第1回プルデンシャル所長「めちゃ稼げるぞ」と後輩勧誘 裏に歪な営業組織
大手金融機関に勤める30代の男性は数年前、高校時代のサッカー部の先輩から、久しぶりにLINEを受け取った。「同じ業界に入ったから、いろいろ教えてくれないか」
高校卒業後、初めて来た連絡だった。待ち合わせのカフェに、先輩は、両サイドを刈り上げたツーブロックの髪形に、紺のスーツ姿で現れた。
「実はプルデンシャル生命保険の営業所長になったんだ」。保険を売られるのかなと身構えると、先輩は意外な言葉を続けた。
「一緒に働かないか」
営業社員としてプルデンシャルへの転職を勧誘してきた。
【連載】墜ちたブルー プルデンシャル生命「巨額不正」
社名のロゴの色から、「ブルー」はプルデンシャル生命保険の象徴でした。顧客からの金銭詐取などが31億円も発覚し、その信用は大きく墜(お)ちました。不正の温床となった組織構造に迫り、今後の行方を探ります。
強調したのは高い報酬だった。「めちゃくちゃ稼げるぞ」「俺はぎり5千万円いかないくらい」。スマホに保存した新築のマイホーム写真も見せてきた。
男性は今の仕事を気に入っているため、後日、断りを入れた。すると今度は「誰か紹介してくれ」と何度も迫ってくるようになった。
自分を勧誘した時は「信頼できるヤツとしか働きたくないんだ」と言っていたのにと、不信感が募った。
4千人をランク付け
この先輩がここまでリクルートに必死な背景には、プルデンシャル特有の組織構造がある。
プルデンシャルの営業社員は「ライフプランナー(LP)」と名乗る。報酬は保険の販売実績に連動し、「フルコミッション(完全歩合)型」に近い。年収は、最低賃金に相当する二百数十万円から2億円まで幅がある。
徹底した成果主義の象徴が「社長杯」だ。
4329人(2025年4月時点)いるLPが、契約人数や金額などで成績を競う。LP全員のランキングはエクセルシートで一目瞭然になり、毎月更新される。
スーパー・ゴールド・プライズ、ゴールド・プライズ、シルバー・プライズ……。年間の成績優秀者には様々な称号が与えられ、ハワイや沖縄で開催する表彰式で社長杯が授与された。
多くの顧客を抱え、好成績を続けるとエグゼクティブLPに昇格する。敬意を込めて「エグゼ」と呼ばれるという。
営業所長の最大のミッション
こうしたLPを束ねるのが「営業所」の所長だ。全国に561人いる営業所長の最大の任務は、LPのリクルートとされる。
採用数は営業所長の評価や報酬に直結し、LPの販売実績に応じて手当も変動する。大阪府内のLPは「稼げるLPが配下に10人ほどいれば、それだけで年収3000万円はいける」と話す。
さらに、採用数などの一定の条件を達成した営業所長には、既存の支社を分割して新たな「支社」が用意されるなどし、複数の営業所を束ねる支社長に登用される。LPの道を極めて高額報酬を狙うのとは違う形で、支社長はマネジメント職として高給が得られる。
営業所長だという冒頭の先輩は「あと一人のリクルートで支社長になれる。あと一歩なんだ。力を貸してほしい」と、最後は露骨に懇願してきたという。
支社は全国に134ある。支社長もまた、LPらの実績に基づいて社長杯で競わされる。
ベテランのLPは支社長について「優秀なLPは野放しだが、稼げないLPはかなり追い込む」と指摘。「顧客との会食やゴルフなど、LPの営業経費はすべて自己負担」という中、「借金を抱え、孤立化したLPが『一発逆転だ』と暴発して不正を働くのは珍しくない」と証言した。
専任のコンプラ担当不在
歪(いびつ)な現場を牽制(けんせい)する機能も弱い。
支社は次々に新設されるため、内勤の事務職は半数以上が他の支社と兼任している。「1.5線」と呼ばれる専任のコンプライアンス担当も支社には置かれていない。
一方で、法令や社会規範の順守に関する本社の指示は、ほとんどが支社を実施主体にしている。
3年で取りつぶされた支社
その結果、問題が起きて、短期間で取りつぶされる支社もある。例えば、22年に誕生した京阪第七支社は3営業所を束ねたが、25年には廃止されたという。
現役の内勤社員は「アメーバのように分裂して支社ができるが、まともな管理ができていないところも多い。それなのに本社は支社に指示を出しさえすれば『対策を講じた』と自己満足している」と語る。そのうえで「一連の不祥事は必然だ」と漏らした。
プルデンシャル生命保険とは
プルデンシャル生命保険 米金融グループのプルデンシャル・ファイナンシャル傘下の国内生保会社として1987年に創業。97年に経営破綻(はたん)した日産生命保険の流れをくむあおば生命保険を2005年に吸収合併した。
24年度は、売上高にあたる保険料等収入が国内11位の1兆5572億円、本業のもうけを示す基礎利益が460億円、保有契約件数が462万7千件。保険の営業を担う「ライフプランナー」は男性が中心で、25年4月時点で4329人。富裕層や経営者を主な顧客とする。
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プルデンシャル生命の巨額不正
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