求める先にあるものは

ジークアクス9話の娼館の話があまりにあまりだったので自分の中で折り合いをつけるために書いた小説。ニュータイプを探すシャリアと、シャリアに頼み事をするマチュの話。

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 赤くて丸い頭の、小さなパイロット。オメガサイコミュを起動した少女、マチュ。彼女はジークアクス盗難の容疑者としてソドンに拘留された。そしてソドンから脱走した彼女を、シャリアは敢えて見逃した。読心ほどの精度はないが、ある種の未来予知の能力の発動が、シャリアにそれをさせたのである。

 大脱走の果てに、マチュは再びシャリア・ブルの保護下に入った。

 ソドンに連れて来られたマチュは、独房に入れられる前にシャリアにこう告げた。

「お願いがある。聞いてほしい」


 さて、ここで話は一度シャリアの過去の仕事のことになる。

 ジオンの独立戦争が終わってから、人類には平和が訪れた。少なくとも戦争ではない状態がやってきたのだ。

 戦争中、同じくニュータイプであり「赤い彗星」と呼ばれたシャア・アズナブル大佐と共に彼は「灰色の幽霊」と恐れられた。そして戦争後シャリア・ブルはジオン公国でたったひとりのニュータイプになった。

 シャリア・ブルは戦後ニュータイプを広く探し始めた。彼とシャアがフラナガン機関に見出されたように、この世界にはまだ見出されていないニュータイプがいるはず。シャリア・ブルはそれを信じていたし、ジオン軍もニュータイプの有用性を認識していたので、彼のニュータイプ探しは公に行われていた。

 彼はまずジオン軍、そして軍以外のジオン国民からニュータイプを探し始めた。国民のほぼ全員に対し身体検査が行われた。その結果ニュータイプの素質ありとされた人物は、多少はいた。が、多いとはとても言えなかった。

 彼は調査対象を国外へと広げた。中立コロニーや地球にまで。様々な条約や外交交渉を駆使し、あらゆる方法を用いた。とはいえジオン国内と同じようにはいかない。やみくもに探しても金や時間がかかるばかりである。シャリアは調査対象をしぼることにした。宇宙へ行き、あるいは従軍して、非日常を経験し、能力が発現するものは、確かにいた。シャリア・ブル自身そうして見出されたニュータイプである。しかし、宇宙に行くことも軍に所属することもなく、旧態依然とした生活を漫然と送っているオールドタイプの中にも、ニュータイプが紛れている可能性はあるのだ。そういった者たちはどうやって探せばいいのだろうか。

 シャリアは噂を集め始めた。能力が発現し、才能が現れていながら、見過ごされている人材があると思ったのだ。学業の成績がよいもの、武術で優れた結果を出しているもの、芸術・文芸などの分野で突出した資質を認められたものなどに限らない、まだ見ぬ人類の革新を持った才能を探した。公に現れていない能力を探すゆえに「噂」を活用することにしたのだ。

 そのうちに、集まってくる噂の種類が一定の傾向を持ち始めた。

 『オカルト』である。

 心霊関係のものもあれば、超常現象に関するものもあった。そしてこの世界にはシャリアが思っていた以上にそういった噂の多いことが分かった。

 思えばシャリア・ブル自身木星船団の時分にも、そういった噂を少なからず聞いたものである。

 死者の魂が見える者、占いがよく当たると有名な者、未来予知ができると称される者。そういった者たちはニュータイプの可能性が高いのではないかと仮定し、調査の対象とし始めた。これもほとんどは『外れ』だった。だが、中には少数ながら「本物」が含まれていた。

 ジオンが実効支配している土地であれば話が早い。シャリアは積極的に「本物」である可能性がある人物の確認をしていった。やがて中には妙に話がぼんやりしているケースがあることが判明した。

 少し調べると、その理由が分かった。

 公には存在しないことになっている娼館、あるいは孤児院、そして貧民街。存在してはいけない場所であるから、情報の精度が下がったのである。身寄りのない子供達や女性が搾取されている場所だ。搾取している側にはジオンの有力者や軍の高官もいた。売春という商売はたとえ禁止されていても、残念なことに軍隊のあるところにはついて回る存在だった。軍隊の兵隊は食料だけで動かせるものではない。仕方がないと割り切っていいというわけではないとはいえ、実情はそんなものだった。しかし成人した女性が自分の職業として選んだケースと、責任能力のない子供達が強制されているケースでは、同列に考える訳にはいかない。少なくともシャリアはそう考えていた。

 『社会福祉』はシャリア・ブルの仕事ではない。だがニュータイプの捜索をしていると、貧困と格差の問題は常について回った。シャリアはニュータイプの素質が少しでも認められる人物は老若男女を問わず保護することにした。本人の希望があればフラナガンスクールへの入学も認めた。その結果フラナガンスクール在学生のニュータイプ率が下がったとしても、気にはならなかった。

 売春宿、娼館、どんな言い方をしてもいいが、そういった場所にいる女性は保護するとはいっても簡単にことは運ばなかった。「身請け」と言われる金銭の授受が発生する場合がほとんであるし、そういった場所にいる人物は家族も親戚もいない場合が多かった。仮に元の家族に戻されてさえ、安全になったとは言い難かった。その後他のブローカーに売られてしまうことがあるのだ。人類が宇宙に進出してある程度の時間が経ち、上流階級の一部と中産階級がコロニーに移住して地球を出ていった結果、地球は上流階級の一部と下層民が住む星になってしまったのである。下層に住む人々はその日暮らしをしているし、口減らしのために子供を売るのは日常茶飯事だ。シャリアは多面的・多層的な貧民出身ニュータイプの保護活動をしなくてはならなくなったのである。そして元は孤児だったシャリアは、そういった境遇の子供たちをニュータイプ/オールドタイプに関わらず見過ごせなかった。

 そんなシャリアの元に「夢見の能力のある娘」の情報が入ってきた。予知夢をみる女性の噂である。彼女は「カバスの館」と言われる娼館に所属しており、実質的には奴隷といってよかった。自分の意思でその仕事や店を辞めることができないという意味だ。厄介なことにその館の得意客にはジオンの士官や高官が多かった。ジオン軍の話であればシャリアにはやりやすそうな状況であると思われるかもしれないが。実際は逆であった。軍内部から妨害の策略が飛んで来る分、外部との折衝より面倒な状態に陥っていってしまうのである。それでももちろんそれを理由に諦める気はシャリアにはない。どんなに時間がかかったとしても、ニュータイプの見込みが高い人物を確保したかった。そして出来るならそんな施設は解体してしまいたい。

 シャリアの仕事はニュータイプの捜索やその保護だけではない。赤いガンダムの捜索もあるし、キシリアなどジオン軍高官の護衛の仕事をやらされることもある。余談だがトップのキシリア・ザビが女性であるためだろう、突撃機動軍はジオン軍の中ではもっとも買春する将校の少ない派閥だった。もちろんといってもひとりもいないという訳にはいかないが。

 マチュが地球に脱出したとき、その行先に「カバスの館」があったことは、シャリアにとって千載一遇の機会でもあった。カバスの館炎上の報と共に彼はシャロンの薔薇を発見し、マチュの回収も行えた。

(困ったニュータイプだ。誰がそこまでやれと言ったのですか)

 シャリアは自分の機嫌がいいことを自覚しないわけにはいかなかった。彼はすでに館にいるはずのニュータイプ候補の保護の段取りを考えはじめていた。

 ここで話は始めに戻る。


 マチュがシャリアに頼みごとをしてきたことは、シャリアには思いも掛けないことだった。

「ララァさんは『待ってる』と言ったけど、あんな場所で待っていていいわけない。赤い士官服の人が現れたら私がそいつに伝えればいいんだよ。ララァさんのところに行けって。だからララァさんをあそこから助けてほしい。私じゃ出来なかったんだ」

 マチュはくやしそうに語った。マチュが全てを語るまでもなく彼女の悔恨と無力感はシャリアには伝わっていた。

「私にどれほどのことができるか分かりませんが」

「おじさんになら出来るよ。私の勘だけど」

 そうですね、とシャリアは応えた。

「ほかでもないマチュ君の頼みです。引き受けましょう」

「約束だよ」

 『赤い士官服』には覚えがあった。おそらく『向こう側の彼』だろう。『こちら側の彼』は、未来予知の女性には出会っていないはずだ。

 だがシャリアには予感があった。ララァという女性が追い求める先に、自分の求めるものがあると。


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