日本は歴史的な衰退段階に入った…著名投資家レイ・ダリオが分析する「この国に蔓延する無力感の正体」

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世界有数の大富豪にして、歴史・社会・文化にも造詣が深い「米経済界のご意見番」。運用資産20兆円を超えるヘッジファンド「ブリッジウォーター・アソシエイツ」創業者のレイ・ダリオ氏が、ターニングポイントを迎える日本の政治と経済に関する長文寄稿を寄せた。迷える日本国民の姿は、彼の目にどう映っているのか。

連続寄稿パート3【「高市圧勝ショック」日本円・国債・株の同時暴落は起きるか? 世界有数の投資家レイ・ダリオが分析する】より続く。

日本が示す「後期衰退段階」の兆候

私は著書などで、「世界の覇権国家は、およそ500年周期で同じような興亡の歴史をたどる」という「ビッグ・サイクル」理論を提唱してきました。

近年の日本経済・金融政策を、この「ビッグ・サイクル」の視点から眺めると、いくつか際立った特徴が見えてきます。それは、日本が教科書的とさえ言える「後期衰退段階」の兆候を示しているということです。

一つ目の特徴は、長期金融緩和の常態化です。本来、金融緩和は経済成長を促すための一時的な措置ですが、いまや日本では緩和それ自体が目的化し、「やめられない政策」となってしまいました。実体経済の活性化よりも、資産価格や金融システムの安定維持が優先され、結果として、生産性や成長力の底上げには結びついていません。

二つ目が、財政ファイナンスへの疑念です。財政ファイナンスとは、国債を中央銀行が事実上吸収することですが、そのような構造が続くことで、市場による規律は弱まり、財政の持続可能性に対する警戒も薄れていきます。これは短期的には安定をもたらしますが、長期的には改革を先送りする装置として機能することになります。

三つ目は、中央銀行の政治化です。本来求められる独立性よりも、政権運営や社会不安の緩和が優先され、金融政策が「痛みを覆い隠す緩衝材」として使われる傾向が強まっています。

これら三つの政策は総じて、改革のコストを回避し続けた国家が、最終的に選びがちな「安定装置」だと言えるでしょう。

「沈黙のポピュリズム」

では、出口を見失った日本は、米国や欧州で広がっているような激しいポピュリズムに向かうのか。結論から言えば、その可能性は高くないと考えています。

日本には、過激なポピュリズムが噴出しにくい構造的要因があります。ひとつは、分断軸が可視化されにくいことです。

日本ではアメリカと違って、人種、宗教、移民といった明確な対立が存在しないため、社会的不満が特定の「敵」に集中しにくい。怒りが外へ向かわず、内向きに沈殿しやすいと見ています。

つぎに、国家への期待の低さです。日本では、多くの国民がすでに「政府は劇的には変えてくれない」「自分で備えるしかない」と理解している。逆説的ですが、期待が低ければ、裏切られても爆発しにくい。

前政権と比べれば高市政権に期待する人は増えているようですが、どこまで本気で期待しているのか、私にはわかりません。

そして最後は、既存政党、とりわけ自民党が擬似的なポピュリズムを内部で吸収している点です。彼らが右も左も内包することで、反エリート的言説が外部の急進勢力として結集しにくい構造ができていると分析できます。

しかし、だからといって「何も起きない」わけではありません。日本で進行しやすいのは、声高な革命ではなく、静かな変質でしょう。投票率の低下や政治への無関心、「どうせ変わらない」という諦観こそ、いわば沈黙のポピュリズムだと思います。

日本の抱える「無力感」

また、政策や財政が高齢者層に最適化されると、若年層は結婚・出産の回避、さらには海外への静かな流出という形で社会から距離を取っていきます。中間層の溶解も見逃せません。正社員であっても暮らしは楽ではなく、資産を持つ層と持たない層の差が固定化されつつあります。

ここで生まれるのは怒りよりも、無力感です。その結果、社会不安が一気に爆発するのではなく、散発的に現れます。無差別テロ事件、孤立死、家族内の悲劇、ネット空間での過激化……社会の「神経系」がしだいに断線していくような不安定化です。

安倍晋三元首相の暗殺事件も、組織的暴力ではなく、孤立した個人の逸脱が政治空間に侵入したという点で、日本型不安定の象徴的事例だったと思います。

日本の今後10~20年を展望すると、最も現実的なシナリオは、低成長と緩やかなインフレ、円安の継続でしょう。金融抑圧は続き、預金者が静かに重荷を負います。革命は起きませんが、国力は確実に縮小し、有能な人材や若年層の流出・減少が進み、社会保障は名目を保ちながらも実質的に縮んでいきます。崩壊ではなく、長い下り坂です。

それでも、日本はまだ致命的な段階には至っていません。言論の自由は保たれ、制度は機能し、アメリカのように暴力が常態化しているわけでもありません。「ビッグ・サイクル」理論が予測する中で最も危険なのは、衰退期に現実を直視できなくなることですが、日本にはまだ選択の余地が残されています。

ただし、猶予は長くありません。結局のところ、日本は「怒らない国」というよりも、「怒りを外に出さない国」なのです。それは社会の安定を支える美徳であると同時に、衰退を長引かせる要因にもなりうると思います。

連続寄稿パート5【日本株バブル「薄氷に乗った大相場」はいつ終わる? 世界的投資家レイ・ダリオが語った、株式市場「突然死」の条件】へ続く。

Ray Dalio(レイ・ダリオ)(ヘッジファンド「ブリッジウォーター・アソシエイツ」創業者)/1949年米ニューヨーク州生まれ。12歳から投資を始め、ハーバード・ビジネス・スクールでMBA取得後、1975年に「ブリッジウォーター・アソシエイツ」を起業して世界最大規模のヘッジファンドに成長させた。自身の哲学を綴った『プリンシプルズ』は世界で200万部超のベストセラーに

構成大野和基(おおの・かずもと)(国際ジャーナリスト)

「週刊現代」2026年2月16日号より

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