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コラム

2026年02月18日

食料品の消費税率ゼロを巡る論点整理

経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎(さいとう たろう)

研究領域:経済

研究・専門分野:日本経済、雇用

物価、消費、経済成長率への影響

食料品の消費税率をゼロにすると家計の負担は年間5兆円程度軽減される。これにより期待されるのは、物価の低下、個人消費、実質GDPの押し上げである。ニッセイ基礎研究所のマクロモデルによれば、食料品の消費税率をゼロにした場合、消費者物価は▲1.64%低下し、個人消費は0.85%、実質GDPは0.55%押し上げられる。
図表付加価値税率変更前後の消費者物価(ドイツ)
ただし、これは消費税率の引き下げ分(8%)が全て値下げに反映された場合の試算である。これまで日本では消費税率引き上げ時にほぼ100%価格転嫁されていたが、引き下げ時にそれが当てはまるとは限らない。また、これまでの消費税率引き上げはデフレ期に実施されることが多かったが、今回はインフレが定着し、値上げが日常的なものとなる中での税率引き下げとなる。企業が8%分をフルに値下げすることは考えにくいだろう。

ちなみに、コロナ禍で付加価値税率の引き下げが実施されたドイツでは、税抜き価格が引き上げられたことにより、税込み価格は税率引き下げ分ほど下がらなかった[図表]。

恒常的な所得と異なり、2年間の時限措置による一時的な所得は、貯蓄に回る割合が高いことにも注意が必要だ。過去の定額給付金や地域振興券のような一時的な所得の場合、消費にまわる割合は2~3割程度と試算されている。価格転嫁率を7割、物価下落に伴う実質所得増加のうち消費にまわる割合を3割程度とすれば、消費者物価は▲1.15%の低下、個人消費は0.34%、実質GDPは0.22%の押し上げとその効果はかなり小さくなる。

財源、タイミング、物価目標との整合性

財源、タイミング、物価目標との整合性

食料品の消費税率ゼロに対する批判として最も多いのは、財源の確保が難しい、財政の信認が損なわれるといったものである。筆者は、新たな政策を導入するかどうかは、あくまでもその政策によって経済が成長するか、国民生活が豊かになるかといった判断基準で決めるべきと考えている。その上で優先度の低い支出の削減や国債の発行によって財源を確保すればよい。野放図な財政赤字の拡大は避けるべきだが、財源がないことを理由として日本経済の発展に資する政策を見送るべきではない。

しかし、現在の経済情勢が消費税率の大幅かつ時限的な引き下げを要する状況にあるかどうかについては疑問を持っている。リーマンショックや新型コロナのように大きな負のショックに見舞われた際には、大規模な減税や支出の拡大によって景気の急速な悪化を食い止めることが求められる。これに対し、現下の日本経済の問題は、家計所得や消費の低迷が常態化している点にある。カンフル剤のような施策よりも恒常的な所得の増加を通じて個人消費の持続的な回復につながるような政策を採用すべきである。

2%の物価目標との整合性も問われるだろう。足もとの消費者物価上昇率は2%程度となっており、食料品の消費税率をゼロにすれば、2%を大きく下回ることは確実である。

2年後に消費税率を元に戻すことができるのかという問題もある。ガソリン、灯油、電気、ガスの補助金政策の例は負担軽減策をやめることの難しさを物語っている。仮に2年後に消費税率を引き上げた場合には、引き下げ時とは逆に、物価は上昇し、個人消費、実質GDPは減少する。その影響は食料品の消費税率ゼロを導入した時を上回る恐れもある。

求められる建設的な議論

求められる建設的な議論

このように、食料品の消費税率ゼロを巡っては様々な課題が山積している。自民党は、社会保障と税の一体改革を議論する「国民会議」において、財源やスケジュールの在り方など、実現に向けた検討を加速するとしている。中長期な視野に立ち、日本経済の再生につながる建設的な議論が進められることを期待したい。

経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎(さいとう たろう)

研究領域:経済

研究・専門分野:日本経済、雇用

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