民間人を標的とした攻撃で負傷したミコラ・ベズディツニ。両脚には爆発物の破片などが残る(8日、キーウで)=関口寛人撮影

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 【キーウ=倉茂由美子】ウクライナを侵略するロシア軍は、ドローン(無人機)を使い、民間人を狙い撃ちする攻撃も行っている。

 ウクライナ南部ヘルソンでは、露軍が占領するドニプロ川東岸から操縦訓練の一環としてヘルソンへの攻撃を繰り返しているとされ、その非道な手法は「人間狩り」と呼ばれている。

 「ほんの一瞬反応が遅れていれば、即死していた」。ヘルソン出身の農業ミコラ・ベズディツニ(56)は2月上旬、避難先のキーウで、手足に残る傷を見ながら恐怖の瞬間を振り返った。

 昨年8月下旬の早朝、市場で車に乗り込もうとすると、叫び声が聞こえた。「ドローンだ!」。見上げると、自分に向かって物体が降ってくる。反射的に身を投げ出したと同時に、約1メートル横で爆発が起きた。

 脚は折れ、爆発物の破片を浴びて体は血だらけになっていた。露軍の無人機攻撃では通常、救護に来る人を狙うため、別の無人機がすぐに襲来するか、すでに上空で待ち構えている。「自分で行くしかない」。窓ガラスが吹き飛んだ車に乗り込み、激痛をこらえて病院まで自力で運転した。

 病院で同室だった8人は皆、露軍の無人機で襲われ負傷した住民だった。その病院も、入院中に攻撃に遭った。友人は路上を歩いているところを無人機で殺害された。長年営んできた川沿いの農地は最も危険な地域となり、近づくことすらできなくなった。

 今も100以上の小さな破片が体内に残り、痛む。「子供も女性も老人も、動く人間は全て殺している」。ベズディツニは怒りで声を震わせた。

温度感知し「在宅」見抜く

 ウクライナ南部ヘルソンで「人間狩り」と呼ばれる、ロシア軍が民間人を狙い撃ちするドローン(無人機)攻撃。英紙フィナンシャル・タイムズによると、露軍はドニプロ川東岸にドローン部隊を展開し、新型無人機を市民らの攻撃に使うことで操縦技術の訓練を積んでいる。ヘルソン州では、2024年の無人機攻撃による死傷者は883人、25年には1325人に上った。

 「無人機がどんどん進化し、狙った人を確実に追い回して殺す。ロシアは殺人を楽しんでいる」。ヘルソン郊外アントニウカで露軍の無人機に襲われたハリナ・フバル(62)は、性能を上げていく無人機の恐ろしさを身をもって体験した。

 24年12月、夫ミコラ(63)と歩いて自宅前にたどり着くと、帰りを待っていたかのように「ブーン」という羽音が聞こえ、屋根に止まっていた無人機が飛び立った。2人をめがけて爆発が起き、さらにもう1機も飛んできた。「とどめを刺そうとしている」。出血する脚を引きずりながら、2人は必死ではって家の中に隠れたという。

 この無人機は、当時露軍が使い始めた光ファイバー式のものだった。従来型のFPV(一人称視点)無人機は無線で操縦するが、妨害電波を出されると墜落する。操縦者と光ファイバーケーブルでつながる新型機はこの弱点を克服し、待ち伏せ攻撃などに利用されるようになった。

 従来の4倍の爆弾を搭載する無人機も現れ、殺傷能力が増していった。夜間には温度感知カメラが使われ、家の温度が高ければ在宅が見抜かれて攻撃を受けた。暖房の使用や料理も命がけになった。FPVの鮮明な画像は、ペットや家畜の餌の残量やしっぽの振り方まで見え、餌やりのタイミングを待ち伏せされて攻撃された住民もいた。

 明らかに軍人ではない高齢者や女性、子どもが次々に襲われ、脚や腕を失った。亡くなっても葬儀は行えず、遺体は庭先に埋めるしかない。フバル夫婦の自宅も焼失し、今は南部ミコライウの高齢者施設に身を寄せている。

 地元では今、住民10人ほどが残るだけだ。「無差別の虐殺行為で私の故郷を無人地帯にし、奪おうとしている」。ハリナは声を震わせた。

救急隊員も「格好の標的」に

 負傷した市民を救助しに行く救急隊員も、露軍にとっては格好の標的となる。ヘルソンの救命士ウォロディミル・ハマハ(34)は、駆けつけた先や搬送中に何度も無人機攻撃にさらされた。救急車を1日3台破壊され、同僚の医師を亡くしたこともある。

 救急車には、無線式の無人機を感知するセンサーが設置され、無線を傍受して、無人機が映す映像をモニターで見ることができた。標的として自身の救急車が映った時には恐怖で震えるが、多少の逃げる時間は稼げた。だが、このセンサーでは光ファイバー式の無人機は感知できない。できる対策は、窓を開けて無人機の音に耳を澄ませ、空に目をこらすことくらいだ。

 すでに同僚10人が辞めて街を去った。自身の妻や3歳の息子は、安全な地域に避難させたが、ハマハは故郷に残った。「住民がいる限り、自分はここで働く。生まれ育った街も人も、見捨てるわけにはいかない」(敬称略)