【かたわれ時と黄昏時と 3】
宗像波瑠がさやかと名乗ったのはこの世界にやってきたからである。
戦闘をしていたら、飛ばされた。四人がかりで征夷大将軍と戦っていたのだ。戦う羽目になってしまったというか、そうだ。
元になりそうであった征夷大将軍は……何せ日の元から熱が失われているから活気のある時代にするためにとかで将軍の座を放棄しようとしていたのだがそもそもこの状況を招いたのは
室町幕府であるのだが……非常に強かった。
(みんな、無事かしら)
何かの介入があったのだ。何かは分からない。改めて考えてみているが、不明だ。
朝、波瑠は仕込んでおいた甘酒の味見をしていた。湯呑みから唇を離す。いい出来だ。
米麹の甘酒である。大きな壺の中に入れておいていた。老夫婦や恵利にも手伝ってもらっている。
恵利を預けられる男の名は聞いているのだが、何処にいるかまでは分からない。場所について言おうとした男はこときれた。
出会った時には瀕死の状態で、医者である恵利でも助けられなかった。
「甘酒。よく売れたのだわ」
「よく仕込んでいたのよ。甘いから。今日もきり丸君は来てくれるみたいだし」
恵利が茶屋の中に入ってくる。昨日の甘酒の売り上げはとてもよかった。きり丸のお陰だ。今日も彼は来てくれる。
「寄合は昨日やったけれど、村は安定しているし、村人たちも私たちを信用している」
「してくれて助かっているのよ、貴方も私を信用してくれて嬉しいわ」
寄合は村に住んでいる者たちで会議をすることだ。寄合には出るようにしている。この村にやって来て村を襲っていた災厄を解決し、
伏せるところは伏せて二人は村に住んでいる。
嬉しいとしているが、恵利にとって頼れるのは自分ぐらいである。彼女は故郷を追い出された。その血と身分によってだ。
国を継ぐはずだった彼女は国を追われた。
「さやかのことは信用しているけど、いろんなことはどうやって覚えたの」
「故郷と、故郷を出た場所で」
故郷は厳島。出て安芸に来て、覚えた。覚えて実行しなければ命が危なかった。
「暫くは、この村に滞在よね」
「村の方は安定しているのだけれども、周囲がね。村は特に自治を強くして行かないと大変ではあるから」
上が悪いのだけれども、と波瑠は予定を恵利に伝えておく。恵利が従ってくれているのは恵利も容易に動けないからだ。
命が惜しい。恵利は故郷で殺されかかったのだ。
「上」
「幕府というか、偉い人があてにならないし身勝手をしすぎるから自分たちの身は自分で守るしかないのよ」
幕府と出してしまうがたどっていくとそうなるのだ。この時代、上は内部争いをしていた。制度は組織はあったのだ。それは徐々に壊れていった。
そんな中でも力のある物は何とか出来たけれども狼藉も増えた。
「それが今なのね」
(まだ、序盤だけれども)
波瑠がいた世界は誰かが戦国時代と呼んでいた。幕府の力はほぼないも同然であり、自分たちで力をつけるしかなかった。各地がそうなっていき、
戦国大名と彼等は呼ばれるようになっていた。波瑠の主である毛利元就もそうだったのだ。
この辺り、なりあがる者もいればあらかじめ持っていた領地を強化していき、戦い、勝った者もいる。
序盤としたのは村々がまだ力を持っていないからだ。どんどん上があてにならなくなり、村々や寺院や勢力は自分たちで力をつけて、勢力を作っていく。
が、今は小勢力の乱立だ。この辺りは地方によってどうなっていくかは違うが、波瑠の知っている通りに進むかは分からない。
「ここは通り道だから、やれることはしておくと、言ったわね」
「周囲の村もそうだけど……ドクタケよりもタソガレドキの方が領地の運営は上手いわ」
天下を狙っているというドクタケだが、そのためにはこの辺りを平定していくことが条件だ。情報によれば、タソガレドキの方がやや優位である。
恵利には村のことを任せておいている。恵利に米麹の甘酒を湯呑みに入れて、渡す。
「甘酒。こちらの方が好き。酒糀? の方は飲み慣れてないのもあるけれど」
「砂糖がまた欲しいわね」
それは仕方がないとなる。波瑠は故郷で飲み慣れていたからだ。砂糖があれば調理の幅が広がる。またとなっているが最善は自国で作ることだ。
自国というと大きな範囲にはなってしまうけれども。自国で用意ができるかというのも、力であった。
このところ、村は晴れている。波瑠は晴れた空が好きだ。雨は好きではない。主も雨は嫌いであった。
嫌いだったけれども、周りに誰かいればそうでもなかったし、奇襲をするなら雨がいいとかあるのだが、戦絡みばかりだ。
「さやかさん。おはようございます」
「きり丸君。おはよう……?」
きり丸の声が聞こえた。はきはきした。今日の天気のような、太陽のような声だ。元気な声である。
最後が疑問形になってしまったのはきり丸の他にも子供がいたからだ。二人、きり丸を含めれば三人だ。