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俺は全てを【パリイ】する 〜逆勘違いの世界最強は冒険者になりたい〜  作者: 鍋敷
第三章 商業自治区編

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119 獣人の集落 2

「長老。村の統治を預かるお役目の一人である自分がこんなことを言っていいのかわかりませんが……まるで彼らは救世主です。部族の古い言い伝えにある『神獣イ・ゴル』と戦った英雄ザルバの一行のような……そんな神々しさすら感じずにはいられません」


 村に蔓延していた病から回復した若い獣人が、活気に溢れる村の広場を眺めながら、ポツリとそんな話をした。


「……まったくじゃ。まさかワシが生きているうちに、このような奇跡が起ころうとは」


 長老と呼ばれた真っ白な毛に覆われた老人も、若い獣人の話に深く頷きながら、村の広場で大鍋で料理を作っている様子を穏やかな目で見渡した。


 先ほどまで村の中は大騒ぎだった。


 もう助からないと思われていた病人たちが一斉に起き上がった上、見知らぬ旅人が村の中で急に良い匂いを漂わせる料理を作りはじめた。


 何事かと老人から幼い子供に至るまで、ほぼすべての集落の人々が広場に顔を出し、年に一度の村の大祭りのとき以上の活気が村中に溢れた。


 最初は普人種(ヒューム)の他所者が村の中で何をしているのかといぶかしむ村の者も多かったが、彼らが盗賊行為を働いた村の子供達を村まで送り届け、罪は不問とした上で、あろうことか村の皆が冒された病を全て治療したと聞き、皆が地に伏せるようにして頭を下げた。


 また、病気から回復して顔色の良くなった家族と再会できた子供達が、家族と一緒に旅の者の周りに集まり、一斉に赦しを乞うようにして頭を下げる、という騒動もあった。

 村の数人から彼らを責める声が上がったが、旅人達が子供達のした事は褒められることではないが、相応の罰は受けたし、それで自分達が不問にしたのだからそれで収めて欲しいと言うと、子供達に声を上げた者も素直に引き下がった。

 

 その後も、しばらく旅の者達の周囲には人だかりが絶えなかったが、村の長老が必死にその場を諌め、今は皆が揃って彼らが作る料理ができるのをじっと待ち、元気になった家族と幸せそうに語っている。


「本当に……こんな光景はひさしぶりじゃ」


 そんな穏やかな光景は、貧しくなる一方だったこの村の若い獣人達には初めて目にするものだった。

 長老と呼ばれた老人にとってもこんなに活気のある夜は久々だった。


 この村は畑で育てられる作物もなく、狩場にも恵まれない。

 その為、街への出稼ぎとわずかな採集物を売る以外の収入がない村には十分に食べるものがなく、いつも誰かが飢えていた。


 その上、稼ぎ手である身体の丈夫な若者も病で倒れ、体の細いものから死んでいく。村の人口も働き手も減る一方だった。

 村は日に日に貧しくなり、次第に日々の愉しみすら消えていく。


 そんな村が近いうち滅亡する未来は誰の目にも明らかであり、死を当然のこととして受け入れた皆の表情は昏く沈んでいった。

 ……だというのに。


 既に日は沈み、辺りは暗くなりかけているが火を囲んでいる村の皆の表情は明るい。

 皆、心から不測の来客を歓迎し、楽しんでいる様子だった。


「……自分もまたこうして、前のように動けるようになるとは思いませんでした。癒しの奇跡……【癒術】とはすごいものですね。自分にはあの小さな普人種(ヒューム)の女性も、神話の女神様のように思えて仕方がありません」


 老人もそれに頷いた。


「……まったくじゃ。それどころか、実際にこのような奇跡を見せてくれたのじゃから、ワシらにとっては神話の神々にも勝る存在じゃよ。この村には、あの方々を喜ばせるようなものは何もないが……せめて、あの人々を手厚くもてなさなければならん」

「ええ、そうですね」


 若い獣人とそんな話をしながら、老人は昨日までなら夢と思えるような村の光景を眺めては涙ぐみ、旅人の男から預かった革袋をぎゅっと大事そうに抱えた。


「そういえば、その袋にはいくら入っているのでしょうね」


 若い獣人の声に、老人はふと視線を袋に移した。


「……そうじゃな。もしかすると、見ず知らずの我々に渡すぐらいだし、この中にはそれほどの額は入っておらんかもしれんな」

「そうなのですか?」

「それはわからぬが……見るからに使い古しの袋であるし、土産物を買う金だという話であったのでな。だがあのお方は自らの損を顧みず、我々の子供達の為に役立ててくれ、と渡してくれたのじゃ。その心持ちがありがたいではないか。既にあの方々にはこの村では抱えきれないほどの恩を受け取っている……中身がいくらであろうと有り難く受け取り、少しも余さず村の為に役立てようぞ」


 若い獣人は気持ちを込めて静かに語る老人に、小さく頷いた。


「そうですね……一応、中身は確認しておきますか?」

「ああ、一応な。だが……少なくても、決して態度に表してはならんぞ」

「もちろん、そんな失礼なことはできませんよ」


 そう言いながら若い獣人は革袋の紐を解き、口を開けた。

 すると────


「……なっ……!?」


 若い獣人はすぐに驚いたような声をあげた。


「どうした? 態度に表すな、と言ったばかりではないか」

「そ、それが……長老」


 若い獣人はひきつった表情で長老の顔を見た。


「この袋……金貨が入っています」


 その言葉に、老人は飛び上がるほどに驚いた。


「な、なんだと……!? まさかその中身、小金貨が混ざっているのか!?」

「は、はい、小金貨もあるのですが……大金貨も」

「だ、大金貨じゃと!? まさか!?」


 老人は思わず若い獣人が口を広げている袋を覗き込んだ。


「ほ、本当じゃ……!」

「それも、ものすごい数です……こ、これは本当に、我々がもらっても良いものなのですか……?」

「あ、ああ、確かにあの客人から村の為に使ってくれ、と。じゃが、あのお客人、あ、ああ……な、なんというものを……!」


 老人は地面に崩れ落ちるようにして地に伏せ、広場に座る男の姿を眺め、目にいっぱいの涙を浮かべた。

 この貧しい集落を存続させようと必死に働いてきた老人にとって、若い獣人が言ったように、今や、あの一行がまるで神に遣わされた人々とすら思えた。


「あの、長老」


 しばらくの間、まるで本当に神でも崇めるような姿勢で広場にいる旅人たちを眺めていた老人だったが……後ろから若い獣人に声をかけられて、ふと我に返った。


「……なんじゃ? まだ、何かあるのか?」

「はい。袋の底の方に、見たことのない白い硬貨と……虹色に光る不思議な小さな金属の板があります。これは、いったいなんなのでしょうか?」

「……白い硬貨?」


 老人は土埃を払って起き上がると、若い獣人から白い硬貨を受け取り、まじまじとそれを眺めた。


「……はて。これは確かに見慣れぬ硬貨じゃな……白、というより、時折光の加減によってはキラキラと銀のようにも見える。白い、銀……? こ、これはまさか聖銀(ミスリル)か……!?」

聖銀(ミスリル)……!? ま、まさか!? ということは、これは『白金貨』ですか!?」

「し、信じられん!! おそらく本物じゃ……!!」

「じ、自分は本物を見るのは初めてです」

「わ、ワシだってこんなもの、手にするのは初めてじゃ……!」


 二人は手にした白く輝く硬貨をしばらく呆然として眺めていた。

 大金貨ですら現実味がない話なのに、袋の中にはその上の価値の白金貨まで入っている。

 これはいったいどういうことかと、老人と若い獣人はお互いに目を見合わせ、これが夢でないことを確かめるようにしばらく無言で見つめあった。


 そうしてしばらく放心した後、ふと、もう一つ正体のわからない金属片があることに思い至り、一緒にそちらに視線を移した。


「となると。この虹色に光るものはなんなのでしょう」

「そちらは、本当にわからんな……はて。虹色の金属とな? じゃが、その特徴は、どこかで耳にしたことがあるような……?」

「ご存知なのですか?」

「ううむ……朧げじゃが、ワシの遠い記憶のどこかに……はて? 虹色、とな。確か、そんな珍しい通貨もあったような。それも、国を動かすレベルの大規模商会や各国の王侯貴族が取引に用いるような……小さくて、四角くて、不思議な光沢で輝く虹色の…………に…………にじ?」


 老人は何事かをつぶやくと、突然、虹色に輝く硬貨を手に持ったまま死んだように動かなくなった。


「長老? どうなされたのですか?」


 若い獣人は急変した老人の様子に戸惑い、声をかけるが反応がない。


「……長老?」

「────に」

「に?」


「にャばァあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ────ッ!!?」


 突然、老人の悲鳴ともとれる大音量の絶叫が辺りに響き渡った。


「ちょ、長老? ど、どうなされたのです?」

「こっ、この虹色の硬貨!! その袋に何枚入っておる!? と、当然、これ一枚だけじゃろうなっ!?」

「いえ。あと4枚ほど」

「ごッ、5枚いいいいいいいィ……!!?」


 先ほどまで喜びで血色の良かった老人の顔は一気に青ざめ、あとほんの少しの刺激でその場に倒れそうなほどに血の気を失った。


「長老、これは一体……? そんなに価値があるものなのですか?」

「か、価値があるも何も……これは『王金貨』じゃあ……!!」

「……王金貨?」


 今にも卒倒しそうなほど興奮する老人の横で、若い獣人は聞き慣れぬ言葉に戸惑い、虹色に輝く金属片をまじまじと見つめた。


「これは王金貨というのですか? 自分は聞いたこともありませんが」

「とっ、とにかく! それをすぐ袋に戻せッ! この袋はすぐにあの客人に返さねばならんッ!! 今すぐにッ!」

「で、ですが……これは我々がもらったものでは? 長老自ら大切に扱おうと」

「そ、それはそうなんじゃが……! い、幾ら何でもこんな大金、何もせずに受け取れるかっ!!!」

「……そ、そこまで価値があるモノなのですか……『王金貨』とは?」


 先ほどからずっと緊迫した様子の老人に、やっと事の重大性がわかってきた様子で若い獣人もうろたえた。

 

「か、価値があるなんてモノじゃない!! この袋の中身の為に、サレンツァの有力大規模武装商隊同士が複数、衝突してもおかしくはないわいッ!! 小国なら、これ一枚の為に戦争したってお釣りが来るぐらいのシロモノじゃあ!」

「……そ、そんなに、ですか……?」


 鬼気迫る長老の様子に気圧され、若い獣人は少し後ずさった。

 ただ事ではない事態が起きているのだと理解し、袋を抱える老人が次にどのような言葉を発するかとじっと見守っていたのだが。


 少し、老人の様子がおかしい。

 

「……あの、長老……?」


「……じゃが、ううむ……しかし、な。あのお客人はこれを……村の為に役立ててくれ、と……もし、これがあればこの集落は相当に発展し……ううむ。や、やっぱり……これは……もらっても……? ……じゃ、じゃが……!」


「どうなされたのですか、長老……長老!」


 何かに取り憑かれたように袋の中をじっと見つめ、何かをブツブツとつぶやいていた老人だったが、背後から若い獣人の声がすると、驚いたように振り返った。


「……はっ!? ワシは今、何を……?」

「……その袋を、元の持ち主に返しに行くのでは?」

「そ、そうじゃったな。 くっ……早く、返さねば!! まだ、ワシの理性が働いているうちにィッ!!」

「では、自分が走って返してきましょうか?」

「い、いや、待て。ワシがちゃんと自分で返してくるッ!! お前はワシの背後を警戒しろ!! 良いか、この袋の中身のことは絶対に誰かに悟られるでないぞッ!!」

「……わ、わかりました」


 そうして老人は若い獣人と共に、広場で皆と一緒に座って料理を待っている、元の袋の持ち主のところに全速力で駆けて行った。

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― 新着の感想 ―
渡したお金が厄をよんでノールが後悔するような話にしてもらいたかった。
[良い点] 長老に知る人ぞ知る金貨の王【王金貨】の知識があって良かった
[良い点] ノール君本番前に何やらかしてるのw 金貨取り扱いに注意しろギルドの人に念押しされたというのにホントに山ごもりしすぎて世間知らずやね誰か本格的に世間の知識教えるシーンないと勘違い通り越して…
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