ユグドラシル・レムリア あの夏の日・3

 エイリは、櫟と名乗った剣道少女の後を歩いていった。

 学校前で出迎えられ、エイリは詩季祇の本家の人間に呼び出された。今は、呼び出した当人がいる場所に向かっている。

 正面からはショートカットのように見えた櫟の濃灰色の髪は、後ろから見ると一本結びにされていた。元気に揺れる髪に目が行く。同じ色をした桜の髪はいつも穏やかに揺れるが、櫟の髪は躍動していると感じた。

 歩き方も、どこか力を持て余しているように感じられた。頬や膝に絆創膏が貼られている。

 持ち物から剣道部員であることがわかる彼女のこと、部活でついたものなのか。それとも普段からやんちゃをしているのか。つい想像してしまう。

 ぼんやり見ていると、櫟は突然立ち止まった。

「う!」

 エイリはぶつかり、櫟の発達した尻に手を置いてしまう。

「どの路線に乗ればいいかわかる?」

 それを気にすることなく、櫟は券売機の前でエイリに聞いた。

「青のやつに乗る。料金はこれ」

「ありがとう。わたしは北海道の田舎の出身だから、どうもよくわからなくてな」

 櫟はがまぐちの財布をとりだして機械にお金を入れた。エイリのぶんも購入し、切符を手渡してくれた。

 目的地は、詩季祇家が経営する系列企業の本社ビルである。海沿いにある巨大なそれは有名で、エイリも存在くらいは知っている。

 櫟とともに電車に乗って、ビルの前に到着した。地下のエントランスから中に入る。

 広いエントランスに、神経質に感じるほど清潔な空気。ビルの中はとても近代的な作りだったが、どこか悪趣味さを感じた。見かけだけ仰々しい大理石の床は、エイリの趣味には合わなかった。

 社員たちは無駄な話をしておらず、学校よりずっと緊張した雰囲気だった。先進的を装っていても、封建的な詩季祇の家柄が見えるようだ。

 その緊張を破り、怒声が聞こえてきた。

「あんのバカどもが……! 乗っ取られても知らないからな!」

 若い女の声だった。見ると、染めた金髪と白いスーツの派手な女が怒り肩で歩いているのが見えた。

「げ」

 エイリは思わず声を出した。あれは、詩季祇家の中でも問題児と言われるレンリという女である。

 それもそのはず。レンリはエイリの母のセツリに言い寄ってくる不届き者だ。娘としては顔も見たくない相手である。

「荒れてるね。例の件?」

 そのレンリに対し、櫟は親しげに話しかけた。

「レキ。もうこんな会社に出入りするのはやめたほうがいい。そのうち腐り落ちる運命だから!」

 怒りをほとばしらせレンリは言った。何があったのだろう。

「役員どもは雇われ社長に丸投げする気だ。費用の捻出には従業員をリストラするって」

 レンリの叫びの意味がエイリにはよくわからなかったが、とにかく不公平なことをしているというのはわかった。

 話を聞きながらなんとなく理解したところだと、会社の業績が悪化しても経営陣は辞職せず、しっかり役員報酬をもらいながら従業員をクビにするつもりらしい。

 うちの家系がやりそうなことだ、とエイリは思う。

 父は本家についてあまり話さなかったが、経営陣の高慢さはよく漏らしていた。会社はここ数年ずっと赤字だが、プライドの高い役員たちは自分たちが悪いとは思っていない。

「まず経営者が身を引くのが筋だろ。それなのに自分たちの席だけは残した。ああもう!」

 レンリは頭をかきむしっていた。青金色の髪がぼさぼさになるもの気にせずに。

「そうか。ひどい話だね」

 櫟が言って、レンリの頭を撫でてやっていた。櫟のような素敵なお姉さんにそんなことがしてもらえるレンリが少し羨ましかった。

「私が担当していた航空技術部門は閉鎖だそうだ。見合いするか家出するか選べ、だって」

 少し落ち着いてから、レンリは櫟に向けて言った。

「それで?」

「家出に決まってる。部門の人間を引き抜いて会社を作るよ」

 あのレンリが社長になるなんて、エイリからしたら悪夢のような話だ。下につく社員たちが今から気の毒になってくる。

 エイリはそう思いながら、喋っているレンリをじっと睨みつけた。

「あ」

 その時、レンリがこちらの目線に気づいた。

「エイリ! 私に会いに来てくれたの?」

 レンリはぱあっと顔を明るくし、エイリに向けて両手を広げた。

「そんなわけあるか!」

 エイリは言って、がらあきになったみぞおちを殴った。

「本家がこの子を呼び出したんだ。何の話かはわたしも知らない」

 櫟が簡潔に説明した。すると、腹部を押さえていたレンリが真剣な顔に戻る。

「まさかもうお見合いなのか。私と!? そうすればセツリさんの娘になれるな」

 もう突っ込む気にもなれず、エイリは沈黙した。櫟を見ると、そんなレンリを見て少し微笑んでいるようだった。

 レンリに友人は一人もいないと思っていたが、もしかすると櫟はレンリと親しいのかもしれない。 



 エイリが通されたのは応接室だった。高そうなソファに座らされ、櫟と共に待たされた。

「レキさんはここで何をしてるの?」

 待っている間、エイリは気になっていたことを聞いてみた。

「奉公だ。研究の手伝いだよ」

 櫟の答えはシンプルだった。詳しいことは秘密なのだろうか。

 綺家の人間が詩季祇家の研究を手伝う。そう聞くと、両家の関係のあべこべのようだ。詩季祇の帝臣グループは主に工業系なので研究部門はあるが、それは綺家の学術研究とは違う。

 大学の研究者が論文を出す仕事だとすれば、企業の研究者は特許を取る仕事だと母から聞いたことがある。櫟はどんな研究を手伝わされているのだろう。

「わたしも詳しいことはわからないんだ。研究者ではないからね」

 疑問を持つエイリに対し、櫟はそう付け加えた。

「レンリとの関係は?」

 エイリはもう一つの気になっていたことを聞いてみた。

「あの人とは友達だよ」

 櫟は微笑んで言った。からっとしていて、特に変な関係ではないことが見受けられた。

「よく友達になれるな……アレと」

「変わり者だけど、いい人だよ。彼女の手伝いは面白い」

 櫟は目を細めて言った。確か、レンリは小型タービンの開発をしていると聞いたことがある。タービンは圧縮空気を作り出すことができる装置で、過激な実験ばかりやっていたはずだ。

 櫟の頬の怪我もそのためについたのではないかと疑ってしまう。やっぱり、あいつにはもったいない助手だと思う。

 しばらくして、待っていた人が入ってきた。詩季祇家の当代でありグループの総帥である人物で、秘書をともなわずに一人であった。

 エイリでも顔を知っている。たまにだがメディアへの露出がある人物だ。

 低俗な番組に出て、国内の企業が硬直的すぎるとこきおろしたり、外国式がいかに素晴らしいかなどと説いている姿が印象的だった。メディアに関係しているというだけでも、少し生臭い印象のある人物だ。

 そんなに偉そうにしておきながら、掲げていたグローバル化の戦略は次々に失敗して大勢のリストラを生んだ。彼が硬直的と批判していた国内企業は独自の強みを堅実に活かして世界で飛躍し、面子はまるつぶれである。

 それ以降は威光が弱まり、メディアへの露出はめっきり減ってしまった。

「目上の者が入ってきたのに起立もしないか。あの愚か者の子供らしいな」

 総帥は言って、エイリを見下してきた。

「それを言うなら、綺家の人を学校によこした方が非常識じゃないのか。あたしはいいけど、レキさんに失礼だろ」

 エイリは反抗的に答えた。

 相手は伯父にあたる人物だ。偉そうにしていても、エイリにとってはただそれだけの人でしかない。

「……それはそうだ。綺の、もう下がってもいい」

 総帥は言って、同伴してくれた櫟を下がらせた。ここに綺家の者がいることで、多少は恥というものを感じる神経が働いたのだろう。

 お礼を言いそびれてしまった。話が終わるまで、櫟は本社にいてくれるだろうか。連絡先くらい聞いておけばよかった。

「それで、神社から円盤を見つけたらしいな。どこにある」

 櫟が出ていくなり、総帥は高圧的に聞いてきた。

 総帥とは初対面だが、こいつの弟にあたる父がこの家を気に入らなかった理由はすぐにわかった。きっとこの伯父は誰にでもこういう態度なのだろうし、こんな人ばかりが一族にはいるのだろう。

「なんであんなものを……?」

 だが今は、それよりも詩季祇家が歴史遺物を求める理由が気になってしまった。

 エイリが神社から発見したあの円盤。今は大学の研究室だ。なにか価値のあるものだったらしいので預けたのだ。

 しかし詩季祇家がコストをかけるのは実用研究だ。学術研究にはたまに投資するくらいで、自ら行うことはない。

 なのに、総帥にとってもあんな古代の円盤が大事らしい。なぜ、皆があの円盤に興味を示すのか。

 エイリが興味を持ったことに気づいたのか、総帥は説明をはじめた。

「サクヅキのことは聞いたことがあるか」

「多少は」

「あの円盤はその一部だ。未知の科学技術が書かれているかもしれん。グループの利益になる可能性がある」

 一見すると筋が通っていそうな説明だった。確かにサクヅキ、イクリプティカル・コードと名付けられた予言じみた文書の中には現代の最新科学に匹敵する知識が含まれている場合があったという。

 そんな曖昧でオカルトな理由で、どう納得すればいいのか。業績の不振のせいでついにおかしくなったのか。

「我が一族の中ではお前だけが綺の血を引いていて、しかも円盤はお前が発見した。所有する権利がある。それなりの値段で買い取ってやるから、持って来い」

 なおも高圧的に総帥は言った。人にものを頼む態度ではないが、傲慢をめいっぱい袋に詰め込んだようなこいつにとっては下手に出ているつもりなのかもしれない。

「……わからない。綺家に取られちゃ困るの?」

 エイリは、率直な疑問を口にした。

 綺家は何かを研究している。それは予言にある世界の破滅と関係あるという噂があるが、定かではない。

 空が割れる、とリネは表現していた。昔の予言なので誇張されているとすれば、それは大津波や大地震などの巨大災害の類なのかもしれない。

 この総帥がどこまでそれを信じているかわからないが、本当だった時は自分が助かるために円盤を求めているのではないか。

「独占しようっていうのか。残る人はどうするんだ」

 エイリは怒りを込めて言った。図星らしく、反論はされない。

 災害を利用してライバル企業を出し抜こうとでも思っているのだろうか。もしそうならひとでなしもいいところだ。

 円盤を信仰していることはまだ信じられないが、なんとなく魂胆はわかってきた。リネがあんなに不安がっている中、この権力者は自分のことだけ考えている。

 印象の通りの行動だ。会社の経営が傾いても自分の報酬を一円も減らすことなく、裕福な暮らしを続けているような人物である。

 経営の失敗も同じ構図である。こいつの外国かぶれにつきあわされた結果、独自の強みを捨てさせられたのだから。

「綺の研究は全員を救うと言いたいのか。私の計画はもっと根本的な解決を目指すものだ!」

 何かが逆鱗に触れたのか、総帥は怒鳴りながら言った。

「じゃあなんで綺家は、えら~い総帥サマに協力しれくれないんだ。一緒に立ち向かえばいいだろ」

 エイリは反論をぶつけた。

 もしリネの言うような大災害が起きるなら、他人の足をひっぱる計算などしている場合ではないはずだ。綺家の人たちは真剣に研究を行っている。協力の姿勢を見せればいいだけだ。

「子供が知ることではない。いいから、あの円盤を取り返してこい」

 言うだけ言って、総帥はエイリを部屋から追い出した。

 あの言い方でエイリが言うことをきくと思っているなら愚かにもほどがある。しかし、中学生の親戚に頭を下げるということは絶対したくないのだろう。

 応接室を出て歩いていると、エントランスで飲み物を買っている櫟がいた。

「うわあ!」

 櫟がボタンを押した瞬間、社内の自動販売機は大きな音を立ててたくさんの飲み物を排出した。購入時に抽選でおまけを排出するタイプのものらしい。

「大当たり~!」

 エイリは言って、缶の飲み物を出してテーブルに並べるのを手伝ってあげた。

「バイト先、他に考えた方がいいかも。紹介しようか?」

 たくさんの飲み物をどうしたものかと困る櫟の顔を見つつ、提案してみた。アルバイト先ならいっぱい知っている。

「そうもいかない。先代の総帥の願いだからね」

 櫟は言った。今の総帥ではなく、その前の総帥の世話になったことがあるそうだ。それはつまり、エイリにとっての祖父である。

 かつては詩季祇家もこんなではなかったらしい。代々続く経営者一族として利益の追求には余念がなかったそうだが、従業員を切り捨てたり会社の舵取りを他人に明け渡したりは考えられなかったという。

「受けた恩義は返さなければいけない。たとえ先代が亡くなっていても」

 剣道をやっているからなのか、櫟の発言はなんだか忠実な武士のようだった。

 先代の恩ならエイリに返してくれてもいいのにと思ったが、エイリはただの中学生だ。会社でもやっていれば彼女のことをスカウトしたに違いない。

 でも、エイリにはきっと経営の才能はない。運動がちょっとできる程度で、きっと大学にも行かないだろう。

「そうかな。きみは先代に似ている気がするが」

 櫟は言って微笑んだ。そう言われても、エイリはおじいちゃんのことをほとんど覚えていない。

 将来、エイリは何者になるのだろう。来年には高校生だ。こんな悩みしかないエイリにとって、大災害とそれへの対策など遠い世界の出来事でしかない。

 研究者の母の存在も遠い。心細かった。大人たちはみんな必死で、エイリに見向きもしない。

「リネ……」

 リネもそうなのかもしれない。今更、彼女の気持ちがわかった気がする。

 彼女のもとに行かなければ。世界の真相を突き止めるより、この不安の中で寄り添うことが、エイリがすべきただ一つのことなのだ。



 この先は、エイリが知ることがなかった出来事。

 本社の地下にある秘密研究室でのこと。体育館ほどあるその空間は、研究室というには荒削りに見えた。

 急造のコンクリート壁に囲われ、大型の機械が無理に設置されている。固定しているフレームも間に合わせだ。しかし規模が大きく、大金が注ぎ込まれたとわかる。

 詩季祇の複合企業体である帝臣グローバル、その中核にあるインペリアル工業の底力が感じられると櫟は思った。会社が傾いてなお、これほどのものを作れる財力がある。

 いや、欲の力というべきなのか。当代の総帥は、綺のエリクサー計画を嫌っている。

「今日もテストの続きです。座ってください」

「ああ、胡桃くるみ

 研究員の胡桃の指示に従い、櫟は大型の機材に取り付けられた座席に座った。

 巨大な装置に対し、座席はずいぶん小さく見えた。だが、この機械はある資質を持った人間のオペレーターを必要とする。

 生贄のようなものだ。奇妙なのは、その生贄の目の前に巨大な扉のようなものがあること。大きな機械がまるごと通り抜けることができそうだが、この扉はどこにもつながっていない形だけのものだ。

 綺の本家は櫟がこれに関与することを許可してくれたが、最後まで身を案じていた。

 漆黒なる朔の対には輝く日があり、それを読み解くサクヅキがこの世の救いとなる。それが綺家に伝わる伝承だ。

 この計画はそんな綺家のエリクサー計画と同じく破滅の超越を目指すものだが、全く原理が異なる。そして不完全である。エリクサーに比べれば安定せず、危険な方法だ。

 エリクサー。宇宙の破滅を乗り越え、精神と知恵を次世代につなぐ秘薬。だが、それは肉体と地位、財産を捨てさせることを意味している。

 総帥はそれが我慢ならなかったのだ。富豪の地位を捨てて一介の人間たちと肩を並べるなど、あのプライドの高い総帥に耐えられることではない。

 明治に解体された武士階級から商売に切り替えて成功した詩季祇ではあるが、貴い血を引く綺家への劣等感が根強いのかもしれない。だが、先代は立派な人だった。櫟が外国で誘拐された時に身を挺して助けてくれて、そのせいでずっと足が不自由だった。

 武家であった頃の血が濃かったのだろう。その先代の血は、孫にあたる詩季祇エイリには色濃く受け継がれていると感じた。

 気が強く、曲がったことをよしとしない。懐かしく感じた。当代とそりが合わないところまで似ていると思った。詩季祇が経営者として成功できたのはその信念ゆえのことであり、それを捨てた当代は結局大きく会社を傾かせた。

 足のせいで息子を余分に働かせたこと、先代は後悔していた。その息子、当代を代わりに見守ることが櫟の使命だと思うが、孫の代であるエイリやレンリの方が櫟は好きだ。

「では、シミュレーションを開始します」

 研究員が言うと、神経に何かがつながって櫟の視界は奪われた。

 真っ暗な闇だ。既に櫟の体内にあるエリクサー試薬は神経につながる情報素子のようなもので、それを利用する形でシステムが櫟の感覚を奪っている。

 技術力で劣る帝臣では、結局は忌み嫌うエリクサーの性能に頼ってこれを実現するしかない。皮肉であった。

『イズナ、起動。ゲート生成の準備開始。指定ステータス、Sモード』

 システム音声が聞こえる。真っ暗な中、巨大な扉に向かう感覚がある。

 これは現実ではなくシミュレーションだ。しかし、櫟の目の前にある模造の扉の感触だけは本物である。

 その扉に干渉すべく、櫟は手を伸ばす。

 幽子が揺らぐ。やがて離散し、そこには果てしない常闇の「穴」が生まれる。

 宇宙の穴だ。いずれこの宇宙が引き裂けて現れるという虚無。空間を超越し、宇宙の外へと繋がっているものだ。

 破滅より前に宇宙に穴をあけ、そこから肉体、物質のまま外に脱出する。そして、新しい宇宙が作られたら外から再び穴をあけて戻る。それが、帝臣のイズナ計画だ。

 櫟の魂を食らってそれを実現するこの装置は、次世代の宇宙に新たな帝国を築くための都市形成装置が搭載されている。次の宇宙で真っ先に支配者になるために。

『エラー。オペレーターの身体負荷が上昇』

 体が引き裂かれるような感覚がして、櫟は悶えた。

 素粒子の微細で激しい振動により、意識が揺さぶられる。システムが停止し、しだいに視界が戻ってくる。

「ぐっ……」

 椅子から落ち、櫟は目を見開いたまま倒れた。研究員が駆け寄ってくる足音が聞こえる。

 サクヅキの円盤があればもっと精度が上がったのかもしれないが、今の完成度では不安定。しかも、穴を開けるために櫟の命を奪う。

 この計画は失敗する。そんな気がしている。

 ゲートの生成は困難で、一回が限界だ。宇宙を脱出できたとして、その後は戻れない。都市生成の機能はよくできているが、それを持ち出せるかも怪しい。

 サクヅキの予言によれば、イズナが歴史に現れるのはかなり先のことだ。この世代での計画は失敗し、エリクサーが宇宙の知恵をつなぐだろう。

「レンリ……」

 朦朧とする意識の中、櫟は友の名を呼んだ。

 レンリは、家を出て会社を作りたいと言っていた。その会社に参加できればどれほどよかっただろうと思うが、宇宙の破滅は目前に迫っている。

 櫟はただ、この使命を全うして消えていく。もし運がよければ、体内にある試作品のエリクサーによって生き延びられるかもしれないが。



(「あの夏の日・4」へつづく)

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