女の子が「遅刻、遅刻〜」と言いながら、食パンをくわえて走っていたら、曲がり角で男の子とぶつかる。
少女漫画における「出会い」のベタな描写として広く認知されている、こちらのシーン。
ところが下記の記事によって、「実は少女漫画には見当たらない」説が浮上。
こちらの記事が先週土曜(14日)、はてなブックマークの人気エントリーに掲載されたことで話題になっています。
「食パンをくわえて走る少女」 実は少女漫画に出現例見当たらず(「太田出版ケトルニュース」2015/3/23)
こちらの記事で「少女漫画には見当たらない」説を唱えているのが、1960年代の新旧少女漫画、少女小説に造詣が深いお菓子研究家の福田里香さんで、「60〜70年代のラブコメ系少女漫画群を機会があるたび読みあさっているが、該当作がない」と語っています。
その代わりに、初めてこのシーンが登場したマンガとして挙げているのが1989年に出版された『サルでも描けるまんが教室』(小学館)。
ただし、『サルでも描けるまんが教室』での登場の仕方はパロディー。
少女漫画にありがちな出会いのパターンとして取り上げられ、以下のようなセリフで表現されています。
竹熊:そして少女まんがにおいても、ウケるストーリー展開はただ一つ!!
相原:ウケるストーリー展開!!
竹熊:そう、まず出だしは……主人公が「ちこくちこく」と叫びながら、あわてて家をとび出す(ドジだから)のだ!!これ以外ウケる出だしはあり得ない!!そして、さらに重要なのは、このとき、主人公は必ず口にトーストをくわえているのだ!!
相原:確かに面白そうだ。
「パロディーが初出で元ネタがないなんてありえない」との思いから、ここからさらに調べを進めると辿り着くのが、2008年ごろ(※明確な時期は不明)にアップされたというこちらのエントリー。
「遅刻する食パン少女」記事まとめ(廃屋譚WEB)
イラストレーターのはいおくさんが書いたエントリーで、はいおくさんは「元ネタは存在しない」と言い切っています。
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「遅刻しそうな女の子が食パンを咥え、走って登校している途中で曲がり角で男の子とぶつかり…… 」というパターンが「少女マンガの定番」とされることが往々にしてあるが、1970〜1985の『りぼん』作品を全て読破した経験から言えば、そんなマンガは存在しない。定番ではない。
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ちなみに、はいおくさんは『サルでも描けるまんが教室』の著者の一人、竹熊健太郎さんにメールで質問。
「直接的な典拠はなく、いくつかの事例を複合した」との回答をもらったことも上記のエントリーで報告しています。
元ネタが存在しないのに、「少女漫画のベタな描写」というイメージが流布。おかしな現象ですが、なぜこんなことが起きたのでしょうか。
今回の元ネタに関する情報をつなぎ合わせると、その理由がなんとなく見えてきます。
たとえば、エディトリアルデザイナーのほうとうひろしさんが2年前の2013年にした「遅刻する食パン少女」の元ネタに関するツイート。
ほうとうひろし氏による食パンをくわえて登校するキャライメージの元祖探し(「togetter」2015/11/16)
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日本マンガに於ける「ちこく、ちこく〜」と言いながら食パンをくわえて登校するキャライメージの開祖。ちばてつや作「ハリスの旋風」週刊少年マガジン1965年12月19日号より
先週《おそらくハリスの旋風が日本漫画における食パンくわえて遅刻ちこく描写の開祖》と記したが、サトウサンペイ「フジ三太郎」の朝日新聞1965年10月9日号掲載作がふた月早かったと判明。
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ツイートには画像が貼り付けてあり、『ハリスの旋風』には「主人公(男)が遅刻しそうになって、おにぎりをくわえて家を出るシーン」、『フジ三太郎』には「主人公(男)が食パンをくわえて家を出るシーン」がそれぞれ登場すると指摘しています。
また、前出のはいおくさんは、1974年から75年にかけて連載されていた少女漫画『つらいぜ!ボクちゃん』(小学館)に「遅刻しそうな主人公(女子高生)が走り、曲がり角で男の子にぶつかるシーン」が登場すると指摘。
編集者の新保信長さんも、『1・2の三四郎』に同様のシーンがあることをツイッターで指摘しています。
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パンはくわえてなかったと思うけど「遅刻遅刻〜」でぶつかるってのは『1・2の三四郎』の第1話ですでにパロディ的に描かれてたからなー。70年代にはすでに定番表現だったことは確か。
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こうした断片的な情報をつなぎ合わせることによって気付くのが、「遅刻しそうな主人公が食パンをくわえて登校するシーン」と「遅刻しそうになって走り、曲がり角で男の子にぶつかるシーン」が別個には存在するということ。
別個に存在するシーンがいつしかごっちゃになり、その世間的なイメージを『サルでも描けるまんが教室』が少女漫画と結びつけて具現化。
それを否定する人など存在せず、否定するほどの材料もないため、「遅刻する食パン少女」=「少女漫画のベタな描写」は浸透。
それが今日まで続いているということなのでしょう。
(スタッフH)
(2015/11/17 UPDATE)
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