――異界 14時05分
「切り裂け!!【ヒートウェイブ】」
どうしてこうなったのか。
今、目の前で裂帛の気合と共に刀を振りぬき、魑魅魍魎たる悪魔を切り飛ばしているのは私の息子だ。
悪魔というものは、本来であればそう簡単に切れるものではない……ないはずなのに豆腐を包丁で切るがごとく切り刻まれている。
薄暗い異界でもその振りぬかれる刀身は見事なもので、鍛えた刀匠の匠を感じる。
残った一体が何分割かにされる。
今日の夕食はなににしようか、豆腐をつかうから鍋にしようかしら。
そんな現実逃避をしてしまうような非現実的な光景。
どうしてこうなったのか、いまだに分からない。
「ちょっと兄貴! あぶない!!」
「うぉ、あっっぶね」
娘が警告の声を上げる。
息子は焦った声をあげながら、地獄の餓鬼に見える悪魔が放つ氷の飛礫を避け、返す刀で首を跳ねる。
悪魔から無造作に放たれている氷の飛礫とて、軍隊が撃つ銃弾に近い速度を持つ。
私では、多分避けられないだろう礫を息子は躱している。
何故息子は避けられる?
何故息子は悪魔を斬れるのか?
息子はよくわからない子だった……
手がかからず勉強も、家の手伝いもする子だった。
母からは
「子供がこんなに手が掛からないとか……まさか知恵遅れじゃあるまいなぁ……心配じゃ」
自分の孫だというのに、とても失礼な事を言われていたが、娘が生まれるとそれを実感した。
よく泣き、喚き、我儘で、よく寝、よく起きた。
私も夫もヘトヘトになりながら子育てをした。
それと比較すれば、手のかからない子なのだろう……
「ママ大丈夫? なんだかぼーっとしてるけど」
「母さんしっかりしてくれよ、油断してると死んじまうよ?」
はっと意識を取り戻す。
前回の異界攻略に比べ、あまりにも楽だったことから自分の考えに沈んでいた。
油断は死につながるというのに、いけないと自分を心の中で叱咤する。
息子の後ろで倒れた悪魔達がマグネタイトの霧となって消えていく。
手持ちの刀を納刀し、霧の後残るものを漁る息子。
「ごめんなさい、大丈夫。
それよりそろそろ異界の奥地だし。異界の主も近そうだからいったん休憩します。」
半分ごまかすように言いながら子供たちを休ませる。
「まー私は疲れてないけど、兄貴の方はお疲れのようだし?」
「そういう言い方はないんじゃないですかねぇ、京子。
仕事はきちんとするさ」
子供たちがじゃれあっているが、私は体と心を休ませながら、ここに至った経緯を思い出す。
・
・
・
・
・
私たちが今居るこの異界が生じた時、ついにこの時が来たかと思った。
私たちの一族は代々この地に住まい、異界が生じた際に速やかに封じる為生きてきた。
概ね50から100年に一度、地獄の門が開き溢れ出ると、そんな言い伝えに基づき修業し備えてきた。
前回の異界発生は、凡そ70年ほど前という。
その時は曾祖母と祖母が異界に突入し封印したと母に聞いている。
我家は、どこにでもあるような表向きは兼業農家、だが裏向きとしては異界管理者だ。
異界管理の秘事は代々女性にのみ伝えられてきたことから、夫は霊能力関係の話は何も知らない
市役所勤めで、繁忙期のみ農業を手伝うという一般的に見られる農家。
そして農家の常として、忙しくなれば当然息子も娘も駆り出す。
私も子供の頃は手伝いがいやだった。
他の子は遊んでいる中、なんで私はと当時は思ったものだった。(私の子供の頃は付近の家も農家が多かったので我慢はした)
今は、娘はイヤイヤ、息子は諦観したように手伝ってくれた。
そんな良い子であるところの息子にも転機がおとずれた。
中学三年の夏休みに(めずらしく)旅行に行き、帰ってきたらどうやら霊能力者として目覚めていた。
息子は旅行が楽しかったとしか言わなかったが、霊能力者に覚醒する旅行とはいったい?
さすがに詳細を聞き出さなければとあれこれ言ってみたが、息子は言を左右にするばかりではっきりしなかった。
聞き出せたのは、”ガイア連合”とかいうサークルの集まりで”星霊神社”に行ったという事だけだ。
息子が霊能力者に目覚める旅行に驚いたが、我家は女系で繋いできた家であり男は家を出る運命、ゆえにそれ以上は聞かず……諦めて放っておいた。
逆に言えばそちらの道にも進めるようになったのであり、細い繋がりであり根願寺を通してどこかに紹介しようか、そんな空想すらしていた。
後から考えればこの事を甘く考えていたのかもしれない。
さて裏山に異界ができ、成すべきことは何か……異界の封印である。
符を揃え、霊的装備に着替え、母に伝え、そして異界の入口前に立つ。
震えがきたのは恐怖か武者震いか。
意を決して異界に突入する――
――結果は惨敗である。
確かに私と娘の攻撃は異界の悪魔にも効いた。
だが異界の主に合う前に精神力が付きた。
ご先祖様の日記に記された道程では、異界の主までは遠くなく又悪魔の数もささやかな物であるはずだった。
「ちょっとママ、これやばいよ!」
「分かっているわ……一旦撤退しましょう」
悪魔の群れから逃げるような撤退。
忸怩たる思いがある。十二分に修行し、十分だと思っていた力では異界の封印に足りなかった。
「来週また、挑戦する。京子、準備するのよ」
「えーマジー??」
「マジよマジ。これじゃなんのために修行してきたのか、六道のご先祖様に顔向けできないわ」
「誰かもっと強い人に協力依頼したほうがいいんじゃない?」
嫌がる娘を宥めすかし撤退する。
次回こそは……その気持ちで準備を行い再度突入した異界は――成長していた。
――成長していた。
明らかに悪魔の数が増えている。
2対1での戦いであれば有利だったが、相手が2体、3体と増えると厳しい戦いとなった。
そして、前は書き割りのように感じた風景がより解像度を増していた。
血の川と針山だけがあるのっぺりした空間だったものが、鬼や餓鬼、そして責められる人々が増えた。
これが異界の成長かと恐怖した。
きっと進んだ先、地獄が現世に溢れるのだろう。
こうなればなりふり構えないと、根願寺にヘルプを頼んだがどこも手一杯で手伝えないと聞き絶望した。
だが、知り合いの僧が一つ教えてくれた。
【ガイア連合】、そこに頼めばあるいは助攻が得られるかもしれないと。
【ガイア連合】、息子が旅行に行き参加したという団体。根願寺にすら認知されていることは相当な力を持っているのか?
わからない部分があるが、今は猫の手でも借りたい。
教えてもらった連絡先に連絡をとれば霊能力者を派遣すると快諾された……これは天佑かと思ったものだった。
だが……集合場所の裏山にある神社前に来たのが息子だったのは驚愕だった。
たしかに【ガイア連合】の関係者なのかもしれないが、本当に息子に実力があるのかわからないが。
派遣されるということはそれなりに実力があるのだと自分を納得させた。
そしてその戦闘力はすぐ証明された。
私と娘が一対一でなんとか倒した悪魔を無造作に切り捨てていく。
見た目が弱弱しくとも熊と同等の力と耐力を持っている悪魔を、刀程度で打ち払えるとは思わなかった。
まず視えなければ効果が無く、どのような強力な兵器でも意味をなさない。
悪魔がいる場所を爆破するより、視える者がそこらの石で殴りかかったほうがダメージを与えられるのである。
そして手に持つ刀からは私でも霊力を感じる業物だ。
こんな装備を大量にもっている団体なのか、息子がすごいのか。
・
・
・
・
・
座れそうな岩に腰掛けてここに至る道程を思い出していれば、息子はなにか……キャンプキットじみたものを取り出し、何かを茹でている。
レトルトカレーが入っていそうなパウチだがなにかのアイテムだろうか。
「兄貴、なにしてんの?」
「見てわかんねえ? カレー温めてんのよ」
「いや見ればわかるけど……なんでここでカレー、意味わかんないんだけど」
本当に何故カレーを茹でているのか、おまけにサ○ウのご飯まで用意されている。
「見た目はただのカレーだが徐々に体力や精神力を回復するすぐれものだぜ。
異界じゃ時間感覚がおかしくなるけど、お昼すぎだろ、食っておくべきだと思うぜ?」
息子が自分の分を食べながら私達に勧めてくる。
狐につままれような気持ちだが、せっかく持ってきたものだからと私も娘も食べる。
たしかにすこし体が楽になっているような気がするが、普通のレトルトカレーに思える。
やはり不思議な息子だ。
さて食事を終え人心地つき、魑魅魍魎を(主に息子)が切り払い更に歩を進めれば見えてくるのは扉である。
隙間より霊力が漏れ、中にいるのは多分この異界の主だろう。
知らずのうちにつばを飲み込む。
「母さん、本当に異界の主を倒すのかい」
「ええ」
何を言うのか、この地にできた異界を封じるのがこの地に根付いてきたわが家の存在理由だというのに。
いえ……もしかして異界の主を恐れているのかもしれない。
私たちと違い息子は悪魔と切り結んでいる……つまりは肉弾戦だ。
今までの戦いでも、肉体が傷つき血を流していた。
息子は(驚くべきことに)回復の魔法を使えるがゆえ、自らを癒しながら戦っていた。
……人は傷つけば痛みを感じるのだ。
異界の主は強敵だ、強敵と戦えばそれだけ苦しむ。
恐れることを非難は出来ない。
符術を使い遠距離で、なるべく傷つかないように戦ってきた私たちよりは辛いのだろう。
熊なみの生物と肉弾戦など私には耐えられない。
「大丈夫よ、母さんも全力を出すわ」
道中の悪魔達は、息子が薙ぎ払っていた。
そのおかげで精神力(MP)に余裕がある。
全力を出す余地があるはずだ。
母として先輩霊能力者として情けない姿は晒せない。
扉をくぐった先に見えた悪魔は、骨の姿に剣をもっていた。
「あー、母さんに京子、あいつの弱点は衝撃に破魔だ。
魔法は倒れない程度にがんがんつかってくれ。
こっちの精神力とあっちの体力どっちが先に尽きるかの勝負なんでがんばってくれ」
何故そんなことを知っているのか。
「ちょっと、何を知っているの玲治」
一歩前に出る息子は言う。
「質問は後にしてくれ母さん」
「兄貴大丈夫なん?、軽く言ってるけどめっちゃ強そうなんだけど??」
「なんとかなるっしょ、トゥルダクだし。
よし、俺の大学生活の為に!!、死ねよやーー!!」
何を言っているのだ……
・
・
・
・
・
死闘の末に悪魔は倒れ、マグネタイトの霧となってきていく。
肩で息をするほどに疲れたが、何故だろう、人として位階が上がった気がする。
息子は血だらけだが元気そうだ。
切られる度回復していたからか服は切られていても肌はきれいだ。
疲れたのか座り込む娘は叫ぶ。
「あーーー ようやく終わった!!。もー、汗びしょびしょでめっちゃ気持ち悪いし……それに兄貴も血だらけで映画のヤラレ役みたいじゃん」
「もうちょいなんだから座り込むなって、それに異界が崩れるんだとっとと退散するぞ。
母さんも行こうぜ。ここは風景が寒々しすぎる。」
「ええ……終わったのね」
私の脳裏を去来するのは役目が終わってほっとした気持ちと、
「依頼はね」
「早く帰ってお風呂入ろ、あっでも沸かすところからか、とりあえずシャワー?」
子供たちが来た入り口をくぐる。
私の後ろで異界が崩れる音がする。
出た先は山頂のちいさな祠だった。
時刻は夕刻となり、夕日が沈んでいく山並みとカラスの鳴き声が聞こえる。
生きて帰ってきたのだと実感した。
さてこれからどうするか。
いや日常が帰ってきのだと、そして私の子孫がまだ発生した異界を封印するのだ。
「あー……母さん、ちょっと頼み事があるんだけど
今回の手伝いの報酬ってわけじゃないんだが」
一体どんな頼み事がとびでてくるのか。
だがでてきた頼み事は自宅にネット回線?を引いてくれというものだった。
やはり息子はよくわからない。
――
――異界 18時31分
兄貴はよくわからん存在だったが、一緒に戦ってさらに分からなくなった。
ウチの兄貴は昔から大人っぽくはあった。
よく言えば老成しているし、悪く言えばじじむさかった。
世の中の兄という存在は、そんなもんかと思っていたが、学校の友達はもっとサルみたいな存在だって言ってた。
自分のことしか考えずわーわーうるさい存在だって。
まじかよ、うちのと全然違うじゃんって思ったのも懐かしい。
とはいえ優しいって感じでもなかった。
少なくともデザートのプリンはくれなかったし。
そんな兄貴が少し変わったのは、中三の夏休みに一人で旅行に行った後だ。
そのころ、もう私もママから修業をつけられ覚醒者になっていたから、帰ってきた兄貴が覚醒したってのが分かった。
数日修業するだけで覚醒するとか嘘やん……。
私は数年間あれこれやって、やっとこさ覚醒したっていうのにマジずるい。
後でママにうちの一族の男で覚醒者がいたか聞いたけど、記録には無いって言ってた。
レアキャラというやつなのだろうか、よくわからない。
それにママも覚醒者なんだから、兄貴が覚醒したのがわかるはずなのに何も言わない、なんでよ。
うちは女系だし、男とはそのうち独立するからほっといてるのか。
そんな感じで日常を過ごしているとママが深刻な顔をして山の方を見ていた。
もしかして役目を果たすときがきちゃった感じ?
「京子、準備をしなさい。一族の役目を果たす時がきました」
ママのガチトーンにびびりながら。
「分かったわ、ママ」
とは返事をしたものの、嫌なんですけど?
はー、なんで私のときにきちゃいますかねぇ。もっと前にきてくれればおばーちゃんとママが封印に当たったのに。
さすがに今のおばーちゃんは年食ってついてこれないし、しゃーないのかな。
で、まあいけるんじゃね?って気持ちで突撃した異界はマジやばかった。
なんかお腹がでている人?みたいなやつや、捻くれた鳥?みたいな悪魔だったんだけど。
これまたつえーのなんのって。
ママと私が符術を使えばふっとばせるけど、敵もさるもの、避けたり、こっちを殴ってきたりしてくる。
そうこうしているうちに精神力が尽きちゃって逃げる羽目になっちゃった。
で、気合をいれた2回めの突入もだめで、人を呼ぶことにしたんだって。
ママは「このままでは現世に地獄が溢れてしまう」とか言ってたけど、さすがに大げさなんじゃないかな。
三度目の正直ってことでお手伝いを呼んで挑戦ってことで、やってきた来た人を見てみればなんとなんと兄貴である。
ママも兄貴も固まってたけど、能力あるなら最初から手伝ってほしかったわ。
で兄貴の霊能力者としての能力だけど、これがマジつええ。
私達が苦労した悪魔たちをばっさばっさと切り捨てるの。おじーちゃんが見てる時代劇の主人公みたい。
少なくとも学校の剣道部の人たちよりはその剣裁きは速かったね。
途中休憩で何を取り出したかと思ったらキャンプ道具みたいの取り出してなんでかカレー茹でてるの。
もしかして兄貴はここをキャンプ地なんかと勘違いしていらっしゃる?
味はまあ普通だったけど、なんか霊力的にいい食べ物らしいけど、なんでカレーなんよ? お腹へってたから食べたけど。
異界の主の部屋の前にきたら、さすがの私でもわかるくらいびんびんにやべー悪魔の気配がしてきてびびったけど、兄貴は全然平気な顔してる。
図太いのか大物なのかわからないけど、頼もしくはあった。
異界の主は剣もった骨、すげー速さで振り回してるけど、兄貴も避けたり切り払ったりして互角に戦ってんのまじやべーわ。
私の聖なる力とママの衝撃波が効くみたいで力の限り撃ったら異界の主が死んだ。
いや異界の主も兄貴も早すぎて、いい感じに止まったり止めてくれるから撃って当たったけど、私とママだけじゃずんばらりと切られて終わりだったかな。
そういう意味では兄貴いないと詰みだったかもしれない、でも「よし、俺の大学生活の為に!!死ねよやーー!!」って何?
兄貴大学行きたかったんか。
いやーお役目(笑)をなんとか終わらせたからか、すごいスッキリした。
私の生きてるうちは次のは来ないから子孫に期待ってことで。
その後兄貴の縁でいろいろ霊能力関係のわりのいいバイト紹介してもらったし。
持つべきものは良い兄貴よね!
書いてみたけど難しいっすねこういう文章
次は掲示板になる予定
主人公の家族構成
本人:六道 玲治
母 :六道 美恵子
妹 :六道 京子
父 :六道 一郎
祖母:六道 春子
祖父:六道 宗次
ペルソナ1のキャラとは関係無いです
(設定した後にレイジがいた事を思い出した)