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寒い国から来た鬼類  作者: 弐乃
第10章 鬼類、ダンスを踊る
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エピソード龍美・11

「俺のお古で申し訳ないんすけど」

 そう言って礼二はあたしにサワザキ製の古いオフロードバイクを提供してくれた。傷だらけでウインカーもライトも付いていない。

「公道を走らないからライトもウインカーも、もちろんナンバーも要らないんです。音もうるさいっすよ」

 バイクを貰えるのはありがたいけど乗れないんじゃ練習にならない。

「大丈夫です。コースがあるのはほぼ山ん中ですから好きに練習できますよ」

「その山の中までどうやっていくの?これ担いで行くわけ?」

「ははっ、まさかまさか。先輩が軽トラ用意してくれますんで」

 先輩はマウントクリークのメンバーだった。名前は吉川。鬼人ではない。

「マウントクリークを立ち上げたのは山浦高校の生徒たちなんだ。俺もOBなんだけどね。山の浦ーでマウント、クリークってわけ」

 軽トラを運転しながら吉川は説明してくれた。

「俺たちのガッコ、やんちゃな奴が多くて。初めはケンカばっかしで。暴走族とやり合ったりしてたらしいよ。もっともうちのチームは族上がりの奴もいるし、族と兼任って奴もいたんで、族とケンカしてんのか族がケンカしてんのかよくわかんなかったらしいけどね」

 吉川さんは運転、あたしは助手席。礼二くんはバイクと一緒に荷台に乗っている。パトカーや白バイが来ると素早く体を伏せて隠れるんだとか。

 小一時間ほど走って、山肌が剥き出しの低い山が見えてくる。舗装道路も途切れ、石ころだらけの土の道路をゆっくりと登っていく。すると小学校の校庭くらいありそうな、おおむね平らなと言える台地に出た。開発途中で中止になった宅地開発の跡地。そこにマウントクリークのメンバーたちがコツコツとダートコースを手作りしたのだという。

「さっ、着きましたよ姉御」

 礼二くんが荷台から飛び降りてバイクを降ろしにかかる。動きがキビキビとしていて気持ちがいい。

 あたしは吉川さんからギアの変え方、クラッチの合わせ方を教わる。さて、いよいよ実走だ。

「エンジンをかけるところからが練習ですからね。ペダル、ちょっと重いすよ」

 このバイクはレース用。便利なスターターモーターなど付いていない。

 あたしは全体重をかけてキックペダルを踏み込む。エンジンは軽い咳払いをしただけ。乙女のあたしは羽根のように軽いのでキックスタートは難しい。二度目の、渾身の蹴り込み。エンジンが頼りなくパラパラと泣き、やがて力強くパンパンと音を立てて回り始める。

 吉川さんが手渡してくれたヘルメットとゴーグルを付ける。

「さぁ、軽く一周してみるか。ゆっくり、コースを確かめながら。無理せずにスローペースでいいから」

「OK」

 あたしはバイクに跨り親指を立てる。

「姉御、気をつけて」

 礼二君があたしの肩をポンと叩く。あたしはクイッとアクセルを捻り、クラッチを合わせる。力強く背を蹴り込まれたようバイクが飛び出す。エンジンの唸り。手と足、お尻から伝わる振動。サワザキのマシンが土と小石を跳ね飛ばしながら駆けていく。あたしは必死でバランスを取りながらカーブを回り、小山を登り、ジャンプし、後輪を滑らせながらコースを走る。

 二人の待つスタート地点で止まるときブレーキの力加減を間違えてつんのめりエンストしてしまった。

「うひょー、43秒36だよ?こりゃひょっとすると40秒切っちゃうな!」

 礼二くんが興奮したように叫ぶ。

「おーっ、龍美ちゃんやるなぁ!やっぱ鬼人は違うんだな」

 吉川さん手加減無しであたしの背中を叩く。ちょっとちょっと、ブラのホックが外れたらどうしてくれんのよ。

 あたしはその後コースを二十周ほどし、ベストタイムを39秒22まで伸ばしてその日の練習を終えた。

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