1.「甘くておいしい」
幼少の頃、いつもおいしいお菓子をくれる子がいた。母親の手製だという焼菓子はどれも、市販品よりもはるかにおいしかった。
彼女はその子にお菓子作りの秘訣を訊いた。自分の母親にも教えて自宅で作ってもらおう。
その子は困ったように、しかし彼女を自宅に招いた。
この蜜で、お菓子を作るの。
そう言って彼女が開けた、台所の床下収納の中にいたのは。
犬ほども大きい、黄緑色のアブラムシだった。
それ以来、アブラムシは本当にだめ。と彼女は言う。
甘い蜜を出してアリと共生するみたいに、あれはあの子達と共生していたのね。
尻から蜜を分泌する巨大なアブラムシを想像して、わたしはパンケーキにかけようとしたシロップ瓶を、そっと元に戻した。
(300字/タイトル・スペース除く)
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2.「イチゴ飴と吸血鬼」
病がちだった叔母は、就学前のぼくの目にも奇麗な人で、透けるように色白だったのを覚えている。
その叔母をいつしか悪友が「吸血鬼」と呼ぶようになった。病棟から太陽の照る屋外に出られない、青白くやつれた姿を、吸血鬼と重ねたらしい。暗がりに潜み人の血を飲むのだ、と。
ぼくは怒ったが、悪友は喧嘩が強い。毎度負けて帰ってくるぼくを叔母は優しく慰め、決まってイチゴ味の飴をくれた。血のように赤い飴は、今思えば吸血鬼呼ばわりに対する叔母の洒落だったのだろうか。
叔母の享年をとうに追い越したけれど、ぼくはいまだあのイチゴ飴が大好きだった。真っ赤な飴は優しさとユーモアの甘い味がして、ぼくを叔母と同族にしてくれるみたいだ。
(300字/タイトル・スペース除く)