斬って、斬って、また斬って。死地に飛び込みながら、淡々と剣を振るうだけであとは何も考えなくていい。なんて、なんて楽な話。そうやって、とある騎士の部隊の隊長をしてる私は、ただ1番前に出て剣を振るうだけでよかった。ただひたすらに剣を振るうだけで、私は無心でいられた。私が自ら死地に向うような無謀な戦い方をしてるから、私の部隊には"レックレスリリー"なんてあだ名がいつしかつけられていたけど、そんなことはどうでもいい。ただ、このありふれた世界で、無心で剣を振る、それがどれだけ危険だとしても、それで私は無心でいられるのだから、私は、それでいい。そんなふうに思っていた。ただ、最近少し気にかかることがある。私の部隊の中に1人、私より前に出て戦おうとする人がいる。つい最近、そういう行動が目立つようになった人がいる。髪は薄いピンクで短く、隊服を少し淡い色でアレンジして着ている子。名前は、確か、アミア。
「ねえ、アミア。」
「……ん?」
私が声をかけると、その子は睨むような目で私を見てきた。
「……最近すごく頑張ってるのは目に見えてわかるけど、でも、私よりも前に出て戦うのは、ちょっとやめてほしいな。」
「……いや、わかっててやってるから。」
随分、ぶっきらぼうな返事だった。アミアはそれなりに剣の腕も良い。色々と上達も早く、同じ部隊の騎士の中でも私に次いで優秀とされる子だった。けれど、最近は前にも増して、私と似たような戦い方をすることが多くなっている。それこそ、この部隊がレックレスリリーなんて呼ばれ始めた辺りから、アミアの戦い方も変わっている気がする。アミアの顔を覗くと、まっすぐ目が合う。勿論向かい合って話しているのだから目が合って当然ではあるけど。でも、それ以上に、アミアは私の目の奥を覗き込んでいるような、そんな気がしていた。
「……だとしても、私より前に出て戦うのは危ないから、出来ればもう少し後ろぐらいで支えてくれると嬉しいな。」
アミアは、私が言葉を発する度に、一瞬妙に不機嫌になるような。でも、ほんの一瞬で、すぐにいつもの無表情に戻る。
「ボクがしてるのはユキと同じ戦い方だよ。それでユキが良い戦果を出してるんだから、ちょっとくらい真似したっていいでしょ。」
……私のこの部隊は、無謀な戦いぶりをするからレックレスリリーという評判がついている。それはつまりは私のことで。私だけが背負えば良い評判で。それを他人に巻き込ませるつもりはそこまでない。だから隊の皆には私より前には出ないでと伝えてる。なのに中でも優秀なアミアにそれを逸脱されると、少し困る。けれど、良い戦果を出せてるのならそれでいい、か。私が思うのもなんだけど、それはそれで冷たい思惑だな、なんて考える。……まあ、それも、良いのかも知れない。
「……それもそうかもね。」
「……えっ?」
ふと漏らした私の言葉に、アミアは心底驚いたような顔をする。あなたの言葉に賛同して言ったのに、どうしてそんなに驚く必要があるのか。
「……どうしたの?アミア。」
「……ううん。なんでもない。」
それだけ言って、アミアは踵を返して部隊の群れの中に混ざる。特に意味のないやり取りだったように思う。私は、たぶん気にしなくていい。そんなことを適当に考えながら、1つ戦いを終えた部隊の皆に、私は労いの言葉をかけることにした。
※
簡単な遠征から帰って少しの休日。ここ最近の私は、とある屋敷の裏庭で1人で過ごす時間が増えていた。それがいつからだったかはそこまで気にしてはいないけど、この屋敷の上の方の部屋から、時折流れてくるピアノの旋律。その旋律が、ただただ無心で戦場で無謀に剣を振るう私に、"あなたはそれで良い"と言っているような、深く死の色を纏うようなメロディで。なんとなく、それを聴いている間は、本当に、心が落ち着いていられるような気がしていた。ピアノの旋律が聞こえてくる部屋に目を向けると、そこにはこの屋敷の主の、儚い雰囲気を纏った少女がそこにいた。一心不乱にピアノを弾いていたけど、私が来たのを確認すると、その子は切ない表情で笑顔を向けてくるから、いつものようにかるく手を振る。……ティータイムまでにはまだ時間がある。私はその場で、かるく剣を振って修行をすることにする。ただ、死地へ赴く私を肯定するような重い旋律を聞きながら、それが私をさらに無心へと誘って。それで、静かに剣を振るう。そんな風な死の剣の修行。それが、いや、この日々が、最近の日課のようなものになっていた。
いつものように剣を振っていると、少し遠くから、人影が此方に来ているのが見えた。……。ピンクの短い髪に、淡い衣装。……アミア?
「……こんな所に来てるなんて、珍しいね。」
普段はアミアは、休日はあまり人目にはつかないそうだ。街でたまにアミアを見かけるという情報は、何かしらの衣服の店や骨董品の店なんかをふらふら歩いているらしいというくらいで、私がいるような貴族の家が並ぶ街の奥に入ってくるのは、だいぶ珍しいことだった。まっすぐ私の方に向かってきたアミアにそう声をかけると、うすく笑いながら返事を返してくる。
「まあね。ユキに用があってきたから。」
まあ、なんとなくそうだろうと思った。
「そう。それで、なんの用?」
私がそう聞くと、……………………アミアはその質問には答えず、別の話をしだした。
「この屋敷の近くで聞こえるピアノの旋律、死へと誘う死神の旋律だっていう噂があるみたいだね。」
……たしかに、あの子の奏る曲は、死の淵に立つことも厭わない私の心を肯定し落ち着かせるような、そんな重たくも切ない旋律。けれど、その子は、誰よりも繊細な雰囲気を纏う人。そんな悪評を聞いてしまったら、その子はどう思うだろう。できれば、そんな話は聞いてほしくない。
「……この屋敷の前で、そういう変な話はしないほうがいいよ。それと、アミアが今日つけてる腕章、デザインが変に曲がってる。たまにその腕章をつけてるのを見かけるけど、模様が曲がってるようなものをつけてるのは、騎士としての見栄えも良くないと思うけど。」
「……いや、いいの。これは。ボクがつけてるこの腕章は、友達が描いてくれたやつなんだから。ボクが好きで使ってるんだから別にいいでしょ。」
「そう。でも色も汚いね。」
……さっきよりムスッとした顔になるアミア。
「……今は、これでいいの。いつかその友達も、今よりもっと絵が上手くなって、それでこの腕章のデザインだって、ボクにも凄く似合うような立派なものになるんだから。そういう約束をしてるから、ボクが勝負に行くときは、この腕章をつけるようにしてる。」
時折、アミアは話を譲らなくなる時がある。どうやら、その友達との約束がそんなに大切なことらしい。まあ、私にとっては、どうでもいいことだけど。……。まあでも、いつも私と同じような無謀な戦い方をするアミアにも、そんな約束をするような仲の良い相手がいたんだ。街でもそんなに姿を見た話は聞かないけど、その子の所にでもいるのかな。……、ふと、今聴いてるピアノの旋律の、それを奏る少女の顔が頭に浮かぶ。たしかにこの曲を聴いてると心は落ち着くし、自分もあの少女の悪い伝聞なんかは聞きたくはない。……けど今はそれより、
「それで、私に用ってなに?」
改めて、そのことを聞いてみる。
するとアミアは随分と真剣な顔になって。
ボクと決闘をここでしてほしい。相手の剣をさばいて、膝をつかせたほうが勝ちみたいなルールでね。」
「え?」
「それで、ボクが勝ったら、今のユキの戦い方、やめてほしい。」
……あなただって、最近そういう戦い方をしてるのに?
「それになんの意味があるの?」
「……意味なんて、特にないよ。強いて言うなら、ボクの我儘かな。」
なんて、意味の分からないことを言う。その割に、さっきの言葉は一瞬いつもより声が揺れてた気がする。……まあ、勝てばいいだけの話だから、気にすることもないか。
「……それで、あなたが負けたらどうするの。」
「……いや、勝つまでやる。」
「……そう。」
勝つまで、か。と言ってもわざと負けてあげる理由もない。私が勝ち続けてればそのうちあきらめるだろう。……ティータイムまでには、間に合うかな。そんなことを思ってアミアをまっすぐ捉えると、なんだか面白そうに笑ってるような気がした。
「というか、なんかユキ、いつもと全然雰囲気が違うね。……というより、こっちが素なのかな?まあボクとしてはこっちの方がなんか楽な感じがして良いと思うけど。」
随分、軽口をたたく。いつもは不機嫌そうにしてるのに、そんなに私と決闘をすることが面白いのか。……いや、今の話ぶりからして、"今の私"をみて、そんなことを言っているのか。
「……そんな風に見える?」
別に、気にしたことはなかったけど。
「気づいてなかったの?まあいいや。それじゃ、勝負、始めよっか。」
とだけ言って既に剣を構えてるアミアに向かって、私も剣を構えることにした。私達が向かいあっていると、さっきよりも重く激しい旋律が、屋敷の奥から聞こえてきた。
結果は、私の圧勝。……。というか、負けるはずがない。アミアの剣技は、ほぼ私の真似事ばかりしている。アミアはそれなりに優秀だから、やろうと思えば他の戦い方も試せたとは思う。いくらか前までは随分自由な戦い方をするんだなとも思っていた。けれど最近に限っては違う。まるで、私の後を追うようなことばかりしてる。それで戦い方も私に似せてきて、今ではほぼ感覚だけで分かるくらいにそっくりな動きをしてる。それだけ学習能力が高いことは認めるけど、それで私に決闘を挑んで来たのだから、意味が分からない。私と似たような戦い方をするなら、それをより熟知している私が勝つに決まってるのに。けれどアミアは膝をついてたのを剣を支えにしてふらっと立ち上がる。そこにうすく浮かべているのは、全く懲りていないと言った表情だった。
「いやー……、強いね。……ふふっ……。」
珍しく、アミアが笑ってる。気がつけば、上から聞こえてきていたピアノの旋律も、今は止まっていた。
「……今のは、わざと負けたの?」
「え?」
「アミアの今の戦い方は、ただ私の真似をしてるだけ。ほんの短い間に私とそっくりな動きが出来るようになってるところは優秀かもしれないけど、真似事で本物に勝てる訳がない。どうしてアミアはわざわざ私に決闘を挑んだの?」
「さあ、どうかな。もしかしたら、真似事でも頑張ったら勝てるかも知れないよ。」
軽口のように言ってのける。それで、また私に剣を構える。
「まだやるつもり?」
「もちろん。」
「そう。」
いっそ、動けなくなるようなダメージを与えてしまえば早いかも知れない。けれどたぶん、それだとアミアの狙う意図を掴みきれない。最初にアミアはなんて言ってたっけ。私に戦い方を変えてほしいとか言ってた気がする。……変えたところでそこになんの意味があるのか分からないけど。……アミアが構えたからか、またピアノの旋律が再開する。今度は、さっきより速い展開で、それでもひどく重苦しい音色は、むしろ私の体を軽くするようだった。
「じゃあ、いくよっ!」
スッ……と、私の懐まで飛び込んでくる。うっかり剣をあてる位置を間違えれば酷いことになりそう。けど敵からしたら狙いやすい位置に来てくれるんだからこれほど有難いことはない。それこそ、無謀だと言える振る舞いに見えるだろう。私はアミアの頭上に剣を構えて……そこにアミアは自身の剣を下から振ってきた。アミアの頭上から迫る剣を下から薙ぎ払うように。だから、その場で私はその剣を握る手に力を込めて、ちょうど良い角度でそれを受ける。キンッと音がして、ピタッと押さえつけられるように互いの剣の動きが止まる。
「これも、知ってる動き。凄いね。1回や2回見たくらいで覚えたんだ。」
「ほんとに凄いと思ってる?」
「思ってるよ?」
言いながら、その剣にさらに体重をのせて押し込む。バランスの悪い体勢で下から剣を振っていたアミアは、しばらく耐えていたけど、それですぐにその体勢を崩して膝をついた。また、私の勝ち。
「そっ……、か。」
まだ、アミアはうすく笑ってた。ピアノの音も、またどこか切ない雰囲気のものへと戻っていた。
「これで、戦場ならもう2回は死んでる。私以外になら通じる戦法かも知れないけど、使う相手を間違えてる。それとも、アミアはここで私に斬られて死にたいの?」
「いいや?そんなわけないでしょ。それに、こんな立派な屋敷の裏でユキが人を殺すなんて、そっちもありえないし。」
立派な屋敷、か。その点は別にそこまで気にしてはいないけど。でも、この屋敷にはあの子がいる。暗く落ち着いた旋律を奏るあの子が。アミアが分かって言ってるのかは、この際どうでもいい。それでも、あの子の目の前で人を殺すなんてことは確かにできない。普通なら……は、考えてもしょうがないか。それに。
「アミアは私の部隊の仲間だから。そう簡単に死なれたら困る。」
……それを聞いたアミアの眉がピクッと動いた、………気がする。
「それもそうだね。んじゃもう1本……」
「意味ないって言ってるでしょ?」
私がそう言うと、うずら笑いを浮かべてたアミアはまたムスッとした顔になる。せっかく顔は整っているのだから、もう少しマシな表情をしてればいいのに。まあでも今そういう顔をさせてるのは私の方か。……心底、どうでもいい。
「いや、続けるよ。じゃないとここまで来た意味がない。」
「そう。そもそも私に勝負を挑むこと自体意味がないと思うけど。」
「どうかな。それはユキ次第かな。」
そう言って、また剣を構えるアミア。
「……。」
私は、……携えていた剣を納刀する。ピアノの音は、どこか物悲しい音色がまだ続いている。
「……ん?」
「これ以上続けても結果は変わらないし、アミアが勝手に倒れるだけ。それに今の危ない戦い方で勝負を続けてたら間違えてアミアを斬ってしまいそう。」
「てことはボクの勝ち?」
「いや、どう考えても私の勝ちだったでしょ、さっきも。」
「……え、じゃあまだ続けるよ。」
真剣な眼差しでそう言うアミア。
「勝てないのに続けるの?」
「……。」
「アミアの戦い方はは私の真似事。なんで最近になってそれをし始めたのかは分からないけど、それで私とやっても勝てる訳がない。私と戦って死にたい訳でもないなら、わざわざここで決闘を挑んで来た理由も分からない。どうして、アミアはまだ続けようとするの?」
「……最初に、言った筈だよ。」
……つまり、アミアは、私に今の戦い方をやめさせるために決闘を挑んできたと?それで、私がアミアを殺そうとは思わないことを利用して、この場所を選んで。それで、勝てない筈の勝負を挑んで。いったいそれに、なんの意味があるんだろう。
「まだ決闘を続けたいなら、私の方からも要求を出していい?」
「……いやだ。」
「まだ何も言ってないけど。」
「その戦い方をやめろ、って言うつもりなんでしょ?危険だから、アミアが死ぬかもしれないから、って。」
「……分かってるなら、なんでやめないの。」
「……。」
アミアの目つきは、変わらない。
「私の真似事をしてても私には勝てないし、その戦い方を続けるならアミアが危なくなるだけ。私は別にアミアに死んで欲しいとは思ってない。だからいつも言ってるのに。そんなに私の真似事ばかり続けてーー。……。」
ちょっと言葉を詰まらせた私に、まるで分かってたみたいに、アミアは言う。
「ねえ、ユキ。ユキは、いま、自分がなに言ってるか、分かってないの?」
そんな問いを言ってきても、アミアの表情は変わらない。つまり、その"狙い"のために、そんなに真剣になっているってことなのかな。……どうして、そんなことのために必死になるんだろう。……なんて考えていたら、ティータイムの時間も過ぎてしまいそう。なにもないならそれでいいけど、今は、そうじゃない。私にとっては、そっちのほうが気にかかってしまっていた。だから、……だから……。すぐに、終わらせてしまうことにした。
「この状況に意味がないとわかってるから、さっき剣を納めたのだけど。」
「……。あのさあ、ユキ。」
「……それでも決闘を続けたいなら、続けてもいいよ。私は負けないけど。」
「……ふーん……。」
このまま決闘を続けるなら、アミアがその無謀な戦い方をやめずに挑んでくると言うなら。……アミアが、"私の真似事"をやめる気がないと言うのであれば。
「簡単な話。アミアを殺さないように剣を振ればいいだけ。今のアミアの戦い方は私が1番よく知ってる。だって、今のアミアの戦い方が私の真似事だから。それなら。」
「……、」
一瞬、アミアがパッと目を見開く。
「"私が少し戦い方を変えればいい。"」
「……ふふっ……。」
それを聞いたアミアは、ずっと構えていたのを、ついにやめた。随分と、嬉しそうに、かすかに笑って。
「そう。つまりは、これが狙いだったんだ。」
「だから、最初にそう言ったでしょ。」
「……そうかもね。それで、決闘はもう終わりなの?」
「……いや、もうやる意味がないから。ボクはもう、目的は果たした訳だし。」
ちょっと冗談ぽく笑いながらアミアはそう言った。こちらとしても、終わりにしてくれるなら有難い。……。そう思う。
「……目的は分かったけど。なんで、わざわざこんなことをしてたの?」
「……さあ、なんででしょう。ここでユキさんに問題です。どうしてボクは、こんなに"回りくどいこと"をしてまで、その目的を果たそうとしたのでしょうか?」
悪戯っぽく笑いながら、そんなことを言ってくる。ーーユキならもう答えが分かってるよねーー、とでも言いたげに。1つ息をついて、私は言う。
「……最近のアミアは、私の部隊がレックレスリリーなんて言われるようになった原因でもある、私の無謀な戦い方を、1番に真似して戦うようになった。私が1番、その戦い方が危ないと分かってるから、アミアにはそういう戦い方はしないようにと言ってるのに、アミアはそれを変えようとしない。それでもどうしてもアミアが私の真似事をしたいと言うなら、そう考える時はたまにあったから、この発想は既に思いついていたよ。つまり、" 私が戦い方を変えればいいのか" って。でも私には、そこまでする意味が分からなかった。それに、私が戦い方を変えても、アミアが変えない可能性もあったから、だから変わらず私が1番前で戦う必要があると思っていた。それに、それが1番楽だったから。」
「1番、危ない戦い方をしてるのに?」
「……それは別に関係ない。」
「いや関係なく、ないよ。だってーー」
「アミアは、"私に死なれたら困る"って言いたいの?」
私がそう言うと、また、アミアはおかしなくらいに楽しそうな顔をする。
「……はい、正解。さっきの問いの答えが、それだよ。」
随分嬉しそうな顔で。いつもは仏頂面のくせに、そんな顔もできるんだ。そんな風に思うような顔を、今はよくしてる。アミアはそれなりに容姿が整ってる方だろうから、もっと笑えば、愛嬌ある人だと思われるだろうに、なんて思ってたけど。やっぱり、悪くない笑顔をしてる……。
「……私に死んでほしくなかったから、わざわざ私の真似事を始めてたってこと?なんでそんな回りくどいことを……。」
「言ってみるより、実際に体験させてみた方が早いと思ってさ。ユキが、別にボクが死のうがどうでもいいと思ってたなら、この作戦は失敗になってただろうけど。でも、ちゃんとそう思ってくれてたなら、これを、やってみた甲斐はあったね。」
「そうかもね。少しだけ、分かった気はする。」
アミアは私が死んで欲しくないと思ってたから、似たようなことをして、それで私に、アミアに死んで欲しくないと思わせてーー、か。大胆というか、なんというか。
「うん。それなら良かった。」
「……まだ、良くない。」
「え?」
「それで、アミアは、私の真似事はやめるの?」
「……。やめ……、いや、やめないよ。」
一瞬の逡巡の末、そう言ってきた。すん、と、胸の奥のモヤモヤが1つ取れたような、そんな気がした。
「わかった。じゃあ、やっぱり、この"決闘"は、アミアの勝ちだね。」
「っ!」
「だって、私の戦い方を変えるのが目的だったのなら、その目的は、今果たされたから。アミアが私の真似を続けるなら、私の真似をしてアミアがわざわざ危険な戦い方をしないよう、私が違う戦い方をアミアに真似させる。そうなれば私は、アミアが言ったとおり、"戦い方を変える" ということになる。」
「……うん、そうだね。」
納豆したように頷くアミア。普段は見ないような楽しそうな顔をしてるけど、なにがそんなに楽しいのか。少しだけ、そっちが気にかかりそうだった。
「……。腑に落ちない。もう一度だけ聞いていい?」
「えー?しょうがないなあ。まあでも、何回でも聞いていいよ?別に?」
余裕そうに笑ってる。今まで見てきた仏頂面なんかより、よっぽど可愛げがあるように思える。悪童っぽく笑ってるアミアを見てると、なぜか、何度も、そんな風に思えてくる気がする。……そのイメージは、どこか、彼女とも重なるような気がする。
「どうして、私に、そこまでして戦い方を変えさせたかったの?」
「……本当に同じこと聞いてきたね。」
「……それで?」
「そりゃ、もちろんーー、」
アミアは、そこで1つ息をつく。それで、また真剣な目で私を見てきたと思ったら、笑顔のままで、それでもすごく寂しそうな顔をする。
「……?」
「ユキに、死んで欲しくなかったから。……さっきの話で分かっただろうけど、これが、ボクの答えだよ。」
「……そう。」
思ってた以上に表情豊かだな。そんなに切なそうな顔もできるんだ。でも。
……なんで、そんなに私にーー。
なんて、聞く必要があるのかな。また似たような答えが返ってきそうな気もするけど、
「……なに?」
私がそんな疑問を抱いたのを見透かして、アミアは聞いてくる。
「なんで、そんなに私に構おうとするの?」
「……あの戦い方をしてる時のユキの雰囲気が、妙に気になってさ。凄い戦果をあげてる時も、笑ってるのに笑ってないように見える時があって。なんだかユキが、自分を圧し殺してるように見えて。それが、ボクに似てる気がしたんだ。」
「え?」
私が、アミアに似てる、か……。
「だから、なんだか、放っておけないなって思っちゃった。」
……たしかにアミアもいつも仏頂面でいるように見えてたけど。淡い隊服に、短く揃えた髪型。普段の不機嫌そうな様子と合わせてどこかチグハグな気はしてたけど、そんなことを考えていたんだ。そんな風に、自分と私を重ねていたんだ。妙に、腑に落ちるような感覚がしていた。
「……そう……。」
「……うん。」
また、私の返事を受けて、切ない表情で頷くアミア。……。さっき見たときより、少しだけ影の位置が傾いていた。ピアノの音も、今は聞こえなくなっていた。
「そう言えば、ここの屋敷なんだけど。」
「……うん?」
別の話を始めた私に、なんだか興味深そうな目をしてくるアミア。だいぶ食いつきが早い。
「使用人の人が淹れる紅茶が美味しいらしいんだよね。」
「……らしい、って。ユキは飲んだことないの?」
「あるけど。」
「……ふふっ、なにそれ。」
「さあね。……それで、そろそろティータイムだと思うけど、アミアは、どうする?」
そう言ったら、また嬉しそうな顔で、
「うん。そちらが良いと言うなら、ボクもご一緒させて貰うよ。」
そんなことを話しながら、歩き始めた私の後ろにかけよってくる。
「うん。アミアのことはもう何度か話してるから、話は通じると思う。」
「……そうだったんだ。あ、それじゃあ、次に来る時には、ボクの友達も呼んで来ていい?」
「また来る気なんだ。」
「えー?だめなの?」
「好きにすれば。」
「うん、そうさせてもらうね。」
私の少し後ろでついてくるアミアとそんな話をしながら屋敷の玄関へと向う。アミアは普段は見せないような、聞けないようないつもよりテンション高めのトーンの声色で話しかけてきてる。……私の方をまじまじと見ながら。いや、私、というより、私のポニーテールを見てる気がする。その目には随分と、羨望のような色が宿っているように見えた。……さっき、自分を圧し殺してるのがボクと似てる気がする、とか言ってたっけ。アミアの髪が短いのは、たんに戦場に出るからとかそんな理由ではないと思ってたけど。貴族の中には性別問わずで髪をくるくる巻いてる人もよく見かけるし、髪型なんて自由だとは思うけど。
「アミアも美形なんだし、髪伸ばしてみたら?」
なんてことを、適当に言ってみる。そしたら、
「えっ……。……、ふふっ!じゃあ、そうしようかな!」
アミアは、一瞬、驚いたと思ったら、結構上擦った声色でそう言って。私の方をまっすぐ見て、随分と嬉しそうに、また微笑んでいた。