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2026.02.19
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米国のモンロー主義回帰の「背景」
~米国に近づく中国に対する脅威と拒絶~
嶌峰 義清
- 要旨
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- 米国のトランプ大統領は、2025年11月に公表した「国家安全保障戦略」でモンロー主義に言及し、西半球における米国の権益を重要視する方針を打ち出した。今年1月のベネズエラ大統領の拘束は、この流れに沿ったものと理解できる。
- 19~20世紀前半の米国外交を位置づけたモンロー主義は、米国の西半球での権益を確立すると同時に、米国を経済的、軍事的大国に押し上げた。
- 経済・軍事両面で米国に近づく中国への脅威が、米国のモンロー主義への回帰を促している。
モンロー主義になぞらえ“ドンロー主義”を掲げるトランプ米大統領
米国のトランプ大統領が掲げる「MAGA(Make America Great Again:米国を再び偉大に)」「米国第一主義」は、米国民の約半数からの熱烈な支持を集めて大統領選勝利の原動力となった一方で、国内外に様々な軋轢を生んでいる。
例えば、不法移民への取り締まり強化策はICE(移民税関捜査局)による強権的な捜査に繋がり、全米各地で抗議運動が起こるなど社会問題化している。トランプ大統領(二期目)の支持率は、就任直後こそ50%を上回っていたものの(支持率データはRealClearPolitics世論調査平均による:以下同)、その後は物価高対策が進まないことなどもあって一貫して低下基調を辿っているが(図表1)、ICEによる発砲死亡事件には、党派を超えた批判も多い。他方で、熱烈なトランプ大統領支持者や移民の増加に批判的な見方をする人はこれを擁護しており、米国内での分断は一層深まっているように見える。
一方、他国への対応はより明確で、25年4月発表のトランプ関税に象徴されるように、外交関係の悪化リスクを厭わない活動が目立つ。国際機関からの離脱も加速しており、就任直後には地球温暖化対策に関するパリ協定からの(再)離脱を決定したことを皮切りに、今年1月には66の国際団体(31の国連関連機関+35の非国連機関)からの離脱方針を発表した。一連の動きについてトランプ大統領は「米国主権の回復」「グローバル・ガバナンスではなく二国間・取引型外交への転換」と位置づけ、「米国の短期的国益に合致するもののみ選別する」としている。
加えて、1月にはベネズエラに軍を派遣してマドゥロ大統領を拘束、米国への移送を行ったほか、グリーンランドの米国への移譲を求めるなど、国際法を軽視するような行動や言動も目立っている。ベネズエラは原油の確認埋蔵量が世界一であること、グリーンランドにはレアアースの有望な鉱床が存在していることから、米国の行動は、資源確保を意識したものと見なされている。
こうしたトランプ政権下での一連の動きは、かつて米国の外交政策の柱であった「モンロー主義」を彷彿とさせる。実際、2025年11月に公表された米国の「国家安全保障戦略(National Security Strategy of the United States of America)」ではモンロー主義に言及している。トランプ大統領も、自身の外交政策をモンロー主義になぞらえて「ドンロー主義」と述べている。
孤立で力を蓄えた米国の歴史
「モンロー主義」は、1823年に打ち出された「欧州の新たなアメリカ大陸介入を拒む」原則で、19〜20世紀前半の米国外交を方向づけ、米国には米州大陸での覇権確立という成果をもたらした。
1820年代初頭は、中南米の多くのスペイン植民地が独立していく中で、欧州の「神聖同盟」が旧植民地支配の復活を図るのではないかという危惧が米国にあった。こうしたなか、1823年の一般教書演説でモンロー米大統領は、①欧州の戦争・内政に米国は不干渉、②既存植民地には干渉せず、③アメリカ大陸を新たな植民地化に開かれた土地とはみなさない、④欧州が独立した米州諸国を支配・干渉しようとすれば米国への敵対行為とみなす、という四原則を提示した。当時の米国は軍事力は乏しかったものの、英国の利害(欧州他国の再植民地化阻止)と重なったことで、この宣言は事実上機能したとされている。
これにより、独立した中南米諸国への旧宗主国への介入を阻止する一方、米国は欧州諸国との軍事衝突を回避することで経済力、軍事力を高めることが可能となった。その後、20世紀初頭にはこれらの独立国において経済・財政破綻や政治不安が高まるなど、不安定化が目立つようになった。これに対し、米国は当該事案に対する欧州諸国の介入を阻止して地域の安定化を図る警察権を行使するとして、安定的な政府樹立の支援や軍事介入による混乱の排除などを行う。これらは、モンロー主義を拡大解釈したもので、これらを主導したセオドア・ルーズベルト大統領に因み、ルーズベルト・コロラリー(系論・補論)と呼ばれた。これにより、米国はカリブ海・中南米諸国における覇権を確立すると同時に、米州大陸(西半球)における資源などを利用して、さらに経済力・軍事力を高めていくことに成功した。
他地域に干渉せずに自地域の覇権を維持することで自国の力を高めていく手法は、その後の第一次世界大戦、国際連盟への不参加へと受け継がれていく。最終的には、第二次世界大戦における米国の突出した軍事力として、その成果が発揮されることになる。
世界の警察官となって疲弊した米国
第二次世界大戦後、米国は国際連合の常任理事国となり、欧州と距離をとることで地域の覇権を維持するモンロー主義から変節することになる。その背景には、①戦闘機やミサイル、潜水艦、核兵器など軍事技術の飛躍的な発達により、地域の安全保障確立のためには敵対勢力に対して積極的に関わる必要が出てきたこと、②ソ連をはじめとした共産主義勢力との対立が明確になったこと、が挙げられる。
こうした国際情勢の変化は、欧州との分断を謳ったモンロー主義を、共産主義からの分断(侵入阻止)という形への変化を促した。同時に、軍事技術の発展への対応の必要性(東欧諸国に対するNATOや、東アジアにおける日本や韓国、フィリピンなどの米軍基地維持など)と、世界における米国の圧倒的な経済力は、米国を「西半球の警察官」から「世界の警察官」へと押し上げ、必然的に米国は国際舞台の主役に躍り出た。
しかし、これによる経済的負担の大きさは米国の財政悪化として現れ、経済は徐々に疲弊していく。日本やドイツといった第二次世界大戦の敗戦国が急激に経済力を高める一方で、米国経済の相対的な優位性も失われていく。自由主義の象徴である米国への移民は、安価な労働力として米国経済の衰退を補う一方で、既存労働者の雇用を奪い、社会問題化していった。
冷戦の終結は、一見すると米国を勝利者としたようにも見えた。しかし、グローバル化の波は米国の産業構造の変化を促す。具体的には、製造業の衰退は加速する一方、金融やハイテク関連産業が稼ぎ頭となった。これにより、米国の“伝統的な産業”に従事していた労働者の多くが職を失う。低賃金で働く移民の更なる増加も相まって、高いスキルや資産で稼ぐ高所得者と、そうでない者との所得格差はさらに拡大した。
一方で、旧東側諸国は民主化で立て直しを図る国もあれば、波に乗れずに混乱に陥る国もあったが、中国は民主化の流れを抑え込み、共産党による支配の下で市場経済を取り入れることで、飛躍的な経済成長を遂げる。特に2001年にWTO加盟を果たした後は「世界の工場」として所得水準が向上し、その後は「世界の消費地」として、海外資本の流入をテコに高成長を維持、2010年には日本の経済規模を超えて米国に次ぐ世界第2位の経済大国に躍り出た。以後、絶望的な所得格差という問題を抱えながらも、表面的には金融やITのグローバル産業が牽引する米国と、市場主義的に民間資本をテコに高成長しながらも、民主化を抑え込み共産党による独裁的な政治が主導する中国との格差は、目に見えて縮小していく。
モンロー主義への回帰を促した中国の脅威
米国と中国の経済規模格差は、2000年以降急速に縮小していく。2000年頃までは、中国の経済規模は米国の10分の1程度にとどまっていたが、それ以降は中国が高成長軌道に乗る一方で、米国の成長率は鈍化傾向を辿ったことで2021年には中国の経済規模は米国の76.7%に達している(図表3)。
戦後、ここまで米国の経済規模に迫った国は日本しかない。1995年の日本の経済規模は、米国の72.6%にまで迫ったことがある。当時の米政府は、日本が経済規模で迫ってくる“脅威”に対し、通商政策などを通じて様々な対策を講じてきた。例えば、為替相場の円高への誘導や日米半導体協定は、日本の製造業の国際競争力を阻害し、90年以降はバブル崩壊とその後のデフレ局面入りもあって、日米間の経済格差は拡大へと転じていった。言わば、米国の対日政策が功を奏した結果となったわけだが、その背景には日本側が米国の言いなりになっていた、という見方もある。すなわち、経済面でも安全保障面でも米国に依存していた日本だからこそ、米国側の一方的な要求が受け入れられ、米国は十分な成果を得られたということになる。
これに対し、中国は米国とは政治システムも価値観も異なる。国連においては米国と同じ常任理事国であり、安全保障面でも米国には依存していない。むしろ、米国とは“対峙”する側にある。したがって、米国が中国を脅威だと感じても、日本に対した時のように一方的な言い分を飲ますことは難しい。
加えて、米中の軍事力の格差も急速に縮小している。世界の軍備や安全保障に関する調査研究を行う独立系シンクタンク「ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)」によれば、2024年の米国の国防支出は9973億ドルと、3136億ドル(同研究所推計)の中国の3倍に達する。GDP比で見ても、中国の1.7%に対して米国は3.4%と倍の規模となっている(ロシアはウクライナ戦争の影響で2022年以降急増してGDPの7.1%に達している)(図表4)。
しかし、国防費だけでなく、兵数や陸海空軍力、資源・経済力、地理的条件なども加味した世界の軍事力を測る「グローバル・ファイヤーパワー(Global Firepower:GFP)」が算出する軍事力ランキングによれば(軍事力指数として算出:指数はゼロに近いほど強いことを示す)(図表5)、2026年の米国の指数は0.0741と世界1位の座を維持しているものの、3位の中国(0.0919)との差は縮小傾向を辿り、2023~24年にはその差はほとんど無くなった(図表6)。2026年には両国の差はやや拡大したが、これは主に経済面で中国の景気が停滞していることが影響したものと推察される(指数の内訳は未発表)。
このように、経済面や軍事面で米国に近づいてきた国として、冷戦下のソ連、80~90年代の日本が挙げられるが、ソ連については経済規模の点で格差が大きかったとされる一方、日本については軍事面での規模はかなり小さく、前述のようにそもそも“敵では無い”。これに対し、中国は経済規模と軍事力の双方で米国に迫ってきた“戦後初めての国”であると言える。特に2000年から2010年代にかけて中国経済が高成長を維持していた時期には「2030年代には中国の経済規模が米国を上回る」との論調も多く、米国にとって中国は重大な競争相手として位置づけられたと考えられる。その後、中国の経済成長ペースは鈍化し、人口減少基調に転じたこともあって、現在では中国の経済規模が米国を逆転する可能性は低いとの見方が一般的となっている。実際、コロナ禍以降は中国経済の停滞もあって、米中の経済格差は再び拡大傾向を辿っている。
「モンロー主義」に言及した「国家安全保障戦略」においては、これまでの米国の対中戦略は「誤り」であったとし、これまでの関係を見直し「相互主義と公正さを優先して米国の経済的自立を回復する」としている。それは、バイデン政権下における「戦略的競争相手」としての中国に対する認識とはやや異なる。一方で、「西半球外の競争相手が、我が国の西半球で軍隊やその他の脅威となる能力を配置したり、戦略的に重要な資産を所有または管理したりする能力を否定する」としており、米国で言うところの西半球、すなわち(南北)米州大陸における中国の進出を拒絶する姿勢を明確にしている。
次稿、Global Trends「米国のモンロー主義回帰の狙い」では、西半球に注力する米国のメリットについてまとめる。
嶌峰 義清
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。