ミサキ「・・・先生もああいうことするんだね」
前作(novel/21550246)の続きです。
なげえです。気づいたらこうなってました。
ミサキちゃんの一緒に死んでくれそう感好きです。幸せになってほしい。
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仕事が終わり、屋上で騒音の無い夜の街を見下ろしていた時だった。鈍い扉の音と共に暗闇から現れ、私の隣に立ったミサキがそう言った。
「えーっと.....何の話?」
『隠しても無駄。全部知ってるから』
吐き捨てるように言ったミサキの言葉はどこか哀愁を漂わせており、私の心に暗雲が立ち込める。心の奥底で渦巻く焦燥感が、息苦しく胸を締め付けた。
......そんなわけない。あれは誰にも言ってないし、後処理だってちゃんとしていた。誰にも見られていない筈だし、救護騎士団の世話にすらなっていない。
誰も観測できない、私の紅く染まった秘密。
バレるはずが、無い。
「....あんまり先生をからかうもんじゃないよ。隠し事なんて何も無いし、そもそも生徒に隠し事なんてする筈ないでしょ?」
焦りを感じる心に蓋をし、いつもの仮面を被る。
何度も多用した、曇りきった言葉。
声は震えていない筈だ。
『......そうやって、隠してきたんだね』
ミサキはため息を付きながら内ポケットに手を忍ばした。見覚えのあるそれが、顔を出した。
「.....何処で見つけたの?」
『先生の引き出し。当番中に見つけて回収した』
「...鍵はどうやって?」
『掛かってなかったよ。見つけたのが私で良かったね』
ミサキが見つけたのは、あの日のカッター。
捨てに捨てられず、奥底に封じ込めていた私の秘密だった。
乾ききった血を纏い不気味さを漂わせたそれは、ミサキの手の中で力なくこちらを見ている。
突然の事態に私の心は凍りついた。ミサキが手にしたカッターの影が闇の中で眩い程に輝き、血の足跡が残るその刃が、私に過去の出来事を思い起こさせた。ミサキの顔はひどく寂しく見えた。
「.........渡して、くれる?」
『うん』
ミサキは宝石でも扱うかのように繊細な手つきで私にカッターを預けた。普段とは違う、包みこまれるような優しさがそこにはあった。
言い訳はできない。冬の冷たい月明かりが私の過去の罪を浮き彫りし、私を裁く罰のように感じた。
「これは、その......」
言葉が、出ない。
もう、解決した話だ。素直に真実を言えばいい。
頭では分かっている。しかし、ミサキの目を見るとどうすればいいのかわからなくなる。否定されたらどうしよう。見放されたらどうしよう。そんな杞憂だけが頭を支配する。
私はいつの間にか、とても臆病になってしまっていたようだ。
思いつく言葉全てが頭の中で霧散し、口に出す言葉が見当たらない。
そんな私を見兼ねたのか、黙っていたミサキが口を開いた。
『...別に、責めたいわけじゃない』
『先生も私と同じなんだって、思っただけ』
どこか寂しい、それでいて確かな熱を感じる言葉。
そんな彼女の言葉は、私の心の鍵を壊すのに十分だった。杞憂は泡沫のように消えた。
「....怒ったりしないの?」
『私は良くて先生はだめなんて、おかしな話でしょ』
『それに、もうやってないって知ってる。最後にやったの1ヶ月ぐらい前でしょ』
[....そこまでわかるんだ。どうしてそう思ったの?」
『ついてた血が乾いてたし、最近ずっとゲヘナ生が入り浸ってるから。私が当番でもお構いなしにいたし、おおかたその子に見られた罪悪感で辞めたとか、そんな感じでしょ』
全て見透かされていたようだ。
ミサキの言っていることは真実で、前にカヨコに見られてからはやっていない。最近はカヨコが毎日シャーレに来て仕事を手伝ってくれている。もう大丈夫と言っても先生はまたいつ切るかわからないからと、自由な時間の殆どを私に費やしてくれている。
本当にありがたい限りだ。
「......ミサキはよく見てるね。その通りだよ。もうリストカットはしてない....心配してくれてありがとう」
『...別に、変なものがあったから渡しに来ただけ。お礼を言われるほど何かしたわけじゃない』
「でも、当番中何も言わず持っててくれたんでしょ?誰にもバレないように隠しててくれたのは、ミサキの優しい気遣いだと私は思うな」
『......そう思いたいなら、そうなんじゃない?』
「そう思わせてもらうよ。ありがとう、ミサキ」
『.........ん』
それから長い沈黙が流れた。
お互いの呼吸音すら聞こえるほど静かで、それでいでどこか暖かみのある沈黙だった。
透き通るほど淡い月を背景に、私達は静かに立ち尽くしお互いの次の一歩を待っていた。
歩みを進めたのはミサキの方だった。
『先生はさ....もう、大丈夫なの?』
「うん、今は大丈夫、かな」
『.....あのゲヘナ生一人でシャーレの仕事量がどうこうなるとは思えないけど』
「忙しいと言えば、忙しいよ。でも、前よりは格段に私の負担は減ったかな。それに....あー...ごめん、なんでも無い」
あれは、言うべきではないな。
聞いて気持ちの良い話ではないだろう。
しかし、そんな私の単純な思考をミサキは快く思わなかったらしい。苦虫を噛み潰したような不機嫌さを露わにし、こちらへ振り返ってきた。
『何?生徒に隠し事はしないんじゃなかったの?』
「あー......えっと....」
痛いところを突かれた。逃げ道を封じたミサキは黙ってこちらを見つめ、私が話し始めるのを待っている。その目は怒りを露わにしており、隠し事を許さない厳格な裁判官のように見えた。
こうなってはもう言うしか無いだろう。
「.....私が切ったらカヨコも切る。そういう約束をしたんだ。だから....切るわけにはいかないんだ」
変に不安にさせないよう、私は笑顔でそう言ってみせた。
......何がいけなかったのだろう。
振り返ってみたミサキの顔は何だか酷く濁っており、その目には深い絶望のようなものが宿っていた。
ミサキ可愛すぎる たくさん甘やかしてあげて欲しい