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脳外科医竹田くんの裁判傍聴記録

2026年2月12日の被告人質問、および同月18日に行われた最終弁論・論告求刑の記録。

「脳外科医竹田くん」とは?

 「脳外科医竹田くん」とは、とある市民病院で勤務し、手術の手技が未熟で幾度も医療事故を起こす脳神経外科医のことを描いた漫画で、2023年にWebで発表された。実在する病院・医師に基づいて描かれており、漫画の作者は医療ミスの被害者親族と公表されている。実際、その漫画の登場人物の「竹田くん」とは起訴された松井医師のことで、民事でも裁判を起こされ8900万円の支払いを命じる判決が出ている。今回の公判は刑事事件で、彼が業務上過失傷害に問われているものである。
 私はTwitterで本人の情報や漫画の一部を目にして前々からこの事故のことを知っていたが、私の母親も弟もこのニュースのことは知らなかった。
「脳外科医竹田くんって知ってる?なんか手術の下手なお医者さんが何人もめちゃくちゃにした事件」と聞いたが両方とも「いや・・・知らん・・・」との回答だった。ネット民とそうでない人の間で結構知名度には差があるのかもしれない。

2月12日の公判へ行くことに

 初公判は行かなかったが、ニュースで見て2回目の公判が2月12日にあることを知る。何も予定がなかったので行ってみることにした。死ぬまでに裁判の傍聴って行ってみたいと思っていたんですよね。朝6時起き、片道2時間はしんどかった。
 公判は、神戸地裁姫路支部で行われた。傍聴を希望する人の数が傍聴席の数より多ければ抽選、という方式だったが希望者が席の数を下回ったため全員に傍聴券が配布されることとなった。

 メモを取っている人が多かったが私は持参していなかった。被告人も検察官も思ったよりたくさんのことを話していたので持ってこればよかったかもと思ったが、とりあえず覚えている範囲で記す。被告人や検察官が一字一句どう発言したかまでは覚えていないが、公判のおおまかな内容は報道と変わりないので、各ニュース記事にも目を通していただければと思う。

 松井医師は報道で見た印象よりスリムになっていて、声も大きく話もはきはきとしていて聞き取りやすかった。堂々としていると感じた。

弁護人から被告人への質問

 弁護人が松井医師の出身地や進学先、医師になった経緯を尋ねていく。あまりにも基本的な情報であったので、初めて裁判を傍聴した身からするとそんなところから聞くものなのかと驚いた。

 質問後、赤穂市民病院に提出した履歴書がモニタに映し出され、「今までほどんど顕微鏡の手術はやったことがない」と書かれた文章に対しての確認があった。(医師の履歴書の書式って、普通のサラリーマンと同じなんだな・・・)また、病院の当直当番表なども出てきた。休みの日でも普通に出勤し、当直勤務後(業務時間外)も業務にあたっていたと述べる。帰宅も夜11時ごろになることもあったと述べていたが、労働時間が長く過労気味な点はこの事件の大きな争点ではなかったように思う。

 また、手術動画の確認もあった。実際に松井医師が行った手術の動画がモニタで流れる。ドリルで切削していく様子、切削中に術野が血液と生理食塩水で満たされていく様子が映し出されていた。それに対し弁護人が一つ一つ松井医師に確認していった。また、腰椎のイラストも表示され、削る箇所にマーカーで印をつけていく作業もしていた。これは、医師でないとあまり深く理解できないだろうと感じた。
 手術器具についても詳細な質問と供述があった。メインで出てきたのが手術に使われるドリルの二種類。ダイヤモンドバー(鋭利さはスチールバーより劣り切削力も弱い)とスチールバー(刃が鋭利で切削力が強い)と呼ばれるもので、その器具の特徴や違い、使い分けの意図などについて問われていた。ここが公判の中でも比較的大きなポイントだったと思う。これ脳外科医以外わからないだろ、と思いながら聞く。専門的で、情報量がとても多く、質問も次から次になされる。聞いているこっちが疲れてくるほどだった。

松井医師の発言を要約すると、
「手術をするにあたり、最初は上司(指導医)が執刀医で自分が助手だった。私はバキュームと洗浄をしていて途中で交代し、自分が次に執刀医(腰椎を削る側)に回った。しかしその上司が出す水量が多く術野が狭くなり、水を減らすよう何度も指示したのに全く改善が見られなかった」ということだった。本箇所が公判の一番の争点だと思う。

検察による怒涛の被告人質問

 午後から検察による被告人質問があった。正直、松井医師がかなり詰められており、聞いているこっちがドキドキした。自分が怒られるよりも怖い。検察はもう少し淡々として塩対応なのかと思っていただけにとてもギャップを感じた。自分ならもう死刑でいいです勘弁してくださいと言ってしまうほどの圧だった。

 松井医師がダイヤモンドバーとスチールバーを使ったそれぞれの意図、術中に出血していた部位の確認、止血をなぜしなかったのか、その他手術にまつわる手順や術中に交わされた上司とのやりとり、質問は多岐にわたり、とても細かく聞かれていた。(やっぱりメモを持っていけばよかったな。)強めの口調で矛盾と不備を指摘し追い詰める法廷のチーター。
 また専門医の資格を保有していること、その資格がどういった資格なのかの質問もあった。(外科の専門医はネットで要項を確認したものの実技試験はなさそう)
 検察官は松井医師に対し、「被害者の供述調書では、二度と医師として働いてほしくないとあったがどうするのか」という意味のことを聞き、松井医師は「医師という仕事は好きです、でも外科医としてはもう復帰は難しい」という意味のことを述べていた。可能であれば外科以外のポジションで復帰したいという彼の気持ちがこの公判でも明らかになる。被害者やその家族からしたら、量刑もそうだが、ここが一番の懸念であるように思う。私も彼のその後のキャリアがどうなるのかは知りたい。

続いて、以前に松井医師がTwitterで取ったアンケートに対しても検察側から厳しい追及があった。

【問題となったアンケート】(Twitterより引用)
腰椎後方除圧術での神経巻き込み事故に関する業務上過失傷害について。
大野事件以降、この罪で医師が起訴された例はなかったはずです。今回の裁判は、今後医師が裁かれる際の一つの基準になり得ると考え、改めてアンケートを行います。

「選択肢」(原文ママ)

  • 医師:竹田くんは過失を全面的にみ刑に服すべき。

  • 医師:竹田くんは無罪を主張し最後まで争うべき。

  • 非医師:竹田くんは過失を全面的にみ刑に服すべき。

  • 非医師:竹田くんは無罪を主張し最後まで争うべき。

以上の4択のアンケートである。上記の「無罪を主張し最後まで争うべき」という文に関して、「被害者やその家族が見たらどう思うか考えたことがあるのか」と激詰めされており、本人が悪いのは当然なものの哀れな気持ちになってしまう。声のトーンも弁護人と話しているときと異なり少し力強さに欠けていて、押されているな、というのがありありとわかった。

 その後、術後の患者への説明について。患者(被害者)に、「神経を切断してしまったかもしれない」と説明したことに対し、なぜ断定をしなかったかを聞かれていた。 その時松井医師は「断定したら患者が望みを絶たれたように感じると思った(今後のリハビリ的な意味で)」と言っていたが、私自身はあまりしっくりこなかった。(個人の感想です)
 松井医師は、「神経を切断してしまったかもしれない」という断定ではない形で患者に説明したが、家族にも同じように断定の形での説明はしなかったそう。検察官はそれに対して「家族には本人に伏せる形でミスを報告できたのではないか」と追及していた。

 松井医師は自分が技術不足であったことや責任が自分にあり悪かったということはおおむね認めていたが、手術自体がチームプレイであることや上司のバキュームでの吸引が足りなかったこと、術中に骨くずの吸引がなされていなかったことも訴えており、「自分だけが100%悪い、他のスタッフは一切悪くない」というような主張はしていなかった。この責任の所在も量刑に影響するのかもしれないと思いながら裁判を見ていた。

なぜかTwitterで被告人と相互フォローになる

 Twitterの「脳外科医竹田くんのモデル」というアカウントは本人で間違いないそうだが、公判の感想をツイートしたらなぜかその晩、松井医師(竹田くんアカウント)にフォローされてびっくりした。おお、そう来たか。刑事事件の被告人にフォローされるとはすごい時代になったなぁ。まあお互い無職同士ということで・・・。はい・・・。
 これまで私は「脳外科医竹田くんのモデル」アカウントにリプライを送ったことも一切なければフォローしたこともない。アカウントの存在のみうっすらと認識していた。ただ、公判の傍聴レポートをツイートしたのが想像以上の反響を呼び、結構拡散されたのでおそらくそのツイートがあちらへも届いたと思われる。
 彼からは公判後、「客観的にどう見えていたのか助かる」というメッセージを頂いたが、私が彼にとって「助かる」と思うようなツイートをした記憶はない。擁護も特にしていないし、罪が軽くなってほしいとも全く思わない。ただ、詰められていて可哀想な気持ちになってきた、それだけである。私は自分が怒られるより他人が怒られているのを見るほうが気まずい気持ちになるタイプなので、こればかりは仕方ない。

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公判後に彼がこのような引用をしたことに関し、私は彼に「裁判中なのにこんなツイートをして大丈夫なのか」とDMで聞いたが大丈夫で特に問題はないと返事があった。検察官もこのツイートを見ている可能性は十分あるので、仮に追及された場合どう反論するのかという懸念があった。

2月18日の公判へ

 2月18日は、最終弁論・論告求刑が行われる日。傍聴を希望する人は、前回より圧倒的に多かった。しかし本公判も傍聴希望者が傍聴席の数を上回らなかったため、抽選制にはならなかった。平日に姫路まで行くって、結構きついですよね。兵庫の姫路付近にお住まいの方以外にとっては。

被害者家族の心情意見陳述

 法廷には、被害者の娘さんが来られており、心情意見陳述をされた。
 
 以下要約。

 事故から6年あまりが経過したが、家族の時計は止まったまま。平穏な日々は被告人の手によって一瞬にして奪われた。手術は急がないといけないものではなく、松井医師からは「よくある簡単な手術です」と説明があった。信じて手術をお願いした。朝、母(被害者)が手術したくないと言ったが段取りのこともあり入院手続きを済ませてしまった。一生の後悔であり、忘れた日はない。
 動画を見たが、血の海でどこを削っているかもわからず、素人目に見ても事故が起こって当たり前。実験台にされたとしか思えず、失敗してもかまわないと思っていなければそんなことはできない。被告人の心からの反省は全く感じられない。手術後、母に突然「一生車イスです」と告げ、リハビリを頑張っているのにろくに診察もしなかった。

 医療従事者から「公にしてほしい、松井医師を野放しにしてはいけない。訴訟してほしい」と言われた。指導医に責任を押し付け多くの嘘をつき、母の体だけではなく心にも大きな傷をつけた。反省のかけらもなかった。リハビリで回復するという説明は嘘で、術後から歩行もおむつ交換もできなくなった。

 母は体に耐えがたい痛みが走り、「殺されたほうがましだった」と言った。その状況は生き地獄としか言いようがない。これ以上被害者が出てほしくない。謝罪の申し出もない。SNSで事実と異なる記述をし、「漫画が原因で起訴された」ということを述べたり攻撃的な投稿を繰り返している。被告人は自分の責任と向き合わず、被害者や漫画のせいで社会的制裁を受けていると述べている。

 毎日母の診察に行っていたのは嘘で、院内のPHSもつながらず、個人の携帯にかけたら「明日でもいいですか、今は対応できないです」と言われた。「被害者のことを一日も忘れたことがない」というのは薄っぺらい嘘である。そんなことを思っているのであれば指導医に責任を押し付けたりはしない。指導医からは「自分は松井医師と同罪で本当に申し訳ない」と謝罪があった。また、痛みに悶える母を励まし、寄り添ってくれたので刑事告訴はしなかった。松井医師が指導医と同じぐらい母に寄り添ってくれたのであれば、刑事的処罰を与えたいという感情もそこまでなかったかもしれない。私は被告人のことを、生涯赦すことはできない。

以上である。

松井医師は、うつむきながら聞いていた。何を考えながら聞いているのだろうと思った。

検察側の主張

 被害者は「足を切り落としてくれ」とまで言っており、その手術自体一分一秒を争うような緊急性はなかった。この手術の前にも同じような事故を起こしていた。止血措置をしておらず術野の把握も困難で、手術を続行した過失は極めて重大である。止血は執刀医が行うべきで、生理食塩水の吸引の件はそれとは無関係である。長時間労働だったという点も、上司から休暇をすすめられたが被告人は休暇を取得しなかったという。
 責任転嫁を繰り返す不誠実な被告に対し厳罰を求めるのは当然で、禁錮1年6か月に相当する。

被害者の娘さんはわずかに険しい表情を浮かべ正面を向いていたが、松井医師はこの発言も少しうつむきながら聞いていた。

被害者側の弁護士からも発言がある。

 被害者は排便もできずコップ1つも持てず平凡な楽しみがすべて失われた。指示の問題ではなく解剖の知識もなく、どこをどう削ったらよいのか理解していなかった。事故の発生は必然。病院にもすぐ報告せず原因分析も再発防止もしていなかった。手術を練習の場にしており、偶発的な事故ではない。止血するまでドリルを回さなければ神経損傷は起こらなかった。そして手術後の対応も感情を逆撫でするようなものであった。SNSでアンケートを取ったり責任転嫁をし、自分が悪くないと主張をしている。また民事事件での損害賠償金も保険からの支払いであり、自身が支払ったものではない。猶予のない実刑が相当である。

弁護側の主張(最終弁論)

 被告人側の、宮崎駿にそっくりな弁護士(高野先生)が法廷に立つ。スライドショーを利用した主張が行われた。事故直前の動画が15秒上映される。バキュームで一度生理食塩水を吸引し、ドリルが回転している状態の動画が再生された。以下、弁護側の主張。

●ドリルの先端は視認できる
ドリルが上方に滑走して馬尾神経を巻き込んだ。「目視困難」は事故の直接的な原因ではない。事故の原因はスチールバーを使用し続け、滑走したことである。そのスチールバーの使用を指示したのは指導医である。指導医は「時間がかかる」という理由で再度ダイヤモンドバーからスチールバーへ戻させた。(医療安全室宛ての報告書にも「危険な場所に近づいていたため松井医師はスチールバーからダイヤモンドバーへ交換、指導医が時間がかかるという理由でスチールバーに戻させた」と同様の記載)

●松井医師は科長・指導医の指示に従った
「えっと思ったが指導医の指示に従った」「今から思えば反駁すべきであった」松井医師は顕微鏡下の自立執刀の経験はほとんどない。履歴書に「今までほとんど顕微鏡の手術はやったことがなく外科医としての務めは十分に果たせない」と記載があった。術野視界不良の原因は吸引不足である。大量の水分(生理食塩水)を術野に投入したことで出血点を把握できず、止血ができなかった。報告書には「指導医のドリル先端への冷却目的の生理食塩水滴下と吸引が適切に行われなかったため松井医師による安全な切削操作が阻害される状態になった」と記載あり。

●指導医の役割と責任
弁護士は、過去に発生した「北海道大学医学部付属病院電気メス事件」の事件・判例を引き合いに出した。「執刀医の処置を補佐し、自らメスを取ることを義務付けられるものである」と指導医の責任を主張した。
松井医師の指導医は、指導医としての役割と責任を果たさなかった。手術をやめさせて、指導医自身が執刀すべきであった。

●被告人は十分すぎる制裁を受けた
・病院長による手術禁止の命令
・病院長による一方的な記者会見
・モデルマンガがインターネット上で大流行
・勤務先病院への苦情殺到
・勤務先病院内で犯罪者扱いをされる
・退職に追い込まれる
・医師として復帰できない(公判時現在、松井医師は無職)

●チーム医療と刑事過失責任
手術には執刀医や助手以外にも看護師や麻酔科医がいる。チームが一体となってそれぞれの役割を果たし、取り組むものである。一人の医師個人だけの責任にするのは問題がある。どんな名医にも「はじめての手術」が存在する。執刀医は手術を全うできるかという不安や疑問があり、そこに指導医が存在する意味がある。危険なところを見たときに補佐し、代わりにやるのが指導医の役割である。個人を罪に問うと外科医が育たなくなってしまう。

以上が弁護側の主張である。

最後、松井医師はスーツのボタンを留め直し、法廷に立つ。

「事故により、被害者に耐えがたい苦痛を与え続けてきました。神経を傷つけたドリルを持っていたのは間違いなく私です。その責任を逃れるつもりはありません。大変申し訳ありませんでした。」と述べ、被害者の娘さんに頭を下げた。

そうして本公判は閉廷した。




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コメント

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名無さん

竹田くんに同情している(ように思える)投稿や、追い詰める検察官のことを小馬鹿にしている(ように思える)投稿が、竹田くんにとっては「助かる」と思ったんじゃないでしょうか

4
マッキー氏 いいね
脳外科医竹田くんの裁判傍聴記録|マッキー氏
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