クックパッド衰退に関する考察
クックパッドの衰退が話題になっている。
有料会員数は、2018年の205万人から、2025年第3四半期で130.7万人へと、約36%減ったそうだ。随分な減りようではあるが、体感的には今やクックパッドは「誰も見ないサイト」という印象なので、むしろ36%しか減ってないのかという感すらある。
クックパッド衰退の原因については、色々なことが言われている。
まず、「クックパッドは素人のレシピばかりで質が低いから廃れた」という仮説。
たしかにクックパッドは、素人のゴミレシピばかりだ。しかしそれは昔からずっと同じ。したがって、衰退の原因の説明としては不十分だと思う。
次に、「クックパッドはレシピ主への利益の還元がない搾取のシステムだから見捨てられた」という仮説。
これも一理はある。しかし、クックパッド全盛期には、金銭的見返りがなくてもこぞって「搾取」されてくれる人が大勢いた。そのことを考えると、やはり衰退の原因としてはちょっと弱い。
そこで更に考えてみると、クックパッド衰退の原因は、ネット上のコミュニケーションのあり方の変化にあるのではないか。
ざっくり言って、インターネット空間は、SNS以前とSNS以後で、「対等なネット市民による双方向的交流空間」(これは多分に幻想の側面もあったのだが)から、「一握りのインフルエンサーによる一方的発信を大多数の情報消費者が享受する空間」へと変貌した。
ひょっとしたらSNS前後よりも、YouTube前後と言う方が的確なのかもしれないが、とにかく2010年代前半から半ばあたりにかけて大きく変わった。
今から20年ほど前、00年代半ばから後半にかけては、ブログ全盛期というのがあった。
今やブログは、著名人や有識者やライター等のインフルエンサーが一方的発信をするために運営するのが主だが、20年前の様子はまるで違った。
名もなければ特段の専門知識もない市井の人々がこぞってブログを開設し、特に書くべきこともないのに日記を公開しては、互いに訪問し合いコメントを付け合って交流を深めていた。今思うと気持ち悪いですね。
考えてみたら、今でもTwitterのプロフィールに、「徒然なるままに」とか「面白いこともなき世を面白く」とか書いて日記みたいな投稿をし、見知らぬアカウントにどんどんリプする中高年が大勢いる。
あれは現代に適応できていない00年代の残党なのだということに、私も今書いていて気付いた。ますます気持ち悪いですね。
なお、Twitterにおいて、中高年ほど他人に返信をしたがる傾向があることは、少なくとも私のTwitterアナリティクスのデータ上は明瞭に出ている。
画像は、ここ3ヶ月の私のツイッターアカウント()が得たインプレッション数と返信数。見てのとおり、45歳以上のユーザーはインプレッション数の約20%を占めるに過ぎないのに、返信数の45%を占めている。
いや本当に気持ち悪いですね。そういう私も45歳なんだけど。
話を一般論からクックパッドに戻そう。
勢いがあった頃のクックパッドも、まさに「そういうツール」であった。
つまり、優れたレシピ情報を取得するためのサイトではなく、素人同士がレシピを公開し合って交流するためのサイトだったのである。
クックパッドには、「つくれぽ」という機能がある。レシピを見て実作したユーザーが、作った料理を画像付きでフィードバックできるという機能だ。この双方向的な機能こそが、クックパッドらしさを象徴する中核的機能だったといえる。
つくれぽ欄を覗いてみると、「いつもありがとうございます!とーってもおいしくできました!ダンナも子どもも大喜びでした!」というような絶賛がずらっと並び、レシピの主もそれらに対し、律儀にテンション高めの返信をするというのが常だった。
もちろん、皆が皆レシピを投稿したり、つくれぽを書いてレシピ主とやり取りをしたりしていたわけではない。むしろ、いわゆる「ROM専」(死語かもしれない。Read Only Memberの略。投稿せずに見るだけのユーザーのこと。)の方が多数派だっただろう。しかし、ROM専のユーザーたちも、書き込む人たちが作り出す双方的なコミュニケーションの「場」を楽しんでいたのだと思う。
おそらくクックパッドの本質は、レシピの質や量ではなく、このようなコミュニケーションにこそあった。
そして、今ではそのようなコミュニケーションに価値を見出す人が少なくなったから、クックパッドは順当に廃れた。
それこそ昨今言われる「タイパ」の問題もあるだろう。素人同士でレシピを持ち寄るより、信頼できる専門家のレシピを一方的に受け取る方が、タイパは良いに決まっている。これは時代の流れであり、クックパッド側の努力でどうにかできる範疇を超えていたのではないか。
だからやっぱり、「素人のゴミレシピばかりだから廃れた」「金銭的見返りがない廃れた」というのは、クックパッド衰退の原因を言い当ててはいないのだ。
いや、素人のゴミレシピばかりだと廃れる時代になったから廃れたのだし、金銭的見返りがなくてもコミュニケーションの楽しさを対価として労力を提供してくれる人が減ったから廃れたわけなので、半分は合っているのだが。
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