くそウザい勇者、略してウザ勇 ──それでも俺は人間たちを信じる!!──
勇者は世界を救う存在である。
誰よりも正しく、誰よりもまっすぐな存在である。
――少なくとも、世間ではそういう建前になっている。
英雄マキシマス直系の勇者ウーザは、人間を信じていた。
誰よりも、どこまでも、ひたすらに。
ゆえに勇者ウーザは叫ぶ。
「そんなものは、偽りの幸せだ!!」
これは──正義を疑わない勇者とそれに付き合わされる賢者の、ウザさが極まる物語。
例えば勇者。例えば中世風ファンタジー。
そんな卑近な例を直視してみよう。
──賢者カシコ──
かつて伝説の英雄マキシマスが拓いた大陸マクスガルド。
そこでは現在、マキシマス直系の勇者ウーザが冒険の旅に出かけていた。目標は魔王の素ッ首──で、あるはずなのだが。
※ ※ ※
「そんなものは、偽りの幸せだ!!」
勇者ウーザによる、周囲の迷惑・動揺の一切を考慮外とする怒声に、老人たちは肩を抱き合って震え上がっていた。
「し、しかし勇者どの。私ら家に居場所もなく、話し相手と暖を求めてこの寄り合い所で親睦会を……」
私こと賢者カシコは、もうこの後の展開が読めていた。
読めているにも関わらず、めんどくせーから止めないのが私の罪であり、めんどくさがる境地にまで追い込んだ勇者ウーザの罪でもある。
「本当の幸せとは──家庭で愛するパートナーや子どもや孫に囲まれて、天寿を全うする事なんだ!!」
「いや私どもには身寄りはおりませんが」
「なら行政に頼れ!!」
「この寄り合い所は行政施設で、役人さまにも使用許可を貰っております」
勇者ウーザは黙りこくった。そして徐々に顔が赤く染まっていった。怒りでプルプルと震え始めた。
そしてふところの聖剣ブッタギールを鞘から抜くと、「ワー! ワー!」と叫びながら木製の簡素な寄り合い所を徹底的にぶった斬り、破壊した。
ゼェゼェと肩で息をしながら、勇者ウーザは言う。
「目が──覚めたか?」
お前が目を覚ませと思ったし、老人たちは恐怖のあまり地べたにへたり込んで泣いていた。
「人間みな、帰る場所がある」
夕日を見上げながら自分の言葉に陶酔する勇者ウーザの表情は、まことに汚かった。
※ ※ ※
このくそウザい勇者、略してウザ勇こと勇者ウーザは、次の村で礼拝堂に訪れた。
病に苦しむ人。生きる意味に悩む者。そして──人々の平和と幸福を祈る姿。
きよらかな静寂に、祈りが満たされていた。
勇者ウーザは、何ら躊躇することなく右足でドカッと礼拝堂の扉を蹴り開けると、土足でズカズカと入っていった。
少し離れ、私もそろそろと尾いていった。こいつのトモダチだと思われたらヤだな。
「祈りなんて、幻想だ!!」
体育祭の日にやる気のないオタクを注意する体育会系かのごとき大声に、堂内がざわめく。
「いいか!! 神なんて居やしないんだ!! 人生には自分で立ち向かわなければならない!!」
「いや立ち向かった結果、我々は信仰と祈りで人々を救う道へと──」
「信仰に逃げるな!! 闘え!! 目の前の!! 現実!! と!!」
「今のわたくしどもに取りまして、目の前の現実とは、聖堂を現在進行形で冒涜しているあなた様ですが……」
信仰を素直にその目に宿す聖職者に、勇者ウーザは軽くビンタした。パシン。
右の頬をビンタしたからだろうか。続けて左の頬にもビンタをした。パシン。
そして肩を怒らせ、ズカズカと聖像の前まで行くと、聖剣ブッタギールでスイカ割りのようにそれをかち割った。
「──こんなものがあるのがいけないんだ。人間は、虚像の他に敬うべきものがある!!」
それは少なくともお前ではないと思うが。と言いたいのを私、賢者カシコは必死に我慢し、嗚咽する聖職者と信者たちを尻目にいそいそと場を去った。
礼拝堂を後にする勇者ウーザの背中は、ノッシノッシとしていてとても偉そうだった。
いま後ろから刺したらこいつ死ぬかな。でもどうせ教会コンティニューで生き返ってくるしな。さっき全教会と全僧侶を敵に回した気がするけど。
※ ※ ※
夜。
バカに、あ、いや、あわわ、勇者ウーザに、付き合えと言われて私は酒場に連れて行かれた。
私は水を飲み、勇者ウーザはエール酒をガブガブと飲んでいた。割り勘だからなと言われた。
酔い食らって人生を語り、努力を語り、自己責任を語る勇者ウーザの目は少しイッていた。私は職業・賢者であり、当然賢いので耳を休息させていた。
泥酔してウイ~とよく分からん鳴き声を上げながら勇者ウーザは席を立ち、ふたつ隣の丸テーブルで飲んでいる町民たちに絡んだ。
「酒の席だぞ!! もっと楽しく本音で語れ!!」
「は? いや、みんなで仕事の愚痴などで盛り上がっていますが」
「その仕事を選んだのは自分自身だ!!」
「この世界は中世ファンタジー風、有り体に言うとJRPGなどを想定して書かれておりますので、職業選択の自由もさほど無いと思いますし、そもそも勇者さまも血筋だけで勇者をなさっているのでは……」
「論点をずらすな!!」
勇者ウーザは“論点”がとても好きだ。正確に言うと、自分の“論点”以外が大嫌いだ。
そして無言の時間が流れる。勇者ウーザは仁王立ちで黙っている。その説教風の態度が私から見ていても癇に障るので、現に絡まれている酔客たちにはもっと癇に障ったのだろう。全員立ち上がると、眉間にシワを寄せ、勇者ウーザに殴りかかった。
「それでも──俺は!! 人間たちを信じる!!」
6人に殴られ、フクロにされながら勇者ウーザは叫んだ。
信じるとほざけば、何をしても許されると思っている顔だった。
酒場内は乱闘になり、誰かの前歯がまた飛んだ時、衛兵が駆けつけた。そしてハッとした顔になり、勇者ウーザに敬礼をする。
「勇者ウーザどの──魔王討伐の旅、七難八苦にさぞかし苦しんでおられようと察します」
「察してるのなら動けばいいだろ!! さっさとあのボンクラどもをひっ捕らえろ!!」
勇者ウーザを殴った酔客たちは「魔王軍斥候の疑いアリ!」として引っ張られていった。
それを見ながら手を叩いて喜んでいる勇者ウーザに、私はふと問いかけてみた。
「勇者ウーザ、君は他人の幸福に親でも殺られたのか」
「違う!! 俺はただ!! ひたむきに人間を信じているだけだ!!」
「その割にはあまり人の話を聞かないよね」
「信じるのと聞くのは全然違うよ?」
なるほど。
こいつとまともに対話しようと一瞬でも思った私がアホだった。そろそろ賢者からのジョブチェンジも視野に入れるか。
※ ※ ※
王都ゲムスタートの王城で、勇者ウーザの表彰式典が行なわれた。
「虚飾虚栄、まやかしや誘惑に負けぬ英雄の正義。まさしくウーザこそ真の勇者なり」
表彰式にもう嫌々招集されていた民衆はあまり拍手をしなかった。というか拍手する手が、疲れていた。
「何歳からでも、どんな逆境からでも、どれだけ傷ついても、人間は──立ち上がれる!!」
勇者ウーザは宣言というよりも裏返った声で絶叫し、私、賢者カシコは小声で、「座る場所があればの話、ね」と補足した。
案の定このバカ、あ、いや、あわわ、勇者ウーザは聞いていない。
今日も今日とてこいつは人間を信じている。
そんなもの偽りの幸せだと叫びつつ、人々が休息し、腰を下ろす場所を片っ端から破壊しながら。
私は空を見上げ、民衆の表情を見た。
この世界は、暗黒に包まれていた。
それは魔王のせいなのだろうか。倒す相手を間違えてはいないだろうか。
この話に続編は誕生するのでしょうか。