第64話、罠が弱過ぎると訴えるカスタマーハラスメントの言い分と実態

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後でルビとか仕上げとかしておきます。

とりあえず今はこれでお願いします。内容が変わっていたら、明日分の更新で前述しますので。



〜・〜・〜・〜・〜・〜





 己が内包する極大の魔術を漫然と振るい、世を軽く見下ろす魔王であっても……いいや、だからこそ、これ見よがしな招待は気に障ったのだろう。


 刹那主義とも思える魔王が、今ばかりは苛立ちを先行させている。

 

「罠があるのだろう? さっさと仕掛けを使え。ご自慢のものを、この俺が手ずから迎え打ってやる」


 ポケットに手を入れたままで、吐き捨てるような口調にも荒さが見られる。


 しかし、好機の一手を授けようというのに沈黙する一同。不審に思う魔王は更に目元を険しくさせる。


「どうした。俺の貴重な時間を、ただ消耗しようと言うのか?」

「いやぁ…………もう使ってるんだけどね」

「だと思ったわ」


 深刻な面持ちをするネムの指差す先を辿り、足元へと目線を落とす。そこには音楽ホール前の広場を大々的に使って造られた紋様が描かれていた。


 刻印式の文字列が編み込まれた術は、陣形を取る各員からの魔力により確かに発動している。


「今回は様子見も遠慮も情けも無しだ。あんたを確認後に、しっかりと殺す為にすぐ起動したよ」

「結構なことだ。多少は学習したみたいだな」

「……登録していない全ての動体の体液を蒸発させる殺意増し増しの呪術なんだけどね。流石にこれが効かないとは思わなかったな。思うわけないよねぇ……」


 生物という括りならば、殺傷能力においてネムの使える最上級の術式であった。全幅の信頼を置いた呪術が真っ先に破られ、ネムの気概は過去最低に。


 こればかりは抜かりない準備や儀式が必要不可欠で、完成したなら天使すら確殺できるだろうという代物だったが故に。


「喰らったら破り方なんて存在しない筈なんだけど……参考までに教えてもらえないかね」

「…………」

「あたしの知ってる知識じゃあ、どうにも説明が付かないんだよ」


 学術的な知識から言えば、ネムには何の対処も対策もなく無傷で立つ魔王が信じ難い。この大規模呪術には、まともな防御法は存在しない筈なのだから。


 防ぐ、もしくは遮る方法は、呪術の効力が適用されるより早く儀式を破壊。より現実的なのは、儀式成功よりも早く範囲外へと離脱するか、術者であるネムを殺害する他ない。


「……どうして俺が手の内を明かす必要がある」

「いや待て、実体じゃないのかな? あぁ、そういう事か……」

「…………」

「っ……そういうわけでもないってか」


 幻想魔術などを疑うも、魔王は自らの胸ポケットから金貨を取り出してネムへと弾いた。受け取れたという事は、実体であり本物である。


 理解不能とばかりに参るネムを前に、さして興味も無さそうながら魔王は種明かしをした。


 ポケットから手を出して、指を組んだそれを見せる。


「……この“いん”を結んでいる時、俺はすべての呪術から対象外となる」

「なっ……!? んなデタラメなっ!」

「魔術のように解いたわけではない。魔眼で無効化したわけでもない。そもそも喰らっていないのだ。貴様の言う『登録された動体』と認識されたわけだな」


 指を組んで『印』と呼ぶ形を作り、ポケットの中で護身の術を完成させていたのだと言う。


 ネムが呪術儀式発動へ魔力を運用し、実際に儀式効果が発生するまで約二秒。二秒もあれば魔王は呪術であると見破れただろう。


 あとは『印』を結ぶのみ。自らに呪術効果を透過させる特性を施すだけだ。


「この“印”は魔術的誓約や呪術的束縛により、古来から様々な活用法がされて来た。これは、印による魔術だ」


 目にも留まらない早さで組み合わさっていく両手両指。その数、六度。重ねた『印』が魔術的意味を内包し始め、徐々に形となって現れていく。


 印の上、顎の前辺りに黒々と渦巻いていく一点の魔力。


「さて、それでは罰を与えるとしよう」


 印による魔術発動が、ここに叶う。組んだ両手二本の指先を合わせて構えると、それは瞬時に撃ち出された。


「っ——!? 早いッ……!!」

「腑抜け共め。このような画一的で単純な呪術が俺に通用するなどと、その考えからして侮辱以外の何物でもない」


 小粒サイズの黒い球が射出され、加速度的に巨大化。《歪曲わいきょくの魔眼》がそれを受け止める。


(速いなッ——!!)


 矢の速度で迫る魔弾は、ネムの技量をして空へ打ち上げるのが精一杯であった。


「勇者君の《ハンマー》ってやつかっ!」

「ハンマー? ……ふっ、奴め。俺の《ぎょく》をそのような洒落しゃれた呼び名に変えるとは。あくまで俺とは隔絶した存在と謳うか」

「黒騎士さんの話か……? いい機会だ。あんたとあの人はどういう関係なのか、この流れで訊いておこうか」


 点灯した魔眼をそのままに、予備として用意しておいた魔王対策の呪具へ手をかける。懐を探る時間を稼ぐべく、大して期待もしていない返答を待った。


 ところが、ここに来て魔王は誰もが知りたがるも、触れる事の出来なかった疑問を答えてみせた。


「あれはぁ…………俺の弟だ。くははははぁ!!」


 見事に腑に落ちる感覚を味わう。並ぶ者らは胸にあったモヤが晴れる実感を体感する。


 同質の魔力に加えて、同様の神業。更には魔王の現れた時期に王国へやって来た黒騎士という必然。


 答えは、“血”であった。


「久々に血を見ようかっ!! ちょっと楽しみにしていた俺を気落ちさせたなっ!? 貴様ら有象無象を轢き潰し、我が弟に置き土産をくれてやるとしよう!!」

 

 魔王の表層から薄闇が滲み立ち昇り、より濃密な球体が両手の『印』により充填される。同時に押し潰さんばかりの重圧が、一同の全身を踏み付けた。


 黒弾の王と化した魔王を前に、重くのしかかる『毒』で身体は麻痺する。回転する魔力に吹き飛ばされないよう、身を屈めるのがやっとであった。


「自分は違うと言ってみろ、セレスティアっ!!」

「ならば、今回は私も本気で参りましょう」


 対抗するのは、装飾剣を生み出して全霊の『光』を噴き登らせるセレスティア。剣が放つ『光』と共に太陽からの光も導き、反射するものも取りまとめて一つに。


 また新たな魔術様式を披露する魔王に対して、地表と大気を焼き焦がす光球を生み出した。


 魔王へ撃ち出す光速の蓄熱移動。速度と熱量は《玉》を遥かに上回る。


 最高の一発勝負。視覚ではセレスティア優勢にも見えるが、光玉と黒玉が勝敗の行方や如何に。


「…………」


 ふとした瞬間だった。魔王から発せられていた圧力が失せ、その姿は何かを察して固まった。


 気配を探るように、耳を澄ますように、匂いを辿るように……。


 魔王の意識は完全にセレスティアから離れ、程なく確信に至った様子で————笑みを浮かべた。見た者に悪寒を走らせる邪悪な笑みではなく、爽やかさすらある溌剌とした笑みだ。


「訂正しよう。諸君、どうやら君達の中にも骨のある者がいるらしい」


 語り口も楽しげに、魔王は近くにいた女騎士から鞘ごと剣を取り上げ、腰にあるベルトへ装着。抜剣し、陽に翳してを確認する。


 何を言っているのか、これから何をしたいのか。静かな現場には変わったものはなく、セレスティアにも変化はない。剣を手に取ったというのに、魔王には殺気すらない。


「諸君がどこまでの実力者となるかは未知数だ。けれど、いつしかそれなりの実力者が発する独特の気配が分かるようになる」


 射光を弾く剣身を読み、刃に視線を走らせ、一度だけ手元で取り回す。

 

「さぁ、はどんなものだ?」


 振り向いた。心踊ると表情に表しながら、滑らせる剣を添えて。


「————っ」

「————!!」


 突然に弾ける大火花。鋼と鋼が生む刃の雷。これらが目の前に突如として巻き起こる。


 気配もなく飛び込んだ人影を、魔王が喜悦で迎え入れた。


 その対比を受け入れた。


「っ……!!」

「あぁ、この剣……久しぶりに“血が踊っている”と感じている。名を聞こうか?」


 瞬時の一合から続く鍔迫り合いも、魔王であってさえ譲らないその人物。何よりも魔王の口振りが証明する、技量の為せる拮抗を作り出したその人。


「シーロ・ユシヤと申します。やっとお目にかかれましたね、魔王陛下」


 白と黒。勇者と魔王。またここに互いの顔を知らなかった上でさえ、繋がっていた因縁が邂逅する。


 接点は高まる力みに軋みを上げ、良い所と見たシーロが受け流しながらに肘打ちを突いた。轟と迫る肘打ちは、あるいは刃よりも優れた凶器と化す。


「ふっ……!」

「ハハっ、珍しい技だ」

「噂通りに、初見でも《裏打ち》を避けるか……」


 顔も身体も傷だらけで、首元や手に巻く包帯には血が滲んでいる。なんと痛々しい事か、つい先日まで重傷者であった出立ちだ。


 なのに体躯は足の裏から地に根が生えているかのような頼もしさがある。先程から手に持つ剣には、指先から切先まで神経すら通っていそうな精細さを感じる。


「シーロさんっ? 戻るって話は聞いていたが、帰還にはまだ早くないかい?」

「嫌な直感があったので出来るだけ急いで来ました。ネム殿も健勝そのもので何より。セレス様を頼みます」


 名乗りを耳にして驚いたのは、周囲の側であった。騎士もネムもシーロの稽古は見かけた事もあるが、確かに王国の最高水準であった。


 しかし、今のシーロは剣術の質がまるで別物に変質している。基礎的な剣術は、より具体性を帯びたものへ。


「……見かけない剣術だな。かと言って、成長を止めた古臭い類のものでもない」

「基礎しか教わっていなかったのですが、父から改めて指南を受けて参りました。魔王陛下や魔族のお眼鏡に叶うように」

「剣術の名は聞いてもいいのか?」

「名は『新式・巡転流剣術』です。剣術と体術を合わせて使う流派らしく、家族に甘い父から死ぬ気で教わって来ました」

 

 固め固めた地盤の上に、スノウ・ユシヤが修める型を築き上げた。


 密かに引き出した“白の魔力”による恩恵も、手段を選ばず惜しみなく注ぎ、この短期間でシーロは自らの思い描く剣士像すらも優越した。


「ほほぅ? では、

「ご謙遜を。昨日今日の若造に、魔王陛下が何を仰いますか」


 言葉は穏やかであっても、剣を競う力量において不足のない相手と知り、互いの顔付きは相応の“熱”を宿している。


 この日は必然だ。


 あの日、【黒の魔王】が幼きセレスティアと出会った。シーロは封印の維持という役目から解き放たれ、新たに魔王打倒を目指した。


 剣、心、体。基礎に基礎を重ね、スノウの理想を落とし込めるまでの基盤を育てた。それが父スノウが年老いてから悟った最適解だったから。だから、残る“技”を残して作り上げた。


 そして今、未だ未完成ながら、その理想はシーロの身体へと乗り移る。勇者が勇者の為に作り上げた剣技……空白の剣へと彩りが刻まれた。


「ハハっ!」

「フッ……!」

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古き魔王の物語をっ! 壱兄さん @wanpankun

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