旧世界の遺跡は、本当に不思議だ。
何故こんなものが出てくるのだろうといつも思うが、今回は、衣装だ。しかもどこも傷がついていない、完璧な衣装。とても綺麗で美しい衣装だ。
こういうのは、町長のトルーディに報告する必要があるから、早速持っていこう。
役場に入ると、珍しい人がいた。
「あれ、ヴィヴィおばあちゃんだ?」
「おや、ビルダー。こんにちは。あなたも珍しい時間に町にいるわね?どうしたの・・・」
トルーディと何か話していたのだろうおばあちゃんが、私の持っている衣装に目を留めた。ヴィヴィおばあちゃんは、テーラーメイドという洋服屋さんを経営している『もの作りのエキスパート』だ。私も素敵な服をここで買っている。私たちのような危険にも会いやすい仕事の人の為に、かなり丈夫で強い服を拵えている。その分値は張るけれど、長い期間着ていられるから大助かりだ。
「それは、遺跡で見つけたの?」
「はい、そうなんです」
町長が私の持っている服を見て、手招きした。二人の近くに行って、発掘した衣装をそこに並べた。
純白の、とても美しい衣装で、ツルツルとしたさわり心地の良い生地が特徴的なものだ。とはいえ、見た目は上下に分かれている。上の服はわりとゆったりしていて、中央部に肩から下げるベルトがついている。服と同じ生地の手袋もついている。
ズボンには小さなポーチとリボン、そして腰の部分にはくるりと回転すると舞うようにひらひらと広がる布がつけられている。下にいくにつれて膨らむズボンは膝下くらいできゅっと絞まっている。靴には足の甲部分にダイヤのモチーフがついている。つま先が少しとがっていて、前衛的だ。
と、ここまで衣装を見ていたけれど、私にはこの服の感じに心当たりがある。ダンス大会で追加されていたお土産店の衣装だ。ベルト、布、靴は青や紫で似てはいるけれど、でも、全体的な衣装の色は純白で、更にはインナーやタイツまでが白を基調としているのは中々無いだろう。
「きれいね」
「そうだねえ。ああ、そうだよビルダー」
「はい?」
ヴィヴィおばあちゃんが上の服を私にあてがって頷いた。
「思った通り。あなたにぴったりだ。まるでビルダーのために誂えた衣装だよ」
「本当ね」
「ええっ?」
私が戸惑っていたら、二人は私の服を脱がせて、その衣装を着せてしまった。いつの間に・・・と思ってしまうほどの早業だった。
「似合っているわよ、ビルダー」
町長がにこにこしながら頷いた。
「さて、それじゃあこれをかぶってちょうだい」
ヴィヴィおばあちゃんが、ズボンについてている小さなポーチから何かを取り出した。小さなといっても、私が使っているものと大きさは変わらないから、なにが入っていても驚かない。
綺麗に畳まれていたそれは、レースで作られたケープのような、ストールのような長い布が付けられたバイザーだった。そう、まさしくダンス大会でメダルと引き換えにもらうことができる、あの衣装と同じバイザーだ。もちろん、色は純白だけれど。
おばあちゃんにそれをつけてもらうため、少し頭を下げてちょっと目をつぶってみる。
「ああ、久しぶりに若者がこういうものを着ているのを見るねえ」
「そうね。サンドロックでは、ダンビとライアン夫婦が最近だから・・・あぁ、細かいことはいいわね。本当に似合っているわよ、ビルダー」
目を開けると、目の前にレースの布が垂れ下がっていた。服の着心地は最高、生地のわりに、動きやすさも失われていない。ただ、流石に町の中で普段着として着るには白すぎる。サンドロックは砂漠にあるオアシスの近くに出来た町だ。砂まみれになるのは日常茶飯事、私の仕事であるもの作りは、機械を扱ったり、発掘、更には戦闘もこなさなければならない。こんな綺麗な衣装・・・そう、町長とおばあちゃんの言いたいことはわかった。これは、旧世界の婚礼衣装なのだろう。いくら普段着としてにたような服があったとしても、そんな素敵なものを着て歩き回るのは無理だ。
「あなたにぴったりなんだから、それは持って帰っていいわよ」
「え!?」
「そもそも、衣装に関して、カトリの博物館で取り扱っているのは、私の作ったものだけだからね。いくら綺麗だからとそれを持っていったところで、あの子は飾るのを許さないだろうね」
「ええ、でも・・・」
そんなことを言っていたら、私の後ろにあるドアが大きな音を立てて開いたと同時にトルーディ町長を呼ぶ大きな声が響いて、勢いよく後ろを振り返ると、そこに立っていたのは、大きく目を見開いたペンだった。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
どれくらい見つめあっていただろうか。私にとっては長時間だったその時を壊したのは、ペンからだった。
「・・・町長、教会でマチルダ司祭が呼んでいるぞ」
「え?ああ、そういえば教会の修繕箇所を見に行く予定を入れていたんだったわ!」
バタバタと慌てて役場を出ていくトルーディ町長を見送ると、ヴィヴィおばあちゃんがため息をついた。
「砂漠の調査から無事に帰ってきたと思ったら、もう世話しなく町長の仕事をして・・・仕方の無いこととはいえ、少しくらいは休んでほしいものだけどねえ・・・なんて思うのは、私が年を取ったのかねえ。さて、それじゃ、私も失礼するよ。ビルダー、その衣装があなたに幸せを運ぶように祈ってるよ」
そういって、ヴィヴィおばあちゃんも役場を後にした。
「・・・・・・」
「・・・随分と小綺麗な格好をしているじゃないか、細腕っ子。役場が新たに作ったのか?仕立て屋がいたのもこれのためか?」
ペンが私に近づいて、頭にかぶっていたバイザーの布を後ろへとめくってくれた。
「え、ああ。いや、これは遺跡で見つけたんだ。完璧な状態で保存されていて、汚れもひとつもなくてね。報告に役場へ来たら、ヴィヴィおばあちゃんも居て。ぴったりだろうからって着せられちゃったんだよ。どうかな?」
「・・・馬子にも衣装って言葉、知っているか?」
「・・・知ってますけど」
「なら話は早い。そういうことだ。まあ、他にも豚に真珠、猫に小判ってのもあるが・・・」
「あーはいはい、ペンに聞いたのが悪かったよね。もっと褒めてくれそうな人の所に行こうかな。アルビオとかオーウェンさんとか・・・オーウェンさんは特にたくさん褒めてくれそうだし!」
「・・・・・・・・・似合ってないとは言ってないんだがな」
いつもの声とは違う、なんだか、暗く低い声で、ボソッと何かを言ったペンに驚いて、そっぽを向いていた私は、勢いよくそっちを向いてしまった。
「え、何て言ったの・・・?」
「本当は聞こえたんじゃないのか、細腕っ子?二度は言わん」
「え、本当に聞こえなかったんだって!何て言ったんだよ!あ、まさか悪口!?悪口だろ!ひどい!」
「ハハハ、じゃあな、細腕っ子」
暗かった声も、既にいつも通りだ。表情も、いつもと同じ。だけど、滅多に感情を揺らがせないペンの揺らぎに、私は少し不安をおぼええたのだった。
おわり
ビルダーの姿を見て結婚式の服装であることに気づいて黙ってしまうペンがどうしてこんなに良いのでしょうか··· まぶしいほど美しい、けど今はまだ自分の手に入らない存在···のように思っているんでしょう... 何回読んでも、その部分が大好きけど胸が痛くて泣いちゃいます 😭