訪露したケニア人陸上選手、「仕事」とだまされ遺体転がる戦場へ「サインしたのは死刑宣告書だった」…軽んじられる契約兵の命
【キーウ=倉茂由美子】ウクライナ侵略を続けるロシア軍は、多数の戦死者を出しながらも、兵士を次々と送り込み戦闘を優位に進めている。前線では強引な勧誘で集めた契約兵らの命を軽んじる扱いが横行する。捕虜となった露軍兵らが、兵士が「使い捨て」にされている実情を明かした。 【写真】ウクライナの戦争捕虜収容所で屋外から室内へと戻るロシア軍兵士たち
「スポーツイベントに参加しに来たのに、戦場に連れて行かれるなんて」。露軍兵として捕虜になったケニア出身のエバンス・キベット(35)は1月下旬、ウクライナ西部リビウ郊外の戦争捕虜収容所で、力なく語った。母国ではプロの陸上選手だった。
昨年8月、露団体主催のアフリカ諸国のスポーツや文化を紹介するイベントに招待され、露西部サンクトペテルブルクを訪れた。これまでも国外の試合などに招かれてきたが、ビザ取得に時間を要し、渡航が実現しないことも多かった。だが今回は、すぐにビザが発給された。
イベントには約20人のアスリートが参加し、キベットはケニアでの食事やトレーニングなどを紹介した。終了後、1人のロシア人男性に声をかけられた。「仕事を紹介するよ」。空港で出迎えてくれた人物で、主催者側の信頼できる人だと思った。ロシア語の書類は読めなかったが、「月給2500ドル(約38万円)で警備員の仕事」と聞き、サインした。苦しい経済状況で娘(16)を育てる身には、魅力的だった。
連れて行かれた「職場」は軍事基地。訓練に参加させられ、5日後には行き先も告げられないまま、どこかの林に連れて行かれた。戦場だった。
部隊では言葉が通じず、上官や他の隊員との会話はない。背中を強く押されると、それが前進の指示だった。腐乱した露軍兵の遺体があちこちに転がり、頭上にはドローン(無人機)が飛び交う。逃げ道はなかった。
ロシア、兵動員の手段選ばず
ロシア軍の契約兵となったケニア人陸上選手のエバンス・キベット(35)は、命令通りに敵地に向かって歩いた。すると、ウクライナ軍のドローン(無人機)が爆弾を落とし始めた。部隊は散り散りになり、キベットも無我夢中で走った。少しして周りを見ると、誰もいない。無線機も与えられておらず、戦場の真ん中で迷子になった。