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“悩んだ過去の自分”に向けて、文章を綴る。桜林直子さんとsoar工藤瑞穂が大切にしていること

情報があふれるインターネットのなかで、時に、大切にしたい”お守り”のような記事や言葉に出会うことがあります。考えるきっかけを与えてくれたり、日々の暮らしの指針になったり、行き詰まったときに心の支えになったり。

私自身、soarのなかに、そんな記事や言葉がいくつかあります。同じく、今回ご登場いただくサクちゃんこと桜林直子さんのnoteのなかにも、時折思い出す、大事にしたい記事や言葉があります。

桜林直子さん(サクちゃん)は、クッキー屋「SAC about cookies」を経営し、ほぼ日で「たべびと」を連載していた現在15歳のあーちんのお母さん。自身の経験や日々考え続けていることを飾らない言葉で綴ったnoteは多くの人の支持を集めています。そして、桜林さんは、設立当初からsoarを支えてくださっているサポーターの1人でもあります。

”お守り”になるような記事や言葉はどうやって生まれているのだろう。桜林さんは個人として、soarはメディアとして、どんな想いで、誰に向けて、何を伝えたいと思っているのか。

友人としても仲がよい桜林さんとsoar編集長工藤瑞穂に話を聞いて、「伝えるということ」について、深掘りしていきます。


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「友だちを紹介するように書く」ことで読者との距離を近づける

ーー サクちゃんがsoarを知ったきっかけは?

桜林直子(以下、桜林):3年くらい前にnoteを始めた頃、編集という言葉を知って、気になって、色んなメディアの記事を読み漁っていたんです。その流れで、soarに出会って、他のメディアとは何かが違うぞ、と気づいたら何度も読み返していて。私の中でsoarが熱い存在になりました。

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工藤瑞穂(以下、工藤):ちょうどその頃に、共通の友人の紹介ではじめて会って、パフェ屋さんで、編集や書くこと、発信について話したことを覚えている!サクちゃんは友だちになる前、soarの立ち上げの頃のクラウドファンディングに参加してくれているんだよね。

桜林:瑞穂ちゃんと友だちだからとか関係なく、純粋にsoarすごいなって思っていたから。

ーー サクちゃんがsoarに感じた”すごさ”や”熱さ”はどこにあったんですか?

桜林:soarは「私を拡散器として使ってください」と全方向に向いているわけでもなく、「わかる人にだけわかればいい」と閉じているわけでもない。その絶妙なバランスがすごいなって思っています。

それから、ただ”情報”を届けるでもなく、"私が”と主張するでもなく、友だちを紹介されているような気持ちになるところ。しかも、記事ごとに、色んな登場人物や書き手がいるのに、どれも同じトーンや温度感がある。そんなメディアは他になかったから、衝撃だったし、どうしてこうなるんだろうって不思議でした。

工藤:サクちゃんが言ってくれた「友だちを紹介するように書く」というのはsoarの編集方針の一つなんです。それは、私の個人的な体験に紐付いていて。

ーー どんな体験ですか?

工藤:4年ほど前のある日、友だちから呼び出されて「僕、お嫁さんになりたいんだよね」って言われたんです。可愛らしい男の子だなあと思ってはいたけれど、当時、私は、LGBTの子にカミングアウトを受けたことがなかったので、びっくりしました。

でも、その瞬間から、自分とは遠い存在で他人事だったセクシャルマイノリティのことが、自分事になったんです。トランスジェンダーでもゲイでもないと話す彼がお嫁さんになるためにはどうすればいいのか。自分なりに考えて、情報収集をしたり、レインボープライドパレードに参加してみたり。彼らが近い存在になった。

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その体験から、自分との違いがある相手を理解していくには、一方的に啓蒙されるよりも、友だちになって「一緒に考えていきたい」という気持ちを持つことが第一歩になると思ったんです。だからsoarでは、「友だちを紹介するように書く」という姿勢を大事にしています。

桜林:うんうん。記事から、瑞穂ちゃんから見たその人を伝えたい!という気持ちがすごく伝わってきた。

工藤:soarで一番初めに出した筋電義手「handiii」の記事も、2番目に出した難病・遠位型ミオパチー患者の織田友理子さんの記事も、インタビューイと私の出会いから始まっています。

たとえば、織田友理子さんとは、とあるイベント会場で出会い、「あの車椅子に乗った、凛とした美しい女性は誰だろう」と気になって、名刺交換をしたんです。すると、後ろにいた旦那さんがすっと名刺を差し出して。「車椅子だから足が弱いのはわかるけれど、どうして名刺交換を別の方がするんだろう」という疑問から、自身で腕を上げたり物をつかんだりするのが難しい難病だったことを知りました。そういった出会いや、私の疑問や想いもそのまま記事に書いています。

以来、soarの記事は、インタビュアーである書き手の「私は」という主語で始まっていますが、ライターが黒子ではない書き方は、当時は珍しかったのかもしれません。

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桜林:だから、衝撃を受けたんだと思う。瑞穂ちゃんが書いていない記事も、”私が見たその人”が伝えられているから、そこは編集で決めているところなんだろうなと思っていました。

聞き手と話し手の人生が重なったとき、誰かの心を動かす文章が生まれる

ーー 瑞穂さん個人の体験から自分で書き始めて、他のライターさんにお願いして編集をする際に、意識していることはありますか?

工藤:インタビュアーとインタビュイーの人生が重なるような組み合わせにすることはすごく意識しています。soarのライターさんにもそれぞれ抱えている困難や関心のあるテーマがあるので、取材相手とそこがピタッとハマると、感化されて、伝えたい想いも高まって、自然と文章もその人にしか書けないものになります。

でも、だからこそ、soarのライターさんは自身の過去や気持ちに向き合わざるを得なくなり、しんどいときもあると思います。こんな話を聞いてしまったら適当には書けない!と。

編集長としては、今回のテーマや取材先は「この人(ライター)のど真ん中だったなあ」と思う記事になったときは、やっぱり嬉しいですね。

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ーー 書き手が主語で、話し手の物語を語るのは、そのさじ加減が難しいこともありますよね。

工藤:自分の話になりすぎているときや、逆に他人事になりすぎているときは、思い切って、はっきりとフィードバックします。soarのライターさんはみなさん粘り強く向き合ってくれるので。

ーー soarで編集をしていて私もそう感じます。soarは瑞穂さんという個人の体験や想いをベースにした編集方針があって、その世界観や空気感が好きな人たちが集まって、守っていくような感じがありますよね。

工藤:私が編集やメディアの素人だったからよかったこともあると思います。今でも覚えているのは、soarを始める際に、医療記者の朽木誠一郎さんにいろいろ相談したら、「瑞穂さんの好きにするのが一番ですよ」って一言だけしか返ってこなくて(笑)。

桜林:そのときには、瑞穂ちゃんのなかで、こうしたいっていう編集方針はもう決まっていたんだろうね。

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インターネット上の不特定多数ではなく、過去の自分や隣のあの子に向けて書く

ーー サクちゃんがnoteで書き始めたきっかけは?

桜林:はじめは誰かに読んでもらうことはまったく意識していなくて、自分の記録のために書き始めたんです。「私は過去にこんなことをしてきました」っていうただの記録。今の自分のことじゃないから、どこか客観的だし、誰も読んでないと思っていたので、わかりやすく書くことにさえ、照れがありました(笑)。

でも、だんだん読んでくれる人たちがいることを知って、Twitterを通じて感想も届くようになって。そのときに「私が思っていたことを言葉にして、可視化してくれてありがとう」みたいな声が多くて、私はいつも頭で考えているから、もやもやしていることを言葉にするのが得意なんだ、ということに気づいたんです。

特異な経験とか変わった考え方とかじゃなくても、みんなが考えていそうな当たり前のことを言葉にするだけでも価値がある。自分が得意なことをして、喜んでくれる人がいる。そう思うようになってからは、書くことが恥ずかしくなくなって、書き続けています。

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ーー 当初は自分の記録として書いていて、今は誰に向けて書いているのでしょうか?

桜林:うーん、誰に向けて書いているとかはないかな。ひとつ挙げるとすると、過去の自分に向けてというのはあるかもしれません。嘘なく、美化することもなく、過去の自分に対して「こうだったね」と言葉をかけてあげる感じ。

ただ、どこを向いているかというと、SNSを頻繁に使っていないような、インフルエンサーを知らないような人たちに届いたらいいなって思っているかも。私が軸足を置くお菓子業界には、インターネットに触れる時間も興味もないし記事も読まないという人たちがいっぱいいて、そういう人たちにも届けたい。だから、ネット上で「バズる、読まれる」ということは、逆に意識していないし、目的にもしていません。

工藤:そこはsoarも同じで、SNS上でバズることよりも、何かしらの困難に出会った人たちが検索してたどり着けることを重視しています。病気や障害の当事者やその周りにいる人たちが、助けを求めて検索したときに、行き着く先がsoarであったらいいな、と。

だから、soarの記事は、「今この困難と出会った人」といったように具体的な読者を思い浮かべて「たった一人のあなたへ」届けたいという思いで書いています。私やライターさんが、困りごとのある自分自身や友人たちに向けて書くことも多い。インターネット上にいる不特定多数の人ではなく、私の隣にいるあの子に向けて書くという感じです。

誰かがちょっと行き詰まったときに逃げ道を見つけられる「考え方」を伝えたい

ーー 「隣にいるあの子」に向けて書くときに、大事にしていることはありますか?

工藤:取材のときに、自分がもしその状況になったら困るだろうなと思うことや、具体的な一人を思い浮かべてあの人が聞きたいだろうなと思うことは、全部聞くようにしています。

あと、当事者の方が自分の経験を書くコラムは、他のメディアで書いたこともないし、自分が書くなんて、とはじめは自信がない人たちも多いんです。でも、「あなたなりに伝えられることがある」と問いかけていくと、核にある思いや伝えたいことが出てくるんですよね。「私にはこういう困難があって、こういう工夫をして、今を生きています」という構成で、その人なりの生きる知恵や姿勢を示していくことを大事にしています。

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桜林:私もただただ「考え方」だけを伝えたい。私は社会や誰かをこう変えたいとか、自分が影響を与えたいとかはなくて、その人のなかにゆるやかに「考え方」だけが残っていけたらいいなと思っています。

過去の成功は運やタイミング、「たまたま」の要素が大きいし、それぞれの持ち物が違うから、そこから導いたノウハウは参考にならないことも多い。だから、私は過去の成功から「こうすればいいよ」というHow toではなくて、「こうしてきたよ」という経験を書いています。「こういう方向もあるよ」、「こういう考え方もあるよ」、「こういう逃げ道もあるよ」って。

私の文章を読んでくれた誰かが、ちょっと行き詰まったときに、その手があったか!と思い出して、逃げ道を見つけられるような「考え方の型」を伝えたいと思っています。

変化するもの、変わらないもの、変えられないもの。そのなかにある「希望」を伝える

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桜林:私が伝えている「考え方の型」は試したらすぐに効果が出たり悩みが解決したりするものではないので、2年くらい経ったあとに、やっておいてよかったなって思ってもらえたら嬉しい。というのも、私はだいたい自分がやってきたことを2年後くらいのスパンで振り返って、「あのときこれをしておいてよかったな」と思えることを書いているので。悩んでいる渦中にいるときは気づかないけれど、後から振り返ってわかることがあるんです。

工藤:soarでも、躁うつが激しい「双極性障害Ⅱ型」とともに暮らすますぶちみなこさんに記事を書いてもらったんですが、その2年後に、またその間の変化や学びについて書いてもらいました。

ーー 人それぞれの正解や考え方も、月日と経験とともに変化していきますもんね

桜林:変わり続けていないと、変わらずに続けられないということがあると思います。たとえば、お店もただ同じことをやり続けているだけでは売上は下がっていくことがあって、ちょっとずつでも変化していかないと、続けていくことが難しくなる。

書くことに関して、私も同じで、noteを始めた頃と今では書き方や内容、スタンスは変わっています。ちょっとずつ変えているからこそ、書き続けられるんだと思います。

工藤:私はいつでも変わりたい人間です!もっといい私の毎日があるならそちらへ行きたいので、信頼する人におすすめされたものは、すぐに試します。超ミーハーなので(笑)。

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soarでも、あまり思慮深くなりすぎず、フットワーク軽く、いろんなことにチャレンジしたい。世の中のトレンドやより多くの人が好きなものも積極的に取り入れたいと思っています。

実は最近、日本の伝統茶ブランド「tabel」を立ち上げた新田理恵さんの影響を受けて「soar tea」をつくったんです!! 記事でも「回復の物語」を伝えているけれど、別のかたちで、何かしらの困難のある人たちの日常に入り込んで、自分を大事にして回復させる瞬間をつくれたらいいなと思っています。

桜林:お茶は、朝も昼も毎日の習慣にできますよね。soarの記事を読んでいるときは誰かに対してちょっとやさしい自分になれる。それと同じで、soar teaを飲んでるときは自分にやさしくなれるかも。soar teaは”お守り”になると思う。soarには神社のような存在になってほしい(笑)。

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工藤:soarの聖地があったらおもしろいですね!(笑)。本当に、記事やお茶に限らず、カフェやお花屋さんなど、場づくりもやりたいです。

ーー ずっと変わらない芯は持ちつつ、変化し続ける。

桜林:うん。変化するなかで、どうしても変えられない絶望的な影のようなものがあったとしても、光の当て方、「考え方」や「捉え方」を変えることで、影を光にすることができる。過去や事実は変えられなくても、光の当て方を変えるだけで、希望が見えたり、心が楽になったりすることがあると思います。だから私は、これからも自分の過去の経験から、考え方や光の当て方を伝えていけたらいいなと思っています。

工藤:soarで取材をしていても、どうにもできないことに出会うことはあります。たとえば、難病の方で治療法がなく、進行が止められないなど。自分や周りの力ではどうにもならないことがあまりに多かったとしても、考え方や日々の習慣を少し変えることで、生きる希望を持っている人たちがいます。soarでは、これからもそういう人たちの生きる知恵や希望を伝えていきたいです。

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「正解」を示すのではなく、「考え方」という光を当て続ける

インターネットを通じて、個人から企業まで、あらゆるものがメディア化する今、多くの情報や選択肢のなかから「正解」を見つけることは困難です。そもそも誰かの「正解」は自分の「正解」ではなく、自身で問い続け、考え続けるしかないのかもしれません。

そんなときに、桜林さんが伝えてくれる「考え方の型」は、困難に出会ったとしても、別の角度から光を当て、力になってくれるはず。

soarにも「正解」は示さず、編集者やライター個人が「心が動いた体験」をシェアするという編集方針があります。私たちはこれからも、一個人として、人との出会いを通じて知り得た「生きる知恵」や「生きる希望」を伝えていきたいと思っています。

soarの記事があなたの”お守り”のような存在になってくれることを願って。

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関連情報
桜林直子 Twitter note
工藤瑞穂 Twitter 
記事で紹介している「soar tea」はsoarのECサイトで購入が可能です。
soarのECサイトはこちら
written by 徳瑠里香/Rurika Toku  Twitter note
Photo by 馬場加奈子/Kanako baba Twitter

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