今日から冬休み。いつもなら楽しみな冬休みだけど、今年は全然楽しみじゃない。
だって、バンドの練習がないから。
今年は、志歩ちゃんとほなちゃんが冬休みに実家に帰るから、練習は休もうって決めたのだ。アタシといっちゃんは夏休みに帰ったけど、二人は家族との予定が合わなかったみたい。
それに、あたしの好きな人──いっちゃんにも会えないから。
だから、今年の冬休みはとっても暇だ。
「暇だなあ……」
無性にいっちゃんに会いたくなってきた。いっちゃんは空いてるかな。
でも今日は冬休み初日だし、いっちゃんも休みたいよね……
って、うじうじ考えてても始まらない!送っちゃえ!
『今から一緒にご飯食べに行かない?』
よし、送った……あとは返信を待つだけ。
と思ったら、すぐに既読がついた。
『いいよ』
『どこがいい?』
『〇✕駅の近くの居酒屋さんは?』
『そこにしよう』
『じゃあ4時にそこの居酒屋さんでいい?』
『うん』
やったー、いっちゃんに会える!おしゃれしなきゃ!
髪型はハーフアップ……いや、おさげにしよう。それからメイクもして──
◇◆◇
「おまたせ!」
「ううん、私も今来たところだから大丈夫だよ」
「ありがと〜」
髪型とか服とか決めてたら遅くなっちゃった。
アタシの変化に気づいてくれるかな……
「何から頼む……って咲希、どうしたの?」
「え?あ、いや、なんでもない!ビール頼もっか!」
「もう、咲希ったら」
ふふっと優しく微笑む。かわいいなあ、いっちゃん……
「ビール飲んで平気?いつも酔っ払って記憶なくしてるし……」
「へーきへーき!一杯だけだから!ね!」
「……分かった。飲もっか」
「やったー!」
アタシの変化に気づいてもらえなくてもいいや。一緒にいれることが嬉しいんだし。
ビールを頼もうとすると、いっちゃんがアタシをじっと見ていることに気がついた。
「何かついてる?」
「ううん、何も。咲希の髪型変わったなって見てただけ」
「へ、変かな?」
「全然。すごくよく似合うよ」
と言って、お花畑みたいに柔らかく微笑むいっちゃん。
気づいてくれたんだ……!
「気づいてた?」
「もちろん。だって咲希のこと──」
「生ビール二つでーす」
「あ、ありがとうございます」
「いっちゃん、今なんて──」
「さ、咲希、乾杯しよっか」
「うん」
大事なところが聞けなかった。もしかして愛の告白だったり……
そんなわけないよね。
◇◆◇
結局、調子に乗って二杯飲んでしまった。一杯が限界っていうのは自分でも分かっているけど、いつも飲んでしまう。
「ほら、咲希。帰るよ」
「ふぁ……」
酔いでふわふわとしていると、大事なことに気がついた。
「あれ、お会計は?」
「大丈夫。私が済ませといたよ」
「ありがと、いっちゃん……後で、お金払うね……」
「いいよ。私からの奢りだと思って」
「でも……」
「……たらいいよ」
「んー?」
「私の家に来てくれたらいいよ……」
「え……?」
いっちゃんの家に、行ってもいい……?いや、違う。酔ってるせいで幻聴が聞こえただけだ。
「ほ、ほら私の家近いし、咲希も早く休みたいでしょ?」
「じゃあいいよ」
「いいの?」
「うん……」
「やったあ……いっちゃんとお泊まりだあ。えへへ」
「お泊まりって……」
◇◆◇
目が覚めると、いっちゃんが隣でぐっすりと寝ている。
……何でアタシの隣にいっちゃんがいるんだろう。
記憶を辿ってみる。
昨日、二人でご飯に行って、最終的にアタシが酔った。それからいっちゃんに家に来てって言われて……
そのあとの記憶が全くない。
でも、覚えている感覚が一つあった。
ただただ気持ちよかったということだった。
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- えすぽわJan 9th