2025.2.13
【こころ #96】精神障害の妹をもち、映画を作り、その先へ
三間 瞳さん
「人間て、こういう風に壊れていくんだって」
三間さんが15歳の時。笑顔が絶えなかった5歳下の妹が「心をなくした瞬間」を今でも鮮明に覚えている。妹は無表情から大暴れし、幻聴や幻覚を訴え、物を投げつけたり、高いところから飛び降りようとしたり、警察に保護されたり、、、『統合失調症』を発症した。
三間さんも両親も「目の前の現実に心が追い付かない」。
両親と妹の間に立つ姉という存在。それは、「年が近いことで(妹が)言わんとすることは何となくわかる通訳者」という存在でもあったはずだった。それなのに「守り切れなかった」。そんな罪悪感が三間さんの心を覆っていった。
同時に、「自分の感情を切り離さないと、目の前で起きていることが現実だと捉えきれなかった」。三間さんが目の前で経験していることを「客観的に見ている」別人格の三間さんが育っていった。
そうした心の状態を「隠しながら生きていることに気付かないままだった」
その後大学時代に留学したニューヨーク。三間さんは、強い不安や恐怖を繰り返すことを特徴とする『パニック障害』を発症し、カウンセリングを受ける。
振り返れば、当時、留学先で仲良くなった友人たちが期限を迎えて帰国していくことに「大切な人は離れていく」という寂寥感を感じていた。実は、それによって、妹が自分から遠くに行ってしまうという「原体験のスイッチが押され続けていた」のだ。
三間さんは、「妹の手を放してしまったことで、妹が死んでしまう」夢を定期的に見るようになり、そんな「無力な自分は生きている価値もない」と強く思うようになってしまう。

ずっと蓋をしてきた罪悪感が溢れだし、別人格として切り離してきた過去の経験や感情が本来の自分と「完全に一致した」。
本当の三間さんが、「本来の妹をなくしてしまったこと、何かできないか発達障害の勉強をしまくる母親、少し残念そうにも見える表情の父親。それらすべてが自分自身の体験だった」と認識したのだ。
妹さんの発症からもう6年が経っていた。「6年分の負の感情をロックして感じないように、心の中にせき止めていたものが、一気に決壊した」。
その後、カウンセリングを続けて回復し帰国するも、三間さんの中には「自分は無力という確信が鎖のように」残り続けた。
当時、日本にはまだカウンセリングの素地がなく、相談しても「ヤバい奴といった反応も、心を土足で踏みにじられ傷をえぐられる経験もした」。しかし、その後やっと信頼できるプログラムを見つけて、ご両親も一緒に家族ぐるみで受講し、「やっとメンタルブロックが外れて、すべてを受け入れられるようになれた」。
自分の中で受け入れられた一方で、昔から、「障害のある妹がいる」と周囲に言ったところで、「自分を見ている限りは、相手もどう声をかけていいかもわからないし、寄り添ってももらえない」ことに、寂しさを感じていた。ブログに書き綴ってみても、多くの目に留まるわけではない。
そして、三間さんの中に「前触れもなく、降りてきた」のが、映画制作。映像を通じて『きょうだい(※障害や病気のある子の兄弟姉妹のこと)』が置かれている状況を「的確に伝えたい」と思い立ったのだ。
「自分がやりたいと思っても動かないような話が、あの時ばかりは何かが動いた」と、三間さんがプロデューサーとして完成させたのが、映画『ふたり~あなたという光~』。自主制作映画だけが集められた映画祭でグランプリを獲得するなど、大きな反響を呼んだ。

映画がもたらしたものは、広く知ってもらうことだけではなかった。
映画を観た全く知らない方だけでなく、身近な人からも「実は私も『きょうだい』」と打ち明けられることが増えた。制作メンバーにも『きょうだい』が多く集まった。
みな、「(『きょうだい』という存在に)日が当たらない故に、なかなか外で話せない」と感じ、「親亡き後にどうすればいいか」など具体的な課題も抱えていた。
映画は、同じような人たちが実は身近にも多くいることも浮き彫りにした。
「マイノリティの苦しみを映像化していかないと、世間の人は(その苦しみを)理解できないと思う」と三間さんは話す。
例えば、草彅剛さんがトランスジェンダー役を演じた映画『ミッドナイトスワン』で日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を獲得した。そうしたことで、「苦しさや社会的な風当たりのエッセンスが伝わるだけで、(社会も)次は優しくしようとなる。それは映像の力」。
ただ、三間さんがプロデュースした映画『ふたり~あなたという光~』も、自主制作映画の観客数としては異例の数を記録した一方で、映画大手が入っていなければ、どうしても届く範囲は限られるという現実もあった。
それでも、「届けたい。次の道筋は見えていないけれど、やり方を変えてチャレンジしたい」。
三間さんは最後に、「ずっと他人の人生、それっぽい人生を生きてきた。でも、妹がどうだからと、仕方ないと、諦めている生き方は違う。」と話してくれた。そして、自分に限らず、「現実の辛さに倒されて自分を諦めるような社会は嫌だ」と力を込めた。
それは、三間さんが経験した『きょうだい』という立場に限らない。「親の価値観や社会の無理解や押し付けられる常識が足かせとなって、自分らしく生きられない人」が多くいやしないか。三間さんは、そんな人が「思うように自分の能力を社会に発揮して、自分の人生を生きる」ことを応援し続けていきたいと考えている。
もし、何か自分に同じようなものを感じる人、そんな人を応援したい人がいれば、三間さんの映画を観てみてほしい。

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