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俺は全てを【パリイ】する 〜逆勘違いの世界最強は冒険者になりたい〜  作者: 鍋敷
第二章 神聖教国編

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103 賢者の盃 4

 あのアスティラがずっと『嘆きの迷宮』の奥深くに囚われていた。


 リンネブルグ王女からその知らせと、本人からの手紙を受け取った【魔聖】オーケンはすぐさま全ての予定を放り出し、単身でクレイス王国を飛び出した。

 そして休む事なく【浮遊】で丸一昼夜飛び続け、ミスラの首都上空に辿り着いたのは夜も更けた頃だった。


 オーケンが夜の空から街を見下ろすと、教皇の住処となっているという大きな館は先日の大事件にも関わらずほぼ無傷のまま保たれており、その最上階に位置する寝室の前のバルコニーは()教皇アスティラの「そのうち旧い友人が訪ねてくるかもしれないから」との言葉により、開け放たれたままとなっていた。


 そこに老魔術師オーケンが降り立つと、すぐさま、寝室のベッドの中から一人夜空を眺めていたアスティラと目が合った。


 その空からやってきた人物が自分が待っていた友人だと即座に理解したアスティラは、飛び起きるようにして部屋を出たが、その懐かしい顔を目にしたはずの彼女は一瞬困惑し────しかし、すぐに笑顔を見せた。


「久しぶりですね、オーケン……【浮遊】、ほんとに上手くなったんですね」


 彼ら二人にとっては二百数十年ぶりとなる再会だった。以前とまるで変わらぬ姿のアスティラを目にし、開口一番、オーケンから出たのは謝罪の言葉だった。


「……今まで、気付いてやれなくて本当にすまんかったのう、アスティラ。わしがもっと早くに気がついていれば。もっと、早くに助けてやれたかもしれんのに。本当に、すまなかった」


 アスティラは悲壮な表情を見せた久々に会う友人に、笑顔で応えた。


「いいんですよ、オーケン。私、貴方がちゃんと私のことを覚えていてくれたことだけで嬉しいんです。もう随分、時間が経ったんでしょう? それに()がいなければ、私たちだけでは全員が生きて帰るのは難しかったでしょう。時機があったんだと思います」

「ホッホウ……ノールのことか? ……ふん、別にあやつなんかいなくても、わし一人でだって、頑張ればなんとかできたわい」


 オーケンはそう言って少し不満げに自慢の髭を撫でた。

 見た目はすっかり変わりつつも、中身があまり変わっていないらしい友人の言葉にアスティラは笑った。


「ふふ、そう意地を張るものでもないですよ。素直にノールに感謝するのがいいと思います……それにしても、歳をとりましたね、オーケン? 最初、あまりにも髭モジャすぎて、全然貴方だとはわかりませんでした」

「ふん、エルフなんてズルい血統のお前さんと一緒にするない! もう、あれから軽く二百年以上経っておるんじゃぞ? 歳をとらない方がおかしいわい……わしだって、これでも年齢の割にはお肌の艶がいいですねって、よく言われるんじゃぞ? 元からそういう血を持ってるお前さんと比べること自体、おかしいんじゃい!」


 オーケンはかつてのように勢いよく喋りながら、アスティラに笑いかけた。

 どこまでも変わらぬ友人の姿にアスティラは安堵し、再び笑みを漏らした。


「というか人間の身で、そこまで生きてるのがまずおかしいのでは?」

「……お主、相変わらず言うのう……? まあ、色々あったんじゃよ。色々と、な」

「……そのようですね」


 オーケンはローブの下から小さな包みを取り出し、アスティラの寝室の机の上に置いた。

 アスティラは机の上に置かれた包みから覗いた『赤い石』を見ながら、会ったら彼に尋ねようと思っていたことを口にした。


「ロイは……あれから、どうなったのですか」


 その質問にオーケンの表情は暗く沈んだ。


「……あやつとワシはお前さんがいなくなった後、別れた。そして、もしかしたら聞いておるかもしれんが……あやつは偽物(・・)のお前さんを憎んだまま、死んだ。その成れの果てがその石じゃ。それ(・・)が、ロイじゃよ」


 アスティラはオーケンの言葉を聞き、傍に置かれた赤く透き通る石を見つめながら悲しみに顔を歪ませた。


「……そう、ですか。私のせいで」

「何を言っておる。お前さんのせいなんかじゃないわい。わしのせいじゃ。わしがつまらん意地を張らずにあやつと一緒にいてやれば、あんな風には、絶対……させなかったわい」

「……自分を責めないでくださいね、オーケン」

「ふん……そりゃあ、お互い様じゃろ」


 二人は石を見つめながらしばらくの間、沈黙した。


「……じゃが、あやつもこの『赤い石』が、あの偽物を倒すのに大活躍したわけじゃし、きっと清々しとるじゃろ。それも同族の子供の手に渡ってな。ザマア見ろ、じゃ」

「ええ、すごかったですよ。ロロくん……でしたよね? あの子、なんだかすごい竜を、ぐわ〜って召喚してて……もう、すごかったです」

「じゃろう? あやつはなかなか見所があるやつじゃからのう……もちろん、その活躍の陰にはワシの研鑽に研鑽を極めた、スゴい技術があったからじゃがのう?」

「ええ、わかってますよ。リーンさんも貴方にはすごく、感謝してましたから」

「ホッ……? お嬢が? ……まあ、そりゃそうじゃろ。当然、そうじゃろうな」


 少し照れつつも満足げに髭を撫でるオーケンに、アスティラはまた尋ねた。


「あの子……ロロは、もしかしてロイの血を引いているのでしょうか」

「……それは、わしにもわからん。同族じゃし、どこかで血は繋がってるかもしれんが……それを調べるには、あまりに長い時間が経ち過ぎた。もはや誰にもわからんよ」

「……そう、ですね」


 アスティラは一瞬、表情に寂しさを滲ませたが、またすぐに明るい表情をオーケンに向けた。


「でも。どことなく表情が(ロイ)そっくりでした。絶対、繋がりはある気がします」

「……そうじゃな。ロロとは何度となく接してはおるが。なんとなく気性も似ておるわい。内気で人見知りで警戒心が強いくせに、やたら他人に甘いところなんか、そっくりかもしれんのう」

「じゃあいずれ、貴方と喧嘩する日もくるかもしれませんね、オーケン?」

「ふん……それができればもう一人前じゃが、それにはまだまだ時間がかかりそうじゃのう? あれは少々、気性が優しすぎるからのう」

「ふふ……やっぱり似てますね」


 二人は静かに笑った。


「……そうそう。そういえば私、いつの間にかお母さん(・・・・)になってたんですよ。聞きました?」

「ああ、それは聞いておるな。わしはまあ、ずっと前から皇子がいる事は知っておったが」

「本当に夢みたいです。あんなに立派で賢くて、かっこいい息子ができるなんて」

「……お前さん、本当にミスラの『教皇』をやっとるのか? 言っておくが、今のミスラの教皇と言ったら、世界的に見てもとんでもない地位の人物なのじゃぞ? お前さんが政治に関わるなぞ、想像もできんが……大丈夫なのかのう?」

「ふふ、それは大丈夫です。そのあたりの難しいことは全部ティレンスくんがやってくれますから! それに周りのみなさんも本当によくしてくれるんですよ。街に出て行っても、みんな私が挨拶をしたり、手を握るだけでもすごく喜んでくれて。なんだか本当に偉い人になったような気分です」

「それは……随分とサービスがいいのう。というか、偉くなったような気分、じゃなくて。たぶんお前さん、もう、どえらい権力を手にしてるんじゃないかのう……?」

「ふふ……そうですね。確かに今の私は何も働かなくてもいい所に住めて、美味しいものを好きなように食べられるんです。どえらい権力を手にしちゃってると思います」

「……うん……? いやいや、全然、そういうレベルの話じゃないんじゃが……まあ、いい。積もる話もあるが、折角ここに三人のうち、二人が生きて集まったんじゃ。あやつにも、ちゃんと挨拶してやらねばな」

「……挨拶?」


 オーケンはロイの形見となった『赤い石』を見ながら、ローブの下からもう一つの小さな袋を取り出した。

 アスティラはその袋から出てきたものを見て目を丸くした。

 

「それ、まだとってあったのですか」


 それはかつてオーケンが怪しい露店で仕入れてきた三つの銀の盃だった。

 多少古ぼけてはいるが、それはアスティラの記憶にあるままの、冒険者パーティ『賢者の盃』の三人で使っていた懐かしい盃に違いなかった。


「ホッホウ……正直、なんども売っ払おうかとも思ったんじゃがな? 何しろ、世界を震撼させた魔王と、ミスラの教皇と、このワシ、魔聖オーケンの冒険者パーティ時代の歴史的証拠品じゃぞ? それがしれたら、コレには一体、いくらの値がつくとおもう? じゃが、わしらがかつて命を預けあった仲間じゃなんて、今や誰も信じる者はおらんしのう。それだと全然、値がつかん。だから……仕方なく、とっておいたんじゃよ」


 何処か言い訳めいたオーケンの説明に、アスティラは懐かしさを憶え微笑んだ。


「そうですか。では、値がついたら売るのですか?」

「……そんなの、当然じゃろう? お前さんとわしが本物だと言ったら、どんだけの価値がつくと思っておる? そうやって値段を吊り上げるだけ吊り上げて、そこらの肥えた貴族や商人どもをとっ捕まえて、大金を巻き上げてやるわい! ……どうせ偽物でも分からんじゃろうし」


 なんとなく予想していた通りのオーケンの答えに、アスティラは笑った。


「ふふ、では……本物は今しばらくは貴方の手元にありそうですね?」

「もちろん、永遠にとはいかんがな。少なくともコレはわしが死ぬまでの間は、しっかりもっとるつもりじゃわい」

「ええ。そうしてくださいね」


 オーケンは笑いながら三つの杯を並べて持ち込んだ酒を注ぎ、アスティラはそのままその一つを手にしようとして、一瞬、その手を止めた。


「あ……オーケンはこの後のやり方、まだ覚えていますか?」

「なんじゃい、老人扱いしおって。当然じゃろう。そもそも、あれはわしが考案者じゃぞ?」

「……そう、でしたね」


 目の前の友人は、どこも変わっていなかった。

 でも、改めて盃を手にしたオーケンの姿を目にすると、アスティラは知らぬ間に過ぎ去ってしまった長い年月を感じずにはいられず、胸に込み上げる得体の知れない寂しさに顔が曇った。


 その様子を見たオーケンはアスティラに優しく笑いながら声を掛けた。


「……安心せい。どんなに時が経とうとも、わしがお主らの事を忘れるなんて、あり得んよ。わしがこの二百年以上もの間、こんな日が来ることを何度、夢に見たと思っておる」

「……そう、ですね……うん。そうですよね」


 オーケンの言葉に、アスティラは少し俯いた顔を上に向け、改めて老いたオーケンの顔を見た。


「……あ、じゃあ、もしかして、寂しくて何度か泣きました? 泣きましたよね?」

「そんなもん、言わせようとするんじゃないわい!」

「ふふ……愚問でしたね」


 アスティラの表情は明るさを取り戻し、小さな盃を手に取った。


「では、始めますか。でもあれ、ちょっと長いんですよね。人前だと恥ずかしい台詞ばっかりだし」

「……今更、文句を言うんじゃないわい!」


 そうして二人は一つづつ盃を掲げると、記憶の中にある口上を淀みなく同時に述べた。


『『我ら三つの盃は、この数奇なる出会いに先ず感謝する』』


 それは皆で生還した時に酒場で口にする、彼らの決まりごとだった。

 他の誰も知らない三人(・・)だけの習わし。


『『そして我らが再びここに生還した幸運に感謝し────我らが乗り越えた苦難と、素晴らしき冒険の数々をここに讃える』』


 それは三人が再会することを前提として作られた言葉だった。

 そのうちの一人が欠けて行うのは初めてのことだった。だが、二人にとっては、今、それを行うのが当然と感じられた。


 それが彼らが再会した時の唯一の約束事だったから。

 誰かが欠けたときのことなど、何も決めていなかった。


 だから二人は、そこにまだ三人(・・)が揃っているかのように続けた。

 もちろん彼ら二人の他、そこには誰もいない。

 この口上を述べるときにかつていたはずのもう一人(・・・・)は、もう世界のどこにもいなくなってしまった。

 彼らはそれをよく知っている。


 知っているからこそ、三つ目の盃が少し揺れた様に見え。

 赤い石が彼らの声に応えるように光ったように見え。

 三つ目の盃の前に、彼らがよく知る人物が佇むように見え。


 それらの全てが自らの願望が作り出した只の幻想なのだと二人は知りつつ────


 でも、願わくば、この瞬間だけ。

 かつて冒険を共にした仲間と、例え幻でも、一瞬でもこの盃を交わすことができればどんなによいか。

 それが叶わぬ夢と知りつつも二人は二つの盃を掲げ、失った仲間の名を揃って口にした。


『『この『賢者の盃』を、我らが友、ロイに捧げる』』


 静かに、二つの盃の触れ合う音がする。

 三つ目の盃は赤い石の前に置かれたままだった。

 彼らと共に三つ目の盃を掲げる者はもう、どこにもいない。

 それは二人も知っていた。


 そうして、オーケンとアスティラの願いはそのまま夜の静寂に呑み込まれ────それから、何も起こらなかった。


 二人は何も言わずに掲げた盃を下ろして俯いた。


 だが────


「……あ」


 アスティラがふと、顔を上げた。


「……どうした?」

「今、なんか……誰かに、笑われたような気がします」

「何?」


 オーケンは思わず、辺りを見回した。

 だが、そこにはもちろん、誰もいなかった。


「いやいや、そんなわけあるかい。誰もおらんわい」

「……いえ。たしかに……さっき、ロイがオーケンの方を見て笑ってた気がします」


 アスティラはそう言って静かに笑った。


「ふん……お前さんじゃろ、笑われたのは」

「……いいえ。それは違います……ほら、今、オーケンを指差して爆笑してますよ。あのヒゲモジャお化けはなんだって」

「のう……ヒゲのお化けはちょっと言いすぎじゃないかのう?」

「……ふふ。じゃあ、剃ってみます? それならロイにもわかるかもしれません」

「ホッホウ、それは流石に勘弁して貰えんかのう……もしや、本気で言っとる? 頼むから、やめて? な?」

「それで、そこに居るロイが納得すればいいですけどね……」

「……いや、だから誰もおらんってば」


 そこには、オーケンとアスティラの二人しかいなかった。

 そこには他に誰も居るはずなどなかった。


 ────でも、その時、ほんの一瞬だけ。


 二人の目には、あまりに変わらない二人の様子を見て、静かに苦笑するロイの姿が見えたような気がした。

これにて二章完結となります。

お読みいただきありがとうございました。

次話からは三章『商業自治区編』に移ります。


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― 新着の感想 ―
[良い点] オーケンとアスティラの再会 賢者の盃のお話に凄い泣いてしまいました こんな友が居ることが羨ましい アスティラって凄く魅力的で好きになりました
[一言] 誰も悪者はいなかったーってのがちょっとずるい気もしますが、 皆ハッピーなのは楽しいですね ラストバトルは冗長だったかな。 見せ場を全員に作ろうとしたせいかしら。 (飛ばし読みになっちゃいまし…
[良い点] すごく泣けたよ、オーケンとアスティラとロイに乾杯!!!
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