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成熟社会の土台づくり 内科医・占部まり氏

成長の未来図インタビュー

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父、宇沢弘文は人間の心を大切にした経済学者だった。経済学が豊かな社会の手段であることを明確に意識し、市場原理主義から切り離して考える必要があるものを「社会的共通資本」とした。

例えば道路などのインフラ、自然環境、教育、医療だ。利潤ばかりを追求する過剰競争の世界は、恩恵を享受できない層を生み出す。結果、社会の安定が損なわれるとした。

こうした思想に至ったのは40歳のころ。米国から十数年ぶりに帰国すると、日本は高度経済成長の「ひずみ」が問題化していた。大気汚染や交通事故、公害病などの現実を実感し、数理経済学の経済成長モデル理論から思想を成長させるきっかけとなった。

世界は今、新型コロナウイルスという難題に直面している。

私は内科医として高齢者らの地域医療に携わるなか、社会的共通資本としての医療のあり方を深く考えることになった。各地の病院がコロナ患者を受け入れるなど、公共的な役割を果たそうとする姿勢に新たな可能性を感じた。

価値観が多様化し、それぞれの患者の生き方に応じた治療法を考えなければならない時代になった。医師も地域を守るという自覚をより強める必要がある。医療サービスを提供するといった意識ではなく、患者の信任を受けることが重要だ。

人類は気候変動という課題も抱えている。

解決に向け、世界で知恵を絞っている。父は約30年前、1人当たりの国民所得や熱帯雨林の保有率などを勘案し、温暖化ガスに対する税率を決める「比例型炭素税」を考え出した。その上で「大気安定化国際基金」を創設し、格差拡大を抑制しながら多くの人が温暖化対策に取り組むことができるようなシステムを提案していた。

社会的共通資本や炭素税は、政府が「みんなのため」という大義名分を掲げながら、結局は弱者に負担がかかりがちな社会構造の変革を目指しているのではないか。

ひとり親家庭などを十分に救済できていない現実もある。家庭環境による子どもの教育格差を生まない仕組みづくりが急務だ。

医療や教育を無料とするデンマークの取り組みは参考になる。

いつでも学び直せる環境が整っていれば、失業などで困難に陥った人も「もう少し耐えてみよう」「仕事が見つかるまで頑張ってみよう」などと活力を持てるのではないか。

新型コロナや気候変動、貧困など様々な問題について「宇沢弘文ならどう考えるか」と尋ねられる機会がある。私も医療者として考えを聞きたいと思う時がある。

父が言っていたのは「現場の専門家が最善の策を考えよ」。常々、各分野の専門家が知見や規律に従って考察すべきだと説いていた。現場で困っている人に寄り添い、考え抜くことが求められている。

政治は専門家の声を聞き、機動力をもって政策をまとめなければならない。世界が困難に直面する今こそ、土台を広い視野で固めていく。それが真の「豊かさ」、社会の成熟につながると信じる。

(聞き手は松浦奈美)

うらべ・まり 1965年生まれ。内科医。東京慈恵会医科大卒。東大名誉教授などを歴任した経済学者、宇沢弘文氏の長女。同氏の逝去に伴い、宇沢国際学館代表取締役に就任。終末期を考える日本メメント・モリ協会を2017年に設立し、代表理事。
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成長の未来図
新型コロナウイルス禍の先に景気後退の足音が近づく。人口の少ない北欧諸国には限られた人的資源を最大限活用しないと生き残れないという危機感がある。「成長の未来図」第3部では北欧の現場から日本が進むべき道のヒントを探る。

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