20年ほど前から日本でよく使われるようになった「格差社会」という言葉。現代日本の格差は「なだらかな坂」などではなく、格差は非常に大きくなり「新しい階級社会」が誕生しているのをご存知だろうか。
本記事では、現代日本を分断する「階級社会」の実態と、新たな最下層階級「アンダークラス」が直面する危機について、橋本健二氏(早稲田大学人間科学学術院教授)による解説をお届けする。
※本記事は『Tropic』より抜粋・編集したものです。
この国を覆う「新しい階級社会」
日本では2006年ごろから、経済的格差の拡大が注目を集めるようになり、「格差社会」が流行語になりました。今日では「格差社会」は、現代日本を象徴する言葉として、すっかり定着しています。
しかし格差は、貧困層から富裕層まで、なだらかな坂のように続いているわけではありません。私たちの社会には、経済的地位が異なり、このために仕事の内容や収入が異なるいくつかのグループがあります。格差はこれらのグループの間に形成されているのです。
経済的な地位の違いが生まれる最大の原因は、生産活動に必要な資本を持っているか否かです。資本を持っていれば、人を雇って生産活動を組織し、経営者となって利益を得ることができます。資本を持っていない人は、雇われて労働力を提供し、見返りに賃金を受け取って生活しなければなりません。ここで資本を持っていて他者を雇う側の人々を資本家階級、雇われる側の人々を労働者階級といいます。
労働者階級は現場で働いて多くの富を生み出しますが、資本家階級はその一部だけを賃金として支払い、残りは利益として手に入れます。だから資本家階級と労働者階級の間には、大きな格差が生まれます。資本家階級と労働者階級は、現代社会の二大階級です。
しかし私たちの社会には、古くから農家や商店、町工場などを営んでいる自営業者もいます。これらの人々は資本を持ってはいるのですが、その量が少ないために人を雇わずに自ら現場で働いています。資本を持つという資本家階級の性質と、現場で働くという労働者階級の性質を兼ね備えていることから中間階級、しかも古くから存在する階級なので旧中間階級と呼ばれます。
他方、経済が成長して企業の規模が大きくなると、資本家階級はいちいち労働者階級の働き方を決めたり、指図をしたりすることができなくなります。そこでこうした仕事を、資本家階級に代わって行う人々が現れます。これらの人々は資本家階級と労働者階級の間に位置しているので中間階級、しかも新しく登場した階級なので新中間階級と呼ばれます。
このように近代社会は、資本家階級、新中間階級、労働者階級、旧中間階級の四つの階級から成り立っています。それぞれの階級の内部にも格差はありますが、一般的にいえば、収入は資本家階級が最も多く、労働者階級は少なく、新中間階級と旧中間階級は中間的です。ただし最近では、大企業との厳しい競争のため、旧中間階級の収入は低下傾向にあります。働き方も大きく違っていて、資本家階級と旧中間階級が自分の裁量で仕事の進め方を決めることができるのに対して、雇われ人である新中間階級と労働者階級は、権限に多少の違いはあっても、基本的に資本家階級の指図のもとで働かなければなりません。