2016年に日本人として初めて
フィンランドのナイフコンペ
で受賞という快挙を達成した
日本のブッシュクラフト第一
人者だった大泉聖史氏。
その功績は外国人が日本刀の
刀工となり日刀保新作刀剣展
で入賞する程に困難な事だっ
た。
大泉氏と連携して日本国内で
ブッシュクラフトを本場フィ
ンランドでの自然と共生する
思想性まで含めて活動を展開
したのがブッシュクラフト.Inc
主宰の相馬拓也氏だった。
やがて、国内初の総合団体日
本ブッシュクラフト協会の設
立にまでこぎつけた。
大泉氏も理事に名を連ね、日
本と本場フィンランドを繋ぐ
架け橋ともなっていたし、鍛
冶職として大泉氏が作るカス
タムプーコナイフBush 'n Blade
は主として相馬氏のブッシュ
クラフト.Incが一括代理店と
なって発売されていた。
大泉さんは元々は日本でカス
タムナイフコンペでも入賞し
ていた洋式ナイフ作家だった。
和洋折衷のデザインと機能性
の高いナイフを造る腕の良い
クラフトマンだったが、フィ
ンランドに移住してからは、
日本刀の製作方向に進むので
はなく現地の鍛冶として日本
刀の鍛造方法を採り入れて独
自のセンス良いプーコを鍛造
で作っていた。削り出しナイ
フから鍛造の道に進むのは、
多くのナイフ製作者が辿る道

でもある。クザンなどはラブ
レスの第一弟子だったが、後
に洋式ナイフから日本刀の世
界に転じ、刀工に入門して文
化庁から認可を取得して正式
な刀工久山として活動するよ
うになった。
他にも刀鍛冶でナイフの世界
から転じた人や、刀鍛冶自身
がナイフを造るケースも多く
みられる。

しかし、大泉聖史さんは突如
昨年2025年1月20日付でオリ
ジナルブランドBush 'n Blade
を閉じた。
どうやらその後、日本刀の修
復等の仕事の道に入ったよう
だが、大泉氏が作る優れた鍛
造プーコは手に入らくなった。
ただでさえ大人気で供給が追
い付かなかったのに、今となっ
てはレアものとなり、現存す
る個体数しかこの世に存在し
なくなってしまった。

もうトンボのマークの大泉作
の新作ナイフを見る事はでき
なくなった。


今は元大泉-相馬ラインの流れ
としては、相馬氏の店から中
国に製造を委託したオリジナ
ルブッシュクラフトナイフを
購入するしか手はなくなった。



このナイフのシルエットや構造
はまだ大泉さんが相馬さんと蜜
月で活動していた時代のアイデ
アが投入されている事が造りの
いろいろな細部から看守できる。
これはステンレスだが、本来は
このようなナイフを大泉さんが
作っただろう。

鋼材は愛知製鋼のAUS-10で、
人気の武生VG-10よりも靭性を
高めている優秀な鋼材だ。
硬度はロックウェルで60程の
高硬度が出る。



スカンジコンベックスとある。
北欧会議(違
スカンジナビアングラインド
&コンベックス=凸型断面と
いうミックスグラインドの事
だ。日本刀の形状がまさにそ
れ。鎬(しのぎ)部分からフラ
ットに刃先まで削るのが北欧
スカンジ=セーバーグライン
ドだが、日本刀の場合はその
平地の面がハマグリ刃になっ
ている。このオリジナルナイ
フはそうした日本刀の断面形
状を採り入れている。
これ、相馬さんではなく大泉
さんのアイデアなのではなか
ろうか。


ブレードの背が丸くえぐられ
ているのは、メタルスティッ
クをこする時用の物。
だが、刃先に近いのでおすす
めできない。

そこは対処方法が考えられて
いる。
ストラップを通す露出部分が
あえてバリを鋭利に残す造り
となっていて幅広。
ここでメタルスティックをこ
すればブレードの刃部に高温
1000℃以上のスパークが飛ん
で刃が死ぬことも無い。
このアイデアは相馬さんの発
案のような気がする。サバゲ
ーマーらしい実用実践重視の。
相馬さん自身は大泉さんと出
会うまでは鍛冶や冶金の知識
はほぼゼロに近かった事が現
在も残存しているユーチュー
ブ動画から伺える。



このナイフが世に出た時には
「うわ。やられた」と強烈に
思った。
それはいろいろ思う所あって
私がナイフをプロに委託して
作ってもらってリリースしよ
うと動いていたから。
偶然に諸般の事情が重なって
それは実現できなくなったが、
フィールドテストとしてはキ
ャンパーだけでなく、陸上自
衛隊の特殊部隊や空挺等々の
訓練でも使用する段取りも取
り付けていた。
私が構想していたオリジナル
ナイフというのはまさにこう
したブッシュクラフト.Incが
出したナイフのようなものだ
った。

私自身は「ブッシュクラフト」
という言葉は2012年頃から使
っているが、1960年代の日本
のキャンプシーンというのは
極めてブッシュクラフトに近

く、フィンランドのように野
外活動に教育的見地も含める
事も、やっている事もとても
ブッシュクラフトそのものに
似ていた。日本のキャンプと
いうのはほぼブッシュクラフ
トだった。
当然、1970年代、80年代、
90年代、21世紀初頭も日本で
は「ブッシュクラフト」とい
う単語は不存在で万民が未知
だった。
ただし、バトニングにしろ、
火熾しにしろ、やっている事
はブッシュクラフトだった。
インターネットがブロードバ
ンドから光通信になり大衆的
に普及してから日本人が海外
の野営活動として知った概念
と言葉が「ブッシュクラフト」
だった。

野外に出て何か工作をして環
境に溶け込んで人間が生存的
人間活動をする行為をブッシ
ュクラフトと呼ぶ。サバイバ
ル術とも異なる。
それは次から次に商業主義的
に発売される商品を買い求め
続けて、「自慢の道具」として
キャンプ場で並べる事に転落
した日本の「キャンプ」とは
一線を画す、本来の原初的な
原点を見つめようとする活動
としてブッシュクラフトは日
本で2010年代あたりから発達
してきた。
リーマンショック以降の2010
年代前半頃から日本国内にキ
ャンプのブームがじわりとや
ってきた。第何次ブームか不
明だが。
1990年のバブル崩壊以降も閉
塞する国民生活の中で、アウ
トドアがブームになった。都
会で無駄金を使いすぎるのか
ら国民は逃げるようにして。
四駆が流行したのも時期的に
そうした背景があった。
日本では人の心と生活が閉塞
する時代に人々はアウトドア
に向かう、という傾向がある
事が社会学的分野からは指摘
されている。

そして、2020年のコロナ禍の
中で爆発的なキャンプブーム
が到来した。
猫も杓子もキャンプキャンプ
となった。
2026年の今では潮が引いたよ
うにニワカキャンパーは消滅
し、職場などでも「あんた今
でもキャンプやってるの?」
とまるで時代遅れのような事
を言う元ニワカたちも多いと
耳にする。
そのような乱高下の日本の軽
佻浮薄な世相の波の中で、ブ
ッシュクラフトは着々と定着
してきた。
私などは2010年直後あたりに

テントは三角テントが使いや
すい、とか自分の日記に書い
ていたら、裏誹謗中傷ここは
ひどいインターネットでつね
某巨大犯罪の温床掲示板で「今
どき三角テントだとwこいつ
ド素人」とか書きまくってい
る奴らだらけだった。
その後、2016年頃からキャン
プがブームになり、2020年の
大爆発で、テントは従来の三
角テント=パップテントやポ
ールテント、軍幕等が見直さ
れ紹介されたら大衆は飛びつ
いて、三角テントが大人気と
なった。

本来は流行り廃りでやるのが
キャンプではないのに、流行
をただ追うだけの中味無した
ちの得意な言い回しに「今ど
き」というのがある。
例によってキャンプ用具選び

でもそうだった。
世相を俯瞰するに、2020年か
らのキャンプ大ブームではこ
れまでと様相が異なった。
「おいしい」と睨んだ人や企
業が参入して「投網」を打つ
ような商業戦略に出た。
次から次へと新商品を買わせ
て儲けるやり口だ。
そもそもキャンプやブッシュ
クラフトはクッカー一つでも
長年使った物を大切に使うの
が本筋で本当の姿だった。
鉈や斧の刃物にしてもそう。
だが、2020年から開始された
商業戦略はゴルフ業界と同じ
ように「新しい物が良い物」
という虚構のサブリミナルを
挿し込みながら浮動層を絡め
取って金を使わせる手法を展
開したのだった。
それによって、「自慢の道具
を次から次に買い続けて、
それを並べて悦に入る」とい
う紛い物の自称キャンパーが
雨後の筍のように増えた。
動画投稿で金稼ぎを狙うユー
チューバーたちもドワッと
増えた。新商品をレビューと
称してメーカーから無償提供
してもらって動画を作り、金
を稼ぐ。本人たちは一切愛用
などしていない。
極めて歪んだ金満主義がキャ
ンプブームで蔓延った。
買ってポイ捨ての大量消費の
商業主義にどっぷりと浸かっ
て。
そして、本当のキャンプ、元
来のキャンプはどんどん薄れ
て、質の悪い「教育を受けて
いない」層による社会問題も
多く発生した。
数が増えれば質は下がる。
負の因子が劣化量産され、そ
れが国内に蔓延したのが先の
2020キャンプブームだった。

このブッシュクラフト.Incか
ら今もリリースされている
ブッシュクラフトナイフは、
そうした流れを背景にはせず、
キャンプブームなどが到来す
る前からの構想で完成したナ
イフといえるだろう。



画像ではスマートに見えるが、
握ると意外と大きいナイフ。
むしろ長いプーコペルトネン
のほうがスマートに感じる程。



レウクとまではいかないが、
プーコデザインとしては大き
目のブレードとハンドルだ。


このグラマラスなハンドルは
北欧系ナイフ独特の形状。
冬場の手袋をした時でも扱い
易いように長年かけて北欧ナ
イフが到達したバレル=樽型
のハンドルとなっている。

鋼材の厚みはあるほう。
厚さ3ミリを優に超えている。
フルタング。ナイフでの薪割
は推奨できないが(北欧では
やらない)、非常時にそれも
可能とする頑丈な造り込みに
なっている。



カイデックス+本革のシースは
肩からポシェットのように吊
るせる工夫が成されている。
これはネックナイフの発展型
を採用したブッシュクラフト
.Incのオリジナルのアイデア
かと思える。相馬さんは高山
登山家のようにネックナイフ
みたいにストライカーを首か
ら下げるのが独自スタイルだ
ったからだ。
ベルト通しのジグも附属して
いて、バーチカルもしくは横
抱きの日本刀のような帯び方
のベルト通しでの携帯も可能。



非常に「良いナイフ」だ。
こういうのを待っていた、と
いうナイフであり、かつ私と
同友が10年以上前に企画して
いたオリジナルナイフとして
世に出したかった具体例がこ
こにある。諸般の事情で我々
のそれはついえたが。なんで
そうなるの、みたいに複数の
事情が一挙同時に発生して、
残念ながらとん挫した。


シースからナイフが抜け落ち
ないように私は紐でテンショ
ンをかけて固定するようにし
ている。

大泉さんと相馬さんの構想が
具現化したナイフのように思
える。
今は二人は袂を別っている。
彼ら二人に何があったのだろ
う。



フィンランド現地でプーコ鍛
冶を務めていた大泉聖史氏。
日本に本格的に本場フィンラ
ンドのブッシュクラフトを10
年に亘り紹介してきた斯界の
第一人者であり功労者だった。
今は日本への現地情報発信は
一切やめている。
「ほろ苦い」とかでは済ませ
られない何かがあったのだろ
う。