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AIと人文学:AIは人文学を殺すのか、それとも生まれ変わらせるのか #04

こちらのnoteは、短期集中連載『AIと人文学:AIは人文学を殺すのか、それとも生まれ変わらせるのか』(グレアム・バーネット執筆、今村真央訳)の第4回(最終回)として公開されたものです。
第1回:https://note.com/horipub/n/n587a5176f67f
第2回:https://note.com/horipub/n/nc91004b00ce6
第3回:https://note.com/horipub/n/n1cbf5686f94c
連載https://note.com/horipub/m/ma2378f65893b


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#04 AI時代の実存

AIシステムは「人文学」の終焉を告げているのだろうか。確かにある意味では、まったくその通りである。大学の同僚たちは、学生が本当に自分自身で論文を書いたかどうかを(確実に)見抜けなくなったことを嘆いている。だが、大学の同僚たちの混乱を裏返してみれば、そこには思いがけない贈り物が隠されているのかもしれない。

もはや学生に読書や執筆を強いることはできない。では、何が残るか。学生が「やりたい」と思う課題を与えることだ。つまり、課題に取り組みたいと思わせることである。何を隠そう、教育とは、強いることなしに欲望を組み替えることなのだから。

今後5年もすれば、歴史家がこれまでのような形で単著を書き続けることに、もはや大きな意味はなくなるだろう。誰も読まなくなるし、指先のひと動きで、こうしたシステムが同じような本を際限なく生み出せるのだから。
しかしそもそも、学問を工場のように生産することが人文学の本質だったわけではない。人文学の真の営みは常に、事実の蓄積ではなく、私たち自身の理解に向けられてきた。「知識」と呼ばれるものは、世界についての真なる命題を、一枚また一枚と重ねていく果てしない集積にすぎない。それ自体は驚くべき事業だ──この蓄積こそが科学や工学のほとんどすべての目的である。だが、どの査読付き論文も、いかなるデータセットも、人間一人ひとりが直面する根源的な問いを解くことはできない。どう生きるか。何をなすべきか。そして、いかに死に向き合うか。

これらの問いへの答えは、世界のどこかで発見されるのを待っているわけではない。「知ること」だけではまったく不十分であり、「知識の生産」をいくら重ねても解くことはできない。答えは、存在の営み(the work of being)にしかない。

人文学は何をすべきなのか?

この70年あまり、大学における人文学は、この核心的真理を見失ってきた。キャンパスでも社会でも高まる科学の威光に魅せられ、人文学は科学的探究を模倣するかのように、自らの営みを作り替えてきた。その結果、私たちは文献や文化遺産について膨大な知を蓄積してきた。だがその過程で、そうした営みにもともと意味を与えていたはずの、「存在」に関する根本的な問いを、私たちはほとんど放棄してしまった。

だからこそ、いま私たちは根本から変わらなければならない。従来の「知識生産」は、もはや実質的に自動化されている。「科学主義的」人文学──すなわち人文学的事象に関する実証的知識の生産──はいまや、AIシステムを生み出し、データを蓄積し続ける科学に急速に吸収されつつある。答えがほしければシステムに尋ねよ、という時代がすでに到来しているのだ。

しかし、「人間であること」と「答えを知ること」は同義ではない。私たちは、問いを抱き、問いと共に生きる存在だ。それは──機械には決してできない。いまも、そしてこれからも。

だからこそ私たちは、人文学と人文学的教育の再創造へと、真摯に、そしてひたむきに立ち返らなければならない。ようやく、問題の核心に戻る時がきたので。すなわち、生きられた経験へ。つまり、存在そのものへ。
それはやがて、改めて姿を現すだろう。なぜなら、私たちが最後にただひとり向き合うのは「存在」だからである。それだけは、決して奪われることがない。

これは、胸を震わせるほどに心躍ると同時に、ときに恐ろしく、そして真の意味で崇高な状況である。
アメリカの大学キャンパスに目を向ければ、その事態は芳しくない。人文学系の入学者数は激減し、博士号取得者のための研究職の市場は事実上崩壊している。人文学というプロジェクトを担う諸学部にとってこれは暗澹たる時代だ。

だが私は、奇妙にも、私はかつてないほどの希望を感じている。私たちが蓄積してきた膨大で雑多なデータを分析的に扱うことは、もはや機械に任せればよい。私たちがシステムに与えた材料は何か。アーカイブだ。全てのアーカイブである。そして、そのアーカイブを使えば、驚くほど多くのものを引き出せるわけだから。

その意味で、生成AIは、歴史学という私の領域にとって概念的な勝利と数えてよいのかもしれない。歴史家たちは長らく「アーカイブの力」を称えてきたが、まさかエンジニアたちがやってきて、アーカイブを電源につなぐとは思ってもみなかった。その結果何が明らかになったか。私たちが人間の知的営みに求めてきたものの多くは、「死せる文字の集積」をフランケンシュタイン的に再生することで、シミュレートできてしまうという事実である。なんという発見だろう!私たちはいま、新しいかたちの「人類の総体」と語り合うことができる。ゆっくりと時間をかければいい。学ぶべきことは山ほどあるのだから。

人間であるとはどういうことか

だが同時に、私たちは警戒心とともに戦う勇気も備えなければならない。というのも、私たちは、世界を創り出す責任を負う自由な存在として、自らを生成し続けるという、終わりのない営みを再び引き受けなくてはいけないからだ。人間を単なる道具に変える装置を動かし、彼らを搾取し、その人間性から「金」と呼ばれる病的な滴を搾り取り、荒廃した残骸だけを残すこと──それはすでに十分可能である。新しい機械たちは、その手つきをますます洗練させている。忘れてはならないのは、これらのシステムを動かすアルゴリズムは、「注意の経済」を支配しているものと同じものという点だ。それらは今後ますます巧妙になるだろう。

人間という存在──それはウェブのどこにもない。どのアーカイブにも保存されていない。いまこの瞬間、この文章を読んでいるあなたの感覚。言葉から目をそらし、自分の人生や私たちの生について想いを巡らせる感覚。今日をどう過ごすか、一人でいようかそれとも誰かに会おうか、と思いめぐらすその感覚。ニューラルネットワークがあなたの内側から「あなたであること」に寄り添うことはできない。それは、あなた自身が生きるほかにないのだ。

私たちに残されているのは、この営みである。機械は常に、私たちの二次的なアーカイブにしか触れられない。だがそれは、私たちの存在と同一ではない。存在の営み(the work of being)──生きること、感じること、選ぶこと──はいまも私たちを待ち受けている。これから先も、ずっと。

= = = = =

※本記事は、雑誌NewYokerに掲載されたこちらの記事を翻訳したものです。
https://www.newyorker.com/culture/the-weekend-essay/will-the-humanities-survive-artificial-intelligence  (April 26, 2025)


著者プロフィール

D・グレアム・バーネット
プリンストン大学歴史学部教授。専門は科学史、技術史で、17世紀から20世紀を中心としている。主な著書に“The Sounding of the Whale: Science and Cetaceans in the Twentieth Century”、“Scenes of Attention: Essays on Mind, Time, and the Senses” 、邦訳として『ある陪審員の四日間』(河出書房新社)など。2025-26年はサバティカル中。ウェブサイト:http://dgrahamburnett.net

訳者プロフィール

今村真央(いまむら まさお)
山形大学人文社会科学部教授。専門は東南アジア現代史、なかでもミャンマーの紛争を中心とした研究に従事。
著書に『終わりがみえないミャンマーの軍事政権』、『性の多様性を表す語彙──少数派の名付けと名乗り』など。訳書にジェームズ・C・スコット著『ゾミア──脱国家の世界史』(共訳)、アンソニー・リード著『世界史のなかの東南アジア──歴史を変える交差路』(共訳)がある。


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