「股ぐらが熱くなり『何だろう』と」立てないほどの“脚ガクン”の正体 〈脊柱管狭窄症〉で何が起きるのか?
仕事ばかりかスポーツも旅行も楽しめない激しい腰痛、その原因のひとつである「脊柱管狭窄症」は最近見聞することが多く、日本でこの症状に悩む人は、推定580万人というデータすらある。ノンフィクション作家の山根一眞さんは、長年の腰痛が脊柱管狭窄症へと悪化した。ある日突然、「ガクン」と膝の力が抜けてしまい……。 【画像】切除した私の黄色靭帯。重さ0.5g。切除量はこの2倍というから、私は長年たった1gの黄色靭帯に苦しめられてきたことになる(筆者接写撮影) ◆◆◆
最初は脳血管障害を疑った
2025年5月4日。 大型連休の中日、大規模工事が進む新宿駅の西口に降り立ち、すさまじい人波をかき分け家内との待ち合わせ場所へと足早に向かった。午後7時、約束の百貨店に着き、孫のためにと幼児玩具売り場に入って数分後、突然、左脚の力がガクンと抜ける感じがして立っていられなくなった。な、何が起こったんだ!? 家内の肩を掴ませてもらい売り場の外に出て通路の壁際にしゃがみ込んだ。「だいじょうぶ?」と心配する家内に「ちょっと休めば」と強がりを言った。5分もしないうちに脚に力が戻ったので近くのカフェに入り、さっきの脚の異変の原因は何だったかをスマホで検索したところ、「脳血管障害(脳梗塞、脳出血)の典型的な兆候の可能性あり、救急車を呼ぶか速やかに医療機関で受診を」という回答が出た。不安を掻き立てられ、帰宅するや「#7119」(救急安心センター)に夜間受診が可能な病院を問い合わせたが、その時間から脳血管障害に対応できる病院はなかった。電話口の女性に現在の症状を伝えたところ、「差し迫った状態ではないようなので、連休明けに病院で検査をして下さい」と助言してくれた。 最寄りの総合病院で脳のMRI検査(核磁気共鳴画像法による断層撮影)を受けたのは10日後だったが、結果は「脳には何の異常もなし」。ホッとしたものの、ではあの「脚ガクン」は何だったのか――。 私は、愚かにも肝心なことを見逃していた。
股ぐらが熱い
1年ほど前から腰痛がひどくなり、歩行難に見舞われていた。歩くと腰痛に加えて脚(おもに太腿)も痛むため先に進めず立ち止まることがしばしばで、外出時にはあらかじめ鎮痛剤を飲むようになった。ドラッグストアには、「腰痛・関節痛・頭痛に飲んで、速く効く」「肩こり、腰の痛みに」「腰痛・筋肉痛・神経痛の緩和」など、これでもかと「腰痛」に効くとアピールする鎮痛剤が並んでいる。腰痛が「治る」わけではないが、服用しておけば外出時に激痛による立ち往生が避けられる。新宿へ出かけた時も、鎮痛剤(主成分・アセトアミノフェン300ミリグラム)のおかげで痛みなく歩けたのだが……。この「脚ガクン」の原因として、私は歩行難をもたらしている腰痛との関係を疑うべきだったが、初めて経験する「脚ガクン」だったため「脳梗塞や脳出血の兆候」という検索結果にのみ眼が釘付けになってしまったのだ。 後に、「脚ガクン」は腰痛の原因である脊椎の病変で起こるもので、整形外科では「足の脱力」と呼んでいることを知った。また、歩行難、休み休みの歩行を「間欠跛行(はこう)」と呼び、それを引き起こしているのも脊椎の異変という知識もなかった。ちなみに「跛行」とは「片足をひきずるようにして歩くこと」を意味する(「大辞泉」小学館)。脚の脱力と同時に尻の部分に出る灼熱感も代表的な症状だそうだが、新宿駅西口で歩き始めたとき、確かに股ぐらが熱くなり「何だろう」と思ったことを思い出した。ネットで整形外科関連の情報を調べまくり、これらの症状が「脊柱管狭窄症」の典型的なものだと悟った。 私が最初にきつい腰痛を覚えたのは60代半ば過ぎの2013年で、整形外科の開業医で受診した。医師は、私の腰のX線検査画像を示しながら、「脊椎の一部が横に滑っており、それが周囲を圧迫しているのが腰痛の原因だが、年齢相応の症状」という感じの説明だった。幸い、痛みは投薬でじきにおさまった。7年が過ぎた2020年(72歳)、今度は耐え難いほどの腰痛に見舞われた。そこで先と同じ医院で再診。7年ぶりに撮影した腰のX線検査画像では脊椎のズレは前回とほとんど変わりがなかった。「脊柱管狭窄症」という病名で診断があったかどうかの記憶はない。診察後、牽引装置で腰を伸ばす施術を受けたが、絶叫するほどの痛みで中断、逃げ出してしまった。処方薬を飲みながらおよそ3週間は横になったまま過ごしたが、その運動不足から脚の筋力が驚くほど低下、歩行に支障をきたすようになった。コロナ禍で外出が制限されていたことも筋力低下に拍車をかけたと思う。知人から「歩き方が変、どうかしたの?」と聞かれ、筋力をつけねばとストレッチなどを気まぐれに続けていたが、的外れな対応だった。 ※約1万2000字の全文では、自身の手術を山根一眞さんが解説しています。 手術後に現れた驚きの効果は…… 。全文は月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」と「文藝春秋」2026年3月号に掲載されています(山根一眞「 腰痛手術『5泊6日』体験記 」)。この他にも「文藝春秋PLUS」では数多くの関連記事をご覧いただけます。 長田昭二「 肩ひざ腰のアンチエイジング 著名な専門医が図解でわかりやすく 」 室伏広治「 カラダの不調スッキリ 室伏流4つのメソッド 」 高野秀行「 腰痛探検家 コロナ禍篇 」
山根 一眞/文藝春秋 2026年3月号