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【調査担当:川村悠華】
調査地:
・長野県安曇野市牧地区
・長野県安曇野市穂高有明(Vif穂高)
・長野県安曇野市穂高柏原(JAあづみ 西穂高ふれあいセンター)
協力者:
・Vif穂高 加工部長 二木仁美様
・農産物出荷者協議会
協議会 会長本間利夫様
牧大根部会(部長 田中定男様、役員 古幡美代子様、会員 加島美智代様)
・JAあづみ女性部西穂高支部牧大根プロジェクト(代表 降籏房子様、広報窓口 熊井悦子様)
牧大根は、安曇野市穂高牧地区だけで収穫され、長野県の「信州の伝統野菜」に認定されている辛み大根である。牧地区はかつて朝廷の直轄牧場であり、「延喜式」の中にある信濃十六牧の中の一つであったことが地名の由来となっている。明治7年の「村地情景明細表」に産物として「大根四百駄」と記載があることから、少なくとも明治時代には栽培されていたと考えられる(※1)。また、松本藩の頃は、深志城の軍糧として牧大根が納入され、明治維新後の深志城の月見櫓は大根干し場となっていた(※2)。太りの進みは普通の大根に比べ非常に遅いが、水分が極めて少ないため味は凝縮され、たくあん用にも干す日数が少なく歩留まりが良い。肉質は緻密で澱粉質が多く辛みがあり、特に長期漬けに向く。パリパリとした独特の歯ごたえと風味が牧大根の特徴である。大正から昭和初期にかけては、製糸業の盛んな頃で、製糸工場で働く女工たちに出された麦飯のおかずとして、牧大根のたくあんは重宝され、松本・安曇地方はもちろん、塩尻峠を越えて諏訪や岡谷の製糸工場まで出荷されていた(※2)。

図2-3-1. 安曇野市穂高牧地区
牧地区は標高600~700mで土壌は火山灰土(通称「黒ぼく土」)であり、場所によっては地下5mまで石がなく牧大根の栽培に適している。穂高川の支流、烏川の左岸段丘上に位置し、扇状地の流れ着く先であり保水力、排水性も良く、形も綺麗な大根となる。(1かつて、この牧地区特有の土壌によって、牧大根を積んだ貨物自動車の立ち往生を起こす風景が風物詩であったとの記載も残る(※3)。

写真2-3-2. 収穫された牧大根
牧大根
・根長 15~20cm
・根重 300~400g
・根形は尻つまりで、下膨れが強い形状。
・首部は淡緑色を呈す。
・水分が少なく、繊維が細かく硬い。
・辛みが強い。
「信州の伝統野菜」である牧大根は、自家採取で採れた種が用いられる。9月上旬には種付けを行い、種をまいてから5日ほどで芽が出る。間引きを行い、良い株を残していく。11月上旬〜下旬に収穫時期を迎え、畑から一斉に大根が引っこ抜かれる。大根の大きさや形で格付けされ、形の良いものが漬物用の牧大根として用いられる。JAあづみ女性部西穂高支部では、規格外の小さすぎるものや大きすぎるもの、形の悪いものは切り漬け等の加工用に使用される。また、企業組合Vif穂高では、小さい大根は粕漬け用として販売される。また、大きい大根も販売され、切って漬けるか、薄切りにして醤油漬けにして食べられる。

写真2-3-2. JAあづみ女性部西穂高支部での牧大根収穫

写真2-3-3. 色付きのビニール紐で格付け
牧大根の栽培が最も盛んに行われていたのは大正から昭和初期にかけて、製糸業の盛んな頃と推定されている。JAあづみの職員からは、牧大根は各農家が個人で販売しており、牧大根全体の生産量は確認できないと伺ったが、生産者の高齢化によって生産量は減少している。
企業組合Vif穂高は、穂高町の女性団体が中心となり、2003年7月5日に開業された施設である。2005年10月1日に、南安曇郡豊科町、南安曇郡穂高町、南安曇郡三郷村、南安曇郡堀金村及び東筑摩郡明科町の3町2村が合併し、安曇野市となり、現在は安曇野市より指定管理を受けている。
【施設概要】
・企業組合機関農産物直売所「いち番館」
・企業組合機関レストラン「味彩館」
・企業組合機関ふれあい体験館(そば打ち体験、おやき作り体験、わさび漬け作り体験などを実施)
企業組合Vif穂高では牧大根のたくあん漬けを製造し、牧大根の漬け込み量は、10年前は2トンを越えていたが、年々減少し、2022年以降は1トンあまりとなっている。
表2-3-1. Vif穂高大根漬け込み量
年度(西暦) | 樽数 | 大根量(kg) |
|---|---|---|
2014 | 54 | 2160 |
2015 | 46 | 1840 |
2016 | 39 | 1560 |
2017 | 39 | 1560 |
2018 | 38 | 1520 |
2019 | 36 | 1440 |
2020 | 35 | 1400 |
2021 | 30 | 1200 |
2022 | 25 | 1000 |
2023 | 24 | 960 |
2024 | 25 | 1000 |
企業組合Vif穂高では開設当初より「牧大根まつり」を開催し、令和6年で20回目を迎える。令和6年度は11月9日と10日の2日間に渡って開催され、午前8時半の開店前から列ができ、 11時頃にはほぼ完売となっていた。

写真2-3-4. 大根祭り開催を待つ列

写真2-1-5. 牧大根を選ぶ買い物客
牧大根は根の大きさごとに、大、中、小、規格外に分けてそれぞれが袋詰めされ販売される。漬物には中の大根が扱いやすいが、大きい大根の方が味は良く、1番人気は中の大根で、最近は出して一度に食べ切れる小の大根もよく売れているとのことである。
※牧大根の規格
・大:長さ17cm20cm、重さ450g500g/本 (9kg~10kg)、20本
・中:長さ13cm17cm、重さ300g450g/本 (6kg~9kg)、20本
・小:長さ10cm13cm、重さ230g300g以下/本 (6.2g~7.5kg)、25本前後で調整
小小は粕漬けや切り漬け(醤油漬け)用に、大きすぎるものは切って糠漬けに使用される。
「牧大根」の普及に取り組むJA女性部西穂高支部牧大根プロジェクトは2005年に発足した。19年目を迎える2024年は11月11日に牧大根の収穫が行われた。JAの職員や地元の農家も協力し、農家から借りた畑で栽培された牧大根約8000本を1日かけて収穫した。

写真2-3-6. JAあづみ女性部西穂高支部部員と近隣農家
収穫された大根は直接個人へ販売するか、加工所で漬物に加工され販売される。形の良い大根は洗って干し、「うんめぇ漬け」シリーズの主力商品の糠漬けに、規格外のものは食べやすい大きさに刻み、薄口しょうゆ、するめ、昆布、ショウガ、砂糖、赤唐辛子と一緒に漬け込んだ「しょうゆ漬け」へと加工される。
JA女性部西穂高支部加工所はJA西穂高ふれあいセンター2階にあり、2011年(平成23年)より稼動している。現在の部員数は23名で、うち15-16名は作業に参加する。牧大根のたくあん漬けは各家庭でも作られていたが、漬け作業は重労働であり、加工場で作ったのもの購入するようになった方が多数となっている。

写真2-3-7.JAあづみ西穂高ふれあいセンター
かつては北部低温倉庫(穂高柏原)、牧公民館(穂高)、Vif穂高等で「大根祭り」を開催していたが、メンバーの高齢化に伴い2020年が最終回となった。約10年間続けた大根祭りだが、最盛期には2時間で2万本の牧大根が販売された。当時、牧大根の「足コンテスト」も開催され、牧地区の川北や離れ山など地形によって形が異なっている牧大根が集結したという。また、5年程前までは、伝統野菜継承のために市の協力で牧大根の種取り作業も実施していた。大根の花を咲かせ、干して脱穀し、送風機でゴミを飛ばし、ふるいにかけて種をとる作業である。現在は高齢化のため、種取りの作業が大変であるこいうことから、特定の農家さんから種を購入するようになった。
2024年度は、できの良い大根が少なく、糠漬けの樽数は前年より22個少ない54個であった。11月下旬に漬けられた大根は、約2ヶ月重石で漬けられ、軽石を乗せ変えて約2週間味をしみこませ、出荷を迎える。

写真2-3-8. 重石を軽石へと変える作業

写真2-1-9. 液面をザルでこす作業
漬け上がった牧大根のたくあん漬けのパッキング作業

写真2-3-10. 牧大根のたくあん漬けを計量

写真2-3-11. 真空パック作業

写真2-3-12. ラベル貼り作業

写真2-1-13. 梱包作業

写真2-3-14. 牧大根のたくあん漬け「うんめえ漬け」
材料:
牧大根 20kg
塩 1.6kg
米ぬか 4kg
三温糖 3kg
大根漬け用醸源 100g

写真2-3-16. たくあん漬用醸源
商品名 :たくあん漬用醸源
原材料名:炭酸カルシウム、サッカリンナトリウム、食品素材(米粉)(添付品・色つけ)食用四黄色号、食品素材(ぶどう糖)
準備:ポリエチレンの桶、大きなビニール袋、重石20kg程度
作り方:
①塩、米ぬか、三温糖、醸源を合わせておく。
②大根をきれいに洗って水を切る(2日ほど日陰においても良い)。
③桶に大きなビニール袋を広げ、始めに①を敷き、その上に②の大根を一列にならべる。

写真2-3-17. 工程③糠の上に大根を敷き詰める作業
④③の作業を繰り返し、最後に①を多めに振りかける。

写真2-3-18. 工程④さらに大根を敷き詰める

写真2-3-19. 工程④大根を敷き詰め終わり

写真2-3-20. 工程④ ①をふりかけ、さらに大根を敷き詰める

写真2-3-21. 工程④ 最後に①を多めにふりかける
⑤中蓋をし、重石をのせビニール袋を閉じる。

写真2-3-22. 工程⑤ 重石を乗せて縛る

写真2-3-23. ビニールシートをかけて発酵・熟成
⑥約1ヶ月後に重石をとり、軽石をのせる。重石を外すことで大根に味がしみていく。
※かつては樽を倉庫に置き、外気温で発酵させていたが、現在は5-7℃の冷蔵室で温度管理をしながら保管している。

写真2-3-24. 冷蔵庫で保管されている様子

写真2-3-25. 水があがり、軽石に変えたあとの樽
⑦漬けてから2カ月ほどたつと食べられるが、Vif穂高では3月上旬まで漬けられ、出荷される。

写真2-3-26. Vif穂高牧大根のたくあん漬け ※Vif穂高提供
材料:
牧大根 10kg
塩 500g ※塩分は大根の重さの5%にすることが重要。
米ぬか 2kg
砂糖かザラメ 350~400g
鷹の爪 適量
干した茄子の葉(よく揉んで粉にする)
干した柿の皮
たくあんの素 1/2
準備:ポリエチレンの桶、大きなビニール袋、重石20kg程度
作り方:
①大根は洗って一週程干す。(大根の葉を付けたまま、竿などに掛けた方が、味が良いと言われる。場所がなければ切り離して並べて干しても良い。)
※洗って干さずにそのままつける方も多い。
②一週間位で大根をひねってくねくねすれば漬け時。(干し過ぎると水が上がりにくく漬け上がりも固くなる。)
③大根のしっぽを切り、大根全部の重さを測る。
④調味料を全てタライの様な大きな入れ物でよく混ぜる。
⑤桶に漬物用ビニール袋を敷き、④を入れ→隙間なく大根を並べ→ ④を入れ→大根を並べ→と順番に乗せていく。
⑥殺菌効果のある鷹の爪を糠の後に5、6箇所入れる。
⑦最後に多めの米糠を乗せ、切り落とした大根の葉をおけの上に隙間なくならべ、中蓋をして石を乗せる。
⑧重石はなるべくたくさん乗せ、一週間までで水が一気に上がる様にする
(早く水が上がると美味しく仕上がる)
⑨約3ヶ月後には十分漬け上がる
牧大根は辛み大根の一種であり、漬物以外におしぼり蕎麦などで食される。JAあづみ女性部西穂高支部の降籏さんは、牧大根の間引き菜(「おろ抜き」とも呼ばれる)を茹でておひたしにして食べていた。さらに、味噌と砂糖で炒め、お饅頭の餡にして食べていた。
牧大根の生産者が自宅でたくあん漬けを作らなくなってきているため、家庭で仕込む風習がなくなっている印象を受けた。実際に、牧大根のたくあん漬けを自宅で作る生産者は、牧大根生産者協議会で2名のみ、JAあづみ女性部西穂高支部では1名であった。その理由として、加工所の設置と生産者の高齢化があると考えられる。Vif穂高やJAあづみ女性部西穂高支部に加工所が設けられ、牧大根のたくあん漬けが量産できるようになり、手間をかけて作らずとも手軽に購入できるようになった。また、生産者の高齢化が進み、力を使う漬け込み作業が自宅で行えなくなってきている。
また、地元でも牧大根を食べたことのない人が増えている現状があるという。「新米のお祭りで配られたおにぎりに付いていた牧大根の漬物を食べた子供が”美味しかった”と母親にせがみ、購入に至ったという話をよく聞きました。10代の子供達が口にして味を記憶することが重要で、小学校の給食でも地元食材を味わう機会が増えて欲しいです。」という生産者からのコメントをいただいた。
令和6年11月9日と10日の2日間にVif穂高で行われた「牧大根まつり」にて、長野県の漬物に関するアンケート調査を行った。また、JAあづみ女性部西穂高支部の皆様やVif穂高に牧大根を卸す生産者にも回答いただいた。合計34名の回答結果をまとめる。

図2-3-2. 性別

図2-3-3. 年齢層
アンケート回答者は50代以上の女性が多く、特に70代、60代が9割近くを締めている。牧大根の生産者も、購入者も同世代という印象を持った。一方で、20代の娘と親子で買い物に来ている方や、今年初めて牧大根のたくあん漬けを作るという20代女性も訪れ牧大根を購入した。※アンケートへの協力なし。

図2-3-4. アンケート1枚目

図1-3-5. アンケート2枚目
回答者の住まいは安曇野市25名、大町市が3名、松本市が2名、塩尻市が1名、未回答が3名であった。牧大根まつりには、安曇野市外からも牧大根を購入しに訪れる方も少なくない。

図2-3-6. 居住地域
牧大根の生産者または購入者の約75%が毎日漬物を食しており、月に数回と答えた人は7%(2名)のみであった。

図2-3-7. 漬物の喫食率

図2-3-8. 漬物の喫食頻度
34名の回答を受け野沢菜漬けが最も多く、たくあん漬けはその次であった。他に、酢漬け、粕漬け、糠漬け、味噌漬けの順で食されている。回答者には牧大根の生産者も多く、たくあん漬けの回答数が最も多いと予想していたが、野沢菜漬けが全体の85%と最も多く食され、長野県内でも広く食されている漬物の一つであることが推察される。また、酢漬けの回答も3番目に多くなった。

図2-3-9. 食べる漬物の種類
30名から回答があり、夕食、朝食、昼食の順に多く食され、おやつ時やお茶請けという回答も3割程であった。お茶の時間に漬物を食べるという文化は長野県特有の食文化であると考えており、来客時に出したり、友人に配るといった、相手を喜ばすおもてなしの食品としても、漬物は重要な役割を果たしていると推察する。

図2-3-10. 漬物を食べるシーン
31名から回答があり、野沢菜漬けが27名、たくあん漬けが24名と高い割合で自家製の物を使用していることがわかった。また、酢漬け、粕漬けの順で多くなった。(野沢菜漬けには時漬けという回答も1名含む。)

図2-3-11. 自宅で作る漬物の種類
普段から食されている漬物(1-3)と自宅で作る漬物はある程度一致する結果となった。
表2-3-2.自宅で作る漬物と普段食べる漬物
漬物の種類 | 自宅で作る | 普段食べる |
|---|---|---|
野沢菜漬け | 27 | 29 |
たくあん漬け | 24 | 24 |
酢漬け | 14 | 15 |
粕漬け | 13 | 9 |
糠漬け | 10 | 9 |
味噌漬け | 6 | 8 |
醤油漬け | 3 | 3 |
浅漬け | 3 | 5 |
梅干し | 2 | 2 |
からし漬け | 1 | 1 |
他 | 4 | 1 |
回答者数 | 34 | 31 |
18件の回答があった。野沢菜、大根(牧大根)、きゅうりなどの回答か多く、粕漬け、糠漬けと行った漬け方が多い。牧大根のたくあん漬けの材料としてはザラメ、塩、米糠、柿の葉、茄子の葉、鷹の爪、昆布、漬物の素が上がっている。
表2-3-3.自宅で作る漬物のレシピ
レシピ | 野菜 |
|---|---|
本うりの粕漬け おけ、重石、漬物小屋8月 | 瓜 |
おけ、火の当たらない場所、1年中つける、夏のきゅうり漬け、茄子漬け味噌漬け | きゅうり、茄子等 |
牧大根のぬか漬け | 牧大根 |
とをしやの漬物の素、ザラメ、塩、ぬか、柿の皮、茄子の葉。漬け方は、 1週間以上を曲がるまで干す。パリパリになる。ウッドデッキでひっくり返し、夜はござをかぶせるなど。そうすると水分抜けて日持ちする。友達やおばあさんと夏過ぎまで食べる。量は大体プラおけ20キロ分位。 | 牧大根 |
柿の皮、ぬか、塩、鷹の爪を入れて5キロつける。ぬかに、覆われて上にかぶせるようにしておく。素も少し入れる。 | 牧大根 |
干すとしんなりする。ザラメ、柿の皮、茄子の葉昆布も入れる。しぶかわ、本のレシピを参考。 | 牧大根 |
牧大根、柿の皮、デリシアにある混ぜている糠、昆布を足す、漬物の素、気候をメモしておいてあったかいと増やす。漬ける量は10キロ位のプラおけ | 牧大根 |
野沢菜漬けは塩と醤油の2種類12月が暖かくなってすぐ食べられるように。丸い桶に漬ける。11月から2ヶ月正月に食べ始める。ザラメ、塩、ぬか、鷹の爪、乾かした柿の皮、茄子の葉ごく一般のものだと思う。(余計なものは入れない) | 野沢菜、牧大根 |
野沢菜の醤油漬け、沢庵漬け、漬物小屋で作る。 | 野沢菜、牧大根 |
ぬか漬け、物置 | |
味噌漬けにこだわっている、 夏野菜もつけたりする | 大根等 |
野沢菜の切り漬け、梅漬け、牧大根の(酢入り)簡単漬け | 野沢菜、牧大根等 |
きゅうり、Qちゃん漬け | きゅうり |
奈良漬、牧大根のぬか漬け | 牧大根等 |
酒粕にて漬ける方法→冬から春5月から6月まで食べられる | 牧大根等 |
ポリの桶で、大根、11月後半、お菜は12月初め頃に漬ける | 野沢菜、牧大根 |
野沢菜霧漬けで丸おけに(ポリ)、長漬けの時は角ポリおけ。 | 野沢菜 |
18件の回答があり、スーパーやJAでの購入が多い。今回、牧大根の生産者の回答率が高いことから、自家栽培の回答も多い傾向となった。

図2-3-12. 漬物の原料の購入場所
17件回答があり、家庭でも10~100kgほどの漬物が漬けられ、ある程度まとまった量を漬けて数ヶ月間食べ続けている家庭が多いことがわかる。また、 JAあづみ女性部西穂高支部の女性からは、一度にたくさん漬けた方が美味しくなるとの意見もあった。
表2-3-4.自宅で作る漬物野菜の量
漬ける量 |
|---|
1回に大根などは1本 |
野沢菜90kg 本うり40本〜60本 大根20kg きゅうり130本 茄子100本 |
きゅうり70本、茄子120本、大根60本 |
きゅうりと茄子100本以上 |
牧大根100本、きゅうり50本、茄子50本 |
大根50本、野沢菜30キロ |
大根40本位 |
たくあん20kg |
大根20本 |
大根40本 |
きゅうりと大根100本 |
牧大根10キロ、野沢菜10〜20キロ |
きゅうり10本 |
牧大根120本 |
大根50本、お菜(野沢菜)30キログラム |
野沢菜10キログラム |
漬物はおやきや油炒め、おまんじゅうの具として調理される。また、酸味が強くなった古漬けは塩出ししてから味付けをして食べられている。かつて保存食として食べられてきた漬物(塩漬けになった野菜)、冷蔵冷凍設備が整った現在でも、料理の具として利用され、冬の寒さの厳しい山間部独自の食文化が残っている。

図2-3-14. 漬物の伝統的調理方法
表2-3-5. 漬物の伝統的調理方法
伝統的な食べ方 |
|---|
野沢菜おやき |
野沢菜漬を具に入れたおまんじゅう(塩ぬきして油で炒め味付けしたもの) |
野沢菜漬けは、春先に酸味が出たものを塩出しして、油炒めにしたり、おやきの具にしたりする。 |
すんき、須坂のきゅうり、伝統野菜 |
おやき |
油炒め |
お菜 →油で炒めて煮干し、砂糖醤油好みで粕汁。 |
たくさん採れた時に塩抜きしておいた野菜を塩出しして油で炒め、砂糖、醤油、出汁で味付け |
安曇野市にお住まいの7名(3名に1人)が特別な場面で食すと答えた。具体的には、漬物を漬けること自体が特別な行事との回答が5件、来客時に出す特別なものであり、交流の一つであるという回答が2件、年末年始やお祭りで食べるお祝いのものという回答が1件であった。
20名の回答者のうち11名が漬物を漬けた後の漬け材を再利用していると回答した。酢漬けのつけ汁はそのまま飲用するか、料理の調味料としても使用されている。また、漬け粕は次の漬物の塩抜き用に再利用されているというのも興味深い。

図2-3-15. 漬物のつけ材の利用の有無
表2-3-6. 漬物のつけ材の利用方法
利用方法 |
|---|
飲む(酢) |
梅をらっきょう酢でつけて残った汁を取っておき、秋赤大根をらっきょう酢で漬けたとき、 少し加えると色が鮮やかになるので活用している。また干し柿入りの紅白なますにも少し入れると酸味と甘みが合わさりまろやか。 |
粕漬け(奈良漬)の後、味噌を加え、にんじん、きゅうりなど季節野菜を漬ける。 |
粕は、本うりの後、大根を入れる |
ぬか漬けが甘く漬けているので、奈良漬にしてたりしている |
煮物に使用する |
梅、生姜漬けの漬け汁を夏など氷入れたり、冷やして飲み物にする |
今はつけませんが、粕漬けの数は次回の野菜の塩出し用に使用していた |
粕漬けは抜きカスとして使う |
漬物を食べる人が減っているとの意見が多く、特に若い世代の漬物離れを感じている方が多い結果となった。また、家庭でつける量や機会が減り、手間のかからない浅漬けに移行している傾向がうかがえる。さらには、家庭での冷蔵保存の環境が整い、健康面を考慮した減塩の漬物が増え、酢漬けを食べる方も増えている。一方、大阪からの移住者は「普段漬物を食べる文化がない」との回答があり長野県の独自の漬物食という観点では興味深い意見であった。
表2-3-7. 漬物の食文化で変わってきたこと
変化 |
|---|
あまり漬物を食べなくなってきた |
減塩ということもあり、健康のため漬物をするときは、塩分を控えめにするようにしている。 |
長期漬け(本漬け)よりも、時漬けとしてサラダ感覚のものが好かれる。 |
若い世代は昔ながらの漬物は食べないようで、塩分の強いものは好まれず、浅漬けやピクルス程度を食べている。 |
若い世代は食べない、漬けないで買う |
昔より塩あまになってきた。 |
浅漬けのようなあまり漬からない生に近いものになってきた |
減塩、家も変化、気候変動 |
少し減っているように思う。ドライブに行く時は持っていって食べる。全部自分にないのかと子供は聞いてくる。 |
自家製は少なくなった |
漬ける人が少なくなってきた |
なかなか食べなくなったと思う |
日頃食べている、漬物が 減塩になっている |
若者の漬物離れが進んでいる、塩分控えめになっている |
大阪からの移住者なんで漬物文化がない |
毎日食べるからわからない |
若い人は食べなくなってきているので漬けない |
若い人たちがあまり食べなくなったと思う。高齢の方は硬いものが減ったかな。 |
野沢菜は塩漬けがほとんどでしたが、1月に入ると出してから味が変わりやすいので、醤油漬けやだいごみ醤油漬けなど味変が少ないものに変わった。人数が少なくなったので、漬物の数は減らした。 |
10件の回答をいただいた。今回は牧大根の生産者の回答も多く、おいしい漬物を残し継承して行きたいとの意見が多数あがった。その一方、気候や生活習慣の変化に伴い、昔の漬け方での継承は難しいとの意見もあがった。
表2-3-8. 漬物文化 の継承に関しての考え
漬物文化の継承に関して |
|---|
食べたい時に食べたいものを作って食べる |
おいしい漬物、レシピを残して伝えていきたい。 |
研究会的なものを発足させ、地域文化として根付かせたい。 |
気候も生活習慣も変わってきているので、継承は2〜3世代の大家族でもない限り廃れていく傾向なのではないかと感じる。 |
先ず、自分たちは毎日食べることが、若い世代の目に届く |
冬の行事として、大根ぬか漬け、野沢菜漬け、どの家でもやってたが、今は漬けない家多い。 |
牧大根のぬか漬けは作り続けたい |
漬物文化に興味を持って欲しい |
それぞれの地域で、漬物も味付けも違うので、地域で味わうなどあれば続いていくのでは |
高齢になり、作ること、重いものを運ぶことができなくなってきた |
今回のアンケートは、牧大根の生産者や牧大根購入客に回答を依頼し、安曇野市またはその近隣にお住まいの方であった。34名と数は少ないが、その地域の漬物の需要の変化を考察した。漬物離れが進む中、塩分の強い昔ながらの漬物から、塩分の少ない漬物へと変化し、健康面を重要視した酢漬けも食されるようになった。また、家庭で作る漬物は、作り手の高齢化や食生活の変化に伴い減少し、簡便な漬物の素(浅漬けの素を含む)の使用が当たり前となってきている。現代の食生活では、昔ながらの漬物を後世に伝えることは難しい一方で、子や孫へ、こだわりの漬物を作り、食べさせている母や祖母の存在は貴重であると感じた。また、漬物をお茶請けに、家族や友人との交流を楽しむという長野県らしい漬物文化は地域間のコミュニケーションには欠かせないと考察する。今後は、地域に偏らず、長野県内の広い範囲で調査を実施し、市町村で特有または共通の漬物文化を解明したい。
昔から作られていた牧大根のたくあん漬けには、香りづけに干した茄子の葉、甘味として干した柿の皮が使用され、その他調味料も各家庭独自のレシピで加えられていた。しかし、たくあん漬けの素が使用されるようになり、安定した品質(おいしさ)のたくあん漬けが出来上がるようになった。そのため、各家庭の味は多少なりとも均一化されたと考えている。取材で見た牧大根のたくあん漬けは鮮やかな黄色を呈していた。しかし、たくあん漬けの素や着色料が登場する以前のたくあん漬けはより自然な色味であったと予想する。古幡さんのレシピを参考に、自身で作ってみたところ、写真19のような淡い色合いとなった。写真から比較してもわかるように、鮮やかな黄色のたくあん漬けは「美味しそうに見える」というのが消費者の反応であったのではないかと考察する。JAあづみ女性部西穂高支部の皆様の仕上げ作業でも大根表面の色が茶色くなった箇所を丁寧に取り除き、見栄えに気を使っていた。

写真2-3-27. たくあんの素を使用した「うんめえ漬け」

写真2-3-28. 自家製の牧大根のたくあん漬け
味わいに関しても「うんめえ漬け」は甘口で食べやすく、自家製の大根のたくあん漬けは塩味が強く、保存性が高い印象を受けた。牧大根のたくあん漬けという地域の伝統的な食品を維持するために、高齢化が進む農家の労働を低減し、収益を得るために、安定した品質で製造が可能となる加工所の設置は意義のあることであったと捉えた。一方で、今回の取材では自然の材料だけで漬ける昔ながらのたくあん漬けのレシピを記録している家庭に出会うことはできなかった。毎年の感覚(目分量)で漬け込まれる大根漬けは、レシピとしては記録されておらず、家庭の中で伝承されながら、生活や作り手の好みが反映され、時代と共に少しずつ変化している。昔ながらの食文化の継承という観点で、昔ながらのレシピを記録し、当時の味わいを知る方々が次の世代に直接作り方を伝える場も必要であると考えた。
実際に、レシピを見ながら作った自家製の牧大根のたくあん漬けは、小さ目の大根を干し過ぎたことが要因で、水が上がってこず、塩辛い素朴な味わいとなった。大根の干し加減がわからず、漬物の素を使用しない牧大根を食べたことがないために、漬け上がりの味わいもうまく漬けられたかどうかの判断が難しい印象を受けた。JAあづみ女性部西穂高支部の皆様に試食をしてもらうと、「懐かしい味がする。昔はこんくらい塩分が多かったよね。」というコメントをいただいた。また、有識者の先生方からは、「化学調味料を使わず、しっかりと素材のおいしさが出て、良くできている。これからも是非続けていって欲しい。」とコメントをいただいた。今後も調査を継続しながら、昔ながらの自然の農作物を使って作られる家庭の牧大根のたくあん漬けの作り方を学び、かつての味を味わう機会に出会えることを願う。
安曇野市穂高牧地区でしか、生産できない「信州の伝統野菜」である牧大根だが、その生産量や消費量は年々減少傾向にある。伝統を絶やさず維持するためには、新規生産者の支援やJA女性部西穂高支部牧大根プロジェクトのような地域での連携が重要と考える。「牧の畑は保水力があり、石が少なく安曇野市の中でも優良な農地が残る地域です。農地を守るという観点からも牧の土地でしか採れない牧大根は、地域農業の要になっていくと思います。」と生産者からコメントをいただいた。昔ながらの伝統的なたくあん漬けのレシピと味を継承していくと共に、牧大根の辛味や独特の歯応えといった特性を生かし、現代の食卓にも馴染むような新たな商品を開発することで、産品としての価値を高められる可能性も感じた。
参考資料
※1 大井美和男・市川康夫(2011)『地域を照らす伝統作物 信州の伝統野菜・穀物と山の幸』88-89頁
※2 宇留賀浜雄/ほか著(1980)『信州あづみ野特産ものがたり』第一話 風雪の牧大根 古畑摂良,13頁
※3 宇留賀浜雄/ほか著(1980)『信州あづみ野特産ものがたり』第一話 風雪の牧大根 古畑摂良,19頁
第3節 牧大根
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