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距離感べったりなチアキと面倒くさそうに対応してるけど実はちょっと独占欲あるイロハの同居生活/Novel by キャきキャきのしゃベツ

距離感べったりなチアキと面倒くさそうに対応してるけど実はちょっと独占欲あるイロハの同居生活

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 あちこちに皺の寄った、薄いクリーム色の布地は差し込んでくる柔らかな光を透過させる。そのカーテンはいつか、私が手芸関係の部活に顔を出した時に初めて縫い上げたものだ。ミシンの使い方も知らず、何度も失敗した。折り返しの縫い目が歪み、裾に下げたボンボンは長さが揃っていない。薄暗い部屋では、僅かに漏れ出た光を光源として部屋の様相を映している。白い壁紙とフローリングの冷たい床、腰ほどの高さの3段ボックスと机、椅子、そして布団の盛り上がったベットが部屋の大まかな家具である。
 部屋に入り、まず最初に勢いよくカーテンを開く。部屋が白く明るくなり、暖かさが身体を包む。窓からはキラキラと光る煉瓦造りの通りが見渡せ、奥にはゲヘナ学園の所有する何番目かの校舎群が佇んでいた。机の上に置かれた電子時計の時刻は10時43分をぼやけて表示している。
 光が強くなったせいだろうか、ベットと布団の隙間で這うように中身が動いた。間抜けな呻き声が聴こえる。私は次にベットの方に近づいて、覆い被さっている布団を引き剥がした。身体を丸めた小さな女の子は機嫌を悪そうにして、瞼を瞑ったままで顔を顰める。肌色のキャミソールとショートパンツ、汗の湧いた肌は光って、頸筋の窪みに汗が溜まっている。外は雨上がりで蒸し暑かった。

「イロハちゃんもうすぐお昼だよ〜、起きて〜!」

 起きてますから、揺らさないでください。か細い声の彼女はそう言うと、丸まった状態で腕を伸ばして、剥がされた布団を探し始めた。布団は私が脇腹に抱えて持っていたのでベットの上には無く、やがて諦めて身体をベットの縁の方に回した。ベットのスプリングが沈んでマットが右に傾く。髪が揺れて、そこから見える顔の肌が死んだように白かったので、不安で頬を撫でた。
 頬はつんと張って、滑らかで、冷えていた。撫でた手が頬から離れていく瞬間、イロハが手首を強く掴んだかと思うと、口の方に強引に持っていって指先を噛んだ。二度、三度、乾いた歯が指の背と腹に軽く当たる。イロハは口を開けて手を離した。薄黄色の肌に赤い跡がくっきりと現れているが、目を細めた彼女は気づいていない。彼女が目を覚ます前に、噛まれた指を舐めた。

「お腹空きました」

「今日の当番イロハちゃんなんだけど?」

「チアキがやってくださいよ」

「やだ。イロハちゃんそうやって一回サボれたら次からもサボるじゃん」

「嫌な夢見たましたから、勘弁してくださいよ、歯が取れたんですよ、最初はぐらついた犬歯が取れて、次に右半分の上の歯がごっそり抜けました、だけど歯が抜けたはずなのに細い歯が残ってるんですよ、針みたいに細くて鋭い歯です、最悪の夢でしたよ、だから大目に見てください」

 もう一度嫌だと言った。眉を顰めたイロハは舌打ちをして、また寝返りを打った。寝返った先には海を見下ろす断崖の様に、さっぱり何もなかった。イロハは悲鳴をあげて床に落ちて、転がった。しばらく黙っていたが、僅かに身を捻ると、ふらつきながら立ち上がった。猫背になって顔色が黒くなっている、いつもより一回り小さくて、こちらを見上げる首の角度がいつもより急だ。細い目は普段の目の大きさの半分あたりまで開いていて、目つきが非常に悪かった。起き抜けの状態で機嫌を損ねていることがすぐに分かった。私は両手を使ってイロハの両頬を挟む、ぶすくれている顔が潰れて可愛くなった。イロハが潰れた声でボソボソと呟いていたが、私はよく聴かずにリビングまで引っ張った。
 リビングではテレビが流れている。先ほどまであまり集中せずに見ていた旅番組で、大通りを歩いていた芸人3人が今は閑静な住宅街を、雑談をしながら練り歩いている。イロハはおぼつかない足取りで洗面台の方へ向かった。私は視線をリビングテーブルに流して、その上に置いた作業中のパソコンとラムネ菓子のパッケージを見た。パッケージに大きく書かれた煽り文句を見て、どうにも悪態を吐きたくなった。個包装された大粒のラムネの一つを放り込んで口の中で転がしてやる。飴玉のように口に入れて溶けるわけでもなく、表面がざらざらしたタブレット状の大粒ラムネは転がしてても何か引っかかりを覚えて口の中を嫌でも意識させられる。作業に集中するために買ってきたというのに、これでは全く意味がない。
 
「で、なにが食べたいんですか?」
 
 リビングに扉が開く音と共に呆れ切ったイロハの声が聴こえた。水を掛けた顔が輝いていて、髪先に水滴が垂れている。窓から差し込む光を反射して顔の周りの輪郭だけが光の中に溶けていく。溶けた輪郭の線を目で追うと不思議な感覚になるが、舌に乗った硬いラムネの表面が不思議な感覚に包まれることを拒絶する。ゆっくり舐め溶すのが焦ったく思ったので歯を立てて大粒のラムネを噛み切って半分に割る。断面から泡立つ温い炭酸の刺激が舌の上で踊っている。
 首を僅かにイロハの方に向ける、ドアの前から移動してキッチンの方にいた。顔の輪郭は既にはっきりしていた。顔色は黒いが、目は完全に開いていた。私は少しだけ考えるフリをして、オムライスを注文する。イロハは溜息を吐いて、またですか、と呟いた。
 万魔殿の寮で相部屋になった彼女とは、ある約束をしていた。土曜日か日曜日かは決めていないが、ともかく休日の昼は2人で、どちらかの手作り料理を食べる、内容はそんな感じだ。彼女は一番初めにクリームシチューとほうれん草のおひたしを作ってくれと言った、変な組み合わせだと思ったが、意外にも相性が良かったのを覚えている。私が最初に作ってくれと頼んだのはオムライスだ、理由は忘れた、黄色と赤色が好きだったからな気がする。イロハは料理をしたことがなかった、ケチャップライスの作り方も知らなかった。
 チアキ、ご飯が真っ赤になりましたけど大丈夫なんですか?炊き立てのご飯とケチャップをサラダボウルの中で混ぜたイロハは、不安げにリビングに居た私に訊く、それでいいんだよと返した。ご飯とケチャップだけで、ただ赤いだけですよ。私がグリンピースを入れなかったのか確認すると、イロハは驚いた。そんなこと言わなかったじゃないですか、チアキ、あなたグリンピースのことなんて、一言も言ってませんよ。
 台所に行くと血の海に氷山が浮いているようなベタつくサラダボウルを持ったイロハが、こちらを睨んでいた。結局茹でたスパゲッティの上にそのケチャップライスと薄焼き卵の切ったのを散らして食べた。

「イロハちゃん寝ぼけてサラダボウルで混ぜないでよね〜」

「いつの話してるんですか、ちょっと性格悪いですよ」

「ありゃ、それはごめんね」

 邪魔にならない程度の強さで後ろから抱きついて、イロハの頭に顎を乗せる。包丁を使って人参を微塵に切っていたので抵抗してこない。ゴム製のまな板の近くに『オムレツその全て』という題名の本が開かれて置いている。真中のページにオムライスのレシピが載っていて、ケチャップライスにグリンピースと人参の微塵切り、とうもろこしの粒を混ぜ込むようにレシピに書いてある。他にも作り方は何種類か載っているのだが、182ページ、イロハはオムライスを作る時に決まってそのページを開く、レシピに赤い線を囲っている。181ページとか184ページとかに載っているオムライスの味を私は知らなかった。
 イロハが頭を軽く振った、冷蔵庫からバターと卵を取ってほしいのだとすぐにわかったので、一度離れてバターと卵のパックを冷蔵庫から取り出して彼女に渡す。彼女が受け取るともう一度後ろから胸に手を回す。イロハの指はコンロのスイッチを押している。火が付くのと同時に私の頭にある発想が点火した。

「そうだ!さっき見た夢占ってあげよっか!」

「夢占いですか、あんなもの信じる人がいたんですねえ、それもこんな近くに」

「まず歯がぐらつくのは不安定の証拠、でも犬歯が抜けるのはいいことの兆候、上の歯が抜けるのはストレスと自信の消失、それで複数個抜けるのは物事が駄目になって行く」

「いい夢なのか、悪い夢なのか、中途半端じゃないですか、それで何を信じればいいっていうんです?」

「信じたいもの信じればいいじゃん」

「そんな投げやりなこと……いえ、まともに取り合おうとした私がバカでした」

 コンロからはみ出る青白い火に熱せられたフライパンに落とされたバターは、次第に形を失っていく。キッチンには重く、ぐったりとしたバターの匂いが充満し始めた。フライパンを傾け、溶けるバターを回しながら、イロハはふと溢した。

「信じたわけじゃありませんけど、ひとつ訊かせてください、歯が抜けた後に残った針のような歯には、どんな意味があるんですか」

「残った歯かあ、そうだね、隠してる本音かな」

 フライパンに溶け切ったバターの泡立ちは、頭の中に似ている。白っぽくて、大小の均一もとれず、法則性もなく滑らかに膨らんだ脳で、いつ爆発するのか分からない爆弾だ。イロハは低い声で、本音ですか、と呟いて卵を割って透明なプラスチックボウルに落とす。小さな殻の破片が一緒に落ちたが、イロハは淀みなく菜箸で取り除いた。そりゃあ、あなたに言いたいことの一つや二つが無いとは言いませんよ、ですけど、隠してる本音ってのは違う気がしますよ、私は言いたければいつでも言います、チアキ、私はいつでも言う気ですよ。
 黄身の見えない透明な膜を破り、中身が白身と混ざっていく、オレンジに近かった黄色が落ち着いた色味に、渦を巻いて変わって行く。私は顔を髪に埋めて、一拍置きもしくは、と続けた。

「無理に飲み込んでいる言葉、それも人を傷つけるぐらい尖がってるやつ」

「ふうん」

 興味があるようにも、心底どうでもよさそうにも捉えられる相槌を打って、イロハは溶き卵をフライパンに流し入れた。音が弾け、忙しく菜箸で中身をかき混ぜる。溶き卵は白く固まり始め、数分もたたないうちにそれは薄焼き卵に変わった。焼き上がった薄焼き卵は白い皿に移される。

「ところでチアキ、そろそろ退いてくれませんかね?重いし動きにくい」

「え〜?もうちょいこのままで〜、ねえいいでしょ?イロハちゃん〜」

 空いたフライパンには、まず初めに人参の微塵切りだけが落とされた。次にとうもろこしとグリンピースで、肉は入れない、レシピにも肉は書かれていないからだ。
 木べらで混ぜ返す音が聞こえる。焼き色がついてきたら、塩と胡椒、ひとつまみの砂糖を振り入れてまた混ぜ返す。イロハが足先を伸ばし、頭で顎を小突く。ケチ、渋々離れつつそう不満を溢すと、彼女は振り返ることもなく平坦に言った。机の上、散らかってるでしょう、片付けてきてください。私は口をつんとがらせて、台所を出た。
 台所を出てすぐの置かれたダイニングテーブルは酷く散乱している。細かなカスだけが残ったスナック菓子の袋、破かれたチョコレート菓子のアルミホイルの包み、油で光ったテーブルの表面、放置された携帯ゲーム機。昨日イロハが夜更けにこのテーブルでゲームをしていたことを、私は知っている。

「ねえ!これ全部イロハちゃんのじゃんか!」

「分かってませんねえチアキは。私は、今、何をしていますか?」

「私のお昼ご飯を作ってる」

「ええ、そうでしょう?あなたの分まで料理を担当している、そうでしょう、その通りです。じゃあ、あなたが私の分まで掃除することは、決して不公平ではないワケです」

「たしかにそうだけどさあ」

 結局彼女の出したゴミを片して、濡布巾で机を拭いた。イロハがオムライスを持ってきたのはその後だ。白い皿に盛り付けられた赤いケチャップライスは、薄焼き卵が覆い被さっているので見えない。
 イロハは、ケチャップを自分の皿のオムライスに掛けると蓋を開けたままこちらに渡そうとした。私が自分のオムライスが載った皿をイロハの方にやると、彼女は眉を顰めて口端を下に歪ませた。嫌です、やりたくないですよ、そういうの。そう言って蓋を閉めてケチャップを机の上に戻した。

「ん〜?私まだ何も言ってないんだけどな〜?」

「あなたの思考なんて、普段からやってることから大体想像できますよ、そういえばこの前、珍しくゲヘナ自治区外の店記事にしてましたもんねえ、春葉原のメイドカフェ、確かキャンディ・キャンディなんて名前の」

「ふふふ、イロハちゃんが週刊万魔殿をちゃんと読んでてくれて嬉しいよ!」

「毎週ちゃんと読んでますよ、あの記事はいつもよりテンションが高かったですね。わざとらしい台詞でケチャップを掛けてもらえたのが随分嬉しかったんですね、それともハートを描いてもらった方ですか、どっちにしろそれであなたは満足でしょう、私に頼む必要がありますか」

 声は抑揚や強弱もなく淡々としている、平坦に文章を読み上げているように感情を感じない。口数は多い、声から感情を読み取れなかったが、声を出す速さからは苛立ちを感じた。私は机に突っ伏し、息を吐くのと同時に声を出した。

「もお拗ねないでよ〜、メイドカフェって初めてで楽しかったんだから仕方ないじゃん、私が感じたワクワクとか興奮は読者のみんなにも伝わるべきなの、実際イロハちゃんには伝わってるしさ。そしてそれが週刊万魔殿にも、取材させてくれたお店のためにもなるし!」

「らしいこと言いますね、あと別に拗ねてませんから」

「それが拗ねてるんだってば〜!」

 彼女をわからずやだと非難するように溜息を吐いた。突っ伏して伸ばした手は、イロハの手に届きそうだ、強く握れば粉々になってしまいそうな白い手は装置を動かすスイッチか、レバーなのだろう、私が手を掴めば、イロハが本音を話すような気がした。隠している言葉、飲み込んでいる言葉、鋭い感情を私に吐き出さないように堪えている。
 嬉しいのか、苛立っているのかわからない感情が胸に渦巻く。私を気遣ってくれているのは嬉しい、私のことを思ってくれているのだから。ただ、素直に言葉を吐いてくれないのは、イロハに信頼されてないのだと考えてしまう。信頼して欲しいから、イロハの方から寄りかかって欲しいから、その手を掴んだ。

「なんですか」

「もっと素直になってさ〜、私のこと、信頼してもいいんじゃない?」

 テーブルに角が当たる、イロハは、静かにこちらを見下ろしてる。何も言わずに視線を交わす。

「イロハちゃんさ、夢占いの話、まんざら信じてないわけでもないでしょ。心当たり、あるんだよね?」

「さっきも言いましたけど、私は言いたいならいつでも言う気ですってば」

「それじゃあ、今言っちゃお?ねえ、イロハちゃん、ずっと喉に溜めてちゃ、尖ったままだよ」

 イロハはまた返事を躊躇った、静かな瞳が揺れている。掴んだ手に指を絡めて、握る。柔らかくて一定の間隔で鳴る、雨垂れか、心臓の鼓動のリズムで何度も握る。そのリズムは実際の音ほどではないが、屈折と透過を経て永遠に続く安心感を与える、大切なモノだ。こちらに伝わる温度がだんだんと上がる、イロハが安心できるまで手を握り続ける気だった。
 彼女は目を逸らして、溜息をつく。わかりました、わかりましたよ、チアキ。次に降参の言葉を吐いて、そのまま絡んだ指を解こうとしている、私は強く握って、それを拒否する。イロハは呆れて、仕方なしに手が繋がったままで口を開いた。

「まず一つ、あなたの書いた記事に対して言いたいことがあります、そしてもう一つ、あなたの普段の行いで言いたいことがあります。構いませんね?チアキ」

 イロハの目を見つめたまま、黙って頷いた。イロハがオムライスを小さな一口分掬って、噛み締めて、飲み込んだ。

「オムライスは、私が人生で初めて作ろうとした料理です、あなたに頼まれてね、その時は失敗しましたけど、まあそれも思い出です。今は見た目も、味もちゃんとしてます、何度も作りましたから、それはチアキ、あなたのためにですよ。
 あの記事で、あなたがオムライスを美味しいと評価しているのが、無性に腹がたちました。これがパフェとか、ドリアとか、ナポリタンとかならきっと、なんでもなかったと思うんですよ。でもオムライスはダメです、ダメでした。」

 チアキ、口を開けてください。話もまだ終わっていない中で、いきなりイロハがそう言って、スプーンに掬ったオムライスを私の目の前にやった。少し驚いたが、言われた通りに口を開けると、やはりオムライスは私の口の中に入った。
 ケチャップの酸っぱさ、野菜の強くしっとりとした甘さ、米の食感、それだけしか分からない。私のために作っている、イロハがそう言い切った料理の味を、どう表現すればいいのか分からなかった。私が口を開いた瞬間、イロハの声が被さった。

「自分でも驚きですが、あなたのためだけに作ったオムライスよりも、店で何回も、誰にでも出されるオムライスの方が美味しいと、あなたがそう感じていたとしたら、そう考えるだけで、苛立ちました。
 ああ、どちらが美味しいかとかは聞きませんよ、今聞いたところであなたが困るだけですし」

 私は、美味しい、そう声を出そうとした口を噤んだ。自分は嘘をつこうとしたのだろうか、美味しいと感じたのは事実だ。だが、どう美味しいかを表現できない。言葉にできなかった。余計なことを言わなかった自分の運に感謝した。

「要するに、あなたが私以外の作ったオムライスを食べたのが気に食わないってことですよ。まずは、これが一つ目です。二つ目、今、聴きたいですか?」

 私は何も言わなかった。イロハは何も言わない私をじっと見つめてから、小さく笑った。冗談ですよ、先にオムライスを食べましょう、冷めてしまっては、せっかく起きて作った意味がない。ケチャップを手に取り、私のオムライスにかける。赤くドロリとした液体が黄色い卵の上に溜まっていく。言葉もなく、絵も描かず、ただ血溜まりみたいなものが薄焼き卵の上に出来上がった。
 その皿をこちらに差し出す。絡めてた指を解いて、机の表面から体を起こして、背もたれに寄りかかった。イロハはすでにオムライスを食べ進めていた。私は一口も食べていない自分のオムライスを見つめて、手を合わせてから食べ始めた。
 2人とも食べ終わると、イロハはソファの方に行って寝転んだ。脚を曲げ、背中を丸めて、頭を守る胎児の姿勢だ。テレビに映っていた旅番組は既に終了していて、今はワイドショーが流れている。食器を水に浸けてから、本棚から一冊取り出してイロハの隣に座った。

「チアキ、あなたの良いところは、誰にでも分け隔てなく明るく接する所だと思います」

「それ二つ目?」

「ええ、二つ目に関係することです」

「いきなり褒められたかと思ってビックリした」

「褒めてはいるんですけど、まあ、そこはなんでもいいですか」

 胎児の姿勢をとったままでイロハは話を続ける。私の視線は本に向けられていたが、文章が頭をすり抜けて内容が入ってこなかったので、閉じてテーブルに置いた。背景音としてワイドショーは垂れ流されている。モゾモゾと動きながら、イロハが声を出した。

「あー、なんて言えばいいんでしょうか、あなたのそういうところが気に入っているのに、気に食わないんですよね。誰とでも仲良くしているあなたを見ると、モヤモヤした気分になります」

「ん?うん、ん〜?それってさ、イロハちゃん以外に話しかけるなって言ってる?もしかして」

「そうですね、そういうことになります」

 彼女は顔をソファに沈み込ませて、バツが悪そうな声色で肯定した。だから言いたくなかったんですよ、あなたに対してこれ以上酷いお願いはないと思います。吐き出しましたし、さっさと忘れてください、これであんな夢ももう見ませんから、だから忘れてください。イロハは普段に比べれば取り乱した様子で話を終わらせた。
 部屋は沈黙が支配した。私自身も面食らって黙っている、イロハからそんな願いを言われるなんて予想でなかった。ただ叶える気があるかと言われれば、そんなものは真っ平ない。私の楽しみは人と出会い、その人と仲良くなって楽しく交流することなのだから、いくら彼女の願いでも聞き受けるのは無理な話だ。少し頭を悩ませてから、イロハの肩を叩いた。顔をソファに埋めたままでイロハが口を開いた。

「なんですか」

「イロハちゃんの願うを叶えるのは無理だけどさ、今ここには私とイロハちゃんしかいない訳じゃん、じゃあ私今、イロハちゃんだけのものじゃない?ほら!今なら私に甘え放題だよ〜?」

「どっちかと言えばあなたには甘えてもらいたいですかね」

「イロハちゃんワガママだね〜、ま、私はどっちでもいいんだけど!じゃあイロハちゃん膝開けて、頭置くから」

 私が提案すると、彼女はようやく上半身を起こしてソファに座り直した。太ももあたりを軽く叩いている。私は、角が当たらないように仰向けで寝転がった。真正面に見えるイロハの顔が、少し綻んでいる。

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