「がまんは美徳」と腹痛を耐え死にかけた男の結末――「たかが」と侮ってはいけない命に関わる腹イタの正体。昔と今では違う“治療の新常識”
■がまんは美徳…ではない 一方、反省点は、早めに受診しなかったことに尽きるそうだ。 「昔は『泣き言を口にしたら負け』とよく言ったし、がまんは美徳だった。そのせいか、痛みに強くなったんですよね。でも、もう少し遅かったら虫垂が破裂して、最悪の場合、命を失ったかもしれないと言われたので、今後は早めに受診しようと思います」(樋口さん) なお、おなかが痛いと話したときに樋口さんを軽くあしらった妻は、反省しきりだったそうだ。
総合診療かかりつけ医・菊池医師の見解 総合診療かかりつけ医、きくち総合診療クリニック院長の菊池大和医師は、「虫垂は、腸の右下にある“行き止まり”になっている臓器。糞石(ふんせき)という石のように固くなった便が、虫垂の入り口を塞ぐことなどにより、内部に大腸菌などの細菌が繁殖して、炎症を引き起こした状態を虫垂炎といいます」と説明する。 誰にでも糞石はできるため、年齢、性別、生活習慣などに関係なく、誰でも虫垂炎を発症するリスクがある。
「小学生までの小さな子どもはなりづらいですが、それ以外の人はいつなるかわからない病気。これは運としか言えません」と菊池医師。これまで中学生から100歳ぐらいまでの患者を診たことがあるそうだ。 昔は虫垂炎がわかったらすぐに手術が行われたようだが、近年はこのような緊急手術をすることはめったになく、いったん抗菌薬で虫垂の炎症を抑えることが多い。 そのほうが計画的に手術できるため、安全かつ回復も早いからだ。よく聞く「薬で散らす」というのが、これにあたる。
「実際には、患者さんごとにCTや超音波検査で虫垂の炎症の程度を確認し、また痛みや経過などから、いったん薬で炎症を抑え込むべきか、すぐに手術を行うべきかを総合的に判断します」と菊池医師。 ただ、薬で抑えても、1年以内に再発する割合は50%ほどなので、炎症が落ち着いたところで、早めに手術をしたほうがいいそうだ。 虫垂炎の手術は、おなかに5〜10ミリ程度の穴を数箇所開けて行う腹腔鏡下手術で虫垂を切除するケースが多い。「開腹手術に比べて大きく切らないので回復が早く、すぐ動けるというのが利点」と菊池医師。