【ソウル=時吉達也】韓国で19日に1審判決が言い渡される尹錫悦(ユン・ソンニョル)前大統領による非常戒厳の裁判で、法廷の生中継を巡り賛否が分かれている。原則と異なる形で特別法で中継を決めた現政権与党側は国民の「知る権利」を強調するが、インターネット上では悪意のある編集を加えた動画が拡散。法廷の運営にも悪影響を及ぼしている。
2024年12月に「非常戒厳」を宣布し内乱首謀罪に問われた尹氏の1審判決公判は19日午後、ソウル中央地裁で開かれる。特別検察官は死刑を求刑。裁判所は11日、放送局による生中継を認めると明らかにした。
4カ月で100件超中継
「ふてぶてしい尹錫悦の一言!」「涙目の裁判官」。ネット上には、裁判中継を切り取り、過激なタイトルを付けたショート動画が大量に投稿されている。再生回数が数十万~数百万を記録する動画も少なくない。
韓国は法廷の生中継を原則として禁止。過去には中継が認められることもあったが、親友による国政介入事件で弾劾された朴槿恵(パク・クネ)元大統領の判決公判など一部に限られてきた。
これに対し、革新系与党「共に民主党」が主導し内乱事件の捜査について定めた内乱特検法は、特別な事情のある場合を除いて裁判を中継するとした。過去10年では年間の中継件数が平均5件程度だったが、内乱事件の公判中継は直近4カ月で100件を超えた。
与党側は「二度と内乱事件が起きないよう記録に残す」と意義を強調するが、裁判中継の影響は過激なショート動画にとどまらない。司法機関幹部は「捜査に積極的に協力する証人でも、中継(で顔が広まること)への恐怖から証言を忌避する恐れがある」と反発する。弁護側が被告人に不利な判断をしそうな裁判官への非難を誘う、ネット世論を意識した戦術も取られている。
SNS投稿禁止の国も
インターネットの普及に伴い、刑事裁判の中継は各国で課題となっている。日本では開廷中の撮影や中継を一切認めていないが、法務省の有識者検討会は2022(令和4)年、オンラインでの裁判傍聴について「憲法が規定する裁判の公開の趣旨をより一層促進することができる」と指摘した。
英国では極めて限定的に生中継を認めた上で、映像を編集・再配布した場合は「法廷侮辱罪」で処罰すると規定。オーストラリアも中継映像のSNSへの投稿などを禁じている。
韓国主要紙の中央日報は、中継を初公判や判決期日などに限定した上で、動画の編集も禁じるべきだと主張する現職判事の発言を伝えた。一方、ソウル大法学研究所の李範俊(イ・ボムジュン)研究員は「国民が主要事件を監視できる利点の方が大きい」と強調。韓国は「知る権利」実現の途上にあり「規制を重視する段階にはない」との見方を示している。