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落合陽一×米良はるか「大学から未来を担う若手を創出するために」(前編)

コンピューターと人、自然が区別なく一体となる「デジタルネイチャー」の研究を軸に、科学、教育、経済、アート、メディア、あらゆる分野で躍動する落合陽一さん。

Readyforでは、2016年5月に、筑波大学で自身が持つ「デジタルネイチャー研究室(ラボ)」の学生育成のための研究資金を募集するプロジェクを始動。研究・教育資金を寄付としてクラウドファンディングで集めるのは、国立大学では初めての取り組みでした。

このプロジェクトを皮切りに「Readyfor College」が立ち上がり、東京芸術大学、名古屋大学、九州大学、大阪大学など、現在6校の大学で、研究・教育分野でのクラウドファンディングの活用が行われています。

その後、落合さんは2018年に4月に第二弾を実施。合計28,455,000円を集め、落合さんのラボに所属する、コンピューターと人が混ざり合う未来を見据えた学生たちの研究資金に充てられました。

落合さんは、どんな問題意識を持って、どんな未来を描いて、クラウドファンディングを実行したのか?頭と手を動かし続け、時代を切り開く落合さんと、8年来の友人でもあるREADYFOR代表・米良はるかが、大学の研究・教育を中心に「これから必要なお金の流れと、クラウドファンディングの可能性」について語ります。

震災直後に立ち上がったからこそ実感できた、Readyforの社会的意義

米良はるか(以下、米良) 落合くんと出会ったのは、今から約8年前、ちょうどReadyforを立ち上げようとしていた頃でした。大学の先輩から、面白い子がいるからぜひ会いに行って!と紹介されて。

落合陽一(以下、落合) 8年前かあ。僕は当時筑波大学の4年生で、「電気が見える」デバイスとソフトウェアとかいろいろ作ってIPA未踏のスーパークリエータになってましたね。あとは国際会議に論文書いたりし出した頃だと思う。SIGGRAPHとか。

SIGGRAPH・・・世界最大のコンピューターグラフィックスのカンファレンス。

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米良 そうそう。落合くんが何者かはわからなかったけれど(笑)、面白い人だな、一緒に仕事したい!と思ったことは覚えている。それで、落合くんが当時持っていた虹色の名刺の「赤」が気に入って、Readyforのデザインをお願いして。

落合 懐かしい。そこから週1くらいでオフィスに通って、デザインしたり会議に参加したり。ちょうどReadyforを立ち上げるタイミングで、震災が起きた。当時、僕はまだ学生で、社会を動かす立場にいなかったから、震災が日本社会にどれだけ打撃を与えたのか肌感がつかめていなかったけれど、明らかに自粛ムードが漂っていて。そんななか、2011年3月にReadyforがスタートしたのは、ある意味チャンスだったと思います。

米良 うん。なにかの縁なのか、Readyforはたまたま震災と同じタイミングで立ち上がったから、クラウドファンディングを通じてお金を集めることの社会的意義が生まれて、多くの人に支援をしてもらえた。被災地を支援するプロジェクトもたくさん実行されて、私たち自身もクラウドファンディングの必要性と可能性を肌で感じることができたのは大きかったと思います。

教育・研究費が足りない! 国立大学初のクラウドファンディングへの挑戦

落合 そこから僕は2013年くらいまで、Readyforに関わっていて。その後、東大で博士課程を取って、筑波大学の助教に着任して、翌年の2016年に、プロジェクト実行者として、学生の研究資金を募るクラウドファンディングを実施しました。

米良 日本で初めて、国立大学でクラウドファンディングを実施するスキームをつくるのは、なかなか大変だったけれど、落合くんが暴れてくれたおかげで(笑)、実現できました。

落合 国立大学はお金がなくて、運営交付金も段階的に縮小されているから、社会からお金を集める必要性が年々高まっています。国立大学は寄付控除が使えるから、「ふるさと納税」のようなかたちで、クラウドファンディングができたらいいなと思って、相談したんだよね。

米良 落合くんの提案で、筑波大学と提携してスキームができたおかげで、今、国立大学6校まで広がってきています。

落合 国立大学はお金がないから、クラウドファンディングを絶対にやったほうがいいと思う。

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米良 私はイノベーションの種は研究にあると思っています。がんになって、その思いを強くしました。というのも、私の病気はある抗がん剤が登場したことで、5年生存率が20%から90%ほどに伸びた。だから私はそれほど不安を抱かずに治療に専念できました。医療が発達している一方で、研究費の不足が原因で希少性の高いものは後回しにされて開発が遅れている現状がある。そういう市場原理に乗らないけれど、世界にそれを必要としている人が必ずいる分野にこそ私たちのサービスを届けたいと改めて思ったんです。

落合 なるほど。

米良 大学の研究において、お金が足りていなくて、クラウドファンディングで補える領域って具体的にどんなところですか?

落合 まずは、若い学部生の研究資金。卒研生か大学院生にならないと研究費が付かないので、学部生の研究費は教育予算で賄うんですけど、それだとほぼ数千円とかになってしまう。卒研生だとうちの学部で年間一人あたり4万円くらい。でも、4万円じゃ研究はできない。僕としては、ひとつのプロジェクトに対して100万円くらいは付けてあげたい。だから、足りない資金をクラウドファンディングで補うことにしました。

米良 なるほど。ほかに必要なお金ってありますか?

落合 あとは、研究環境を整える資金。予算が付けられるものと付けられないものがって、例えば、薬品は買えても薬品棚は買えない。研究員は雇えても机は買えない。ルールとして必要な備品が買えないから、研究環境を作るための資金は、どこの大学も足りていないと思う。

米良 そうなんだ。

落合 僕は27歳で筑波大学でラボ(デジタルネイチャー研究室)を始めたんだけど、着任当初はあらゆるお金がなくて、自宅から工具とか部品とか研究機材を大量に持ち込んだ。うちの研究室にあるもので研究室ラベルが貼ってないものは大抵僕の私物。そのくらい困っていて、その流れで、クラウドファンディングもしたんです。

研究資金が足りず、チームが作れない。若手が成果を出しにくい理由

米良 落合くんは、自分の持ち物で研究環境を整えて、クラウドファンディングで研究資金を補った。ほかに、お金がないなかで、上手く回している人はどうやっているの?

落合 うーん、同世代だと上手く回している人はいないかもなあ。そもそも僕みたいに20代でラボを始めて、30歳で50人体制のラボを運営しているのは極めて稀。若手にはとにかくお金が付かない。筑波大学で、35歳〜40歳くらいに付く研究費はだいたい4年で4000万程度。50歳くらいになって、何らかの研究成果を出して有名になれば、チームも作れるし、年間1億円くらいの研究費が確保できるんですが。

米良 今の時代、若い人のほうがテクノロジーに強くて、アップデートも早いから、いい研究ができそうなのに。

落合 うん、確かに若い人のほうが元気がある。トップカンファレンスに通すのはスポーツみたいだし。昨日、CREST(科学技術振興機構)に提出する報告書をチームで作成していたんだけど、締切2分前まで、リモートでメンバーみんなで必死に書いていて。50歳くらいになったら、1週間くらい前に、これくらいのレベルなら安全だというものを提出していそうじゃないですか。荒削りでも雑でも、先週発表した研究も入れたい!1個でも多く成果を報告したい!とぎりぎりまで粘る感じが、元気だなと思いました(笑)。

米良 その若くて元気な人たちは、イノベーションの原資になるお金が足りない。

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落合 若手にお金が付かないのは、チームが作れないのも大きな要因だと思う。プレイヤーとして優秀な人が、優秀なプレイヤーを集めて、チームを作ることにはさらなる困難が伴うので。研究界のイチローになれる人はいても、長嶋監督になれる人は少ない。僕はマネジメント能力はないけど、プレイヤーたちと対話ができて、進む方向性は示していけるから、なんとかなっていますが。

米良 若手が研究を進めていくときのハードルは、研究資金とチーム作り。それを得るためには、プレイヤーとしての実績とマネジメント能力が必要になる、と。

落合 今の日本で、そのふたつを同時に持つには、20年くらいかかっちゃうんですよ。

米良 20年研究して、50歳くらいになれば、実績ができて、チームも作れて、お金も付く。でもその時には、元気度が下がってしまう……。

落合 これは極めて矛盾している話で。研究資金がないから実績を作りにくく、実績が作れないと研究費は付かない。アメリカは、若くて失敗するかもしれない研究者に投資をしているから、失敗も織り込み済みで新しいイノベーションが比較的よく生まれている。早いうちにラボを持てる可能性はアメリカのほうが高いから、資金が足りない研究者は国外へ出ていってしまう。失敗できる環境だし、失敗しても日本に戻ってきて教授になればいいから。

日本国内でも、ものになるかどうかわからなくても、有望な若手にお金とポジションを与えてやらせてみるほうが、歳を重ねて失敗する確率を減らしてから投資するよりいいと思うんですけど。

米良 だから落合くんは、大学内の研究室だけでなく、会社も立ち上げて、外から研究資金を集めているんですね。

落合 そう。若い人がラボを回していくには、企業から投資を受けるか、自分で会社を立ち上げるしかない。だから僕は、筑波大学の教員という立場ではなく、大学内に自分が経営する研究所を設立して、自分の会社から自分の給与を払うことにしたんです。それで今まで通り教員もやる状態にする。

僕が経営する会社とラボはほぼ同一組織で、この前も会社で6億円の資金を調達して、その一部をラボに入れました。国プロ(国が支援する研究開発プロジェクト)を入れれば数十億のお金が会社とラボで動いていて、そのなかには働いている人も学生もいます。今は最適なスタイルを模索していますね。

時代を変革するために、一緒に未来をつくる人材を教育する

米良 企業から数億円の資金調達をする一方で、数千万円単位でクラウドファンディングをする理由ってなんですか?

落合 僕らは会社も経営しているけれど、軸は研究にあって、ラボはコンピューターと人が協調する未来を作るための研究機関。そしてその未来をつくれる人材を育成する「教育組織」であることにもこだわっています。企業のリサーチに最適化されたプロフェッショナルだけの集団にするつもりはなくて、顧客に直接価値を提供してお金は得る活動はしつつも、社会で活躍する人材を育てていきたい。そう考えると、そこの強化にはクラウドファンディングにしかできないことがあると思う。

実際にクラウドファンディングをやって、この前報告会を開いたんだけど、楽しかったんですよ。この人たちが、ラボの研究を応援してくれているんだなと思うと、嬉しくて。あと、学生たちが応援してくれる人たちに感謝をしている姿を見られたのもよかった。

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米良 落合くんは表に出て、応援してくれる人たちと会う機会も多いと思うけど、会社を支えているメンバーやラボに所属する学生さんたちが、自分たちを応援してくれる人たちに直接会う機会はきっと少ない。その意味で、クラウドファンディングを通じて、社会との接点ができると、成果がすぐに見えなくても、研究をやり続けるモチベーションになるかもしれない。

落合 うん。やっぱり研究も社会との接点がないと、つまらなくなっちゃうこともある。うちのラボの学生たちはSNSを上手く使っているけど、あらゆる研究は成果が出て日の目を見るまでに始めてから最低でも1.5〜2年はかかるから。1年やって3ヶ月で査読されて3ヶ月で出てきて……って。最初に論文が通ればそうなるけど通らないとその期間はどんどん伸びる。

米良 クラウドファンディングはお金だけでなく、応援の声を集めることができるから、自分の研究がこれだけ社会から必要とされているんだと、承認欲求を満たすことにもつながるのかも。

落合 うん。日本の大学は、研究開発の場としての機能は強いけれど、教育の場としての機能は弱い。僕は、教育して仲間をつくらないと、時代の変革はできないと思っているから、ラボでは研究だけでなく、教育にも力を入れていて。ラボを立ち上げたときに、50人を育てることを公約として掲げたけど、すでに僕のラボでは50人が何らかのかたちで育っています。

米良 おお、公約達成が早い。これからもその人数を増やしていくんですか?

落合 いや、これからは学生の数を減らそうと思っています。というのも、横には手を貸してくれる50人の仲間ができた。今度は縦に、一子相伝の弟子みたいな存在を育ててみたいという気持ちがあります。縦軸と横軸で、僕と同じ意識を持った優秀な人材を育てて、一緒に時代を変革していきたい。つまり、僕もプレーヤーに戻れる程度にラボのサイズを小さくしていくのがここからの勝負かなと思ってます。

後編につづく

text by 徳 瑠里香 

Readyforではさまざまなプロジェクトが実行されています!

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