「がまんは美徳」と腹痛を耐え死にかけた男の結末――「たかが」と侮ってはいけない命に関わる腹イタの正体。昔と今では違う“治療の新常識”
樋口さんは全身麻酔の影響で眠ってしまったので、気がついたときには手術を無事に終え、病室のベッドにいたという。 ■え、ウソだろ!? ただ、悲劇は手術後にも起こった。 「目を覚ますと、痛いというよりも体がだるくて。全身麻酔の影響なのか、耐えがたいほどの倦怠感でした」という樋口さん。ぼんやりとベッドサイドから心配そうにのぞき込む妻と母の顔に、「来てくれたんだ」と安堵したのもつかの間、その先にあった光景に、わが目を疑った。
なんと自分の点滴に違う人の名前が書かれていたのだ。 「え、ウソだろ!?」 だが、これもまた全身麻酔の影響なのか、声を出そうとしても、「うーうー」といううなり声しか出ない。それでも、なんとか重い腕を持ち上げて点滴のほうを指差し、この一大事を伝えようとした。 しかし、懸命な樋口さんの訴えに、妻はまったく気づかない。 それどころか、「もうこれで、大丈夫だよ」と言いながら手を握ってきた。母も「うん、うん」とうなずいていた。
「これはヤバい! と思いました。以前、点滴を間違えて投与されたせいで亡くなった人がいるというニュースを見たことがあったので、本当に怖かったし、パニックになりかけました」(樋口さん) 樋口さんの尋常じゃない様子に、事の重大さにようやく気づいた妻と母が慌ててナースコールをした。点滴は取り替えられ、「栄養と水分補給のための点滴だったので害はない」と看護師から説明と謝罪を受けた。 幸いにも事なきを得たが、以来、樋口さんのなかには「病院選びは重要だ」という意識が残っているという。
その後は、若いこともあって順調に回復していった樋口さん。むしろ手術後は空腹との闘いだったようだ。 「よく虫垂炎の手術後に、“おならが出たら腸が動いている証拠”だって言いますよね。実際、おならが出たと看護師さんに報告したら、お粥から軟飯にしてもらえました。すごくうれしかったです」(樋口さん) 1週間ほど入院して、無事に退院。1泊2日の帰省のつもりがずいぶん長くなってしまったが、このタイミングで病気になってよかったと思ったそうだ。「仕事が忙しい妻には迷惑はかけられない。親に来てもらえたから気持ち的にはラクだった」とのこと。