学校放送音楽番組をNHKアーカイブスで研究する【研究員の視点】#601
メディア研究部(番組・メディア史)宇治橋祐之
《大きな古時計》《今日の日はさようなら》《手のひらを太陽に》などの歌を子どもの頃に聞いて、今も歌える方は多いのではないでしょうか。でもいつどうやってこうした楽曲を知ったのかを覚えていますか?
子ども向けの楽曲がどのように広がっていったのか、そこにNHKの学校放送音楽番組はどのような役割を果たしてきたのか、佐藤慶治准教授(鹿児島国際大)と放送文化研究所の宇治橋がNHKアーカイブス学術利用(連携型)として共同研究を行いました。小学校中学年向けの学校放送音楽番組の楽曲や演出を分析した結果、これらの楽曲は、「『みんなのうた』などのNHK番組→学校放送音楽番組」という流れ、あるいは、「『みんなのうた』などのNHK番組→教科書→学校放送音楽番組」といった形で広がっていったのではないかということがみえてきました。
1.『ふえはうたう』『ゆかいなコンサート』について
NHKでは、ラジオの時代から『うたのかばん』(小学校低学年向け)や『ラジオ音楽教室』(小学校1~6年、中学校)などの、学校の授業での利用を主な目的とする音楽番組を放送してきました。テレビの時代になると、ラジオとあわせて『うたいましょう ききましょう』(小学校低学年向け)や『みんなの音楽』(小学校中学年向け)などの放送を始め、2025年現在放送の『おんがくブラボー』(小学校3~6年向け)にいたります。
今回の論稿では、対象を小学校中学年にしぼり、『ふえはうたう』(1974~96年度、小学校3年向け)と、『ゆかいなコンサート』(1986〜94 年度、小学校4年向け)を対象としました。小学校の音楽教育は「表現」と「鑑賞」という2つの柱がありますが、『ふえはうたう』はリコーダーの演奏を中心とした「表現」中心、『ゆかいなコンサート』は「鑑賞」が中心の番組になります。
そして1992 年度の学習指導要領の改訂をはさみ、NHKアーカイブスに当該年度のほとんどすべての回の番組が残っていた1987年度と1993 年度の、2つの番組シリーズ計79本の分析を行いました。
それぞれの番組はNHKアーカイブスで一部を視聴できます。
『ふえはうたう』
また、これらの音楽番組を含む「学校放送・高校講座」の歴史は、「NHKアーカイブス放送100年史」のウェブサイトに掲載されているので、あわせてご覧ください。
2.楽曲の分析から
今回の楽曲の分析で得られた知見をまとめてみます。『ふえはうたう』が、放送と近い時期の小学校音楽科教科書の掲載楽曲をかなりの割合で番組の中で使っていたのに対し、『ゆかいなコンサート』はそれ以前と比べて教科書掲載曲を使う割合が高い87年度でも、教科書掲載楽曲にとらわれない楽曲構成が行われていました。ただし、『ふえはうたう』について詳細にみていくと、「演奏家による演奏」の項目については、93 年度で放送24曲中17曲が教科書と関連性のない楽曲であるなど、教科書掲載楽曲から外れた部分がみられました。これは「独奏及び管弦楽を含めたいろいろな演奏形態による楽曲」を取り扱うという、学習指導要領における鑑賞分野の特性のためと考えられます。
また『ふえはうたう』では多くの子ども向けの歌が放送されていましたが、今回、楽曲一覧を作成することで、その多くがNHK教育番組で放送された楽曲、特に『みんなのうた』の楽曲が多く含まれていることがわかりました。『みんなのうた』では、特に子ども向けとして制作されたわけではない歌でも、番組内容にふさわしいものは取り入れていたことがすでに先行研究からわかっています。例えばビートルズの《オブラディ・オブラダ》は、『みんなのうた』で放送されたあと、小学校教科書掲載楽曲となり、その後に学校放送音楽番組での放送楽曲となっていました。こうした楽曲の流れをみることによって、当時の教育番組と学校放送番組そして小学校の音楽科との相互関係がみえてきました。
3. 演出の分析から
それぞれの番組の演出について、まず出演者の役割をみました。両番組とも出演者の役割は固定しており、数年単位で入れ替わっています。これはこの時代の学校放送番組全般で通常のことでした。『ふえはうたう』のレギュラー出演者は「先生」「お兄さん」「お姉さん」です。小学生に近い立場の「お兄さん」「お姉さん」が、プロの演奏家である「先生」と一緒に音楽を学んでいきます。一方『ゆかいなコンサート』は、作曲家や指揮者の司会と、歌手のパートナーの2名で楽曲を鑑賞する形式でした。
次に演出の違いをみました。『ふえはうたう』は、教室で見ている子どもたちと一緒にリコーダーの吹き方を学んでいこうという呼びかけが多く、番組の回を重ねるごとにお兄さんが演奏を通じて成長する姿も描かれたりしました。それに対して『ゆかいなコンサート』は鑑賞が中心ということもあり、音楽が好きな司会者がその楽しさを伝えることで、子どもたちの感受性を育てるというねらいがみられました。
こうした演出方法の違いと楽曲との関係をみると、『ふえはうたう』では子どもたちが実際に演奏することを目的としていたので、『みんなのうた』などに由来するものも多い教科書掲載楽曲を扱っていたのに対して、『ゆかいなコンサート』は伝統的なクラシック楽曲を多く扱ってきたという違いがあることもみえてきました。
4. NHKアーカイブス学術利用について
今回の論稿は「NHKアーカイブス学術利用(連携型)」による共同研究の成果です。NHKでは2010年からNHKが保存している番組を大学などの研究者に見ていただき、学術的に利用する方法を検討する「NHK番組アーカイブス学術利用トライアル」を行ってきました。2024年度からはこれまでの積み重ねを踏まえ、新たに「NHKアーカイブス学術利用」として、これまでのアーカイブス学術利用トライアルに準ずるものと、連携型の2つのタイプで研究を募集しています。詳しくは下記ウェブサイトで確認ください。
NHKアーカイブス学術利用
今回の研究では、対象とした79本の15分番組すべてを視聴し、番組各回の楽曲を確認しました。学校放送番組はテキストが発行されていますが、そこには放送されたすべての楽曲が掲載されているわけでなく、1つ1つ確認する必要があったためです。また、分析にあたっては音楽教育を専門とする佐藤慶治准教授(鹿児島国際大)と、学校放送番組制作の経験が長く、かつ文研で番組研究を行ってきた宇治橋が、具体的な番組の映像をもとに意見交換を行ってきたことで、学校放送音楽番組の位置づけをより深く定めることができたと考えています。
なお、NHKアーカイブス学術利用(連携型)の今後の可能性については、下記論稿にも掲載されています。
「NHKアーカイブス学術利用・連携型が 研究の可能性を開く」
今回のブログでとりあげた論稿の全文はNHK放送文化研究所のウェブサイトで公開しています。よろしければご覧ください。
「楽曲および演出分析からみる1980~90年代の小学校向け音楽番組~『ふえはうたう』(小学校3年生)、『ゆかいなコンサート』(小学校4年生)から~」
【あわせて読みたい】
教育テレビ60年 学校放送番組の変遷
|
【宇治橋祐之】 |