「イスラエル人はお断り」タイのリゾートで入店拒否、その深刻な理由 「排外主義じゃない。ただ、うんざりしたんだ」…外国人観光客に支えられる島で何が起きている?

イスラエル人入店拒否の紙を掲げるポップさん=2025年12月、タイ・パンガン島(共同)

 タイ南部にあるリゾート、パンガン島。昨年12月、人気のタイ料理店「パンパン」の店先に、こんな紙が掲示されていた。
 「イスラエル人お断り」
 経営者に取材すると、こう答えた。
 「排外主義ではない。ただ、心底うんざりしたんだ」
 島民に話を聞いて回ると、一様ではないものの、同じような意見も少なくない。島は観光が主要産業で、満月の夜に大音量のダンスミュージックを流してビーチで踊り明かす「フルムーン・パーティー」でも有名だ。年間100万人もの外国人が船で訪れる。外国人との生活には慣れているはずの島民たちが、なぜこんな態度を取るようになったのか。(共同通信バンコク支局=伊藤元輝)

タイ・パンガン島のビーチで開かれた人気のフルムーン・パーティー=2025年12月(共同)

 ▽グーグルマップの評価が急落
 料理店経営者のポップさん(53)が問題視したのは、店にやってくるイスラエル人たちの「敬意を欠く行為」だったという。
 具体的にどんな不愉快なことがあったのかと聞いてみた。するとポップさんの話が止まらなくなった。少人数で大きなテーブルを占拠された、ナンプラー抜きなど特別な注文をしたのに「おいしくない」という理由で代金支払いを拒否された、客の行列を無視して入店してきた、断りもなくキッチンに入って衛生状態を確認された…。
 しかし、「イスラエル人入店拒否」の掲示がインターネット上で広まると、グーグルマップ上ではそれまで千件程度だった店のレビューが一気に5千件超に増えた。驚いたのは店の評価で、5点満点中「4・8」という高評価だったのが、急落して「2・3」に。
 ポップさんは、イスラエル人による抗議が原因とみている。
 その後、近所で事業をしている知り合いのイスラエル人男性が訪ねてきた。ポップさんに会うと同胞の行為を謝罪。その上でこう要望した。
  「排外主義と受け止められる。入店拒否の掲示はやめてくれないか」

ポップさんの店に掲示された「No Israel」=2025年12月、タイ・パンガン島(共同)

▽きっかけは「ガザ」
 ポップさんと同じような感覚の人は、どれほどいるのだろうか。疑問に思い、島を歩いて島民に話を聞いて回った。
 すると、トラック型乗合タクシー「ロットゥー」の運転手、果物店の店主、ダイビングツアーのインストラクターら「観光客と接する人たち」から、ポップさんに共感する声が多く聞かれた。生活マナーや騒音などを巡り、イスラエル人との摩擦が島民の間に広がっているようだ。

 もともと、パンガン島の人口は1万人程度。ところが、約2年前からイスラエル人の流入が急加速した。きっかけは2023年。パレスチナ自治区ガザのイスラム組織ハマスによるイスラエル奇襲だ。その後、イスラエルがガザに侵攻すると、戦争が続く中で精神的に疲弊したという人々が押し寄せ、移住先として人気になった。
 イスラエル紙ハーレツによると、移住者は推定千人。人口の1割程度まで増えた。島西部にコミュニティーを形成し、ユダヤ教の礼拝施設もできた。

ビーチ近くのバーが立ち並ぶ一角を歩く人々=2025年12月、タイ・パンガン島(共同)

 ▽「名義を貸してほしい」
 問題の一因は、この移住者たちが観光や不動産のビジネスに乗り出したことにあるようだ。タイ人民泊経営者のラーニーさん(47)はこう明かした。
 「ジムや喫茶店などで突然イスラエル人に声をかけられ、『名義を貸してほしい』と依頼された。しかも何度もある」
 どういうことか。
 タイでは、外国人が会社を設立したり不動産登記をしたりする際、タイ人の連名登録が求められるなど複雑な規制がある。しかし、連名登録してくれるビジネスパートナーを見つけることは簡単ではない。そこで無関係のタイ人に金銭を支払い、名義を借りるイスラエル人が相次いだのだ。
 ラーニーさんが島民たちの声を代弁する。「手当たり次第に声をかけるので島民は戸惑い、怒った」
 イスラエル人が提示する名義貸しの対価は5千バーツ(約2万5千円)ほどが多く、低所得の島民や、島民ではないタイ人も応じている実態がある。
 名義貸しを仲介しているのは、島にある法律事務所との情報を得て、3軒の事務所を訪ねた。いずれも丁寧に応対されたが、こちらが記者と分かると態度を一変させ、出ていくように促された。
 ラーニーさんたち島民は、こうした行為に反対する署名活動に取り組み、地元警察や行政に取り締まりを訴えた。しかし、何度要請してもなかなか動かなかったという。
 その後、タイの主要メディアが相次いで問題を報じ、全国的に知られるようになった昨年11月、ついに警察が本格捜査を開始した。
 イスラエル紙ハーレツによると、過去2年間で島の不動産取引の約8割にイスラエル人が関わり、約700に上る事業が捜査対象との情報がある。島には摘発を受けた後、建設されずに放置されたホテルもあった。

タイ・パンガン島で建設が止められたホテル=2025年12月(共同)

 ▽イスラエル人側の言い分
 ところで、移住者であるイスラエルの人たちは、この問題をどう考えているのだろう。島の西部にある「シャバト・ハウス」を訪ねた。ユダヤ教徒が礼拝に訪れたり、イスラエル料理を食したりする宗教施設だ。島にイスラエル人が増えた約2年前に運営を開始。毎週金曜日の安息日にはイスラエル人が集結する。多くの島民から「怖い」と嫌悪する声を聞いていた。
 訪れると、施設長が匿名を条件に短時間、取材に応じた。
 「ここはオープンな場所だ。敵対的な人でなければ、見学してもらって構わない」
 ちょうどタイ南部で大規模な洪水が発生していた時期で、支援物資を送る慈善事業の準備が進んでいた。「タイの人が仏教を信仰するように、イスラエル人がユダヤ教を信仰しているだけなのです」。施設長はこう理解を求めた。
 島の中央部で宿泊とヨガ体験を組み合わせた複合施設を運営するイスラエル人男性も取材に応じた。オープンしたのは約15年前で、妻はタイ人という。2023年のハマスによる奇襲後に移住してきたイスラエル人たちの気持ちを代弁した。
 「精神的に疲弊し、トラウマを抱えている」
 その上で、タイ人との摩擦についてはこう反論した。
 「他の外国人でも迷惑行為をする人はいる。イスラエル人だけを責めるのはおかしい」。ガザでの戦闘を通じ、各国で反イスラエル感情が高まっており、イスラエル人は何か注意されたり文句を言われたりすることに「神経質になっている」とも訴えた。

ユダヤ教礼拝施設に設置されたヘブライ語でマナー向上を促す看板=2025年12月、タイ・パンガン島(共同)

 ▽島では誤解やデマも
 タイのメディアではこの問題についての報道が相次ぎ、加えてインターネット上では「侵略だ」などという反発も相次いだ。ただ現地で取材していると、島民側に一部デマや誤情報も広がっていることも分かってきた。
 たとえば、島の中央付近の、山あいの斜面に新しいおしゃれなビラが並ぶエリア。この場所は、島民からこう非難されていた。
 「イスラエル人が山を切り崩して集住し始めた地区だ」
 ところが、この話はデマのようだった。取材に応じたのはオーナーのタイ人女性。取材の趣旨を聞くと「ここはイスラエル人の移住先ではなく、ビラ形式のホテルです」。
 女性はさらに説明を続ける。
 「もちろん、宿泊者にはイスラエル人が多い。だけど、ここに泊まる人のマナーは良いし、私たちもビジネスが成功してウィンウィンの関係だ」

タイ・パンガン島で取材に応じる乗り合いタクシー運転手のコムサンさん=2025年12月(共同)

 ▽「共存は可能だと思っている」
 改めて、ユダヤ人が礼拝に集まる「シャバト・ハウス」の周辺を訪れると、乗り合いタクシー・ロットゥの運転手コムサンさん(43)が客待ちをしていた。訪れるイスラエル人たちの列をぼんやりと眺めていたので「あなたもイスラエル人を嫌っているのか?」と話しかけると、複雑な心情を吐露した。
 「嫌悪感を持つタイ人の気持ちは十分に分かる。約17年間も島の観光業に携わっているから、たしかに他人をあまり気にしない態度が失礼だと感じることはあった」
 コムサンさんはそう前置きした上で続ける。
 「ただ、自分は失礼だと思った時になるべく、こちらが何を不快に思うか伝えるようにしてきた。ポジティブな反応を返してくれるイスラエル人も結構いる。実際のところ、反イスラエルの感情が島で高まっていることはだいぶ知られてきて、訪れるイスラエル人の数は減ってきている。だから自分の収入にも影響が出ている。お互いが歩み寄って努力すれば、共存は可能だと思っていたけど、簡単にはいかなかった」

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伊藤元輝 大学卒業後、短期間の証券会社勤務を経て、2011年に共同通信。大阪社会部、神戸支局などを経て23年末からバンコク支局記者。著書にタイで性別適合手術をあっせんする人々を描いたルポタージュ「性転師―「性転換ビジネス」に従事する日本人たち」(柏書房)。

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