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第一章 北極星
(1)
早朝。JJは軍用テントを這い出して、昨夜からそのままにしてある携行用ガスバーナーに火をつけた。まだ薄暗い中、アルミ水筒の水を沸かし直してコーヒーを淹れる。規定行動要綱からは逸脱した行為だ。強化兵には『非効率的な嗜好品摂取』は原則として禁じられている。だがJJはあえて、このささいな規律からの逸脱を日課にしていた。
支給外物資であるコーヒーの粉をSS製蓋つきマグに入れる。湯が沸くのを待つついでに手をかざして暖をとる。吐く息が夜明け空へ舞い上がり、つられるように視線を上げて夜と朝の境界線を眺めた。
藍とオレンジの境目のあの色を、なんと呼べばいいのかは知らない。
砂漠にたったひとりでいると地球上の人間すべてが、自分を遺して滅亡してしまったのではないかと思えてくる。何日も生身の人間と話さないこともザラだった。首の裏に埋め込まれたICチップ(個体識別・神経行動管理ユニット)が常に作動していることを思い出さなければ、ここでは自由な気分になれる。ひび割れた大地に棲息する動植物はごくわずか。見渡す限り生命の気配を感じない。
――けれど、空だけは綺麗だ。
この世界もまだまだ捨てたものじゃないと錯覚できる。
エリアCは砂漠地帯のため昼夜の寒暖差が激しい。夜は氷点下の冷え込みとなるが、日が昇って二時間もすれば灼熱地獄と化す。中央都市軍が支給する温度調整薬を使用すれば環境変化への順応は容易いが、JJは敢えてそれを使用せず、自然の変化を体で感じることを好んでいた。コーヒーを飲み終わるころにはすっかり防寒着の要らない気温になるだろう。
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