【超短編・花シリーズ】ナンバンギセル ~依存する女~
銀座や広尾がコスモスの咲く野原だとしたら、
真新しい無機質な高層ビルが立ち並ぶこの街は、
まるで茫々たる薄野原だ。
突然の雨を避けようと立ち寄ったビルの陰で、
後ろから君に声をかけられたときは本当に驚いた。
透き通った白い肌に頬紅が映えるその顔は、
唇の右端を上げ、うつむき加減にボクを見上げている。
この世のモノとは思えぬほど美しい君のその視線は、
ぬめるような艶のある小柄なその肢体と共に、
匂うような色香で僕の心を鷲づかみにした。
僕の理性は、絶対にこの女はマヤカシだ、と叫ぶが、
その叫び声は、君の色香にかき消されるように遠のいた。
僕は君に手を引かれるまま、そのビルに吸い込まれた。
ベッドの中で君は僕に抱かれながら、耳元で囁く。
最初は僕の動きに合わせて漏れる喘ぎ声かと思ったが、
それはお経か呪文か、意味のある言葉のようだった。
そして、ふと動きを止めて冷静にその声を聞くと、
あきらかに同じ言葉を呪詛のように繰り返している。
そう、僕のことを呪い、罵る、根拠のない呪詛だった。
「そうか、君は『依存する女』だったんだ。」
僕が呟いたこの言葉を聞いた途端、君は姿を消した。
そうか、新手の美人局だったのかと悟った僕は、
すぐに二次元の幻想で作られたその部屋を飛び出した。
振り返ると、そこは茫漠たる薄野原が拡がっていた。
ススキの根元をよく見ると、そこには薄紅に染まった、
ナンバンギセルの花が、身を寄せ合うように咲いていた。
自らは葉緑素を持たず、
ススキに寄生し、ススキから養分をもらって生きる、
ススキに依存して生きるナンバンギセル。
哀れな君は、宿主のススキに洗脳された呪詛の言葉を、
ひたすらに僕に浴びせようとした、
ススキの傀儡だったのだ。
宿主のススキが枯れてしまえば、君も枯れてしまう。
美しい君を騙し、利用するだけのススキを僕は憎んだ。
しかし、こんな都会に薄野原が本当にあるはずがない。
すべては二次元の世界で誰かが仕組んだマヤカシなのだ。
僕はこの二次元の薄野原を剣で薙ぎ払い、火をつけた。
まるで、記紀に描かれた伝説のヤマトタケルのように。
二次元の世界で、薄野原は一面の火の海となった。
その時、燃え盛る薄野原の向こうに一匹の獣を見た。
全てのマヤカシの元は、
あの獣の呪詛によるものだったのだ。
その獣が狐か狸か山猫だったのか、僕には知る由もない。
後日、ボクが引き込まれたあのビルは、
ネット詐欺と美人局の疑いで警察の一斉摘発を受けた。
多くのマスコミのカメラの前を容疑者たちが連行される。
その中に君がいないことを、僕は心から祈っていた。
ナンバンギセル(別名:オモイグサ)
長い柄の先に付く花の形がキセルに似ていることによる。
思草(おもいぐさ)の古名で「万葉集」にも登場する。
1年生の寄生植物でススキ、ミョウガ、サトウキビ、の根によく寄生する。花期は夏~秋。
〈 了 〉
お読みいただき、ありがとうございます。
このお話はフィクションです。
なおナンバンギセルの説明は図鑑を元にしました。
作:birdfilm 増田達彦
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フォローして頂きありがとうございます こんなに大勢の方々が 居る場所なので 萎縮しております。 末席ながら 参加させて頂きます。
黒兎さん こちらこそ、ありがとうございます。 ボクはメンバーシップとかに入っていないので、 細々と、時間のある時に、 皆さんの記事を覗いたり、 週一ぐらいで自分の記事を上げたりしている、 noteでは、のんびり屋さんの方です。 安心してお立ち寄りくださいね。 これからも、 どうぞよろ…
birdfilmさん、こんばんは✨ ナンバンギセルという花の寄生という特性を、現代の都会を舞台にした物語に重ね合わせる発想が面白いですね。 特に印象に残ったのは、美しさと不穏さが同居する雰囲気です。 「匂うような色香」から始まり、徐々に明らかになる違和感、そして薄野原が燃える場面への展…
雨音さん こんばんは! 丁寧にお読みいただいて、 背景にある深いテーマまで感じ取っていただき、 作者冥利に尽きる思いです。 毎回、花によって文体や主人公が変わっていきますが、 一話読み切りなので、お気楽に読んでいただけたら幸いです。 素敵な感想を、ありがとうございました!<m(__)…
birdfilmさん、こんばんは✨ 何やら意味深なお話でした。 ナンバンギセル。 依存する花はいかにも色っぽくかわいい姿ですね。誘われてススキの原で迷子になりそうです。 このお話のナンバンギセル、依存させてもらうために宿主のために働くなんて、しかも自分の武器を最大限生かして尽くすなん…
miclalaさん お読みいただきありがとうございます! ボクの方はなかなか先へ進めずすみません<m(__)m>。 このススキの原、奈良県の曽爾高原(そにこうげん)といって、 ススキが本当にきれいな高原です。 今頃だと、まだ鈴虫や松虫がそこら中で鳴いている事でしょう。 ぜひ、一度、行ってみて…
こんばんは コメントの続きです。私は、バリバリと男性を引っ張るタイプではないと思う、たぶん😅 昨夜の母さんへ、の詩にコメントありがとうございます。死をテーマにしたような記事には、あまりコメントこないから嬉しかったです😊 まあ、普段からそんなにコメントこないけどね💦😆
1976blueさん リコメント、ありがとうございます。 書かれたものを読んだり、 小説「元カレ」(面白かったです!)とかから、 何となく、元気でシャキシャキの感じの素敵な女性かな、 なんて思いましたが、 でも「元カレ」でも、久美さん、引きずってますしね~。 でも、想いつづけるのと依存…