レアアース供給、なぜ中国が独占? 最強の外交カード◇東京財団主席研究員 柯隆【コメントライナー】
2025年08月15日09時00分
製品化能力、地球上の90%
中国とアメリカの関税交渉でレアアース(希土類)の輸出規制が焦点になっている。レアアースはハイテク製品の製造に欠かせない元素である。地球上、たくさんの埋蔵量が確認されているが、それを精錬して製品化するキャパシティーの90%は中国にある。言い換えれば、中国はレアアースのサプライチェーン(供給網)をほぼ完全に独占している状況にあるといえる。
中国の習近平政権にとって、レアアースの供給は最も強い外交交渉カードである。中国がレアアースの供給を止めれば、世界、とりわけ先進国はすぐさまレアアース不足に陥る可能性がある。日本、アメリカ、ヨーロッパなどレアアースを最も必要とする国と地域の企業はある程度、レアアースの在庫を確保しているが、限界がある。
「がんの村が増えている」
他の国はなぜレアアースの精錬を行わないのか。精錬する段階においては、大量の汚染水が排出され、処理するには相当なコストがかかる。レアアースを掘る段階でも、雨が降ると一帯の環境汚染が深刻化する可能性が高い。中国は確かに世界の90%のレアアースを精錬しているが、その分、環境汚染の被害を被っている。
ブラジル、カナダ、インドネシア、マレーシアなども、かなりのレアアース埋蔵量が確認されているが、精錬については依然として慎重な姿勢を崩していない。中国では、レアアースの精錬を大型国有企業のほか、中小の民営企業も手掛けている。しかし、中小民営企業ほど環境対策は不十分である。
環境保護に取り組むNPOとNGOの調査によると、中国にあるレアアース鉱山・精錬工場の近くの農村地帯では、がんの村が増えているといわれている。中国政府は関連の情報を厳しく統制しているため、確かなことは分かっていない。
輸出巡り細かく情報収集
アメリカは中国に対し、レアアースの輸出規制を緩和するよう求めているが、習近平政権がレアアースの輸出管理を撤回する可能性はほとんどない。一つは、習近平政権が関税交渉のカードとして、レアアース供給の重要性を強く認識しているためだ。撤回したら、関税交渉でかなり不利な立場に立つことになる。関税協議のあと、アメリカのトランプ大統領は中国がレアアースの輸出規制を撤廃すると述べたが、そんなことはあり得ない。
無論、中国にとってアメリカとの通商は経済成長を持続するうえで重要なことである。露骨にレアアースの輸出規制を続けた場合、トランプ政権から再び高関税を課される可能性が高い。従って、習近平政権はレアアースの輸出規制に代わって、輸出許可制度を導入している。具体的に、中国政府は既にレアアースの輸出について、相手国の輸入業者や使用する製品など、きめ細かな情報提供を求めている。関連の情報をレアアースの輸出申請書に記入するのに相当時間がかかり、その上、許可が下りるまでさらに時間がかかるといわれている。
やや長い目で展望すると、レアアースのサプライチェーンを安定化させるには、中国以外の国と地域で複数のレアアース精錬工場を建設することが必要になる。これから日米欧を中心とする先進国の資金・技術援助をもとに、複数の精錬工場が建設される運びになるだろう。ただし、量産化するには最低数年かかり、それまでレアアースの安定供給は実現しないものと思われる。
(時事通信社「コメントライナー」の一部を加筆修正しました)
【筆者紹介】柯 隆(か りゅう) 1963年中国南京生まれの中国人エコノミスト。88年に来日し、名古屋大学大学院修士(経済学)。長銀総合研究所を経て富士通総研主席研究員。2018年より現職。独自の人脈と精力的な現場リサーチに基づき、見えにくい中国経済の実態を鋭く分析、注目される。著書に「中国『強国復権』の条件」「爆買いと反日」「暴走する中国経済」「中国不動産バブル」など。