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一番星のアドボカシー

一番星のアドボカシー - 春風の小説 - pixiv
一番星のアドボカシー - 春風の小説 - pixiv
9,651文字
ナツキ・スバルの人生上映会
一番星のアドボカシー
一ヶ月近くも更新空けてしまってすみません!!!!!
大学関連で忙しくしていました!!
決してエタっていたわけではないです!!!
1712415,134
2026年2月13日 21:02

『――無血開城、だと?』

『僕と村長くんとの話し合いは平行線を辿っていてね! 僕はぜひ、旦那くんの語った『無血開城』という話を聞いてみたい! それが事実なら、夢みたいじゃないか!』
『フロップさん……』
『――。いいだろう、聞かせてみるがいい。貴様の案とやらでうまくこの商人を騙し、抜け道の所在さえ聞き出せればしめたものだ』
『ええ!? 旦那くん!? まさか君は……』
『違う違う違う! 口裏合わせてない! てめぇ、自分の案が通りそうにないからって、俺まで道連れにしようとしてんじゃねぇよ!』

​───────​───────​──────

「頑張ってください、スバルくん」

 レムは軽く微笑み、瞳を嬉しそうに細めた。
 細やかに揺れる髪の先や、肩のわずかな動きが、彼女の喜びを静かに伝える。

「──どうするのよ? ベティーには想像ができないかしら」

 ベアトリスは首を軽く傾げ、目線を少し左右に動かしながら言葉を紡いでいた。

「大丈夫ですよ、スバルくんらしい解決をしてくれます」

​───────​───────​──────

『俺の案は抜け道も、血を流す必要もない。ただし、フロップさんには力を貸してもらうことになる』
『だが旦那くん、僕が非力で少々口が回るだけの行商人なのは君も知っている通りのはずだよ?』
『ああ、もちろん。でも、フロップさんには商人ってだけじゃなく、生まれ持って恵まれた才能があるんだ。――顔がいい』
『──へ? 顔?』
『そうカ、確かにナ』
『――! 姉上、何か気付かれたのですカ?』
『いいヤ、顔がいいというスバルの話に賛同しただけダ』
『姉上……』
『論より証拠だ。――フロップさん、物は試しに付き合ってくれ』
『付き合う? それは構わないが、いったい何に……』
『髪を染めたり、体の模様を描いてるってことは化粧はするだろ? その道具、ちょっと俺に貸してみちゃくれないか?』

​───────​───────​──────

「お化粧……? どういうことなの?」

 エミリアが、不思議そうに瞳を丸くする。
 薄暗い空気の中、わずかに照らされる光が彼女の髪を淡く反射し、肩の輪郭を柔らかく際立たせる。

 そして、後方にいるアベルへ振り向き、

「ねえアベル、どういうことか分かる?」

「────」

 アベルは頭を抱えたまま、険しい顔で固まっていた。
 座席の背もたれに沈む彼の影が、静かな空間の沈黙を一層重く感じさせる。

「きゃあっ!? アベル!? どうしたの? 頭が痛いの?」

「────はぁ……」

 アベルは、この後映し出される光景を思い、胃を痛めていた。

​───────​───────​──────

『――これが無血開城の鍵、俺の打てる最高の策だ! 美は、作れるんだ』
『ふざけてるんですか?』
『え!?』

『──狙いは、ズィクル・オスマンか』
『とびきりの『女好き』って聞いたぜ。帝国兵の間じゃ有名みたいだった』

​───────​───────​──────

「──なる、ほど……?」

 ユリウスが顎に手を当て、視線を宙に泳がせる。
 座席に深く腰を沈めたまま、わずかに上体を傾け、何度か瞬きを繰り返したあと、首をひねった。
 理解しようと頭の中で言葉を組み立てたものの、うまく形にならなかったのか、そのまま困惑したような顔で固まる。

「いや、狙いはわかったんだけど……」

 フェリスも同様に、肘掛に置いた手の指を軽く動かしながら、視線をスクリーンの方へ向ける。
 口元を引き結ぶでもなく、かといって緩めるでもない、中途半端な表情のまま、わずかに肩をすくめた。

「──思いついてもやらないでしょ……」

 そう呟きながら、フェリスは小さく息を吐き、背もたれに体重を預ける。

​───────​───────​──────

『無害な美女なら近付ける。──つまり、フローラなら確実だ』
『だ、旦那くん? さっきから僕をフローラと熱い期待を込めて呼んでいるんだが、僕は何がどうなっているんだろうか? わけがわからなくて怖いんだが!』
『安心してくれ、フローラ。もちろん、一人でやらせるような真似はしない。俺もおんなじように戦うつもりだ』
『それはいくら何でも無茶ダ、スバル! お前の目つきにも愛嬌はあル。だガ、生まれ持ったものハ……』
『おいおい、よしてくれよ、ミゼルダさん。あんた、俺の話を聞いてなかったのか?』
『なんだト?』
『――美は、作れるんだよ』
『お前には負けタ。……見せてみるがいイ、お前の可能性ヲ』
『ああ、見ててくれ』
『こレ、何の話してんだかわかんねーんだガ』

​───────​───────​──────

「──侮蔑と落胆を隠すのに苦労するわ」

 ラムが、そう短く言葉を切る。
 視線をわずかに伏せ、指先で前髪を払うようにしてから、ゆっくりと息を吐いた。
 肩が小さく上下し、そのまま顔を上げると、呆れたような表情を隠そうともせずに向ける。

「──大将が突飛なことを言い出ッしやがるのは今に始まったことじゃねェからなァ……」

 ガーフィールは座ったまま腕を組み、背もたれに身体を預ける。

​───────​───────​──────

『その娘の反応が試金石として適切かはともかく、俺はこれを悪ふざけとは思っていない。ようやく、論ずるに値する案を出してきたところだ』
『じゃあ、お前も認めるんだな。フローラの美貌を』
『――。認めるのは、俺にはなかった貴様の着想だ。斜めに外れた、な。ナツキ・スバル、一つ聞くが……貴様の化粧、通ずるのは商人だけか?』
『言ったはずだぜ。仮に作戦を決行するなら、俺も同じ立場に立つってな!』
『たわけが。誰が貴様になど期待するか。鏡で自分の顔を見てからほざくがいい』
『言い方!』
『商人だけでは手に余る。――なれば、俺が続こう』
『あ、アベルがだト!?』

​───────​───────​──────

「確かに、女装というのはいい手かもしれないね」

 ラインハルトは背筋を伸ばしたまま、穏やかに頷く。
 座席の肘掛に置いていた手を軽く持ち上げ、指先を揃えるようにして言葉を添えた。

「えっ、ラインハルトそっち側にゃの!?」

 フェリスは思わず身を乗り出し、勢いよく振り返る。
 尻尾のように揺れる視線と一緒に、肩が大きく跳ね、座席がきしむ音が短く響いた。

 スバルの作戦にひとり好意的なラインハルト。
 それを目にして、フェリスは口を半開きにしたまま、一瞬言葉を失う。

「もちろんだよ。敵地でそんな作戦を取れるなんて、スバルはすごいね」

 ラインハルトはそう言って、今度はわずかに身を前へ傾ける。
 膝の上で組んでいた手をほどき、自然な所作で視線をスクリーンへ向けた。

「まぁ、凄いけど……」

 フェリスは視線を逸らし、頬を掻くように指を動かす。
 背もたれに体を預け直し、短く息を吐いた。

 純粋にすごいと思っていると言うより、フェリスには呆れの方が強いのだが。

​───────​───────​──────

『私も、ご一緒させてください。きっと役に立ってみせます』
『レム……悪いが、それは無理だ』
『――っ! また、私を不必要に危険から遠ざけようと……』
『お前が心配なのは事実だよ。でも、お前の参加を却下するのは、純粋に作戦の成功率が下がるからだ。……お前は、都市の帝国兵たちに顔を見られてる。陣地で捕まってたのもそうだけど、都市から逃げるときもそうだ。同じ理由で、ミディアムさんの力も借りれない。派手にやりすぎちまった』
『でも……でも、顔を見られたという条件なら、あなたも同じじゃないですか!』
『ああ、だけど違うんだ。だって、次にグァラルの正門を潜るのは俺じゃなく、ナツミ・シュバルツだから』

​───────​───────​──────

「スバル様……」

 フレデリカは名を呼び、背筋を正したまま視線を落とす。
 次の瞬間、肩から力が抜けるようにして、はぁ、と溜息をついた。
 指先がメイド服の端をつまみ、軽く整えるように動く。

「その理屈は、わたくしとしても理解しかねますわ」

 そう言いながら、フレデリカはゆっくりと顔を上げる。
 困惑を隠しきれないまま、わずかに首を傾け、前方へ視線を送った。

 そんな風に言うフレデリカのすぐ近くで、ロズワールが肩を震わせて笑う。
 片手で口元を押さえながらも、抑えきれないのか、背もたれに寄りかかるようにして身体を揺らしていた。

「──旦那様? 何を笑っていらっしゃいますの?」

 フレデリカはその動きに気づき、すっと視線を横へ移す。
 眉を寄せたまま、ロズワールの方へ身体ごと向き直った。

「──いや? なんでもないとも……」

 そう答える声も震えており、ロズワールは言葉の合間に息を整えようとしている。
 指で頬を押さえながらも、肩の揺れは止まらず、爆笑しているのがわかる。

「まさか、敵地でもするとは……」

 その呟きとともに、ロズワールはわずかに顔を伏せ、再び肩を揺らした。

​───────​───────​──────

『とにかく、レムを連れていけない理由は説明した通りだ。ただ、タリッタさんとクーナの二人も、危険な作戦になるから納得してから……』
『いヤ、面白イ。私が許可すル。二人も連れていケ』

『異論がないのなら、早々に準備に取り掛かるぞ。城郭都市の臆病者が、帝都に背を叩かれる前に決着をつけねばならん』
『……おう、わかった。みんなもそれでいいなら。レムも、呑み込んでくれるか?』
『――。どうせ、聞く気はないんでしょう。ですが、どうにかしてほしいと、そうあなたにお願いしたのは私です』
『レム?』
『その私が、口を挟めるはずないじゃありませんか。……成功させてください』

​───────​───────​──────

「まあ悪ふざけでもなんでも、結果が出るんなら万々歳やん? 頑張ってなあナツキくん」

 アナスタシアは座席にゆったりと腰を預け、スクリーンを見上げたまま口元に手を添える。肩を小さく揺らしながら、面白いものでも眺めるように、楽しげに笑みを零す。

「──ナツキさんには女装癖でもあるんでしょうかね……」

 オットーは浅く息を吐く。
 肩を落としたまま視線を下げ、言葉の終わりと同時に小さく首を振った。

「まあええやん。ナツキくんの女装うちも気になるし」

 アナスタシアはそう言って、肘掛に置いていた手を軽く上げる。
 視線は変わらずスクリーンに向けたまま、口角を上げ、どこか期待を含んだように再び肩を揺らした。

​───────​───────​──────

『──これが、わたくし』
『──見事ダ』
『お褒めに与り、光栄ですわ、ミゼルダさん』
『――っ、まさカ、声まデ? いったイ、いったイ、どこまデ……!』
『やると決めた以上、全力を尽くすのが務めというもの。わたくしが手を抜かないことで守られる命がある。だとしたら、わたくしのすべきことは一つ』
『おオ……!』
『――ナツミ・シュバルツ、再臨ですわ』

​───────​───────​──────

 スクリーンいっぱいに、着飾ったスバル──否、ナツミの姿が映し出される。
 即席のものであろうに、その姿は見紛うほどに美しく、過程を知っていようと脳内で結びつけるのが困難な程だ。
 ただ、それを見た面々は、ほとんどが困惑するか呆れるかであったのだが──

「──すごい! すごいですねバッスー!」

 空気を読むという言葉を真正面から叩き割るような不羈奔放を絵に書いた性格の男──セシルス・セグムントだけは、それに感嘆の意を示していた。

「美しい! もうずっと女装していた方がいいんじゃないかと思うほどに!」

「うるさいですね、静かにしてください」

 席は至近距離ではないというのに、セシルスの声は本当によく通る。

「──スバルく……ナツミ嬢がお美しいということには同意しますけど」

​───────​───────​──────

『――揃っているようだな』
『微調整は任せましたけれど……嫌味なぐらい、お上手ですのね』
『粉飾の手際を称賛されて嬉しいものか。とはいえ、貴様の技能には目を見張った。完成形も化けるものだな。想像していたよりも見れるではないか』
『くっ、勝者の余裕……!』

『手間暇の、手間暇のかけ方が違いますのよ……神の贔屓……!』

『無事を祈っていてくださいまし。あなたのために、わたくし、励んでまいりますわ』
『――。――――。――――――――。――――――――――。はい』
『祈るのに時間がかかりましたわね!?』

​───────​───────​──────

「嗚呼、ずっと見ていたいです……」

 レムは両手を胸元で重ね、わずかに前のめりになる。頬に淡く色が差し、視線を逸らすことなくスクリーンを見つめたまま、小さく身を揺らした。

「──えっ!? ナツミってスバルだったの!?」

 エミリアは思わず背筋を伸ばし、座席から身を起こすようにして瞳を見開く。両手が膝の上で止まり、驚いたまま視線をスクリーンと周囲とを行き来させた。

 そして、

「──旦那様、いつまで笑っていますの?」

 フレデリカは隣を一瞥し、きっちりと姿勢を保ったまま声をかける。視線だけを向け、静かに問いかけた。

「──いーぃや?」

 ロズワールは口元を押さえ、顔を伏せ気味に答える。肩が小刻みに震え、息を整えようとしても、すぐに抑えきれなくなる。

 やはり、ロズワールは笑いを堪えるのに苦労していた。

​───────​───────​──────

『さぁさ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい! これよりお見せいたしまするは、はるか東の大瀑布、大水の彼方より、時を超え、世界を跨いで受け継がれし歌と舞! 披露いたしますは、本日より都市へ参りました旅の一座でございます!』

『──いかがでしたか? 少しは皆様の無聊、慰められれば幸いですわ』

​───────​───────​──────

「スバルくん──素晴らしいです。レムのためだけに歌って欲しい……」

 スバルの歌声にレムがそううっとりと囁きながら頬を染める。
 スバルの素の歌声も綺麗で好きだが、ナツミとしての歌声も麗しい。

「この時の私が、その魅力に気づいていないのが疎まれますね……全くもったいないことを」

 だが、この時のレムに対してもスバルは変わらず優しかった。
 それはつまり、レムがどうなってもスバルは変わらないでいてくれるということの裏返しでもあり、レムの繊細な乙女心はその事実に歓喜せずにはいられなかった。

​───────​───────​──────

『――無駄話とは、ずいぶんと余裕のあることよな』
『ビアンカ、あなたこそ少しは休んだらどうですの? 今さらですけれど、わたくし、あなたが寝ているところを見たことがありませんわ』
『ええ、何を言い出すんだい、ナツミ嬢。そんないくら何でも……あれ? あれれ? 言われてみると、僕もビアンカ嬢が寝ているところを見た覚えが?』
『疲れませんの? その生き方』
『――。それを貴様が言うのか?』

​───────​───────​──────

「アベル、寝れてないの? それってすごーく眠いわよね?」

 エミリアが、形のいい眉を斜めに下げ、心配そうにアベルの方へと顔を向ける。
 エミリアはぐっすり眠りたい方だから、アベルのようなことは出来そうにない。
 しようとしたら、スバルが言葉巧みに止めに来ると思うけれど。

「──然程でもない」

「そうなの? でも、きちんと寝た方がいいと思うわ。パックが言ってたの。睡眠を疎かにすると、ほかの全部もダメになっちゃうって」

「気に留めておく」

「うん、ありがとう」

 アベルが素直に聞いてくれたことに、エミリアは笑顔で返す。
 スバルがいたなら、絵画のようだと形容したであろう笑顔で。

​───────​───────​──────

『旅の一座がいるのはここか。開けろ。都市庁舎の使いだ』
『あ、ちょっ、ちょっと待ってくださいまし!』
『はっ、笑わせるな、待つかよ。こっちは兵隊様だぞ』
『──っ』
『そうびくつくな、取って喰いやしねえよ。なるほど、綺麗どころが揃ってやがる。参謀官の話を聞いたときは、ずいぶんと大げさな話をしやがると思ったもんだが……』
『あっ……』
『お前、反抗的でいい目してるな。目つきが悪いのもいい。オレ好みだ。大した歌と踊りらしいが、お前は何が得意だ? 今夜、寝所に呼んでやろうか』
『お、お誘いはとても光栄ですわ。わたくしも、強い殿方は好きですし』

​───────​───────​──────

「──随分と粗暴なことをするのよ。監視塔のあれを思い出すから嫌かしら」

 ベアトリスが可愛らしい顔を嫌そうに顰めてそう吐き捨てる。
 最も、強さだけで言うなら天と地という表現すら生ぬるいが。

「レムもそう思って……どうかしたのよ?」

「スバルくん、そんな簡単に男の誘いに乗ってはいけません……! 男はみんな狼なんですよ」

「──スバルも男かしら」

「そういう好みの人だったらどうするんですか! レムはスバルくんの体をあんな男に明け渡すつもりはありません」

「お前は本当にスバルが絡むと様子がおかしくなるやつなのよ……」

 レムが不安そうに手を結ぶのを見て、ベアトリスは呆れたようにため息を着く。
 いくらスバルの女装が高クオリティだろうと、男だとわかったら食指は伸びないだろう。たぶん、おそらく。

​───────​───────​──────

『喜べ、旅芸人! てめえら揃って、都市庁舎の酒宴に呼んでやる。この街を仕切ってるズィクル・オスマン二将がそれをご所望だ』

『――こちらは無事、相手の懐へ潜り込むことに成功しましたけれど』

『ごめんなさい、お待たせしましたわ。少々、緊張してしまいまして』
『ん、ああ、心配はいらん。ちょうど話し相手がいたからな』
『話し相手?』
『――へえ、お前さんが夜の余興に呼ばれた踊り子か』
『ぁ、く……』
『うん? どうした。そんな驚いた顔して。おいおい、取って喰いやしないぞ』

​───────​───────​──────

「────」

 ラムが、整った顔に眉間の皺を刻み、何かを思案するように瞳を細める。
 頭の中で奔流する思考を決して外には出さず、桃色の唇を閉じたまま、椅子をトントンとリズミカルに叩く。
 そこからは僅かな感情の波が垣間見え、そして、

「──どうしようもないわね」

 と、怯えっぱなしのスバルに、僅かに瞳を伏せて言ったのだった。

​───────​───────​──────

『なんだ、何かしたのか、トッド』
『俺が? 馬鹿言え、何もできるわけないだろ。傷が重くて、ずっと寝たきりだったってのに。ようやく歩き回れるようになったとこなんだぞ』
『それもそうか。じゃあ、生理的に顔が嫌いだったってやつか』
『それもわりと傷付くんだがなぁ……』
『──ぁ』
『お前さん、本気でどうした? どこかで俺と……』
『も、申し訳ありません……ただ、その……』
『ただ?』
『少し、その、怖くて……』
『怖い? 俺が?』
『あなたも、です。こんなこと、言いたくはないのですが……少し強引に連れてこられたものですから』

​───────​───────​──────

 少し選択を違えば、死体がひとつ増やされる空気感。
 それをアナスタシアは敏感に感じ取り、眉を顰めて息を吐く。

「──なんとか、やり切れたんかな?」

「せやな……ほんま、帝国は怖いところやね」

 ハリベルの言葉にアナスタシアは頷き、

「ほんまほんま。もっと平和に行きたいもんやね」

​───────​───────​──────

『余興する女じゃねえか。あの中じゃ、お前が一番オレの好みだったからな。おい、お前は今夜呼ばれなかったら……』
『あー、はいはい、よせよせ。お前、そんな態度だから怖がらせてるじゃないか。初対面の娘さんにいきなり怖がられて俺が傷付いた。どうしてくれる』
『どうするもこうするもねえだろ。大体、なんでお前が割って入るんだよ。……まさか、お前、その女と……!』
『冗談はやめろよ、ジャマル。俺はお前の妹一筋だよ。知ってるだろ?』
『妹に一筋って言われると、兄貴的に複雑だな……』

『ところで、お前さん、なんて名前だ? 頼むよ、教えてくれ』
『――ナツミ・シュバルツと、そう申しますわ』
『だとさ、ジャマル。名前が聞けてよかったな』

​───────​───────​──────

「顔青いですよバッスー、平気です?」

「この空気で平気だと思うなら本気で変だと思いますけどね……」

 セシルスの言葉にオットーがそう返す。
 セシルスはそれを受け、

「うーん……まあ、バッスーならなんだかんだ言って自分を納得させそうですね! あとは、青髪のお嬢さんが慰めてあげれば立ち直れるのでは?」

 そうはならないと、レムはバツの悪そうな顔をする。
 それを知ってか知らずか、セシルスはニコニコと笑ったままだった。

​───────​───────​──────

『……ほ、んとうに?』
『だ、大丈夫か、お前、顔色がすごいぞ』
『ずいぶんと時間がかかったね、ナツミ嬢! ……大丈夫かい? 顔色が』
『そのくだりなら、もうやりましたから……ひとまず、嵐は、潜り抜けました。でも、問題は残ったままで。外との連絡をつけなくては、せっかく計画が成功しても……』
『あァ、それなら安心してくださイ、ナツミ。私とクーナの二人デ、姉上たちにわかるように合図は放っておきましタ』
『うえ?』
『それがそノ……ナツミが見張りを連れ出したあト、残りの見張りを惹きつけておくから仕事を済ませろト、そうビアンカに言われテ』
『な、な、な……』
『貴様に伝えて不自然に動かれるより、天然の囮として使ったまでだ。幸い、適度に仕事を果たしたと見える。褒めて遣わす』
『うるさいですわよ! こっちが、こっちがどんな怖い目に……!』
『お、落ち着くんだ、ナツミ嬢! ほら、可愛い顔が台無しだよ!』
『うるせぇですわ!』

『――計画が成功しなかったら、ひどいですわよ』

​───────​───────​──────

「怒ってたり怖がってたりしても声が可愛いままなのってすごいことよね。私だったら途中でわけわからなくなっちゃいそう……」

 エミリアが眉を下げて首を傾げる。
 エミリアは頭を回しながら何かをするのが苦手だ。
 直感的にやりたいことをやった方が上手くいくことが多かった。
 感覚型、というやつだ。

「あの人の場合、演じているというのも少し違うのかもしれません。人格を切り替えているというか……だから、ぐちゃぐちゃにならないのかもしれませんね」

 レムが、エミリアにそう話した。
 スバルは土壇場での嘘や演技が上手い方だが、それでも、ここまで別人になりきるのはもはや、人格が分裂していると言えるとも思う。

「あの人が自覚しているかどうかは、私にすら分かりませんが」

一番星のアドボカシー
一ヶ月近くも更新空けてしまってすみません!!!!!
大学関連で忙しくしていました!!
決してエタっていたわけではないです!!!
1712415,134
2026年2月13日 21:02
コメント
xxx
xxx
good
1日前
星音
星音
2月16日
アイル
アイル
2月15日

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