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多様性か逆差別かー揺れるアメリカと立ち遅れる日本ー【#政策4】

みなさん、こんにちは。
三加茂けいすけです。

突然ですが
企業における女性の役員の比率を◯割にする
役所の審議会における女性委員の比率を◯割にするといった、
女性活躍の数値目標の話を耳にすることがありませんか?

これって、何のためにやっているか、ご存知ですか?
男女平等のため?多様性の確保のため?

今回は、南川文里著『アファーマティブ・アクション 平等への切り札か、逆差別か』(中央公論新社、2024年)の内容を踏まえて、アメリカ社会の分断を象徴するこの制度が、どのように始まり、なぜ「終わり」を迎えたのか。そして日本社会への示唆は何なのかを探ってみたいと思います。

1 アファーマティブ・アクションとは

アファーマティブ・アクションとは、ジェンダーはもちろん、人種、民族、階級、障害などの理由によって不利な立場にいる人びとを支援する「積極的な措置」を意味しています。

私たちの身のまわりにある、大学入試の女性枠や、大学教員の女性選任ポストの創設も、アファーマティブ・アクションの一例であり、社会の様々なところで見られる試みです。

アファーマティブ・アクションの源流は、1960年代のアメリカにあります。
アメリカ社会では、なぜこうした措置が必要とされたのでしょうか。

その背景には、アメリカ社会における奴隷制や人種隔離制度によって形成された、著しい人種不平等があります 。

1964年の公民権法によって法的な差別は禁止されましたが、それだけでは解消できない問題が残りました 。それは、差別的な意図がなくてもマイノリティを不利な状況へ追い込む「暗示的かつ制度的な差別の構造」です 。

例えば、黒人が多く住む地域では以下のような「負の連鎖」があります。

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【黒人社会における負の連鎖】

アメリカでは人種に関する統計数値も蓄積されていたこともあり、統計によって可視化された構造的な不平等を是正するための取り組みとして、1960年代のジョンソン政権期にアファーマティブ・アクションは始まりました 。

2 アメリカにおけるアファーマティブ・アクションの歴史

アメリカにおけるアファーマティブ・アクションは、時代とともにその役割や正当性の根拠を変遷させてきました。

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【変遷の概要】

① 拡大期:効率的な福祉政策として
ニクソン政権下(1969-1974)では、企業に数値目標の達成を求める形で推進されました 。これは大規模な予算を必要としないため、効率的で安上がりな差別是正措置として政権の方針に合致していたからです 。

② 転換点:「逆差別」論争と「多様性」へのシフト
大きな転機となったのが1978年のバッキ判決です 。
白人男性が「非白人枠(クオータ)の設置は逆差別だ」と訴えたこの裁判で、裁判所は制度的な差別是正としての役割を否定しました 。
一方で、教育における「多様性の追求」という目的であれば人種の考慮は許容されるとし、ここから議論の焦点が「是正」から「多様性」へと移り変わります 。

③ 定着と変質:DEIの流行と本来の目的の喪失
2000年代以降の判決を経て、大学や企業では「多様性」のためのアファーマティブ・アクションが定着しました 。
雇用においては多様性マネジメントやDEI(多様性・公平・包摂)というビジョンへと展開していきます 。
しかし、これはアファーマティブ・アクションが、本来の目的であった「構造的な人種不平等の解体」からは離れ、組織のパフォーマンス最大化を目指す取り組みへと変貌してしまった側面もあります 。

④ 終焉:アジア系差別という争点
そして近年、「公平な入試を求める学生の会(SFFA)」が、ハーバード大学などによるアジア系入学者の制限を訴えた裁判(SFFA判決)により、多様性のためのアファーマティブ・アクションも否定されることになりました 。
この背景には、①トランプ政権になってからアメリカ最高裁の判事に保守派判事が任命されたこと、②アイビーリーグや一部の名門大学を除いた大半の大学では、大学在学者の人種別構成割合が合衆国全体の人種別割合とかなり近づいており、アファーマティブ・アクションを実施せずともマイノリティ人種の学生受け入れが実現できるようになったことなどがありました。

南川氏は、アファーマティブ・アクションの終わりは人種平等のためのアクションの終わりではないとし、歴史的文脈の認識や、人種以外の属性(階級・ジェンダー等)との交差性(インターセクショナリティ)を考慮する重要性を説いています 。

3 日本社会における課題

最後に、日本社会の現状について触れます。
世界に目を向けると、カナダでは憲法で是正措置が「逆差別」に当たらないと定められており、ルワンダやメキシコなどクオータ制(性別などに基づき一定の人数を割り当てる制度)を採用している国では女性議員比率が50%を超えています 。一方、本著によると、クオータ制のないアメリカの下院の女性割合は29.2%、日本の衆議院は10.3%(世界164位)に留まっているとのことです。

ちなみに、出雲市議会の女性の人数は定数30人に対して2人。
めちゃめちゃ偏っています。

日本でも、女性進出や海外ルーツの子供への支援など、アファーマティブ・アクションに関連する議論は存在します 。
しかし、日本には憲法上の平等を実現化するための包括的な差別防止法が成立していないこと、また人種・民族マイノリティに関する公式統計がないため不平等の構造を可視化できないといった課題があり、日本の取り組みは不平等な構造を変えるための体系的な視点を欠いた「対症療法」になっていると、南川氏は厳しく指摘しています。

4 政策への示唆

以上、南川文里著『アファーマティブ・アクション 平等への切り札か、逆差別か』の内容をもとに、アファーマティブ・アクションの概況を見てきました。

日本社会においては、アファーマティブ・アクションは主に男女平等という観点から進められており、大学入試における女性枠の設置、大学の教員公募における女性研究者ポストの設置、会社役員への女性の登用などが実施されています。

様々な議論がありますが、本著の内容を踏まえると、日本社会でのアファーマティブ・アクションは、アメリカで1978年のバッキ判決から2000年代にかけて行われた多様性マネジメントやDEI(多様性・公平・包摂)の確保といった観点で行われており、本来の目的であった「構造的な不平等の解体」という目的を見据えられていないと感じています。

繰り返しになりますが、米国におけるアファーマティブ・アクションの本来の目的は統計数値で可視化された構造的な不平等の是正にあります。
この観点を踏まえて日本社会における男女平等のアファーマティブ・アクションを捉えるのであれば、男女比の数値目標の達成を求めることと併せて、女性が社会的に仕事を続けやすい社会環境・企業環境の整備を一層推進し、「不平等を生み出す構造」を変容させることが重要です。

これは個人的な感覚になるのですが、日本社会には米国における市場や社会の変化が、5-10年後にやってくることがよくあります。

アメリカ社会の状況を踏まえると、日本社会におけるアファーマティブ・アクションも、今後より戻しの時期がやってくる可能性が高いです。
その時に、逆差別といった感情的な議論に踊らされるのではなく、本来の目的である「構造的な不平等の解体」を忘れることなく、アファーマティブ・アクションについて冷静な議論を行うことが必要になるはずです。




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