡くしていた自分だが、お陰さまでいまや思い出している。・・・守護者など体のいい掃除屋のような存在にすぎぬが、誰ぞが成さねばならぬ仕事であることは間違いない。せいぜいこの身が尽きる間で、人類を守って見せるさ。」
まるでいとし子に見せるような慈愛の笑みを見せて、弓兵は微笑んだ。
その前後関係も理解せぬまま、半神クー・フーリンは直感的に「やってくれたなアラヤ」と臍をかんだ。
***
アラヤは、焦っていた。
いや、焦っていたなどと言う形容は相応しくないかもしれない。
アラヤ、人類の持つ破滅回避の祈りたる抑止力に自我などない。
アラヤは、『人類の滅亡を止める』というプログラムのようなものである。その目的のために、何の感情も無駄もなくただ邁進し続けるプログラム。
ただ、そのアラヤは、あるとき危機感を覚えた、
――――人類は、進歩しすぎた。
核兵器。化学兵器。生態系の破壊。
かつては、人間の争いの行方を見ていればよかったアラヤが、ここにきてあまりに危うい天秤のはかりを任されることになった。そのうえ、その刃はあまりにも力強い。
抑止力は、100年かそこらで急激に進歩し、ここ200年で6倍にまで増えた人類に困惑した。まるで路傍の石ころのようにそこらに転がってる滅亡の可能性の多さに混乱していた。
しかも科学の力が増えるのと反比例するように神秘の力は薄れ、召し上げる守護者も絶えてきている。
そんなとき、アラヤの思考・・・いや、思考と表現するのは正しくない、強いて言うならアラヤと言うプログラムの計算結果・・・が、一人の少年を見つけ出した。
「いってきます!!」
一見、何の変哲もない少年だ。強いて言えば、その明るい髪の色が日本人離れしていると言えばそうだった。
アラヤはカウンターガーディアン、本来なら決して自分からは行動できない。だが、そのとき例外的に、アラヤは自ずから動いた。実に人類始まって以来のことだ。
いずれ訪れる人類の危機を回避するため。・・・最強の守護者を作るため。
アラヤはその少年の運命に介入した。
――――そして少年は運命の夜に落ちる。
少年の特別な点は、その起源に由来する、固有結界である。
普通、守護者は宝具を持たない。宝具は英霊と同じく人の信仰によって形作られるからだ。持っていても、ガイアの真なる英霊たちの宝具には劣る。
だが少年は違った。その身に、宝具も、近代兵器でさえ、武器と名のつくものならば問答無用に蓄え続ける。それが彼の特性だった。
そのうえ固有結界と言う力と守護者との相性は抜群に良かった。固有結界の形成の最も難しい点は、従来の世界を侵食することへの世界からの反発にある。が、守護者たる彼に世界からの反発はない。
アラヤは歓喜した。いや、くどいようだが、アラヤに人格などはない。歓喜などという表現は正しくなく、だがとにかく、アラヤは数いる守護者の中でその赤い弓兵を特別の位置に置いた。そして優先的に任を与えた。彼は錬鉄の英霊、戦えば戦うほど、敵の武器を見れば見るほど、強くなるからである。
そしてアラヤは使い続けた。その守護者が摩耗するほど。
そしてどうしようもなく摩耗するたび、彼を生まれ育った地に送り込む。普通の守護者には、そんなことは不可能である。だが、彼の故郷なら――――冬木ならば、可能だった。
それはまさしく、一本の刀を仕立てあげるような行為だった。
熱して、叩いて、叩いて、極限に達したら水で冷やす。そんなことを、もう何度も繰り返している。
いずれ訪れる、滅びを救うため。
今も守護者は打たれ続けている