消化器がんの再発リスク69%減〜ビタミンDが効く条件〜
日本人のがんで最も多いのは、大腸がんです。罹患数は年間約15万5千人。次いで胃がんが約11万3千人、食道がんが約2万6千人。消化器がんだけで、全がんの3割近くを占めています。
その消化器がんの再発を、ビタミンDサプリメントが抑えるかもしれない。ただし、全員に効くわけではない。「効く人と効かない人の差」を説明しうる論文が出ました。鍵はビタミンAでした。
東京慈恵会医科大学の浦島充佳教授らのグループが、米国がん学会の学術誌『Cancer Epidemiology, Biomarkers & Prevention』に2026年1月に発表したものです。
AMATERASU試験
この論文の母体になっているのは、AMATERASU試験というランダム化比較試験です。
対象は、食道がんから直腸がんまでの消化器がん。手術を受けたStage I〜IIIの患者417名を、ビタミンD3(1日2,000 IU)群とプラセボ群にランダムに振り分け、再発や死亡を追跡しました。二重盲検。2010年から2018年にかけて、栃木県の国際医療福祉大学病院で実施されています。
消化器がんを対象にした理由があります。消化管の上皮細胞にはビタミンD受容体(VDR)が豊富に発現しており、大腸がんや胃がんでVDRの発現と予後の関連を示す報告は以前から複数ありました。ビタミンDの効果が最も期待される臓器の一つです。そして日本人にとって消化器がんは最も身近ながん。発症数が多いからこそ、もし再発予防の手段が見つかれば、恩恵を受ける患者数も桁違いに大きくなります。
主解析は2019年に『JAMA』に掲載されました。全体では有意差なし。ビタミンD群77%、プラセボ群69%で、P=0.18。ただ、血中ビタミンD濃度が20〜40ng/mLの患者に限ると、再発・死亡リスクが半分以下になっていた(ハザード比0.46、P=0.02)。
ここで一つ、不思議なことが起きていました。ビタミンD濃度が低い(20ng/mL未満)患者のほうが効果が大きいだろうと当初は期待されていた。足りない人に補充するのだから当然です。ところが実際には、もともと中等度の濃度だった患者のほうが効果が強かった。この「逆説的パターン」が、今回の研究の出発点になっています。
相棒の存在
ビタミンDが細胞内で働くとき、VDRに結合します。ただ、VDR単体では機能しません。ビタミンAの受容体であるRXRとペアを組み、「ヘテロ二量体」を形成して初めてDNAに作用できる。
鍵があっても鍵穴がなければドアは開かない。ビタミンAが不足していればRXRが足りず、VDR-RXRシグナルが弱まる。逆にビタミンAが過剰だと、RXR同士がくっついてしまい(ホモ二量体)、VDRとのペアリングが減る。どちらに転んでもビタミンDの出番がなくなります。
研究グループはここに仮説を立てました。
結果
解析対象は363名(平均年齢66歳、男性67.8%)。がん種の内訳は胃がん43.3%、大腸がん46.8%、食道がん9.6%、小腸がん0.3%。血清ビタミンA濃度は中央値1.38µmol/L(四分位範囲1.05〜1.74µmol/L)、範囲0.15〜4.30µmol/Lでした。
まず、ビタミンAが最低10%(最低decile)の患者群。多変量調整後でも再発・死亡リスクが約2倍(ハザード比2.05、95%CI 1.10-3.84、P=0.03)。ビタミンAの低値は、それ自体が消化器がんの予後不良因子です。
次にビタミンDサプリの効果をビタミンA濃度別に見ています。著者らは臨床基準範囲での分類から始め、2分割、3分割、4分割、5分割、10分割と段階的に細かく分けて、パターンを探索しました。
臨床基準範囲(欠乏<0.7、正常0.7-2.2、過剰>2.2µmol/L)で分けると、正常範囲内では差が見えない。2分割(中央値で上下)にすると、上半分でのみビタミンDの効果が示唆される。3分割では中間群でやや差が出始め、4分割では第3四分位で明確な曲線の乖離が現れる。最終的に10分割(decile)まで細かくすると、decile 6で最も大きな効果が見られ、decile 7、8でも同様の傾向が確認されました。
この3つのdecileをまとめたのが、今回の主要な結果です。
ビタミンAがdeciles 6〜8(1.38〜1.89µmol/L)の患者では、5年無再発生存率がビタミンD群81.4%、プラセボ群54.9%。ハザード比0.31(95%CI 0.14-0.69、P=0.004)。消化器がんの再発・死亡リスクが約69%減少しています。
ビタミンAが低い群(deciles 1〜5)、極端に高い群(deciles 9〜10)では効果なし。交互作用の検定でP=0.008。
「逆説」の解消
この結果は、2019年のJAMA論文で残されていた謎を一つ解いています。
ビタミンD濃度20〜40ng/mLの患者群でビタミンAの中央値を見ると、1.52µmol/L(IQR 1.18-1.88)。今回効果が出たdeciles 6〜8(1.38-1.89µmol/L)とほぼ重なります。一方、ビタミンD濃度20ng/mL未満の患者群では、ビタミンAの中央値は1.22µmol/L(IQR 0.95-1.55)と低い。
つまり、「ビタミンDが中等度の人で効果が強かった」のは、ビタミンD濃度そのものの問題ではなく、ビタミンAも適切な範囲にあったからかもしれない。ビタミンDの効果はビタミンD単独では決まらず、ビタミンAという栄養学的な共犯者の存在が必要だった——というのが著者らの解釈です。
もう一つの「効く条件」——p53
ビタミンAだけではありません。AMATERASU試験からは、もう一つ注目すべき事後解析が出ています。
2023年に『JAMA Network Open』に掲載された論文で、p53免疫反応性のある消化器がん患者群——がん細胞にp53タンパクの異常蓄積があり、かつ血清中にp53抗体が検出された患者群——に絞ると、ビタミンDサプリの効果が劇的だったという報告です。
5年無再発生存率はビタミンD群80.9%、プラセボ群30.6%。ハザード比0.27、P=0.002。消化器がんの再発・死亡リスクが73%減少。 非p53免疫反応群では効果なし(交互作用P=0.005)。
p53は消化器がんで最も高頻度に変異する遺伝子の一つで、胃がんや大腸がんの約半数で変異が報告されています。変異型p53に対して免疫系が抗体を作っている状態は、免疫系ががんを「認識」している証拠です。ビタミンDには免疫機能を増強する作用が知られており、免疫系ががんを認識している患者でこそ効果が発揮されるという解釈がなされています。
ビタミンAの至適範囲、そしてp53免疫反応性。「ビタミンDが消化器がんに効く条件」が、少しずつ見えてきています。
この論文の位置づけ
VDR-RXRヘテロ二量体の話は基礎医学では以前から知られていました。それを臨床のRCTデータで検証し、effect modificationとして示したのは世界初です。
先行研究との整合性もあります。メラノーマでは、血清ビタミンAが高い患者でビタミンDの予後改善効果が減弱するという報告(Field et al., 2013)。大腸がんでは、ビタミンAとビタミンDがともに低い患者で予後が特に悪いというDACHS研究の報告(Maalmi et al., 2018)。いずれもビタミンAとDの相互作用を示唆するもので、今回の結果と方向が一致しています。
一つ気になる点があります。論文ではビタミンAとビタミンDの血中濃度が正の相関を示していました(ρ=0.31、P<0.0001)。どちらも脂溶性ビタミンで、栄養状態が全般的に良い人ほど両方高くなる傾向がある。今回の「ビタミンAが中〜高めの人で効果あり」が、単に栄養状態の良い人ほど治療反応が良いという話に過ぎない可能性は、完全には否定できません。
そして繰り返しになりますが、これはRCTの事後解析です。事前に計画された検証ではない。著者ら自身、AMATERASU試験からこれまでに複数の事後解析(p53、PD-L1、SPARC、組織型、ビタミンDバイオアベイラビリティなど)を発表しており、多重比較によるtype I errorのリスクは否定できないと正直に認めています。decileの分割とグルーピングもデータを見てから決めており、仮説生成としては強力でも、確認試験なしに臨床を動かすエビデンスにはなりません。
サンプルサイズは全体で363名。deciles 6〜8に絞ると約110名。さらにビタミンD群とプラセボ群に分かれるわけですから、かなり少ない。
研究グループは2022年からAMATERASU試験の第二弾を開始しています。第二弾では対象が消化器がんにとどまらず、頭頸部がん、肺がん、乳がん、肝臓がん、膵臓がんにまで拡大されました。 ここでビタミンA濃度やp53免疫反応性による層別化が事前に組み込まれれば、本当の検証になります。
食事の話
ビタミンAはレバー、うなぎ、卵黄に多く含まれます。緑黄色野菜のβカロテンは体内で必要量だけビタミンAに変換されるので、通常の食事から極端な欠乏になることは少ない。
ただ、日本人のビタミンA摂取量は推奨量を下回っている人が多い。令和元年の国民健康・栄養調査によると、成人の平均摂取量は男性552µgRAE/日、女性518µgRAE/日。食事摂取基準(2025年版)の推奨量は成人男性で850〜900µgRAE/日、女性で650〜700µgRAE/日です。平均で見ても推奨量に届いていません。
消化器がんの術後患者であれば、なおさらです。胃を切除した患者は栄養吸収能が落ちている。食が細くなる。脂溶性ビタミンの吸収も低下しやすい。今回の論文でもビタミンA最低decileの患者は再発リスクが2倍でした。消化器がん術後の栄養状態を整えることは、ビタミンDサプリの効果云々以前に、それ自体が予後に関わるということです。
かといって、サプリメントでの大量摂取は勧められません。ビタミンAは脂溶性で蓄積します。過剰摂取で肝障害が起きる。妊婦では催奇形性のリスクもあります。βカロテンサプリが喫煙者の肺がんリスクを上げたATBC試験やCARET試験の話は、今回の論文でも引用されています。「多ければ多いほどいい」は通用しません。今回の研究でもdeciles 9-10の高値群では効果が消えています。
ビタミンA検査という現実
血清レチノール(ビタミンA)の測定は、通常の健康診断には含まれていません。保険適用も限定的です。今回の研究で効果が出た範囲は1.38〜1.89µmol/L。臨床基準範囲(0.7〜2.2µmol/L)のちょうど真ん中からやや上です。特別に高い値ではありません。
一部の自費検診や栄養外来で測定できる施設はありますが、広く普及しているとは言いがたい。今後、ビタミンDサプリの個別化が進むなら、ビタミンA濃度の測定も選択肢に入ってくるかもしれません。
ビタミンDの1日2,000 IUは安全域の範囲内とされています。論文では、サプリ摂取1年後の25(OH)D濃度は中央値41ng/mLに上昇しており、著者らは「20ng/mLを超えるだけでなく、40ng/mL前後を維持することが抗がん効果に最適かもしれない」と述べています。ただし、がん再発予防目的での摂取は主治医と相談してください。
食事でビタミンAを整えた上で、ビタミンDを考える。地味ですが、今の段階で言えるのはそこまでです。
大腸がん15万人、胃がん11万人。毎年それだけの人が診断されている。第二弾の結果が出るのを待ちます。
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